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更新日:2020/12/26

重粒子線治療|特徴や対象となるがん、副作用、費用など

重粒子線治療について、特徴や対象となるがん、副作用、治療の流れ、費用など様々な観点から解説します。

重粒子線治療とは

重粒子とは、炭素イオンのことを指し、目に見えない微細な粒子です。重粒子線治療は、炭素の原子核を光速の約70~80%にまで加速し、これをがん細胞にぶつけることで、がん細胞のDNAを傷つけ、増殖させないようにして死滅させるという治療法です。

重粒子線は、人の体内に入ると、放射線量が低いままの状態で、標的のがん細胞のところまで進んでいきます。ある一定の深さで急に線量が高くなるピークがあり、これを「ブラッグ・ピーク」と呼んでいます。重粒子線はブラッグ・ピークに達すると、そこより深い部分にまでは進まないという設定ができます。そのため、正常細胞へのダメージを低く抑えることができるのです。

<重粒子線治療のメリット>

・他の放射線治療と比べて最も殺傷効果が大きいため、照射回数を少なくすることができます。
・X線の放射線治療と比べて副作用も少なく、痛みもないため、高齢者で体力的に衰えていても、治療ができます。
・短期間(1日~3週間程度)での治療が可能であり、通院でも治療を受けることができます。

陽子線治療と比べて、さらにがん局部を集中的に治療が可能となります。陽子線は炭素イオンであるため、水素イオンを使った陽子線よりも質量が大きくなり、がん細胞への破壊力も強くなります。陽子線治療と比較すると、がん細胞の殺傷果は陽子線治療の2~3倍大きくなります。進行したがんは低酸素領域がありますが、このようながんでも治療が可能です。また、X線では治療が難しい深部にあるがんの治療も可能です。今まで一般の放射線治療では効かなかった骨肉腫などにも、効果を発揮することができるというメリットもあります。

治療は1日1回、週3~5回行い、合計1~40回程度繰り返します。平均では3週間程度の治療になります。1回当たり、15~30分の治療時間になります。この治療期間はX線治療と比較してもかなり短く、治療期間が短期間で済むというのもポイントです。

他にもがんの縮小、再発を抑える効果が高いことや、身体への負担が少ないとされています。そのため、高齢の患者さんや持病がある患者さんでも治療を受けることが可能であり、この数十年で治療を受ける患者数は、増加傾向にあります。

<重粒子線治療のデメリット>

・一部のがんでは健康保険が適用されましたが、多くの部位では先進医療のため、健康保険が適用されません。このため、約300万円といった高額な治療費がかかります。また、この費用は重粒子線治療の費用のため、別途通常の診療費用がかかります。
・重粒子線治療を行うには陽子線治療よりさらに装置や施設に費用がかかるため、治療を受けられる施設は同様に少ないです。また、治療を行える専門家も少ないです。

重粒子線治療の対象となるがん

重粒子線治療を受けるための基本的な条件は
●病巣が限局して広範囲でないこと
●治療対象部位に放射線治療を受けていないこと
●安静な状態で30分間(目安)横になっていられること
●病気についての告知を受け、重粒子線治療を自分の意思で希望していること
などがあります。

また、一つの部位にとどまっている固形がんであることも条件となり、日常生活の活動能力を保持しているということも条件の一つとなります。さらに、照射対象となる部位によっても、少しずつですが条件が異なることがあります。

重粒子線治療の対象となるがんは頭頚部がん、肺がん、肝がん、膵がん、子宮がん、直腸がん(骨盤内再発)、前立腺がん、骨軟部腫瘍、眼球腫瘍、涙腺がん、食道がんなどです。

頭頚部がんとは首から上に発生するがんのことです。頭頚部は神経や眼球、脳など生命にかかわる臓器や神経が多くあります。手術での切除が難しい、切除術などにより顔貌が損なわれる可能性がある場合には、重粒子線による治療が検討されます。特に頭蓋底では5年生存率が85%を超える、良い治療成績が得られています。

