更新日:2020/12/26
乳がんとは|症状や検査、治療、ステージなど
乳がんについて、特徴・分類・症状・検診・セルフチェック・検査方法・病期(ステージ)・生存率・治療法・治療実績・治療費用など様々な観点から解説します。
目次
2017年にがんで亡くなった人は男性220,398人、女性152,936人の男女合わせて373,334人でした。女性のがんでの死亡数の多い部位で見てみると、2017年では1位大腸がん、2位肺がん、3位すい臓がん、4位胃がん、5位乳がんとなっています。乳がんで亡くなった女性は、14,285人となります。
乳がんは女性のがんでの死亡数では5位となりましたが、2014年の罹患数においては女性の1位は乳がんとなっています。乳がんと診断された女性は、76,257例となります。女性がん罹患数の2位は大腸がんで、3位胃がん、4位肺がん、5位子宮がんとなっています。
(以上、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」、「地域がん登録全国合計による罹患データ)より。)
年相対生存率では乳がんは2006年から2008年では91.1%となっています。子宮がんでの5年相対生存率は同年では76.9%となっており、乳がんの方が年相対生存率は高くなっています(以上、全国がん罹患モニタリング集計 2006-2008年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター,2016)より)。
乳がんとは
大人の女性の乳房は、乳頭を中心に乳腺が放射状に15~20個並んでいます。それぞれの乳腺は小葉に分かれ、小葉は乳管という管(くだ)でつながっています。乳がんの約90%はこの乳管から発生し、乳管がんと呼ばれる。また、小葉から発生する乳がんが約5~10%あり、小葉がんと呼ばれています。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理学的検査)すると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがありますが、あまり多いものではないです。
乳がんの特徴は、年代が比較的若い患者さんが多いところです。例えば、日本人に多いとされる大腸がん、胃がん、肺がんでは、おおよそ50歳代くらいになると患者数が増えてきます。一方で年齢別にみた女性の乳がんの罹患(りかん)率は、30歳代になると患者数の増加率が大きくなり、第一のピークは40歳代です。
女性では、乳がんにかかる数は乳がんで死亡する人の数の3倍以上になります。これは、女性の乳がんの生存率が比較的高いことと関連しています。乳がんは、圧倒的に女性に多いがんです。男性にも見られることがありますが、その割合としては、女性100に対し男性1未満くらいです。男性の乳がんは、年間の死亡数で女性の乳がんの100分の1以下のまれながんですが、女性の乳がんに比べて生存率が低い(予後が悪い)ことが知られています。
年次推移は、罹患率、死亡率ともに一貫して増加しており、出生年代別では、最近生まれた人ほど罹患率、死亡率が高い傾向があります。
乳がんの発生・増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。これまでに確立されたリスク要因の中には、体内のエストロゲン・レベルに影響を与えるようなものがほとんどです。実際に体内のエストロゲン・レベルが高いこと、また、体外からのホルモンとして、経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン補充療法によって乳がんのリスクが高くなるという根拠は、十分とされています。
生理・生殖要因としては、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことがリスク要因とされています。また、体格では高身長、閉経後の肥満、が確立したリスク要因ですが、閉経前乳がんについては、逆に肥満者でリスクが低くなることが指摘されています。
飲酒習慣により、乳がんリスクが高くなることは確実、また、運動による乳がん予防効果はおそらく確実とされています。その他の食事・栄養素に関しては、脂質、野菜・果物、食物繊維、イソフラボンなどが注目されているものの、十分に根拠が揃っているものはまだないです。
その他、一親等の乳がん家族歴、良性乳腺疾患の既往、マンモグラフィ上の高密度所見、電離放射線曝露も、乳がんの確立したリスク要因とされています。
乳がんの場合、がん細胞は比較的小さい時期から乳腺組織からこぼれ落ち、リンパや血液の流れに乗って乳腺から離れた臓器(肺、肝臓、骨など)に小さな転移巣をかたちづくると考えられています。これらの微小な転移巣が大きくなると症状が出たり、検査で検出されたりするようになり「遠隔転移」と呼ばれます。例えば、肺に転移した場合は「乳がんの肺転移」と呼び、肺にあってもその性質は乳がんであり、もともと肺から発生する「肺がん」とは異なります。このように遠隔転移を有する乳がんを総称して「転移性乳がん」と呼びます。乳房にがんが見つかった時点で、すでに遠隔転移を有する場合と区別して、手術などの初期治療を行ってから発見される場合を「再発乳がん」と呼びます。再発乳がんの中でも、手術をした部分だけに再発することを「局所再発」と呼びます。また、がんが皮膚や胸壁に及んでいるためそのままでは手術ができない乳がんは「局所進行乳がん」と呼びます。
遠隔転移のない手術が可能な乳がんの場合、全身にこぼれ落ちている可能性のある微小転移に対して全身治療、すなわち薬による治療を行うことによって、再発を予防することができます。このような薬の治療を「術後薬物療法」と呼びます。最近では薬の治療を手術に先行して行う場合もあり、これを「術前薬物療法」と呼びます。薬の治療は再発のリスクの大きさや年齢によって選択されます。乳がんの再発リスクを予測する尺度にはしこりの大きさや、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)への転移の個数、ホルモン受容体の有無などがあります。再発のリスクがある場合にはリスクや年齢に応じて放射線などの局所療法に加え、全身治療として薬物療法を行うことが推奨されています。


乳がんの症状
