更新日:2026/08/08
がんの不安
「がんと言われて、頭が真っ白になった」——そう感じることは、弱さでも異常でもありません。がんの告知を受けたあとに不安や落ち込みを感じることは、だれにでも起こりうる自然な反応とされています※1。
この記事では、患者さん本人と家族がそれぞれ抱えやすい不安の種類と、不安を和らげるために活用できる専門家・相談窓口を、国立がん研究センター がん情報サービスなどの一次情報をもとに整理します。
この記事でわかること
- がん告知後の心の変化(衝撃→不安・気持ちの揺れ→適応)という一般的な経過
- 患者さん本人が抱えやすい4つの不安(身体・社会・人間関係・心理)の特徴
- 家族が感じる4つの不安と、「第二の患者」ともいわれる理由
- 不安を和らげるために相談できる専門家と窓口(がん相談支援センター・電話相談含む)
- 主治医や専門家に「いつ・どのように相談すればいいか」の目安
告知後の心の反応——衝撃から適応へ
がんの告知を受けると、頭が真っ白になるような衝撃のあと、「なぜ自分が」「間違いでは」という混乱の時期が訪れることがあります。その後、強い不安や落ち込みが続く時期を経て、多くの場合、がんを抱えた生活を少しずつ受け入れる「適応」の段階へと移っていくとされています。国立がん研究センター がん情報サービスは、通常は2週間程度でこの適応の時期を迎えることができるようになるといわれています、と説明しています※1。
ただしこれはあくまで一般的な目安であり、個人差があります。治療の選択時・治療開始時・退院後・再発や転移の告知後など、治療の節目ごとに不安が高まることもあります※1。心の経過は直線的ではなく、行きつ戻りつしながら進むことも少なくありません。
こうした不安や落ち込みは「弱さ」ではなく、がんという深刻な状況への正常な反応であるとされています※1。一方で、不安や落ち込みが日常生活に支障が出るほど強く続く場合は、適応障害(がんという現実によって日常生活が著しく阻害される状態)や気分障害(うつ状態)などが背景にある可能性があるため、医療者に相談することが助けになります※1。
米国国立がん研究所(NCI)のPDQでは、がんと診断された人の約20%(10人中約2人)がうつ病になるという国際的な推定値が示されています※2。この数値は特定の集団を対象とした推定であり、個人の状態を示すものではありませんが、つらい気持ちが続くときに専門家へ相談することが大切だという意味で参考になります。
つらい気持ちが続くときは、一人で抱え込まずにがん相談支援センターや医療者に相談することが、大切な一歩です※1。
患者本人の不安
がんの告知を受けた患者さんは、さまざまな角度からの不安に同時に直面します。がん情報サービスでは、患者さんが抱える問題を「身体的」「社会的・経済的」「人間関係」「心理的」の4つの側面から整理しています※3。どれが大きく感じるかは人によって異なり、また時期によって変化します。
身体的な問題
身体的な不安の代表は、「これからどれほど痛くなるのか」という恐怖です。特に今は痛みがない場合でも、治療の過程や病状の変化に伴う痛みへの不安は多くの方が感じます。痛みをはじめ、吐き気・倦怠感・しびれ・呼吸困難など、さまざまな症状への不安も生じることがあります※3。どの症状がどのくらい出るかは事前にはわからない部分もあり、その「未知であること」自体が不安を大きくする場合があります。
痛みの管理には現在さまざまな方法があります。詳しくはがんの痛みもご参照ください。担当医や看護師に「どのような症状が予想されるか」を事前に確認しておくことが、心の準備につながります。
社会的な問題
がんの治療・療養は長期にわたることが多く、医療費の負担は大きくなる場合があります。公的医療保険の適用があっても、入院中の食費・差額ベッド代・通院費など自己負担が発生する費用があります※3。「保険やお金は大丈夫か」という不安は多くの方が感じることです。
また、「治療をしながら仕事を続けられるか」という問いも多くの方が直面します。体調や通院の都合、職場への説明の仕方など、考えなければならないことが重なります。治療費や就労に関する疑問は、医療ソーシャルワーカーやがん相談支援センターに相談する選択肢があります。費用についてはがんの治療費やがん保険についてもご参照ください。
人間関係の問題
「誰にどのように伝えるか」は多くの方が悩む問題です。職場への説明・交渉、友人への告知、いずれも難しさがあります。がんの治療では脱毛や皮膚の変化など外見の変化が起きることがあり、「人にどう見られるか」という不安も生じます。外見の変化についてはがん治療と脱毛も参考になります。
また、「主治医とどう付き合えばいいか」という不安を抱える方もいます。主治医との信頼関係は治療を続けるうえでも、心の安定のうえでも大切です。主治医への疑問の伝え方・関係の作り方についてはがんと医師との付き合い方もご参照ください。
心理的な問題
「気持ちは落ち着いていられるか」「なぜ自分ががんになったのか」「これからどうなるのか」——こうした漠然とした問いは、告知直後から長期にわたって浮かんでくることがあります※3。治療の選択をするとき、通院治療を始めるとき、再発・転移の告知後など、心理的な不安が高まりやすい時期があるとされています※1。
