更新日:2026/08/02
腫瘍減量手術
がんを完全に取り除けない場合でも、できるだけ多くのがん組織を切除することで、その後の治療効果を高めることを目的とした手術があります。これを「腫瘍減量手術」(英: cytoreductive surgery、またはデバルキング手術)と呼びます。
この記事では、腫瘍減量手術の種類・どのようながんに用いられるか・注意点について、国立がん研究センター がん情報サービスおよび学会のガイドラインをもとにご説明します。
この記事でわかること
- 腫瘍減量手術(デバルキング手術)とは何か、3種類(PDS・IDS・SDS)の違い
- 腫瘍減量手術が中心的に行われるがんの種類(主に卵巣がん・卵管がん・腹膜がん)
- 残存腫瘍の量と予後の関係について知られていること
- 手術によるリスク・制約、エビデンスの現状
- 主治医に相談する際のポイント
腫瘍減量手術って何?
腫瘍減量手術(デバルキング手術/cytoreductive surgery)とは、がんを完全に取り除くことが難しい病状において、可能な限り多くのがんを切除することを目的とした手術です※1。進行して発見されることが多い卵巣がんをはじめ、がん細胞を少しでも減らすことが、その後の薬物療法の効果を引き出すうえで重要と考えられています※1。
腫瘍減量手術は、治療の時期や状況によって以下の3種類に大別されます。
| 略称 | 正式名称(英語) | 行われるタイミング |
|---|---|---|
| PDS | 一次的腫瘍減量術 (primary debulking surgery) |
初回治療として、できるだけ早い段階で行う※1 |
| IDS | 待機的(インターバル)腫瘍減量術 (interval debulking surgery) |
術前化学療法(NAC)を先に行い、効果が認められた時点で行う※1※1 |
| SDS | 二次的腫瘍減量術 (secondary cytoreductive surgery) |
再発・残存が確認された場合に、個別に検討して行う※1 |
PDS(一次的腫瘍減量術)
PDS は「初回治療として、できるだけ早く、可能な限りがんを切除する手術」です※1。卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)の進行例では、両側の卵巣と卵管、子宮、大網(胃の下部から結腸にかけて付属している網状の組織)を切除することが多いとされています※1。
PDS かどうかの判断は、腫瘍の広がりや患者さんの全身状態(体力・合併症)を踏まえて、主治医が個別に検討します※2※3。
IDS(待機的腫瘍減量術)
IDS は、まず術前化学療法(NAC)を行い、その効果が認められた時点で残存するがんを可能な限り切除する方法です※1。がん情報サービスは「最初の手術が試験開腹術だった場合、または手術後に体内に残ったがんの直径が1cm以上の場合」に IDS が行われると説明しています※1。
PDS と IDS のどちらを選ぶかは、腫瘍の広がり・切除可能性・全身状態などを総合的に判断して決められます。日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版」では、進行例に対して PDS を先行するかNAC+IDSを選択するかをクリニカルクエスチョン(CQ:専門家が答えを検討している問い)として扱っており、一律の結論に落とさない枠組みになっています※3。
SDS(二次的腫瘍減量術)
SDS は、再発や残存が確認された場合に行う手術です。再発卵巣がんの治療は薬物療法が主体とされており、SDS は適応が限定的で個別に判断されます※1。日本婦人科腫瘍学会のガイドライン2025年版では、再発患者に対する手術療法がCQとして新たに検討対象に加えられました※3。
腫瘍減量手術は単独で完結しない
腫瘍減量手術は、手術だけで治療が終わるわけではありません。手術・薬物療法・放射線治療などを組み合わせて行う集学的治療の一部として位置づけられています※4。術前・術後に薬物療法(化学療法)が組み合わされることが多く、複数の専門家がカンファレンスで患者さんごとに最適な組み合わせを検討します※4。
腫瘍減量手術が向いているとされる「がん」は?
