更新日:2021/05/29
緩和医療とは
がんの緩和医療について、処置例、鎮痛剤、神経ブロックなど様々な観点から解説します。
緩和医療とは
緩和医療は、生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的、心理的、社会的な問題、さらにスピリチュアル(宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂)な問題を早期に発見し、的確な評価と処置を行うことによって、苦痛を予防したり、和らげることで、QOL(人生の質、生活の質)を改善する行為である。[2002.WHO(世界保健機構)]としています。
- 定義に加え以下の内容が含まれます。
- ・痛みやその他の苦痛な症状から解放する。
- ・生命(人生)を尊重し、死ぬことをごく自然な過程であると認める。
- ・死を早めたり、引き延ばしたりしない。
- ・患者のためにケアの心理的、霊的側面を統合する。
- ・死を迎えるまで患者が人生をできる限り積極的に生きてゆけるように支える
- ・患者の家族が、患者が病気のさなかや死別後に、生活に適応できるように支える
- ・患者と家族のニーズを満たすためにチームアプローチを適用し、必要とあらば死別後の家族らのカウンセリングも行う。
- ・QOL(人生の質、生活の質)を高めて、病気の過程に良い影響を与える。
- 臨床上の様々な困難をより深く理解し管理するために必要な調査を含んでいる。
従来では、終末医療を行う施設(ホスピス等)で行われる治療が緩和医療と呼ばれることが多く、末期がん患者などには、主に治癒や延命ではなく痛みなど疼痛をはじめとした身体的、精神的な苦痛の除去を目的とした処置を意味する場合が多くありました。
しかし、近年の緩和医療の発達を受け、がん診断初期から積極的治療として並行して行う(根治治療、保存的治療、症状緩和治療へと治療目的が推移するごとに段階をへてゆくに従って緩和ケアの役割を意識的に大きくしていく)べきとされ、早い段階の治療の一部として行われるようになってきています。
- 緩和医療の処置一例
- ・告知時の精神的ケアおよび予後の説明のタイミングの見極め
- ・治療方針の選択や治療の場の選択への情報の提供、患者の意思決定の支援
- ・疼痛管理
- ・保清ケアや褥瘡予防
- ・胸水や腹水のコントロール
- ・経口栄養摂取困難時の栄養管理
- ・蘇生措置拒否(DNR)をするか否かの確認などの臨死期の措置
- ・臨死期、死後の家族の精神的ケア
鎮痛剤
よく使用される鎮痛薬
非オピオイド鎮痛薬
NSAIDs:ロキソニン、ボルタレン、アスピリン、アセトアミノフェンなど
弱オピオイド鎮痛薬
リン酸コデイン、ブプレノルフィン(レペタン)など
強オピオイド鎮痛薬
モルヒネ製剤としてMSコンチン、カディアン、アンペック、塩酸モルヒネ、オプソなど
オキシコドン製剤としてオキシコンチン、オキノームなど
フェンタニル製剤として、デュロテップパッチ、フェンタネストなど
その他
補助療法として、抗痙攣薬、抗精神病薬、副腎皮質ステロイドなど
痛みが軽い場合
がんの痛みでも、痛みが軽い場合は、非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs等)と呼ばれるものが使用されます。
よく使用されるものとしてボルタレン、ロキソニンがあります。これらの鎮痛薬は、鎮痛作用、消炎作用(炎症を抑える作用)、解熱作用、抗血小板作用を持ちますので、消炎鎮痛薬、解熱鎮痛薬、鎮痛解熱薬などとも呼ばれます。
副作用として胃腸障害、腎障害、肝障害などがあり、もっとも多い副作用は胃腸障害です。そのため消炎鎮痛薬は胃の中に食物が残っている食後に服用することが勧められ、一般に胃腸薬と共に処方されます。
この鎮痛剤は、プロスタグランジンという発痛物質を減らすことにより痛み和らげます。発痛物質が少ない段階に使用した方が効果的とされます。(痛みは、軽いうちに鎮痛薬を使用した方が効果的)
痛みが強い場合
上記鎮痛薬が十分な効果をあげないときには、非オピオイド鎮痛薬に追加してオピオイドを処方されます。よく使用される例としてコデインを始めとする軽度から中等度の強さに用いるオピオイド鎮痛薬が十分な効果をあげないときには、モルヒネをはじめとする中等度から高度の強さの痛みに用いるオピオイド鎮痛薬を代わりに用います。
MSコンチン
モルヒネの徐放製剤。服用後、効果が12時間持続、通常1日2回服用。胃腸障害はなく、食事による吸収への影響ないとされますが、消化管の機能低下を起こしている場合は影響が出ます。
また、腎機能障害がある場合、薬の成分が蓄積されることで、効果が強く出ることがあります。
オキシコンチン
モルヒネの親戚(オキシコドン)です。効果は12時間持続、通常1日2回服用。MSコンチンに比較して、安価、腎機能障害を有していても使用しやすい、幻覚の出現率が低い、などの長所があります。
オプソ
痛みが強い場合、突然の痛みが出る場合に使用される鎮痛薬です。オプソはモルヒネの水溶液で、服用後、15分程度で鎮痛効果が出始めます。
鎮痛薬の1回の使用(服用)量、次の服用までの間隔は個人によりかなり異なりますので、
自己判断せずに主治医の指示に従ってください。
神経ブロック
よく使用される神経ブロック
神経ブロックでよく行われるものとして星状神経節ブロック、硬膜外ブロックなどがあげられます。その他に、三叉神経ブロッ、ク顔面神経ブロック、三叉神経ブロック、大腰筋溝ブロック、肩甲上神経ブロック、局所静脈注射、ルートブロックなどがあります。
神経ブロックは神経を局所麻酔剤により麻酔するため、短時間のうちに劇的な変化が現れるものが多くあります。症状が劇的に改善する反面、同時に種々の副作用が起こる場合があります。神経ブロックによる鎮痛は、1回のみでも治癒する場合もありますが、急性期では、集中的なブロックが必要とされます。以降、症状の緩和に合わせ、神経ブロックを行う間隔と調整していきます。
星状神経節ブロック
局所麻酔薬により頸部にある交感神経をブロック(遮断)する。顔面・頭部・上肢への血管を拡張させることで血液の循環を良くし、必要な酸素や栄養を充分に供給することを目的としています。
痛みがあると神経が刺激され、その神経の周りの血管が収縮し、血液の流れが悪くなり、栄養や酸素が不足し神経が弱っていきます。
星状神経節ブロックによって、交感神経の作用を弱め、血液の流れが良くなることで、栄養や酸素が供給され弱った神経を治して痛みを改善します。
- この注射を受けると次のような症状が出現します。
- 1.まぶた(眼瞼)が重くなったり、下垂する。
- 2.顔面がほてる。
- 3.眼が赤くなる(結膜充血)。
- 4.鼻がつまる。
- 5.汗がでにくくなる。
- 6.手が暖かくなる。
- 7.声がかすれたり、息苦しくなる。
- 8.注射部位の痛み・内出血、手のシビレ・脱力。
硬膜外ブロック
脊髄をおおっている一番外にある硬膜の外側にある空間へ、局所麻酔薬などの薬剤を注入し部分的に(痛みの強い部分)神経をブロックし、神経の興奮を抑え、痛みを和らげることを目的としています。(痛みがある部分は、血管が収縮し神経への酸素や栄養を与えにくくなっていて、痛みを増強してしまいます。)
硬膜外ブロックは、痛みを和らげ、同時に神経への血流を改善させ、弱っている神経へ酸素や栄養をあたえ、神経が治るのを助けます。