更新日:2026/08/01
緩和医療とは
「緩和ケアはがんが進行してから受けるもの」「医療用麻薬を使うと依存症になる」——こうした誤解が、必要なケアを遠ざけることがあります。この記事では、がん情報サービスおよび日本緩和医療学会の情報をもとに、緩和ケア(緩和医療)が何を目指し、どのように受けられるかを説明します。
この記事でわかること:
- WHOが定める緩和ケアの定義と考え方
- 緩和ケアはがんと診断されたときから治療と並行して始まるという現在の考え方
- 緩和ケアを受けられる場(チーム・外来・病棟)
- がんの痛みに対する薬物療法の基本的な考え方と副作用への対処
- 神経ブロックの位置づけ
緩和医療とは
緩和ケア(緩和医療)は、生命を脅かす病に直面している患者さんとその家族が、身体・心・社会・スピリチュアルなあらゆる側面のつらさから解放されるよう支えることを目的とした医療アプローチです。
日本緩和医療学会は、WHO(世界保健機関)が2002年に定めた緩和ケアの定義を次のように日本語に訳しています。
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
出典: 日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)定訳」※1
この定義は、痛みなど身体的な苦痛の緩和にとどまらず、心理的な支援やスピリチュアルなケアを含むことを明確にしています。
緩和ケアが大切にしていること
WHO定義(日本緩和医療学会定訳)には、緩和ケアが目指す内容として次の考え方が含まれています※1。
- 痛みをはじめとするつらい症状を和らげる
- 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程として捉える
- 死を早めようとしたり、遅らせようとしたりするものではない
- 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
- 患者さんが最期まで可能な限り能動的に生きられるよう支援する
- 患者さんの病気の期間中および死別後も、家族が生活に適応できるよう支援する
- 患者さんと家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
- QOL(生活の質)を高め、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
- 病の早い時期から、化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を目指す治療と組み合わせて行うことができる
がんと診断されたときから始まる緩和ケア
以前は、緩和ケアはがんの終末期に行うものというイメージが持たれていました。しかし現在の考え方は異なります。
国立がん研究センター がん情報サービスは「緩和ケアは、がんと診断されたときから始まります。がんが進行してから始めるものではありません」と述べています※2。つらさを感じるときはいつでも受けることができます。
WHO(2020年)も「緩和ケアは疾患の早い時期に考慮されるときに最も効果的である」としており、治療と並行して早期から取り組むことの重要性を示しています※3。
緩和ケアを受けられる場
がん情報サービスによると、緩和ケアは次のような形で受けることができます※2。
| 受ける場 | 内容 |
|---|---|
| 通常の診療の中 | 担当の医師・看護師を中心に、日常の診療の中で行われる |
| 緩和ケアチーム | 医師・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーなど多職種がチームとなって支える |
| 緩和ケア外来 | 専門的な知識を持つ医師・看護師から受ける。退院後の継続ケアとしても利用できる |
| 緩和ケア病棟(ホスピス) | 緩和ケアに特化した病棟。進行したがんに伴う体・心のつらさに対して専門的なケアを受ける |
どの形が自分に合っているかは、主治医や緩和ケアチームと相談しながら決めていきます。
がんの痛みについてさらに詳しく知りたい方は、がんの痛みのページもご覧ください。緩和ケア全般については緩和ケアのページで詳しく解説しています。
鎮痛剤
がんによる痛みの治療では、痛みの程度を丁寧に評価したうえで、その人に合った薬を選びます。
痛みの評価と個別対応
痛みの感じ方は人によって異なるため、痛みの強さや性質を丁寧に評価し、その結果をもとに薬の種類や量を決めます。日本緩和医療学会は「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」を発行しており、痛みの評価に基づく薬物療法の考え方が示されています※4。評価は治療の経過にあわせて定期的に行われ、薬が調整されます。
また、がん情報サービスは「痛みを抑える治療は、がんに対する治療とともに行うことができます」と述べています※5。
鎮痛薬の種類と使い方の基本的な考え方
がんの痛みに使われる鎮痛薬は、大きく「非オピオイド鎮痛薬」と「オピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)」の2種類に分けられます。それぞれの薬を、どのように使うかは主治医や緩和ケアチームが決めます※5。
| 分類 | 特徴(考え方) |
|---|---|