腫瘍減量手術が中心的に位置づけられているのは、主に卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)です※1※3。
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでの位置づけ
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんは、初期にはほとんど自覚症状がなく、進行した状態で発見されることが多いがんです※5。腹部膨満感(ウエストがきつくなる)・下腹部のしこり・食欲低下などをきっかけに受診に至ることがあります。進行すると腹水がたまることがあり、がんが腹腔内に広がる(腹膜播種)場合もあります※5。
こうした進行がんに対して、治療方針は手術療法と薬物療法を組み合わせて行われることが多く、腫瘍減量手術はその中心的な手術的手段とされています※1。確定診断や進行度の確認のための試験開腹で、がん細胞がお腹の中に広がっていることが確認された場合にも、切除が試みられます※1。
進行期(ⅢおよびⅣ期)の卵巣がんでは、手術後に薬物療法を行います。初回化学療法としてパクリタキセルとカルボプラチンを組み合わせたTC療法を基本とし、分子標的薬(ベバシズマブ)の追加や、初回治療後の維持療法が検討される場合があります※1。薬剤の詳細・投与量については主治医に確認してください。
残存腫瘍の量と予後の関係
がん情報サービスは「手術によってがんが取りきれたかどうかが予後に影響します。残っているがんが小さいほど予後が良くなります」と明記しています※1。NCI PDQ(米国国立がん研究所の医療情報)もこれと同様に、初回腫瘍減量術後の残存腫瘍が小さいことを予後良好因子として挙げています※3。
ただし、これはあくまで「残存腫瘍量」が予後と関連しているという観察であり、腫瘍減量手術そのものが生存期間を延ばすかどうかを単独で証明したデータは限定的です※6。腫瘍の生物学的な性質(切除しやすいかどうか)も影響する可能性があり、手術の効果を単純に一般化することはできません※6。
PDSとNAC+IDSのどちらが生存期間の面で優れているかについては、学会ガイドラインがCQとして扱っており、断定的な結論はありません※3。判断は個々の患者さんの状況によって異なります。
なお、がん種によって腫瘍減量手術の位置づけは異なります。子宮体がん・子宮頸がんなどへの「腫瘍減量手術」については、今回の調査範囲内のT1(公的機関・学会の一次情報)で、卵巣がんと同等の枠組みとして明記された記載は確認できませんでした(review/gaps.md に記録)。
腫瘍減量手術によるデメリットはあるのか
腫瘍減量手術は、すべての患者さんに適応できる手術ではありません。以下のような制約と注意点があります。
手術による体への負担と合併症
手術は、がんや周囲の組織を切除する治療であり、組織の切除や麻酔によって体に負担がかかります。感染や痛みなどの合併症が起こることがあり、術前に医師がリスクと術後合併症について説明し、患者さんの同意(インフォームド・コンセント)を得たうえで行われます※2。
PDSの場合、初回の手術で卵巣・卵管・子宮・大網など広範囲にわたって切除することがあります。一度に多くの組織を切除することで体に大きな負担がかかり、その後の薬物療法に影響することもあります※1。手術に耐えうる全身状態(体力・臓器機能など)が確保されていない場合には、手術を行えないこともあります※2。術後はリハビリテーションや定期的な経過観察が必要です※2。
エビデンスの現状
残存腫瘍量が少ないほど予後が良いという関連は報告されていますが、腫瘍減量手術そのものが生存を延ばすかを単独で示すデータは限定的とされています※6。米国のNCI PDQ(海外の情報で、国内の状況と異なることがあります)では、術前化学療法を要する患者さんは初回に手術を受ける患者さんより予後が悪い傾向があること、また進行卵巣がんにおける手術の役割(特にⅣ期・腹腔外に病変がある場合)には未確立の部分があることが示されています※6。
このような現状を踏まえ、腫瘍減量手術は治療の一つとして位置づけられており、どの時期に・どの方法で・どの程度切除するかは、患者さんごとに主治医が慎重に検討します。
胃がんの場合の注意点
原文では胃がんへの腫瘍減量手術を肯定的に紹介していましたが、現在のガイドラインとは異なる情報ですのでご注意ください。
日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂・第6版」は、肝転移や腹膜転移などの非治癒因子があり、かつ出血・狭窄・疼痛などがんによる症状のない症例に対する胃切除術(減量手術)について、日韓合同のランダム化比較試験(REGATTA試験)の結果に基づき、延命効果が認められなかったとしています。このため、全身化学療法が施行可能な症例では減量手術を「行わないことを強く推奨」しています※7。
