更新日:2021/05/29
がん検診について
目次
がん検診について、対象者と受診間隔、効果、メリット、注意事項、検査方法など様々な観点から解説します。
がん検診とは


「がん」はひと昔前であれば「不治の病」と言われていましたが、現在は検査技術・治療技術などの進歩によって早期発見で早期治療を行なえる病気になりました。
日本のがん検診は、「がんを早期に発見し、早期に適切な治療を行うことで、がんが原因で死亡する率を軽減する」という目的で行われています。がん検診の実施については、「健康増進法」という法律で定められており、国民健康保険を管理する自治体や、企業が加入する健康保険組合が任意で実施すること、となっています。
現在の日本において、がんで亡くなる人は「国民のおよそ3人に1人」といわれており、がんになる人は「国民のおよそ2人に1人」です。一般に、がんは「早期発見、早期治療が必要」といわれますが、これは、がんの種類やがんの進行度によっては、その後の生存率がとても低くなってしまうものがあるからです。従って、まだがんが小さいうち、他の臓器などへの広がりがないうちに発見し、適切な治療を行うことが推奨されています。そのために必要とされるのが、がん検診です。
日本人の主な死亡原因として上位に挙がるのが、がん、心疾患、脳血管疾患です。かつての日本(1940年代ころまで)は、結核や肺炎などの感染症や、脳血管疾患、老衰などが死因の上位を占めていました。しかし1940年代半ば頃から、がんによる死亡者数が増えはじめ、その代わりに肺炎や結核による死亡数が大きく減少します。心血管疾患による死亡も増えてきますが、1980年頃にがんが死因のトップとなり、その後もがんによる死亡は増加の一途をたどっています。
最近になって、肺炎や老衰など高齢になることで起こり得る死因、あるいは心血管疾患による死亡が増加傾向にありますが、それでも「がん」は2位以下を大きく引き離す勢いで増加し続けています。
このような背景があり、2002年に健康増進法が制定され、生活習慣病やがんに対して、早期発見・早期治療を目的とした「健康診査」を行うことと明示されています。これが現在、地方自治体や健康保険組合が年に1回以上行っている、健康診断とがん検診を行う根拠となっています。
がん検診の対象者
症状のない人が検診を行うのが大切です。 というのは無症状の人には進行がんが少なく、早期のうちにがんを発見することができる可能性があるからです。無症状のうちに「がん」を早期に発見し、治療することでがんによる死亡のリスクを軽減することが大切です。
検診と健診
検診の目的は特定の病気を発見し、早期に治療を行うことです。具体的には、がん検診や糖尿病検診等があります。
一方の健診の目的は健康かどうかを確認し、健康上の問題がなく、社会生活が正常に行えるかどうかを判断することです。
具体的には、学校健診や就職時の健診などがあります。
がん検診の基本条件
がん検診の最終的な目的は「がんによる死亡数を減らすこと」にありますが、では実際にどのような検査や判断をすべきなのか、いくつかの条件があります。
(1)がんになる人が多く、また死亡の重大な原因であること
(2)がん検診を行うことで、そのがんによる死亡が確実に減少すること
(3)がん検診を行う検査方法があること
(4)検査が安全であること
(5)検査の精度がある程度高いこと
(6)発見されたがんについて治療法があること
(7)総合的にみて、検診を受けるメリットがデメリットを上回ること
こうした条件をクリアするがん検診として、2018年現在は以下のがん検診が実施されています。
各がん検診の対象者と受診間隔
● 胃がん検診 対象者:50歳以上 ※1/受診間隔:2年に1回 ※2
※1当分の間、胃部エックス線検査に関しては40歳以上に実施も可
※2:当分の間、胃部エックス線検査に関しては年1回の実施も可
● 子宮頸がん検診 対象者:20歳以上/受診間隔:2年に1回
● 乳がん検診 対象者:40歳以上/受診間隔:2年に1回
● 肺がん検診 対象者:40歳以上/受診間隔:年に1回
● 大腸がん検診 対象者:40歳以上/受診間隔:年に1回
もちろん、がんの種類としては他にもたくさんあります。しかし、「がん検診」として死亡数を減らすことが認められる検査法や、これにより早期治療を開始した後の結果については、いまだ研究途中のものが多く、現在はこの5種類のがん検診が行われていることになります。
がん検診の効果
がん検診の効果の判定は日々行われています。 科学的な方法によって、がん死亡率の減少が認められた代表的な検診は、表に示すいくつかの検診です。
表:厚生労働省 がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)
種類 | 効果のある検診方法 |
---|---|
胃がん検診 | 問診に加え、胃部エックス線または胃内視鏡検査のいずれか |
子宮頸がん検診 | 問診、視診、子宮頸部の細胞診、および内診 |
乳がん検診 | 問診および乳房エックス線検査(マンモグラフィ) |
肺がん検診 | 質問(医師が自ら対面により行う場合は問診)、胸部エックス線検査および喀痰細胞診(ただし喀痰細胞診は、原則50歳以上で喫煙指数が600以上の方のみ。過去の喫煙者も含む) |
大腸がん検診 | 問診および便潜血検査 |
がん検診の効果は発見率ではありません。
効果のあるがん検診かどうかを判断するのは、いかに多くのがんを発見するか(発見率)ではなく、がんを発見したことにより、「そのがんによる死亡率を減少させることが可能かどうか」が、判定の基準となります。
がん検診のメリット
がん検診を受けた人にとっては、がんが早期発見でき、早期から適切な治療ができ、「完治した」あるいは「生存年数を伸ばした」ことが、大きなメリットとなるでしょう。
がん治療の結果は人それぞれですが、「この先どれくらい長生きできそうか」を示すものとして、「生存率」があります。がんの治療を始めてから5年後や10年後にどれくらいの割合で生存しているかどうかを示すデータです。