乳がんは初期症状が乏しいとされているがんです。そのため、乳がんが見つかるきっかけは、マンモグラフィなどの乳がん検診を受けて疑いを指摘される場合や、自分で観察し触れたりする自己検診によって発見される場合が多くなっています。
乳がんは病期の進行に伴い症状が現れるとされ、よく知られているものとしては乳房のしこりがあげられます。その他にも症状としては乳房のえくぼなど皮膚が変化してしまう、乳房の近くのリンパ節の腫れ、遠隔転移による症状などがあります。それぞれの症状は下記のようになっています。
- 1)乳房のしこり
- 乳がんは5mmぐらいから1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。しかし、しこりがあるからといってすべてが乳がんであるというわけではないです。
しこりは、乳頭を中心として乳房を十字に分割した際の外側上部にもっとも好発し、続いて内側上部、乳頭付近、外側下部、内側下部といった順番で好発します。悪性のしこりは石のように固く、不整形で境界もあいまいです。また、指で押しても動かないことが特徴です。押したときの痛みはほとんどなく、仮に痛みを感じても強い痛みではないことが特徴です。
- 2)乳房のえくぼなど皮膚の変化
- 乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤く腫れたりします。また、乳頭や乳輪部分に湿疹やただれができたり、時にはオレンジの皮のように皮膚がむくんだように赤くなったりします。乳頭をつまむと、乳頭の先から血の混じった分泌液が出ることもあります。
乳房のしこりが明らかではなく、乳房表面の皮膚がオレンジの皮のように赤くなり、痛みや熱感を伴う場合、「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんがこのような外観を呈するのは、乳がん細胞が皮膚のリンパ管の中に詰まっているためであり、それだけ炎症性乳がんは全身的な転移をきたしやすい病態です。また、がんが乳頭の近くにできた場合にはひきつれて乳頭がへこんだりと乳頭の形が変わることがあります。
- 3)乳房の近傍のリンパ節の腫れ
- 乳がんは乳房の近傍にあるリンパ節、すなわちわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)、胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨の上下のリンパ節(鎖骨上リンパ節、鎖骨下リンパ節)に転移をきたしやすく、これらのリンパ節を「領域リンパ節」と呼びます。領域リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。
- 4)遠隔転移の症状
- 転移した臓器によって症状は違いますし、症状が全くないこともあります。領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、荷重がかかる部位にできた場合には骨折を起こす危険もあります(病的骨折)。肺転移の場合は咳が出たり、息が苦しくなることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなることもあり、痛みや黄疸が出ることもあります。
乳がんは乳房や乳頭に対して症状が見られるものの他のがんのように食欲が落ちる、やせるなどの全身症状が見られないことが多いです。また、乳がんは初期症状がほとんどないので、定期的な乳がん検診と合わせて、普段から乳房の状態を確認する自己検診を行うことで小さな変化に気づける習慣をつけることが大切です。
乳がんの原因
乳がんの確たる原因については現在も研究中とされています。しかし、1番深いかかわりを持っているとされているのが女性ホルモンの一種であるエストロゲンです。
体内のエストロゲン濃度が高くいことと、エストロゲン濃度が維持されている期間が長いことが、乳がんの発症リスクを高めるとされています。
このエストロゲンに関連した乳がん発症のリスクファクターとしては
-
● 初潮が早い
● 閉経が遅い
● 妊娠・出産の経験が無い
● 初産年齢が遅い
● 授乳をしていないあるいは授乳期間が短い
ということが挙げられます。
他にも「エストロゲンを医学的に補充する」という考え方からホルモン補充療法を受けている方や、経口避妊薬を内服している方も、乳がんのリスクが高くなります。
また、エストロゲンは脂肪細胞でも作られます。そのため、肥満も乳がんのリスク要因になることが考えられています。日常生活においてはアルコールの摂取や喫煙も乳がんリスクを高める要因になることが分かっています。
さらに、良性乳腺疾患の既往、糖尿病、家族や血縁者に多くの乳がん患者がいる場合には、遺伝として乳がんになる可能性が高くなると言われています。
そして、睡眠時間もホルモンと密接な関係があると言われています。睡眠時間が長いと、睡眠時に分泌されるメラトニンが性ホルモンの分泌を抑えためです。このメラトニンと関連し、生活リズム、特に睡眠のリズムが乱れやすい深夜勤務者や交代勤務者も、乳がんとなるリスクが高まるとされています。
乳がん検診
乳がん検診には、視触診(医師が直接、乳房を診て触れることで、しこりなどの異常をみつける)のほか、レントゲン撮影(マンモグラフィー)と超音波検査(エコー)があります。
視触診
乳房や腋の下に外見上の異常(「へこみ」や一部だけがふくらんでいるような変形)が無いか、「しこり」などの触れた状態での異常が無いかを調べます。
多くの検診で行われていますが、ごく早期の乳がんを発見するのは難しく、ある程度の大きさや固さがないと判断がつきません。
レントゲン撮影(マンモグラフィー)
マンモグラフィーは、乳房を透明の圧迫板で挟み、圧迫しながらX線撮影する検査です。触診では見つからないような小さながんが見つかることがあります。定期検診として45~50歳以上の女性に対して、年1回のマンモグラフィー検査を実施している市町村もあります。乳房を板で挟み込むため、痛みを伴うことがありますが、少ない放射線量で行うことのできる、比較的安全性の高い検査です。
マンモグラフィーでは、両乳房における乳がんの初期症状を捉えることができます。乳がんの初期症状にはいくつかありますが、このうち「石灰化」や「小さな腫瘍」などを見つけることができます。特に、早期乳がんの唯一のサインといわれている「ごく小さな石のような石灰化」を、X線フィルム上で鮮明に写し出せるという特徴があります。また、マンモグラフィーは、左右を比較してみることや、過去の画像と比較することができ、乳房組織の微妙な変化をとらえることができます。