がんの種類によって腫瘍減量手術の意義は大きく異なります。自分のがんへの適否は必ず主治医に確認してください。
まとめ
腫瘍減量手術(デバルキング手術)は、がんを完全に切除できない状況で、可能な限りがんの量を減らすことを目的とした手術です。主に卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)を中心に用いられており、PDS・IDS・SDS の3種類に大別されます。
この手術は単独で治療が完結するものではなく、薬物療法などと組み合わせた集学的治療の一部として行われます。残存するがんが少ないほど予後が良いという関連は知られていますが、手術そのものの効果を単独で示すデータは限定的であり、適応は患者さんの全身状態や腫瘍の広がりによって個別に判断されます。
治療の選択肢や適応については、必ず主治医にご相談ください。がんの治療方法についての記事も参考にしてください。
よくある質問
- 腫瘍減量手術とは、がんを完全に治す手術ですか?
- いいえ。腫瘍減量手術は、がんをすべて取り除くことが難しい状況で、可能な限りがんの量を減らすことを目的とした手術です※1。1回の手術で治療が完了するものではなく、その後の薬物療法(化学療法など)と組み合わせて行われます※4。
- PDS と IDS のどちらが良い方法ですか?
- どちらが適切かは、腫瘍の広がり・切除可能性・患者さんの全身状態などから個別に判断されます。日本婦人科腫瘍学会のガイドライン2025年版でもCQ(専門家が検討する問い)として扱われており、一律の答えはありません※3。主治医と状況を確認しながら決めていきます。
- 再発した場合、再び手術(SDS)を受けることができますか?
- 再発卵巣がんの治療は薬物療法が主体です※1。SDS(二次的腫瘍減量術)は適応が限定的で、2025年版のガイドラインで個別判断のためのCQとして検討対象になっています※3。再発した場合の治療方針については、担当の主治医に詳しくご相談ください。
- 手術を受ける体力がない場合はどうなりますか?
- 手術は体に負担のかかる治療です。全身状態(体力・臓器機能)によっては手術を行えない場合があります※2。その際は薬物療法などほかの治療が検討されます。主治医が患者さんの状態を確認したうえで、適切な方法を相談しながら決めていきます。
- 卵巣がん以外でも腫瘍減量手術が行われることはありますか?
- 腫瘍減量手術が中心的に位置づけられているのは卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)です。胃がんでは、症状のない症例への減量手術は現行のガイドライン(第6版・2021年)で「行わないことを強く推奨」されています※7。他のがん種への適応は種類・状況によって異なりますので、主治医にご確認ください。
本記事は2026年8月3日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(最終確認日: 2026年8月3日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「手術(外科治療)」(最終確認日: 2026年8月3日)
- 日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版」(金原出版 ISBN 978-4-307-30159-6、2025年7月20日発行)(最終確認日: 2026年8月3日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「集学的治療」(最終確認日: 2026年8月3日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん(概要)」(最終確認日: 2026年8月3日)
- NCI PDQ「Ovarian Epithelial, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancer Treatment (Health Professional Version)」(最終確認日: 2026年8月3日、PDQ更新日: 2025年5月14日)
- 日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂・第6版」Ⅱ章 治療法 A 手術(最終確認日: 2026年8月3日)





