例えば、日本で最初にがん検診が始まった「胃がん」は、発見された時の病期(ステージ)によってその後の生存率が大きく変わります。全ステージ合計の5年生存率は、およそ73%ですが、ステージごとにみると差が出てきます。
病期(ステージ) | 症例数 | 5年生存率 |
---|---|---|
Ⅰ期 | 21,133 | 96.7% |
Ⅱ期 | 2,651 | 64.1% |
Ⅲ期 | 3,327 | 47.0% |
Ⅳ期 | 5,844 | 7.0% |
全病期 | 33,758 | 73.4% |
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2018年11月現在)による
※対象データは、診断年:2005年~2009年の最新5年間とした
早期胃がんともいわれる「Ⅰ期」で発見できれば、100人中約97人がその後の5年間は生存していることになります。しかし、かなり進行した「Ⅳ期」の場合、すでに完治を目指せるような適切な治療法が無いこともあり、5年後も生存している人は、100人中7人という計算です。
また、がんには「前がん状態」と呼ばれる時期があります。これは、正常な細胞からがん細胞へと変異する前の段階ですが、この時点で「正常な細胞では無いががん細胞ではない」を発見し、切除できれば、がん化を予防できることもあります。
例えば、子宮頸がんには「異型上皮(異形成)」と呼ばれる、正常とは言い難い細胞が存在する時期があります。この時点で「異型上皮(異形成)」となっている細胞の部分を切除すれば、正常な細胞が残り、がん化を予防できるとされています。
がん検診の注意事項
がん検診は完璧ではありません。がん検診を受けることにより不利益を被ることもあります。
- がん検診で100%がんが見つかるとは限らない。
- 如何に優れた検査でも、100%の精度ではありません。 がん細胞が発生した時点では検査結果として示されることはありません。がんとしてある一定の大きさになるまで検査で発見することはできません。その発見の可能性は、がんの種類や検査の精度によって異なります。さらに、がんの形状や、発生部位(見つけにくい場所)の違いによってある程度の見逃し(偽陰性)が発生してしまいます。
- 結果的に不必要な治療や検査を招く可能性があること
- 検診では、本来生命状態に影響しないような微小でその後も進行がんにはならない様ながんを見つける場合があります(過剰診断)。しかし、このようながんとその後悪影響を与える様ながんを区別することは困難です。こういった場合、悪影響を与えるがんであることを想定し、早期治療を重視するあまり、このようながんにも手術などの治療を行うことが考えられます。また、検診によってがんの疑いがあると判定されたにもかかわらず、精密検査を行った結果、がんが見つからない場合も多くあります(偽陽性)。
- 早期発見、早期治療を行うためには行うことですからある程度やむをえないことですが、結果的にみれば不必要な治療や検査が行われることがあります。
各がん検診の一次検査
「がん」はひと昔前であれば「不治の病」と言われてましたが、現在は検査技術・治療技術などの進歩によって早期発見、早期治療を行なえる病気になりました。また、「がん」の再発予防においても定期検査は欠かせません。がん検診は、1回受ければ終わりではありません。集団検診などで行われる一次検査と、その後の精密検査(二次検査)があります。一次検査で何らかの異常があると判断された場合は、精密検査(二次検査)が必要です。精密検査でがんが見つからない場合でも、定期的にがん検診を受けましょう。
がん検診の種類と一次検査で行われる検査は、以下になります。
胃がん検診の一次検査
胃がん検診の一次検査では、問診に加え、胃部X線または胃内視鏡検査のいずれかが行われます。
● 胃のX線検査
「バリウム」と呼ばれる、白いドロッとした性状の造影剤を飲み、胃のX線写真を数枚撮影する検査です。バリウムを胃全体へ行きわたらせる必要があるため、X線写真を撮影する台の上で横向きになったり、台ごと頭を高くする、足を高くするような体位を取ります。
● 胃内視鏡検査
かつての胃がん検診は、胃のX線検査のみでしたが、2014年から胃内視鏡も検査項目に加わりました。口(または鼻)からスコープを挿入し、食道、胃、十二指腸までを観察します。
子宮頸がん検診の一次検査
子宮がんは、子宮頚がんと子宮体がんに分かれますが、ここでは子宮頸がん検診について見ていきます。子宮頸がんの一次検査では、問診、視診、子宮頸部の細胞診、および内診が行われます。
● 視診
膣に「膣鏡」と呼ばれる器具を挿入し、医師が膣から子宮頸部までの状態を観察します。子宮の形や大きさ、おりものの状態や、炎症の有無などを目で確認します。
● 子宮頸部細胞診
子宮頸部周囲の細胞を専用の綿棒(ヘラ)のような器具でぬぐい取り、細胞の状態を調べる検査です。
乳がん検診の一次検査
乳がん検診の一次検査では、問診および乳房エックス線検査(マンモグラフィ)が行われます。
● マンモグラフィ検査
乳房専用のX線撮影装置で、触診では見落とされがちな乳房内部の「がん」の早期発見に有効です。
肺がん検診の一次検査
肺がん検診の一次検査では、質問(医師が自ら対面により行う場合は問診)、胸部エックス線検査および喀痰細胞診が行われます。最初に問診を行い、ハイリスクな方※とハイリスクではない方に分けます。
※ハイリスクな方:「50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上」あるいは「40歳以上で6ヵ月以内に血痰のあった人」です。1日の喫煙本数×喫煙年数を「喫煙指数」といいますが、これが400ないし600以上の場合もハイリスクとなります。
● 胸部X線検査
「胸のレントゲン写真」を撮影し、肺の中にがんを示す「陰影」がないかどうかを調べる検査です。この検査は、肺がん検診を受ける方全員が対象です。
