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更新日:2026/08/08

がんのストレス解消法

がんと診断されたとき、そして治療を続けながらの日々——不安やつらさを感じることは、ごく自然な反応です。「自分だけが弱いのだろうか」と感じる必要はありません。ここでは、気持ちのつらさをやわらげるための具体的な方法と、「ストレスがんを引き起こす・悪化させる」という俗説の正確な見直しをお伝えします。

この記事でわかること

  • 相談相手を持つ・患者会に参加するなど、QOL(生活の質)の維持に役立つ5つのアプローチ
  • 「ストレスとがんに直接的な因果関係はない」とするNCI(米国国立がん研究所)の見解
  • ストレスが心身に影響をもたらすしくみと、こころのケアの専門家への相談タイミング
  • ストレス解消と称した飲酒・喫煙が「確立したがんリスク要因」である理由
  • 睡眠・運動・リラクゼーションで気持ちのつらさを軽減するヒント

ストレス解消法

がん情報サービスは、がんと上手につき合うための工夫として、以下の5つのアプローチを紹介しています※1。いずれも「がんを治す・予防する」効果としてではなく、気持ちのつらさの軽減とQOLの維持を目的としたものです。

1. 相談相手を持つ

がんの診断後、不安や落ち込みを感じることは「ある程度は通常の反応」です※2。一人で抱え込まず、家族・友人に気持ちを打ち明けることが、ストレスの軽減につながるとされています※1。

相手が医療の専門家でなくても構いません。「一緒に考えてほしい」と伝えるだけで、孤立感がやわらぐことがあります。もし身近に話せる人がいない場合は、がんの不安のページで紹介しているがん相談支援センターに相談する方法もあります。

がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院等に設置された窓口です※3。患者さん本人だけでなく、ご家族も相談できます※3。治療上の不安から費用のことまで、幅広い相談に対応しています。

2. 患者会などで交流をする

患者会・患者サロンは、同じ病気や症状をもつ患者さん同士が悩みや不安について語りあう場です※4。孤立感の軽減や、療養生活に役立つ情報の獲得が期待できます※4。

家族向けの家族会もあります。参加を検討する際の注意点として、体験談は個人差が大きく、自分に必ず当てはまるとは限らないこと、また特定の治療法や健康食品を推奨する団体も存在するため、医学的な判断は必ず医療専門家に相談することが重要です※4。

なお、がんと診断された方やその家族への接し方については、がん患者との接し方もあわせてご参照ください。

3. 情報を得る

正確な情報を得ることで、根拠のない不安がやわらぐことがあります※1。担当医から治療の見通しや選択肢について聞くこと、がん情報サービスなどのT1の公的情報源を活用することが勧められます。

情報を集める際は、情報の根拠(一次情報かどうか)を確認することが大切です。インターネット上には不正確な情報も多く含まれています。困ったときはがん相談支援センター(ganjoho.jp で検索可能)や担当医に確認してください※3。

4. 趣味を持つ

好きなことに時間を使うと、一時的にでも病気から気持ちを離す時間を持てます※1。緩和ケアの観点からも、深呼吸・瞑想・音楽・アロマセラピー・入浴といったリラクゼーション活動が、気持ちのつらさの軽減に役立つとされています※1。

こうした活動は「がんを治す」ためのものではなく、日常生活の質を維持し、こころのつらさをやわらげるための工夫として位置づけられています。無理に「前向きにならなければ」と感じる必要はありません。

5. 運動療法

がん治療中・治療後の運動として、ウォーキング・ヨガ・ストレッチなどの有酸素運動が「倦怠感(だるさ)を軽くするために効果的」とされています※5。ストレッチは全身の血液・リンパ液の流れを改善し、倦怠感軽減に役立つとも記述されています※5。

がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」では、週150分以上の中等度の有酸素運動と、週2〜3日(1日おき)の筋力トレーニングが疲労軽減に有効とされています※6。ただし、運動の種類・強度・タイミングは病状や治療内容によって異なります。自己判断で激しい運動を開始せず、担当医に相談してから取り組んでください。

運動療法の詳細はがんと運動についてもご覧ください。

気持ちのつらさへの対処を段階別(セルフケア→社会的つながり→専門家による心のケア)に示したフロー図
気持ちのつらさへの対処は段階的に。セルフケアで対応しきれない場合は、専門家による心のケアも選択肢のひとつです。

がんとストレスの因果関係

ここでは、「ストレスとがん」の関係についての科学的な見解を整理します。

ストレスが身体に及ぼす影響

心理的ストレスを受けると、心身にさまざまな影響が出ることがあります。気分の落ち込み・不安・イライラといった精神的な症状のほか、身体面では睡眠の質の低下・食欲の変化・だるさなどが現れることがあります。

がんの診断・治療経過において、不安や落ち込みを感じることは「ある程度は通常の反応」とされています※2。こうした状態が続き、日常生活に支障をきたす場合は、適応障害・気分障害(うつ状態)などの臨床状態に発展することがあります※2。そのため、つらさが長引くようであれば、早めに担当医や看護師に相談することが大切です。