こうした心理的な不安を一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に打ち明けることが助けになるとされています※3。気持ちの整理のヒントはがんのストレス解消法もご参照ください。
家族の不安
がんに伴う不安は、患者さん本人だけでなく、家族にも大きな影響を与えます。国立がん研究センター がん情報サービスは、家族もがんになった本人と同じかそれ以上の精神的負担がかかることがあるとして「第二の患者」ともいわれていると説明しています※4。
家族ががんになっても、その事実を受け入れられずに混乱することはごく自然なことです。「自分がつらくても、本人はもっとつらいのだから我慢しなくては」と気持ちを抑えてしまう方も少なくありません※4。しかし、家族自身もつらい気持ちを抱えていることを認め、必要であれば専門家に相談することが大切です。
患者さんへの具体的な接し方についてはがん患者との接し方もあわせてご参照ください。
介護者としての問題
家族ががんになると、看病・療養のサポートが必要になります。治療は長期にわたることが多く、「いつ終わるのか見通せない」という介護者特有の不安が生じます※4。看病と自分の生活の両立は、多くの家族が直面する課題です。
また、「家族ががんになったのは自分のせいではないか」と自分を責めてしまう方もいます※4。患者さんの発病に原因を求めてしまうことは自然な反応ですが、がんの発症は複合的な要因によるものであり、一人の家族の責任に帰するものではありません。こうした気持ちについても、がん相談支援センターや心理の専門家に相談することが助けになります。
社会的な問題
「仕事と看病は両立できるか」「経済的に大丈夫か」——これは患者さんが稼ぎ頭である場合に特に大きな不安となります※4。がん治療は長期に及ぶことが多く、公的保険の適用があっても、家族の通院費や付き添いの費用など出費が積み重なることがあります。患者さんが家事の中心を担っていた場合、「日常生活をどう回すか」という問題も加わります。子どもがいる家族では、子どもの生活や心理面への影響も気になるところです※4。
経済面の不安については医療ソーシャルワーカーや、がん相談支援センターに相談することで、公的制度の案内や具体的な解決の糸口を一緒に探すことができます。
人間関係の問題
家族の立場でもっとも悩むことの一つが、「患者さんにどう接したらいいか」という問いです。がんと向き合いながら闘っている患者さんを目の前にして、何を言えばいいか、どう振る舞えばいいかに迷うことは自然なことです※4。これは告知直後だけでなく、治療中や治療後の長い期間にわたって続く問いでもあります。
「正解」を探すのではなく、患者さんの話を聞く姿勢、一緒にいる時間を大切にすることが助けになるとされています。具体的な接し方の参考としてがん患者との接し方もご覧ください。
心理的な問題
家族の心理的な不安として大きいのは、「患者を失うかもしれない」という恐怖です。がんを「死に直結する病気」と結びつけてしまう方は少なくなく、その恐怖を抱えながら日常を送ることは、家族にとって大きな苦しみです※4。
一方で、その恐怖や悲しみを誰かに打ち明けられずに抱え込んでしまうことも多くあります。家族自身の心のつらさを一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に話すことが、長期にわたる介護の生活を続けるうえで大切です※4。
がんの不安を少しでも和らげるために
不安を「完全になくす」ことは難しいかもしれません。しかし、専門家や窓口を活用することで、気持ちが楽になったり、具体的な問題の糸口が見えたりすることがあります。がん情報サービスは、複数の問題がある場合は優先順位をつけて取り組むことが助けになると述べています※3。
具体的な悩みを解決してくれる専門家
経済的な問題・仕事の問題・日常生活の困りごとなど、具体的な問題の相談窓口としては以下の専門家がいます※5。
| 専門家・窓口 | 主な相談内容 | どこにいるか |
|---|---|---|
| 医療ソーシャルワーカー | 経済・生活・社会復帰など具体的な問題の相談。公的制度の案内 | がん診療連携拠点病院・がん相談支援センター |
| 看護師 | 心の問題の窓口・担当医との橋渡し・日常のケアの相談 | 病棟・外来 |
| がん相談支援センター | 治療・痛み・治療費・生活・仕事・家族の悩みなど幅広く対応 | がん診療連携拠点病院(全国に設置。がん情報サービスから検索可) |
医療ソーシャルワーカーは、金銭面や社会復帰など具体的な問題の解決法を一緒に考え、必要な制度を案内してくれます※5。看護師は病棟・外来で医師と患者さんの橋渡し役になることができ、入院中から外来まで幅広い相談役になります※5。
がん相談支援センターは、がん診療連携拠点病院などに設置された相談窓口で、治療のこと・痛みやつらさ・治療費・仕事・生活・家族の悩みなど、がんに関するさまざまな相談に対応しています※6。患者さん本人だけでなく、ご家族からの相談にも対応しています※6。センターの場所は国立がん研究センターのウェブサイトから検索できます※6。
電話・チャットでの相談を希望する場合は、国立がん研究センターがん対策研究所が運営する「がん情報サービスサポートセンター」(電話:0570-02-3410 / 03-6706-7797)も利用できます※6。
心のケアをしてくれる専門家
不安・落ち込みが強く続く場合、または「誰かに話を聞いてほしい」と感じるときは、心のケアに特化した専門家への相談が助けになります※5。