● 喀痰細胞診
ハイリスクな方は、喀痰細胞診も追加されます。
喀痰細胞診は、3日分の痰を検体として提出し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認する検査です。3日分の痰を1つの容器にまとめて貯める(蓄痰法)、あるいは3つの容器に1日分ずつ別々に貯める(連痰法)方法があり、検診を受ける施設によって容器が変わります。
大腸がん検診の一次検査
大腸がん検診の一次検査では、問診および便潜血検査が行われます。
● 便潜血検査(検便)
2日間の便を、専用の綿棒のような形状の棒でまんべんなくぬぐい取ります。便の中に血液が混じっていないか(潜血がないか)を確認する検査です。
その他の検査
腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカー検査は、血液だけでも30種類以上もの検査項目が存在します。特定の腫瘍だけに現れるマーカーもあれば、複数の腫瘍で現れるマーカーもあります。
腫瘍マーカー検査では、「がん」以外の病気でも高くなる場合がある為、あくまでも診断の判断材料のひとつです。
CT検査
頭から足の先まで、人体を輪切りにした状態の画像を得ることができ、臓器の形状などを調べる検査に適しています。喉頭がん、肺がん、肝細胞がん、腎細胞がんなどの検査に使用されるほか、血管の状態も確認できる検査です。
MRI検査
CTと同様に、頭から足の先まで、詳細な画像を得ることができる検査です。X線を使用しないため、放射線による被爆がありません。撮影の条件を変えたりすることで、いくつかの見た目の違う画像を得ることができます。臓器の形状、血管の状態などを確認できる検査です。
PET検査
ブドウ糖を大量に摂取するがん細胞の特性を活かし、腫瘍を発見する検査です。一度で全身の検査が行えるほか、痛みや不快感を伴うことなく、小さな「がん」も発見することができます。
参考文献
国立がん研究センター がん情報サービス がん検診について
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr.html
厚生労働省 健康増進法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78aa3837&dataType=0&pageNo=1
厚生労働省 がん検診
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html
厚生労働省 我が国の人口動態平成30年
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf
厚生労働省 第2回健康診査等専門委員会資料6 がん検診の考え方
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000104585_3.pdf
厚生労働省 健康増進法の概要
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/dl/s1202-4g.pdf
厚生労働省 がん検診の現状
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000127253.pdf
日本医師会 がん検診のメリットとデメリット
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/what/advantages/
同上 がん検診Q&A
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/what/qa/
日本対がん協会 胃がん検診について
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E8%83%83%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
同上 乳がん検診について
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
同上 子宮頸がん検診について
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%AD%90%E5%AE%AE%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
同上 肺がん検診について
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E8%82%BA%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
同上 大腸がん検診について
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%A4%A7%E8%85%B8%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
日本医師会 胃がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/stomach/
同上 乳がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/breast/
同上 子宮頸がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/cervix/
同上 肺がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/lung/
同上 大腸がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/largeintestine/