ただし、マンモグラフィーは被ばく量が少ないとはいえ、放射線への被ばくは避けられません。妊娠中の方、妊娠の可能性がある方は、放射線感受性が非常に高い胎児への影響を考慮し、検査方法を変更する場合があります。妊娠中ではない、あるいは妊娠の可能性が無い方がマンモグラフィーを受ける場合には、健康上の心配はありません。
また、若年の方、授乳中の方など、乳腺濃度が濃い状態にある方や、乳房への手術歴がある方などは、マンモグラフィー検査では異常が見つけにくい場合があります。わずか(10%程度)ですが、石灰化した組織が見落とされる可能性があります。
超音波検査
乳房に直接、プローブと呼ばれる器械を当てて、超音波が跳ね返ってくる様子を画像化し、乳房の状態を調べる検査です。超音波検査は、しこりをつくらない、いわゆる「おとなしい早期の乳がん」の発見にも有用です。人間ドックなどの健康診査において、乳がん検診が対象外となっている20代、30代の若年者に施行されており、放射線の被ばくを避けたい妊娠中の方、マンモグラフィーのような乳房の圧迫に耐えられない方、強い乳腺症などでマンモグラフィーでは良好な画像を得にくい方、頻繁に検査をする必要のある方などに適しています。
しかし、閉経前の女性では、正常な乳組織の中にある乳がんを見つけにくい場合があります。また、超音波検査は、検査を行う側の経験により、信頼度に差が出ることもあります。
マンモグラフィーと超音波検査は、どちらも比較的短時間で受けることができ、体への侵襲が少ない検査ですが、それぞれに得意な分野、不得意な分野があります。
マンモグラフィー | 超音波検査 | |
---|---|---|
検査による苦痛 | 乳房を板で挟むことによる「痛み」がある | 痛みは特にない |
放射線被ばく | わずかながら有り | なし |
向いている年齢層 | 50代以上の高齢層 (脂肪が豊富なため) | 20代~30代の若年層 (乳腺が豊富なため) |
40代~50代は、どちらの検査も有効度は同等 | ||
見つけやすい異常 | 石灰化した組織 | 小さな腫瘤 |
術者の経験 | 「静止画」をみるので関係性は低い | 「動画」でみるため、術者の経験により信頼度が変わる |
マンモグラフィーと超音波検査、どちらを受けるべき?
本人が希望をすれば、基本的にはどちらの検査でも受けることはできます。ただし、それぞれの検査にはメリットとデメリットがあることから、年代別に推奨される検査が決まっています。
まずは、それぞれの検査のメリットとデメリットをみてみましょう。
- 【マンモグラフィー検査】
メリット
● 手で触れることができないような小さなしこりを発見できる
● 以前に撮ったレントゲン写真との比較が、容易にできるデメリット
● 少ないとはいえ、被曝の心配(飛行機で日本からアメリカ間を移動した程度)がある
● 若い女性の場合、がん(しこりや石灰化)と乳腺の区別がつきにくい
● 妊娠中・授乳中の女性は検査を受けることができない
- 【超音波検査】
メリット
● 被曝の心配がない
● 乳腺が発達している若い女性でも、しこりを見つけることができる
● リアルタイムで検査結果が分かるデメリット
● 石灰化が分かりにくい
● 全体像を画像として残しておくことが難しい(前回との比較が難しい)
● 超音波画像を見ながら判断するため、検査を行う医師や技師の「技量」に依存してしまう
これらのメリット、デメリットを加味すると、各年代で推奨される検査方法が変わってきます。また、親子や姉妹などに「乳がんになったことがある」人が居る場合は、マンモグラフィーと超音波検査を両方受けることが推奨されます。
20歳代 | 近親者に乳がんの方がいない場合は、必要ありません | 第一度近親者(親子、姉妹)に 乳がんの方がいる場合など マンモグラフィ(毎年) + 超音波検診(毎年) |
---|---|---|
30歳代 | 近親者に乳がんの方がいない場合は、ご自分の判断で受けて下さい | |
40歳代 | マンモグラフィのみ(2年に1度) または、マンモグラフィ(2年に1度)+ 超音波検診(毎年) |
|
50歳以上 | マンモグラフィのみ(2年に1度) |
マンモグラフィーは優れた検査ですが、検診のたびに被ばくすることになります。また20歳代、30歳代の乳腺が豊富な方の場合、思うような結果が出ないことがあります。こういった理由から、乳がんになるリスクが低いと思われる方であれば、毎年の検診として受ける必要はないとされています。ただし、自分で乳房や腋の下のしこりに気づいた、あるいは第一度近親者に「乳がんだった」方がいるなど乳がんになるリスクが高いと思われる場合は、マンモグラフィーと超音波検査の両方を受けることが推奨されています。
乳がん検診の費用
これは、加入している健康保険によって変わります。
国民健康保険に加入している場合
国民健康保険に加入している場合、自治体が行う「住民検診」で、乳がん検診を受けることができます。住民検診での受診ができるのは、その自治体に住んでいる40歳以上の女性です。
厚生労働省は2006年度に、「40歳以上の女性に対し、2年に1度、視触診及びマンモグラフィーを併用した検診を行うこと」という指針を通知しました。これにより、現在ではほとんどの自治体が、2年に1度の乳がん検診受診を推奨しています。自治体によってはもう少し期間を空けて「節目検診」として行うところもあるようです。
40歳以上の女性が対象の場合、基本的には「マンモグラフィー」を行いますが、本人の希望により、超音波検査あるいは視触診を追加できる自治体もあります。ただし、視触診のみで乳がん検診を受けることはできません。また、自治体によっては、30歳代でも乳がん検診を受診できるところがあります。例えば近親者に乳がんの方がいるなどの「ハイリスク」な方であれば、20歳代からの受診も可能ですが、詳しいことはお住まいの自治体に問い合わせてみましょう。
検診の費用としては、通常の住民検診に追加して行う場合でも「無料」となるところがありますが、一般的には1,000円~2,000円の範囲の自己負担で受けることができるようです。
健康組合の健康保険に加入している場合