肺がんにはいくつかのタイプがあり、肺がんのうち「非小細胞がん」は重粒子線の治療対象となりますが、小細胞がんは重粒子線治療の対象にはなりません。また、がんが局所に留まっていることや、リンパ節などへの転移が無いこと、重粒子線照射前の4週間以内に抗がん治療を受けていないことなども、適応の条件となります。ただし、早期の局所性の非小細胞がんであるなど、いくつかの条件に適合すれば、90%を超えるような高い局所制御率を得ることも期待できます。

肝臓がんは従来、肝障害を引き起こすという観点から、十分なX線照射線量を用いた放射線治療が行えませんでしたが、安全性の高い重粒子線治療では、切除不能例など難易度の高い治療技術を必要とするがんにも、高い効果があります。例えば、肝臓自体への障害度が低く(低または中等度まで)、がんの数が4個以上あるような場合は、重粒子線治療が検討されます。2日程度で終了する短期治療も可能となります。

膵臓はもともと、胃や肝臓、脾臓、十二指腸、小腸、大腸などに囲まれた臓器であり、特異的な症状が少ないため、早期発見が難しいがんです。さらに膵臓がんは、腺がんというタイプのがんであり、放射線治療の効果が得られにくいという特徴があります。しかし、重粒子線治療は、前述のような「ブラッグピーク」と呼ばれる特性があり、膵臓への治療も可能で、局所進行がんへの化学療法併用などの治療を行うことも可能です。

骨軟部腫瘍とは、骨や筋肉、脂肪組織、神経、血管などにできる腫瘍のことです。悪性度が高いものは、「肉腫」とも呼ばれます。これらの組織は全身のいたるところにあり、切除不能となるケースも少なくありません。そのため、これまでは切除不能と判断された症例や、化学療法の効果が見られなかった症例、通常の放射線治療の効果が見られない症例などが多かったとされています。
しかし、重粒子線治療では切除不能の腫瘍に対しても高い効果を示し、ある施設での実績によると、最も多い仙骨脊索腫瘍の5年生存率が81%と、高い治療効果が得られた例もあります。
(引用元:放射線医学総合研究所病院 骨軟部腫瘍に対する炭素イオン線治療の成果 http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/conform/conform_09g.shtml)

治療の割合が最も多い前立腺では高リスクの患者さんに対しての治療が有効であり、排尿障害や直腸出血といった合併症が見られず、安全に治療を受けることができるとされています。治療内容はリスク別に選択され、最短で3週間ほどで治療を終了することができます。

しかしこれらのがんであっても、他に良好な治療法が確立されている場合には、原則として重粒子線治療の対象外となってしまいます。この他にも細かな決まりがあり、原則として腫瘍の最大径が15cmを超えると、治療の対象にはなりません。また、病期にも条件があることもあります。

逆に治療が困難ながんは、胃などのような、袋状、管上の臓器で、不随意に動く臓器です。その理由として、これらの臓器は動いてしまうことから、がん細胞への狙い撃ちが困難であること、臓器に裂孔を形成してしまう危険があることなどが挙げられます。また、白血病などの血液のがんや、転移が広く見られるがん、過去に放射線治療を受けているがんにも治療をすることができません。
局所的な治療ができるがんが対象となります。血液のがんや広範囲に転移したがんは対象とならないです。さらにがんの種類によっては年齢制限を設けている※こともあります。

※重粒子線治療における年齢制限:若い人にも多い頭頚部がんについては、15歳以上からが重粒子線治療の対象となります。その他のがんでは、先進医療の場合での上限はありませんが、臨床試験の場合は80歳までと決められているケースがあります。

重粒子線治療の流れ

重粒子線治療を受けるためにはまず重粒子線治療を行っている医療機関を受診し、現在の状況を検査にて調べます。がんの大きさや広がり、全身状態を調べた上で重粒子線治療の対象者であるかどうかをチェックしていきます。