ストレスとがんの因果関係

「ストレスがんを引き起こすのではないか」——これは多くの方が抱く疑問です。現在の科学的見解を正確にお伝えします。

米国国立がん研究所(NCI)の見解では、心理的ストレスとがんとの関連は現時点で明確ではありません(”not clear”)※7。これはNCIのPDQ(医師・患者向け標準情報)に明記されている内容です。研究によって結果が異なり(一部は関連を示し、一部は関連なし)、「ストレスが直接がんを引き起こすメカニズム」はヒトを対象とした研究では確立されていません※7。

また、ストレスがんの生存・転帰を直接左右するという強い証拠もありません※7。ストレスを抱えるがん患者さんで生存率の低下を報告した研究はありますが、「ストレスが直接生存に影響するという証拠は全体として弱い(the evidence that stress directly affects survival remains weak overall)」とNCIは述べています※7。

なお、英国で10万人超の女性を対象としたコホート研究では、知覚ストレスと乳がんリスクの間に関連は認められませんでした※7。欧州12コホート研究でも、職場ストレスと肺・大腸・乳房・前立腺がんの間に関連は確認されていません※7。

ストレスとがんリスクの関連が観察される場合も、飲酒・喫煙といった不健康な行動を介した「間接的な関連」である可能性が指摘されています※7。これは重要な点です——ストレスそのものが直接がんを引き起こすのではなく、ストレスが引き金になって飲酒・喫煙が増えることが、がんリスクを高めるという構図です。

NCI「Stress and Cancer」(PDQ、2022年10月更新): “Although chronic stress can lead to many health problems, whether it is linked to cancer is not clear.”(慢性的なストレスは多くの健康問題を引き起こしうるが、それががんと関連するかどうかは明確ではない。)※7
※これは米国国立がん研究所(NCI)の見解であり、日本国内のガイドラインとは独立した情報です。

ストレスの予防方法

ストレスを「ゼロにする」ことは現実的ではありません。がんと診断されること自体がストレスの原因(ストレッサー)となるため、ストレスを感じること自体を責める必要はありません※2。

重要なのは、「ストレスをうまく逃がす工夫」を持つことです。つらさが中程度以上(専用スケール「つらさと支障の寒暖計」でつらさ4点以上かつ支障3点以上)の場合は、専門家への相談が勧められています※1。

また、ストレス解消を目的とした飲酒・喫煙については、次のH3で詳しく触れます。これらは確立したがんリスク要因であり、「解消法」にはなりえません。

ストレスとうまく付き合う ~心理面~

こころの面でストレスとうまく付き合うためには、一人で抱え込まないことがまず大切です。がんと診断されたことを周囲に相談するかどうかは個人の選択ですが、話せる相手がいると孤立感が軽減することがあります※1。

がんと上手につき合うための工夫として、がん情報サービスは以下を挙げています※1:

  • 家族や友人に気持ちを打ち明ける
  • 問題に優先順位をつけ、一度に全部解決しようとしない
  • 担当医から正確な情報を得る
  • 患者会やサポートグループに参加する
  • 心のケアの専門家に相談する

心のつらさを相談できる専門家(精神腫瘍科、心療内科、心理士など)に相談する選択肢もあります※8。がん情報サービスは「心のつらさをなくすことは、がんの治療と同じくらい大切なこと」と明記しています※8。まず担当医や看護師に「こころのことで相談したい」と伝えると、専門家につないでもらうことができます。

なお、「前向きな気持ちが免疫力を上げて、がんが治りやすくなる」という主張について:現時点でこれを支持するT1の根拠はありません※7。ご自身の気持ちのあり方について、過度に責任を感じる必要はありません。

ストレスとうまく付き合う ~身体面~

身体面でストレスとうまく付き合うためのポイントをご紹介します。

睡眠: 睡眠は「疲れた心身を回復させ、体調を整えるために大切」とされています※9。がん患者さんでは不眠を経験する方も多く、原因は身体的症状・心理的ストレス・薬剤など多岐にわたります※9。不眠が続くと、だるさ・集中力の低下・イライラなど日常生活への影響が出やすくなります※9。睡眠の悩みも、担当医や看護師に遠慮なく相談してください。

飲酒について: ストレス解消を目的とした飲酒は、がんリスクの観点から勧められません。国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがん予防」では、がん予防の観点から「飲酒をひかえる(お酒を飲まないことがベスト)」ことが勧められています※10。

飲酒は確立したがんリスク要因です。肝がん・食道がん・大腸がん・頭頸部がん(口腔・咽頭・喉頭)のリスクが「確実に増加」し、男性の胃がん・女性の閉経前乳がんでは「ほぼ確実に増加」するとされています※10。飲酒量が多いほどリスクは高まり、純エタノール46g/日以上で約40%、69g以上で約60%のリスク増加が報告されています(男性)※10。