分かりやすくいえば、会社が加入している健康保険です。年に一度、「職場検診」として、健康保険加入者本人、あるいは加入者家族(被扶養者)が、健康診断を受けることが出来ます。この時に、オプションとして乳がん検診を追加することができます。
一般的には、マンモグラフィーか超音波検査のどちらかを選択できますが、年齢や乳がんに対するリスクなどを考慮して選択しましょう。
検診の費用としては、無料から1,000円程度となることが多いようです。
乳がんのセルフチェック
まずは、自分で乳房の変化を見つける「セルフチェック」をやってみましょう。
セルフチェックは「視診」から始めます。鏡に向かって立ち、両腕を高く上げる、両腕をまっすぐ下ろす、両腕を腰に当てるという3つの動作を行います。この動作をする中で、ひきつれやくぼみ、ただれなどが無いかを確認します。
次に乳房に触れて確かめる「触診」です。触診は3~4本の指をそろえて10円玉くらいの大きさの「の」の字を書くようにして、乳房全体をゆっくり触ります。特に、乳がんの好発部位とされる乳房の外側上部に注意しましょう。脇の下もチェック同様にチェックすることで、リンパ節が腫れていないかどうかも確認することができます。さらに最後に乳頭を軽くつまんで血性の分泌物が出てこないかも確認します。
必ず左右同じように行い、左右差を確認します。ひきつれやただれ、くぼみだけでなく、分泌物にも左右差が見られるため、左右差を必ず確認するようにしましょう。
皮膚と乳腺との解剖から考えると、仰向けに寝てチェックした方が、腫瘤や硬結、いわゆるえくぼ症状などの陥凹所見を見るのに適しているといわれています。入浴時に石鹸のついた手を滑らすように触診するのも良いでしょう。触診では、柔らかい部分や、可動性のあるしこりに触れることもあります。しかし、柔らかいあるいは可動性があるからがんによるしこりではないとは言い難く、少しでも気になる部分があるなら、医療機関でほかの検査方法と並行して行うことが必要です。
乳がんの検査
乳がんが疑われるときには、下記に挙げる検査を行います。
レントゲン撮影(マンモグラフィー)
マンモグラフィーは乳房を装置に挟んで圧迫しX線撮影する検査です。触診では見つからないような小さながんが見つかることがある。定期検診として45~50歳以上の女性に対して、年1回のマンモグラフィー検査を実施している市町村もあります。
乳腺のその他の画像検査
検診でなんらかの異常がみつかった場合、あるいはマンモグラフィーや超音波検査では判断できない場合は、さらに詳しい検査をすることがあります。乳房内のしこりががんであるかどうかを判断したり、、病変の広がりを診断するために、MRI検査、CT検査などがあります。
【MRI検査】
MRI検査とは、強力な磁石でできたトンネルの中に、仰向けに寝た状態で入り、体の中の水分から出る磁力を画像としてあらわす検査です。放射線を使用しないため、被ばくの心配はありませんが、検査時間が長いこと(撮影する部位によっては20分前後)と、大きな音がするという特徴があります。
乳がんは、遺伝的要素が高いことや、若年層での発症があることから、「乳がんになりやすい=ハイリスクな方」がいます。乳がんのMRI検査は、主にハイリスク群に対して行われることが多い検査です。MRI検査では、マンモグラフィーや超音波検査では見つけにくいタイプの乳がんを見つけることができますが、検査そのものが簡便ではないこと、発見頻度が低い対象群(住民健診や職場の健康診断など)に対する費用面などで、すべての人が対象となるわけではありません。
MRI検査の対象となるのは、例えば、同一家系(第2度近親者)内に 2 人以上の乳がん患者さんが存在し、かつ、そのうち一人が、
(1)若年(40 歳未満)で乳がんを発症
(2)両側乳がん
(3)乳がんと卵巣がんの両方を発症
(4)男性乳がん
(5)乳がん、卵巣がんそれぞれが一人以上
など、遺伝的なリスクが高いケースであることが多いです。
乳房のMRI検査は、月経周期とも関連し、おおよそですが月経開始後5日~12日の間が、もっとも適しているといわれています。この時期を過ぎると、乳腺組織による造影剤(MRI検査で必要となる)の取り込みが亢進してしまい、疑陽性(ぎようせい=陽性と陰性との判断がつかないこと)となってしまうことがあります。
また、人ひとりが入れるくらいの大きさの、強力な磁力を発生させるトンネルに入るため、閉所恐怖症の人や、体内に金属がある方(過去の手術などで金属のプレートやネジ、ワイヤーなどを挿入している方)、刺青やアートメイクを施している方などは、基本的に検査ができません。
【CT検査】
CT検査は、X線を利用して身体の内部(断面)を画像化する検査で、マンモグラフィーと同様、わずかではありますが放射線被ばくがあります。CT検査では、体の断面図を5㎜程度の間隔で画像化し、乳がんの大きさ広がりなどを調べます。例えば、乳がんであることが確定し、手術前に切除範囲を決定する場合などは、CT検査が有効であるとされています。乳がんが小さい、乳腺組織との境目が分かりにくい場合などは、造影剤を用いたCT検査を行うことがあります。
ただし、CT検査もMRI検査と同様、すべての方が対象となるわけではありません。マンモグラフィーや超音波検査と比較すると、大掛かりな検査になることから費用も高額となり、放射線被ばくもわずかながらあります。また、ごく早期の小さな乳がんを見つけることは、あまり得意ではないとされています。
MRI検査が適さないような、閉所恐怖症の方、体内に金属がある方、刺青やアートメイクを施している方などが、対象となることが多いようです。
穿刺吸引細胞診と針生検
しこりが見つかった場合、しこりに細い注射針を刺して細胞を吸いとって調べる「穿刺吸引細胞診」により、80~90%の場合ではがんかどうかの診断が確定するといわれています。さらに多くの情報を得るために、太い針を刺してしこりの一部の組織を採取することもあります(針生検)。触診では明らかなしこりに触れず、画像検査だけで異常が指摘されるような場合には、マンモトーム生検と呼ばれる特殊な針生検を行うこともあります。
遠隔転移の検査
乳がんが転移しやすい遠隔臓器として肺、肝臓、骨、リンパ節などがある。遠隔転移があるかどうかの診断のためには、胸部レントゲン撮影、肝臓のCTや超音波検査、骨のアイソトープ検査(骨シンチグラフィ)などが行われる。