これらをチェックした上で、病期やがんの広がり、発生部位によって既に確立されている治療法がないなど、重粒子線治療が可能であると判断された場合に、重粒子線治療を行うことができます。

重粒子線治療の対象となった場合、まずはCTやMRI検査を行い、がんの正確な位置や大きさを確認します。重粒子線治療は、がんの病巣部に、毎回正確に重粒子線を照射することが必要です。そのため、身体の動きやずれを少なくして毎回同じ治療を行っていく目的で、患者さん個人ごとの固定具を作成します。固定具ができたら、装着した状態でCT撮影を行い、治療計画を立てます。治療計画は、医師だけではなく、医学物理士などの専門家が作成した後、医療スタッフで検討会を行います。

その後はがんの形状に合わせて正確な照射を行うために、照射の範囲を制限し、照射する形を決める「コリメータ」と、照射の深さ方向の到達範囲を調整する「ボーラス」という器具を作成します。最新の治療システムでは、コリメータとボーラスを必要とせず、スキャニング照射を行っている場合もあります。照射位置を入念にリハーサルすると、実際に患者さんへ照射していく準備が整います。

患者さんは治療着に着替えて治療台に横になった後、固定具で身体を固定して、重粒子線の照射を受けます。この時の位置合わせが非常に重要となるため、一般的には、位置合わせだけでも15分ほどかかります。

照射時は垂直方向と水平方向の2方向から行いますが、治療台を少しずつ傾けながら、照射が行われます。照射は1日1回、数分から数十分程度で終了し、照射時間は2~3分程度となります。治療を通院で行うか、入院して行うかは施設によって異なります。

重粒子線治療の副作用

X線の放射線治療と比べて周囲の正常な細胞を傷つけることが最小限に抑えられるため、副作用も少ないです。しかし、早期合併症や晩期合併症が起こる可能性はゼロではなく、照射部位や照射量、照射回数によって、何らかの副作用がみられることがあります。重粒子線治療が臨床で開始された当初は、晩期合併症として潰瘍や穿孔が見られる患者さんもいましたが、その後、重粒子線の照射精度をさらに高めたりすることで、合併症がかなり減ってきています。

重粒子線治療の費用

重粒子線治療の多くは先進医療として行われており、施設によってその費用は大きく異なります。一般的には、およそ288万円から350万円ほどとされており、その費用は全額自己負担です。入院や薬など、一部の治療費は健康保険の適用となり、重粒子線治療については民間の医療保険が契約によって使える場合があります。

2016年4月から切除非対応の骨軟部腫瘍は健康保険が適用されるようになっており、この場合は3割負担で約71万円前後となるようです。

さらに2018年4月からは、前立腺がんと頭頸部がんも保険適用となりました。

参考文献

Web:
九州国際重粒子線がん治療センター SAGA HIMAT 重粒子線がん治療
https://www.saga-himat.jp/actual.html
群馬大学 重粒子線医学研究センター 重粒子線の特徴と施設
http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/page.php?id=2
九州国際重粒子線がん治療センター SAGA HIMAT 治療の範囲
https://www.saga-himat.jp/actual/_1052.html
群馬大学 重粒子線医学研究センター 重粒子線治療の適応となる疾患
http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/page.php?id=9
群馬大学 重粒子線医学研究センター 受診を希望される方へ
http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/page.php?id=3
群馬大学 重粒子線医学研究センター 重粒子線治療の保険診療・先進医療に関する新しい診療体制について
http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/page.php?id=22
群馬大学 重粒子線医学研究センター 治療費について
http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/page.php?id=6
放射線医学総合研究所病院 よくあるご質問
http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/qa/index.shtml
神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設 治療対象部位 頭頸部
http://kcch.kanagawa-pho.jp/i-rock/concern/toukeibu.html
書籍:
重粒子線治療・陽子線治療 完全ガイドブック 編集協力 辻 比呂志、櫻井英幸 2016年7月27日 第1版発行 株式会社法研

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