| 非オピオイド鎮痛薬 (NSAIDsやアセトアミノフェンなど) |
比較的軽い痛みに対して使われる。胃粘膜への影響が出ることがあるため、胃薬と併用することが多い |
| オピオイド鎮痛薬 (医療用麻薬。コデイン・モルヒネなど) |
非オピオイド鎮痛薬では十分な効果が得られない場合や、中等度から強い痛みがある場合に使われる。内服薬のほかに貼り薬・坐薬・点滴などの剤形がある |
薬の具体的な選択・用量の調整は必ず主治医の指示に従って行い、自己判断で変更しないことが重要です。
定時投与とレスキュー薬(頓服薬)
がんの痛みの薬物療法では、「決まった時間に規則正しく薬を使う(定時投与)」ことが基本です。あらかじめ痛みを抑えておくことで、QOL(生活の質)の維持につながります。
急に痛みが強くなったときや、痛みが出そうなときには「頓服薬(レスキュー薬)」を使います。がん情報サービスは「痛みが強くなるのを防ぐために、我慢せずに早めに使うようにしてください」と述べています※5。頓服薬を使う頻度や量の記録を医療チームに伝えることで、定時薬の調整に役立てることができます。
副作用と対処法
オピオイド鎮痛薬を使い始めると、便秘・吐き気・眠気などが現れることがあります。これらは副作用として知られており、医療チームとともに対処策を取ることができます※5。
- 便秘: 多くの場合、下剤が処方されます。水分・食物繊維の摂取や、無理のない範囲での運動も助けになるとされています
- 吐き気: 薬を使い始めてから数週間ほどで落ち着く場合が多く、吐き気止めで対処できることがあります
- 眠気: 使い始めの時期に出やすく、多くの場合は時間とともに落ち着きます。強い眠気が続く場合は医療チームに相談が必要です
副作用が気になるときは、我慢せず担当の医師・看護師・薬剤師に相談してください。
オピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)への誤解について
「医療用麻薬を使うと依存症になる」「医療用麻薬は最後の手段だ」という考え方は、誤解であることが広く知られています。がん情報サービスは次のように述べています※2※5。
- がんによる痛みの治療のために医師から処方された医療用麻薬を使うときには、依存や中毒は起こりません
- 医療用麻薬の成分は、痛みがある状態で使うと痛みにのみ働き、精神的・身体的な依存はほとんど問題にならないことがわかっています
- 医師の指示に従って正しく使えば、依存症の心配はありません
不安なことがあれば、医師や薬剤師に気軽に相談してください。
ベストサポーティブケア(BSC)との関係についてはベストサポーティブケア(BSC)のページもご参照ください。
神経ブロック
神経ブロックは、薬物療法とは異なるアプローチでがんの痛みを和らげる選択肢の一つです。
がん情報サービスによれば、がんの痛みに対する治療として「薬を使う治療法や神経ブロック療法のほか、痛みの原因によっては放射線治療などさまざまな方法があります」とされており、神経ブロックは薬物療法と並行して検討できる方法として位置づけられています※5。
神経ブロックが適しているかどうか、どの方法が選択肢になるかは、患者さんの状態や痛みの種類によって異なります。判断は必ず主治医や緩和ケアチームと相談しながら行います。
がん治療の副作用や合併症の管理に関心のある方は、がん治療の副作用と合併症のページもご覧ください。
よくある質問
- 緩和ケアはがんの末期でないと受けられないのですか?
- いいえ、違います。現在の考え方では、緩和ケアはがんと診断されたときから治療と並行して受けるものです※2。つらさを感じるときはいつでも担当医に相談できます。
- 医療用麻薬を使うと「麻薬中毒」になりますか?
- がんによる痛みの治療として医師の指示どおりに使う場合、依存症や中毒が問題になることはほとんどないとされています。不安なことがあれば医師や薬剤師に相談してください※2※5。
- 神経ブロックはどんな場合に行われますか?
- 薬物療法と並行して検討できる選択肢の一つで、どのような状態の患者さんに適しているかは主治医が判断します※5。手技の詳細や適応については担当の医師に確認してください。
- 緩和ケアチームとはどのような人たちですか?
- 医師・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーなど、さまざまな職種の人がチームとなって患者さんと家族を支えます。入院中に利用でき、緩和ケア外来では退院後も継続してケアを受けることができます※2。
本記事は2026年8月2日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)定訳」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(最終確認日: 2026年8月2日)
- WHO「Palliative care」Fact sheet(2020年8月5日公開)(最終確認日: 2026年8月2日)
- 日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」(2020年6月発行)(最終確認日: 2026年8月2日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」(最終確認日: 2026年8月2日)





