デンスブレスト(Dense breast)
デンスブレスト(Dense breast)とは、脂肪が少なく乳腺濃度の高い乳房(高濃度乳房)のことをいいます。現在、乳がん検診の主流はマンモグラフィーですが、マンモグラフィーにおいては、乳腺は白く映し出されます。同様に、がん細胞もく白く映ることから、しばしばこの高濃度乳腺ががん細胞を覆い隠し、乳がんの早期発見を妨げることがあります。
乳房の脂肪含有率は通常、年齢により高くなりますが、閉経前で2/3、閉経後で1/4の女性が、高濃度の乳房組織であることがわかっています。これは全女性の約30~40%程度ですが、日本を含むアジア地域においては、約60~70%の女性がデンスブレストに分類されるといわれています。加えて、デンスブレストの場合、がんの発見を困難にするだけでなく、がんそのもののリスクを高めるとも言われています。
このため、マンモグラフィーによる乳がん検査を受診した際は、端的な腫瘍の有無だけでなく、自身の乳腺濃度を確認し、高濃度乳房に該当するか否かを知っておくことが必要です。
デンスブレストの場合、マンモグラフィーでは小さい腫瘍の発見が困難となるため、マンモグラフィーにて乳腺濃度が高く、高濃度乳房と診断された場合には、超音波検査(エコー検査)を併用することにより、見逃しを少なくすることが期待できます。
乳がんの病期(ステージ)
乳がんという診断がついた場合、がんが乳腺の中でどの程度広がっているか、遠隔臓器に転移しているかについての検査が行われます。乳がんの広がり、すなわち乳房のしこりの大きさ、乳腺の領域にあるリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって大きく5段階の臨床病期(ステージ)に分類され、この臨床病期に応じて治療法が変わってきます。
- ■0期
- 乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもので、極めて早期の乳がん。これを「非浸潤(ひしんじゅん)がん」といいます。
- ■I期
- しこりの大きさが2cm(1円玉の大きさ)以下で、わきの下のリンパ節には転移していない、つまり乳房の外に広がっていないと思われる段階。
- ■II期
- IIa期とIIb期に分けられます。
- IIa期
- しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移がある場合、またはしこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がない場合。
- IIb期
- しこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がある場合。
- ■III期
- 「局所進行乳がん」と呼ばれ、IIIa、IIIb、IIIc期に分けられます。
- IIIa期
- しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり周辺の組織に固定している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)が腫れている場合。あるいはしこりの大きさが5cm以上でわきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合
- IIIb期
- しこりの大きさやわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態。炎症性乳がんもこの病期に含まれます。
- IIIc期
- しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。
- ■IV期
- 遠隔臓器に転移している場合。乳がんの転移しやすい臓器は骨、肺、肝臓、脳など。
再発乳がん
乳房のしこりに対する初期治療を行った後、乳がんが再び出てくることを「再発」といいます。通常は他の臓器に出てくること(「転移」と呼ぶ)を指し、IV期の乳がんとあわせて「転移性乳がん」と呼びます。手術をした乳房の領域に出てくることは「局所・領域再発」と呼んで区別しています。
乳がんの生存率・予後
乳がんの病期別の生存率を見てみると5年生存率はⅠ期で100%、Ⅱ期で95.5%、Ⅲ期で80.4%、Ⅳ期で34.8%といわれています。
病期(ステージ) | 症例数 | 5年生存率 |
---|---|---|
Ⅰ期 | 11,961 | 100.0% |
Ⅱ期 | 11,729 | 95.5% |
Ⅲ期 | 2,822 | 80.4% |
Ⅳ期 | 1,225 | 34.8% |
全病期 | 27,909 | 93.2% |
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2019年2月現在)による
※対象データは、診断年:2005年~2009年の最新5年間とした
乳がんの早期発見率が高くなったことや、医療技術等の向上によって、生存率は徐々に伸びていることが特徴です。また、乳がんの生存率を高め、予後を良好に過ごすためには、リンパ節転移の有無が鍵となります。
そのため、リンパ節転移の有無を見て治療を選択することが重要となっています。
乳がんの治療法
手術(外科療法)
がん病巣を手術で除去する療法で、原発巣だけでなく、他の部位に転移した転移巣も取り除きます。がんそのものを外科手術で除去する局所療法です。がんの治療法として最も基本的な治療法です。
乳がんの治療における代表的な手術は、以下のようになります。
腫瘍から1~2cm離れたところから乳房を部分的に切除し、乳房を温存するという方法で、乳房のふくらみや乳首を残す方法です。
乳房温存ができる条件は、通常、しこりが1個だけで3cm以下、検査でがんが乳管の中を広がっていない、放射線があてられる、患者さん自身が温存を希望するなどで、腫瘍が小さくても入館の中でがんの広がりが見られれば適応外となる場合があります。
また、腫瘍が大きくても、放射線治療など他の治療を併用してある程度治療範囲を小さくすることができれば、乳房部分切除を行うことも可能です。
皮膚と乳頭乳輪を残し、皮下の乳腺を全部切除して同時再建をするという方法で、乳房のふくらみを保つことができる手術方法です。