| 専門家 | 主なケアの内容 | どこにいるか |
|---|---|---|
| 精神腫瘍医(精神科医・心療内科医) | がんに関連した心の問題の専門医。カウンセリングや薬物療法(抗不安薬・抗うつ薬等)を行う | 精神腫瘍科・心療内科・緩和医療科 |
| 心理士 | 不安・落ち込みに対して心理学の手法で支援(カウンセリング・リラクセーション等) | 精神腫瘍科・心療内科・緩和医療科 |
精神腫瘍医とは、がんに関連した心の問題のケアを専門にする医師です。精神科医や心療内科医が担っていることが多く、カウンセリングのほか、必要に応じて睡眠導入剤・抗不安薬・抗うつ薬などの薬物療法を行います※5。心理士は、不安・落ち込みに対して心理学の手法を生かして相談に乗り、支援します※5。
これらの専門家はすべてのがん治療施設に必ずしもいるわけではありませんが、最寄りのがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターで「どこに専門家がいるか」を尋ねることができます※5。日本サイコオンコロジー学会は、がんに関連した気持ちのつらさの診療とケアに関するガイドラインを整備・公開しています※7。
緩和ケアも心身のつらさを和らげる選択肢の一つです。緩和ケアの概要については緩和医療とはもご参照ください。
専門家のほかに、「患者会」「患者サロン」「サポートグループ」といったピアサポートの場もあります※3。患者会は情報交換や講演などを行う場、患者サロンは気軽に集まって日常生活の話をする場、サポートグループは医師・看護師・カウンセラーが関わりながら体験を分かち合う場と、形態はさまざまです※3。ともに語ることで気持ちが楽になる効果が期待できるとされています※3。
不安や気持ちの落ち込みへの対処として、がん情報サービスは「過去に困難を乗り越えた経験を思い出す」「信頼できる人に打ち明ける」「正確な情報を集めて担当医と信頼関係を作る」「自分を責めない」「リラクセーション法を試す」なども勧めています※3。不安が続くときは、一人で抱え込まず、相談できる場を積極的に活用してください。
よくある質問
- Q. がんの告知後に不安や落ち込みを感じるのは、精神的に弱いからですか?
- そうではありません。がんと言われた後に不安や落ち込みを感じることは、深刻な状況への自然な反応とされています※1。「弱さ」ではなく、正常なストレス反応です。ただし不安が日常生活に支障をきたすほど続く場合は、専門家への相談が助けになります。
- Q. 不安が強くなったとき、誰にまず相談すればよいですか?
- 担当医や病棟の看護師に伝えるのが最初の一歩です。主治医や看護師から、院内の精神腫瘍医・心理士・医療ソーシャルワーカーなど適切な窓口につないでもらえます。通院している病院にそうした専門家がいない場合は、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター(電話:0570-02-3410)への相談が有効です※6。
- Q. 家族もがん相談支援センターを使えますか?
- はい、利用できます。がん相談支援センターは患者さん本人だけでなく、家族の相談にも対応しています※6。「患者にどう接したらいいか」「仕事と介護の両立が難しい」「自分もつらくなってきた」といった相談を持ち込んでかまいません。ご家族だけで相談することもできます。
- Q. 不安が続く場合、どのタイミングで専門家を受診すればよいですか?
- 不安や気持ちの落ち込みが2週間以上続き、日常生活(食事・睡眠・仕事・人との交流)に支障が出ている場合は、担当医に相談することをお勧めします※1。適応障害や気分障害(うつ状態)への対処は、早めに専門家につながることで楽になることがあります。
- Q. 精神腫瘍医や心理士はどこで受診できますか?
- 精神腫瘍科・心療内科・緩和医療科などに在籍していることが多いですが、すべての病院に置かれているわけではありません※5。まずはがん相談支援センターに「心のケアの専門家はどこにいるか」と尋ねると、最寄りの窓口を案内してもらえます※5。
本記事は2026年8月9日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(最終確認日: 2026年8月9日)
- NCI PDQ®「Depression(うつ病)」患者向けバージョン(米国国立がん研究所・国際的な推定値)(最終確認日: 2026年8月9日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」(最終確認日: 2026年8月9日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったときに知っておきたいこと」(最終確認日: 2026年8月9日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「専門家による心のケア」(最終確認日: 2026年8月9日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんの相談」(最終確認日: 2026年8月9日)
- 日本サイコオンコロジー学会「気持ちのつらさガイドライン」(最終確認日: 2026年8月9日)





