また、飲酒時に顔が赤くなりやすい方(ALDH2低活性型。日本人に多い)は、飲酒でアルコールがアセトアルデヒドに代謝されても、それをさらに分解する酵素の働きが弱いため、少量の飲酒でも食道がんをはじめとした飲酒関連がんのリスクが統計学的に有意に高いことが報告されています※11。アセトアルデヒドはIARC(国際がん研究機関)によりヒトへの発がん性が確認された物質です※11。

喫煙について: たばこは、飲酒以上にがんの確立したリスク要因です。食道がん・肺がん・胃がん・膵がん・子宮頸がん・肝がん・頭頸部がん・膀胱がん・大腸がんのリスクが「確実に増加」します※10。喫煙者は非喫煙者と比べて、何らかのがんになるリスクが約1.5倍と報告されています※10。詳しくはがんとたばこの関係をご参照ください。

ストレスを感じたときの飲酒・喫煙は、一時的な気分の変化をもたらすことがあっても、がんリスクを高める確立した要因です。別のストレス発散方法(前述の趣味・運動・リラクゼーション)を活用することが、がん予防の観点からも重要です。詳しくはがん予防12か条もご覧ください。

飲酒・喫煙ごとに「確実に増加」「ほぼ確実に増加」とするがん種を整理した横棒グラフ形式の対照表
飲酒・喫煙は複数のがんの確立したリスク要因です。「科学的根拠に基づくがん予防」に基づきます。
飲酒・喫煙と関連するがん種の科学的評価(国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防」)※10
要因 確実に増加 ほぼ確実に増加
飲酒 肝がん・食道がん・大腸がん・口腔・咽頭・喉頭がん 男性の胃がん・女性の閉経前乳がん
喫煙 食道がん・肺がん・胃がん・膵がん・子宮頸がん・肝がん・頭頸部がん・膀胱がん・大腸がん 急性骨髄性白血病

よくある質問

Q. ストレスが原因でがんになりましたか?私のせいでしょうか?
がんの原因をストレスのせいにして、自分を責める必要はありません。米国国立がん研究所(NCI)の見解では、心理的ストレスとがんの因果関係は現時点で明確ではないとされています※7。がんは複数の要因が複合的に関わって生じるものであり、「自分のストレスのせいで発症した」とは言えません。
Q. 前向きな気持ちになれれば、がんに勝てますか?
「前向きな気持ちが免疫力を高め、がんを治す」という主張を支持するT1の根拠は現時点では確認されていません※7。ただし、こころのつらさをやわらげ、生活の質を保つことは治療を続けるうえで重要です。無理に「前向き」になろうとするのではなく、つらいときは素直に相談することが大切です。
Q. 少量の飲酒ならストレス解消になって問題ありませんか?
国立がん研究センターは、がん予防の観点から「お酒を飲まないことがベスト」という立場を示しています※10。飲酒量が少なくても、特に飲酒で顔が赤くなりやすい方(ALDH2低活性型)は、少量でも食道がんなど飲酒関連がんのリスクが高まることが報告されています※11。ストレス解消は、趣味・運動・睡眠などの別の手段を組み合わせることが勧められます。
Q. こころのつらさはいつ専門家に相談すればよいですか?
「つらさと支障の寒暖計」でつらさ4点以上かつ支障3点以上の場合、中程度以上のストレス状態として専門家への相談が勧められます※1。目安が分からない場合は、「日常生活への支障を感じている」「2週間以上続いている」などを担当医や看護師に伝えるだけでつないでもらえます。まずは担当チームへ一言相談することが最初の一歩です。
Q. 患者会に参加するとき気をつけることはありますか?
患者会の体験談は個人差が大きく、自分に必ず当てはまるとは限りません※4。特定の治療法や健康食品を強く勧める団体も存在するため、医学的な判断は必ず担当医に相談したうえで行ってください※4。情報の信頼性に迷ったときはがん相談支援センターに相談する方法もあります※3。

本記事は2026年8月9日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。

参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」(最終確認日: 2026年8月9日)
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(最終確認日: 2026年8月9日)
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センター」(最終確認日: 2026年8月9日)
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス「患者会・患者サロン」(最終確認日: 2026年8月9日)
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス「倦怠感(だるさ)」(最終確認日: 2026年8月9日)
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」(最終確認日: 2026年8月9日)
  7. 米国国立がん研究所(NCI)「Stress and Cancer」(PDQ)(最終確認日: 2026年8月9日)
  8. 国立がん研究センター がん情報サービス「専門家による心のケア」(最終確認日: 2026年8月9日)
  9. 国立がん研究センター がん情報サービス「眠れない・不眠」(最終確認日: 2026年8月9日)
  10. 国立がん研究センター がん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」(最終確認日: 2026年8月9日)
  11. 国立がん研究センター がん対策研究所「フラッシング反応別にみた飲酒とがん罹患リスクとの関連について」(最終確認日: 2026年8月9日)

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