がんの広がりが大きい非浸潤性乳管や、複数のがんのしこりが同じ側の乳房内の離れた部位に認められるなどの理由で、乳房温存手術が適応にならない早期乳がんに対して行われます。
この方法は比較的新しい治療法であり、まだ大規模な臨床試験が行われていないため、生存率や再発率の差が他の治療法とくらべてどの程度であるのかという結果がありません。
また、乳頭への血流不足や壊死、乳頭偏位の合併症や乳頭あるいは皮膚側へ癌を残す可能性などがあるため、慎重に選択される治療法です。
乳がんのもっとも一般的な治療方法で、がんを患っている側の乳房を全て切除するという術式ですが、胸の筋肉は残しておくケースが多いようです。
筋肉を残すため、胸が大きくえぐれるということもなく、下着での補正ができます。
失った乳房を形作るために、乳房再建術を行うことがあります。希望により、同時に行うことがありますが、リンパ節転移などがあり術後の放射線治療などを行う場合は、治療がある程度落ち着いてから、乳房再建を行います。
がん細胞はリンパ節に入り込んで転移していくという性質から、乳房と共にリンパ節も郭清する手術です。
以前は検査目的もかねてほぼ全症例の患者さんに行われてきました。
しかし、手術のあとに、腕が上がりにくい、しびれる、むくみといった症状が起こることがあるため、現在ではリンパ節転移を認めた場合のみに行われる治療方法です。
抗がん剤(化学療法)
化学物質(抗がん剤)を利用してがん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。全身のがん細胞を攻撃・破壊し、体のどこにがん細胞があっても攻撃することができる全身療法です。
乳がんにおける化学療法には、いくつかの目的があります。
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● 手術や他の治療を行ったあとにその効果を補う
● 手術の前にがんを小さくする
● 根治目的の手術が困難な進行がんや再発に対して、延命および生活の質を向上させる
などです。そのため、がんの広がりや性質などによって薬物が選択されます。
使われる薬剤はアンスラサイクリン薬剤と言われる薬剤(ドキソルビシンやエピルビシン)を用要るケースや、タキサン系薬剤と言われるドセタキセル、パクリタキセルなどが多いようです。実際の治療は、点滴薬で行われることが多くなります。
また近年では「分子標的薬」と言って、がん細胞の表面にある特定のたんぱく質をターゲットとして細胞増殖に関わる分子を阻害することで抗がん作用を示すお薬もあります。これは、従来の抗がん剤に比べて、副作用が少ないというメリットがあります。
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放射線療法
腫瘍の成長を遅らせるために、あるいは縮小させるために放射線を使用する治療法です。がんに侵された臓器の機能と形態の温存が出来ますまた、がんの局所療法であるため、全身的な影響が少なく、高齢者にも適応できる患者にやさしいがん治療法です。
現在最も多く行われているのは、乳房温存術後に乳房に向かって放射線を全体的に照射する、という方法です。乳房温存療法では、目に見えるがんは取り切れるものの、目に見えにがんは取りきることができないため、放射線治療を併行して行うことが多くなります。
海外の研究によると、放射線療法を併用する場合と、併用しない場合とを比べると、放射線療法併用した群では乳房内再発が約3分の1に減る、というデータがあります。
また、再発率を減らせることにより生存率を向上させることにもつながっています。
特に、乳房切除術を受けていてもしこりが5cm以上と大きい場合や、腋窩のリンパ節に転移があった場合は、胸壁や周囲のリンパ節に再発する危険性が高いことがわかっているため、放射線療法が勧められます。
通常は5~6週間かけて照射が行われます。
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免疫療法
上記の三大治療法に加えて、免疫療法は近年「第4の治療法」として期待されています。免疫療法は研究が進められていますが、有効性が認められた免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤などの一部に限られています。自由診療で行われている免疫療法には効果が証明されていない免疫療法もありますので、慎重に確認する必要があります。
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陽子線治療
通常のX線の放射線治療ではがん局部の周囲の正常な細胞も傷つけてしまいますが、陽子線治療はがん局部だけを照射して周囲の正常な 細胞が傷つくことをより抑えることができます。また、痛みもほとんどなく、1日15~30分程度のため、身体への負担が少ない治療です。1日1回、週 3~5回行い、合計4~40回程度繰り返します。
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重粒子線治療
陽子線治療と比べて、さらにがん局部を集中的に治療が可能となります。がん細胞の殺傷効果は陽子線治療の2~3倍大きくなります。 進行したがんは低酸素領域がありますが、このようながんでも治療が可能です。また、X線では治療が難しい深部にあるがんの治療も可能です。治療は1日1 回、週3~5回行い、合計1~40回程度繰り返します。平均では3週間程度の治療になります。1回当たり、20~30分程度の治療時間になります。
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乳房再建
乳房再建術は、再建のタイミングによって、一次再建と二次再建に分類されます。それぞれ元となる術式によって行うタイミングが違います。
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● 一次再建:乳がん切除と同時に再建まで行う方法で、乳頭温存乳房切除術の場合に該当する
● 二次再建:乳がんの手術や化学療法がある程度落ち着いたタイミングで再建を行う方法で、乳房全摘手術などの場合が該当する 乳房再建の方法はインプラントやシリコンを用いた人工乳房手術と、お腹や背中の組織といった自分の組織を使う皮弁法に分類されます。
人工乳房を用いる利点は、体のほかの部分を傷つけたり、身体の他の部分を用いることなく、再建手術を行うことが可能ということです。そのため、手術時間も30分から1時間程度であり、入院期間も短く、さらには術後合併症のリスクも比較的少ないという特徴があります。
しかし、欠点としてはやはり、異物を挿入することになるため、感染症や異物に対する反応が起こるリスクがあります。また、挿入するのは人工物であるため、年齢を重ねても形状は変わることがなく、年齢を重ねていくうちに左右非対称な乳房となってしまいます。
さらに、挿入後に皮膚が委縮し、インプラントが変形してしまう被膜拘縮を起こすことがあり、医師の指導の下、乳房マッサージなどのケアも必要となります。
一方、自分の組織を利用する皮弁法は、自然なやわらかい乳房を再現することができ、動いた時や仰向けに寝た時にも自然な乳房の移動が見られるという利点があります。
また、シリコンなどの人工物を挿入した場合のような細かいケアは不要となり、感染症のリスクも比較的少なくなります。
しかし、傷が増えてしまうことや、長期間の入院が必要となること、移植した筋肉が痩せて乳房が小さくなることがあります。妊娠を希望する方や力仕事をする方は対象にならないなど、一定の制限があることが特徴です。
乳がんの治療実績
2013年に厚生労働省行った「DPC導入の影響評価に関する調査」に基いた治療実績の情報になります。
乳房の悪性腫瘍の治療実績についてもっと詳しく見る
乳がんの治療費用
乳がんの治療は必要とされる検査や、医療機関の設備などによって大きく異なります。ここでは、おおよその治療費用の目安をご紹介します。
<入院、手術をした場合>手術は乳房の温存の有無やリンパ節郭清の有無、乳房再建の有無によって値段が大きく異なります。
まず、乳房及びリンパ節を温存している場合です。この場合、手術としては乳がんとその周りの組織を切除することになり、入院は1週間ほどです。手術の規模としては、その他の術式よりも小規模となりますが、費用は約75万円かかります。このうちの2~3割が自己負担額です。
次に乳房切除、リンパ節を郭清した場合、片方の乳房全体を切除し、腋の下などのリンパ節も併せて切除します。手術の規模としては比較的大きなものとなり、入院期間は2週間ほど必要です。費用は、約100万円になりますが、保険適応によりこのうちの2~3割の額が自己負担額となります。
乳房再建を行う場合、一度乳房すべてを切除する手術を行い、同時に乳房再建を行う場合と、一定期間を経てから乳房再建を行う場合があります。いずれの場合でも、乳房を切除する費用として約100万円かかり、さらに乳房再建術の費用として、10万~60万円程度の費用がかかります(再建方法や医療機関によって異なる)。乳房再建術も、2013年ころから保険適応となりましたので、実際にはこのうちの2~3割が自己負担額になります。
この他、放射線治療や抗がん剤治療、ホルモン治療などが必要となることがあります。放射線療法は照射商社回数によって値段が異なりますが、だいたい1回5000円から8000円程度となります。ただし、初回の場合は管理費が含まれるため1万円から1万5千円ほどとなります。こちらもおなじく保険適応によって支払いは2~3割の負担です。
化学療法も使うお薬や回数によって異なります。相場が47~53万円となり、最も安いと13万円くらいのケースがあります。こちらも保険適応によって、自己負担額は2~3割負担です。
ホルモン療法の場合、閉経前と閉経後で薬が異なり、またジェネリックを使用するかによっても異なります。抗エストロゲン薬が約12~18万円、LH―RHアゴニスト製剤が約29万円~49万円となります。抗エストロゲン薬は内服薬で、LH-RHアゴニスト薬が皮下注射であることから、薬剤の費用や医療者による技術料などを加味し、治療費に差がみられるようです。
乳がんの再発・転移
再発
乳がんの再発は、治療後2~3年でみられることが多いようです。しかし稀に5年後、10年後に再発するということもあります。微小ながん細胞が初期治療などをすり抜けて温存され、増殖を繰り返していくことで再発することが多くなります。
局所再発の場合は、乳房温存手術後の乳房や乳房切除術後の胸の皮膚や手術を受けた側のわきの下、乳房に近いリンパ節に起こることが多く、皮膚の赤みや皮下の「しこり」として自覚されることもあります。
再度切除が可能であれば手術を行い、化学療法や放射線療法と併用して根絶を目指します。
転移
乳がんは、背骨や肋骨となどの骨や肺、肝臓、脳などに転移するケースが多くみられます。
何かしらの症状が出現する場合もあれば、症状が全く出現しないということもあります。
転移の場合は、薬物療法や放射線療法を行い、がんの増殖を遅らせることを目的として治療を行います。
男性の乳がん
男性乳がんとは
男性も乳がんになりますが、発生率は女性の100分の1から150分の1程度で、比較的稀だといわれています。男性乳がんの発症年齢のピークは、女性乳がんの発症年齢のピークから5~10歳程度高いと考えられています。
公益財団法人がん研究振興財団が公表している「がんの統計’17」によると、2013年に乳がんに罹患した人は、女性の場合30歳代から増え始め、60歳代がピークとなっています。つまり男性乳がんの場合、これよりも5~10歳程度高くなるわけですから、65歳~75歳くらいの間に、罹患数のピークがあることになります。
男性乳がんの種類
男性に発生する乳がんは、4種類あるといわれています。
1. 浸潤性乳がん:乳房内にある乳管の内面を覆う「細胞層から発生するがん」です。細胞層を超えてさらに広がりを見せるタイプのがんです。男性乳がんの多くが、この種類のがんだといわれています。
2. 非浸潤性乳がん:乳管の内面を覆う層に、異常な細胞が発生し、がんになったものです。乳管内がんとも呼ばれます。
3. 炎症性乳がん:乳房に強い炎症を起こすがんで、乳房が赤く腫れあがって、熱感が生じるという特徴があります。
4. 乳頭のパジェット病:乳頭の下にある乳管から発生し、乳頭の表面上まで増殖してくるがんです。
尚、女性乳がんには「非浸潤性小葉がん」もありますが、男性でこのタイプの乳がんが発生したという報告はありません。
男性乳がんの原因
男性乳がんのリスク因子としては
●放射線への曝露
●肝硬変やクラインフェルター症候群などにより、体内にエストロゲンが増えている
●遺伝:乳がんに罹患した女性近親者が複数人いる
が、挙げられます。特に、「BRCA1やBRCA2遺伝子の遺伝子変異」をもつ近親者が一人でもいる場合は、全員が発症するわけではないですが、高いリスク因子を持ち合わせていると考えられます。
男性乳がんの診断
男性乳がんは、自分でも触って分かるようなしこりができるなど、乳房に変化が見られることが特徴です。乳がんの診断方法は、女性の乳がんと同様です。
男性乳がんの生存率
男性乳がんの生存率は、ステージⅠやステージⅡで発見された場合、5年相対生存率はほぼ100%です。しかしステージⅢで発見された場合、5年相対生存率は78.8%、5年実測生存率は71.4%となります。
(公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計’17」 全国がんセンター協議会加盟施設における5年生存率(2007~2009年診断例))
男性乳がんの治療法
男性乳がんの治療は、女性の乳がんと同様で、初期治療としては手術(外科治療)が選択されます。男性乳がんはその発症部位が乳輪乳頭付近となるので,乳房切除術が選択されます。乳房を温存することは考慮されない傾向にあります。
放射線療法や薬物療法なども、女性と同様に行われます。薬物療法では、抗がん剤、ホルモン剤、抗HER2薬であるトラスツズマブの3種類が、治療薬として選択されます。手術後の検査で、がんの増殖とエストロゲンとの関与が確認されると、タモキシフェンなどのお薬でエストロゲンの働きを抑える治療法が、検討されます。
抗がん剤の第一選択は、アンスラサイクリン系薬剤です。また、治療の有用性についての報告はないものの、女性の乳がんの治療に対しても使われているということから、男性乳がんにタキサン系薬剤を使用することがあります。
再発予防
がんの再発予防のために行われる治療法としては薬物療法、術後補助療法、免疫療法という主に3つの術後補助療法があります。
再発予防についてはそれぞれの治療に特徴がありますので、積極的に情報を集め、主治医と相談して、治療法を選択することが大切です。
再発予防についてはこちら
参考文献
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https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/breast/cause/
日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン 乳がんの原因と予防
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同上 若年者の乳がん・男性乳がん
http://jbcs.gr.jp/guidline/p2016/guidline/g9/q68/
国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん基礎知識
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/
同上 乳がん治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html
同上 乳がん治療の選択
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment_option.html
同上 乳がん転移
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/relapse.html
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻社会医学講座公衆衛生学分野
http://www.pbhealth.med.tohoku.ac.jp/node/319
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日本乳がん学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン 乳がんの検診と診断
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がん研有明病院 がんの種類について 乳癌
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がん研有明病院 形成外科 乳房再建
http://www.jfcr.or.jp/hospital/department/clinic/general/plastic_surgery/breast/003.html
国立がん研究センター東病院 形成外科 乳房再建術について
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http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kensui/territory1/selfcheck/nyuugan.html
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http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/kenshu_58-4.pdf
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http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/summary/japanese.jsp?Pdq_ID=CDR0000062969
公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計’17」
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2017/cancer_statistics_2017_date_J.pdf
<参考書籍>
病気が見える9 婦人科・乳腺外科 第3版
乳癌取扱い規約 第17版 日本乳癌学会 (編集) 金原出版
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