更新日:2021/05/28
がんのストレス解消法
目次
ストレスはがんの治療に影響を与えます。ストレスの度合いは、診断から治療経過の各段階によっても異なります。最初の診断のときには、心に痛手を受け落ち込んだとしても、がんと戦っていこうと気持ちを立て直すことができます。しかし、治療をしても再発に対する不安は続きますし、再発や転移した場合は、「治療法が見つからない」、「がんを抱えて生活しなければならい」といった心身のつらさや絶望感により大きなストレスにさらされることになります。
下記の取り組みを行うのがこのようなストレスの解消となります。しかし、これが絶対に正しいという解決法があるわけではないですし、完全に解消することは難しいです。自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。
ストレス解消法
1.相談相手を持つ
患者本人、家族ともに様々な不安を抱えています。「一人で何とかしなければ」などと悩やむと、不安感が続きますので、身近な家族や友人に相談することが大切です。家族や友人は医療に詳しくはないかもしれませんが、病気に一緒に学んだり、お互いに不安を話し、分かり合うことでストレスが和らぎます。
2.患者会などで交流をする
患者会などで同じ境遇の患者さんとがんに対する悩みや体験を共有し、相談し合う中で、自分にとってより良い対処法が見つかることもあります。また、治った人の話を聞くことで、がんの治療も前向きにとらえられ、乗り切る力を得られます。
3.情報を得る
がんに対する情報を得ることで、不安が和らぎます。免疫療法などの最新の治療方法を知ることで、ストレスの原因となっている悩みの解決につながることがあります。また、がんの発生理由、治療法、その効果(完治する確率)や副作用のリスク、転移のリスクなど、医学的なことを知ることによって恐怖心が和らぐこともあるでしょう。
4.趣味を持つ
好きなことに没頭することで、病気以外のところに目を向けることができます。また、「好きなことをやっているという充実感によって、緊張感が緩まります。
5.運動療法
ストレッチや散歩といった簡単な運動でも構いません。適度な運動により、体も心も緊張感が緩まります。また、病状の進行によって様々な身体症状が出現するので、身体機能の維持や改善するための運動は大切です。
がんとストレスの因果関係
ストレスが身体に及ぼす影響
ストレスとがんの因果関係を知る前に、ストレスが我々の体に対してどのような影響を及ぼすのかについて、知っておきましょう。
そもそも我々の体に何らかのストレスが加わると、自律神経の働きが活動的な方へ傾きます。自律神経には、体を活動的にさせる「交感神経」と、体を休める方に働く「副交感神経」の2つがあり、通常ではこの二つがシーソーのように絶妙なバランスを保っています。しかし、何らかのストレスを受けると、交換神経からノルアドレナリンが分泌されます。その作用によって、さらにアドレナリン、ノルアドレナリンが放出されます。すると、体では血管の収縮や瞳孔の散大、血圧の上昇、心拍数の増加といった変化がみられます。これが「交換神経が優位になった状態」です。
また、内分泌系では、ストレスを受けたことを脳が理解すると、脳の神経細胞間の情報伝達を行う「神経伝達物質」の一つ、β-エンドルフィンという物質が分泌されます。このβ-エンドルフィンは別名「脳内麻薬」とも呼ばれ、痛みや不安、緊張を和らげる効果をもっており、これによって身体をストレス状態から守るという働きをしています。
何らかのストレスを受けると、自律神経系と内分泌系が活発に働いて、体をストレスから守ろうとします。しかし、長きにわたってストレスにさらされた状態にあると、交感神経が優位となった状態が続き、ある一定のホルモンのみが分泌され続けるという状態に陥ります。すると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまい、さらに、内分泌系から分泌され続けたホルモンは、ストレス状態に対する防御力が限界を超えてしまい、作用しなくなってきます。結果的に、免疫の働きが弱まることにつながり、体の不調を招くことになるのです。
がんになると、「がんである」こと自体がストレッサー(ストレスの原因)となる場合があります。この状態が続くと、体にとってはさらにストレスとなり、がんが悪化する(進行するという悪循環に陥ることも考えられます。
ストレスとがんの因果関係
ストレスとがんには因果関係はあるのでしょうか。
現在のところ、この答えはみつかっていません。何らかのストレスが直接細胞にダメージを加え、がん細胞を作り出し、がんが発生したというメカニズムが、見つかっていないからです。もし、実際にはそのようなことが起こっていたと仮定しても、実験によりその真相を完全に解明するまでには至っていません。
しかし、ストレスとがんには、ある種の因果関係があると考えられています。その理由は、がんの原因となる疾患についてです。
例えば、日本人にも多い胃がんですが、胃がんはヘリコバクターピロリ菌の慢性感染などが、主な原因です。それ以外にも胃炎や萎縮を起こしている胃の粘膜からも、がんは発生するとみられています。一方、胃炎の原因をたどると、ヘリコバクターピロリ菌の感染の他にも、ストレスが原因となっているケースが見受けられます。つまり、直接的では無いとしても、強いストレスを受け続けることで、結果的にはがんが発生する可能性があるのです。
また、炎症性腸疾患により併発する疾患の一つに、大腸がんがあります。この炎症性腸疾患に限ってみると、実はストレスが影響することによって、治癒の過程に影響を及ぼすというデータがあります。つまり、炎症性大腸疾患になり、さらにストレスを受け続けることで、大腸がんへ移行してしまう可能性を秘めているのです。
さらに、ストレス解消法について調べたある調査の結果によると、ストレス解消法の2位には美味しいものを食べる、3位にはお酒を飲むというという行動が挙がりました。もちろん、節度ある飲酒や食事はストレス解消になるかもしれません。しかし、過度のストレス状態にある人が、節度を越えた飲酒や飲食をするとどうなるでしょうか。過度のアルコール摂取や、体重の増加による肥満が考えられます。
過剰なアルコールは、多くのがんの原因として結論付けられており、口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸と女性の乳房のがんの原因になるとされています。またアルコールそのものにも発がん性があり、少量の飲酒で赤くなる人は、アルコール代謝産物のアセトアルデヒドを代謝する働きが弱いため、食道がんの原因になると考えられています。
さらに、飲酒時につまみとして塩分が多い食事を摂り続ければ、がんの原因ともなりますし、ストレスで暴飲暴食を続ければ、これも消化器系のがんを誘発させることにつながります。
これらのことから、ストレスはがんと因果関係が無いとは言い切れず、がんに対して直接的に影響をしてはいないものの、がんの要因となり得る疾患に対する原因となっていることが考えられるのです。
ストレスの予防方法
上記のようにストレスががんに100%関係しているとは言い切れませんし、がんによっては、がんを誘発する原因疾患がストレスと無関係、という場合もあります。
また、ストレスががんを悪化させる、あるいは逆にストレスががんを消す、といったデータも明らかになっていないことが現状であり、研究として評価することも、現段階では難しいものです。
しかし、ストレスは、がんなどと闘う免疫細胞である「ナチュラルキラー細胞」の働きを低下させてしまうことが、分かっています。また、ナチュラルキラー細胞の働きが低下するとがんになりやすくなる、というデータもあるため、ストレスとがんが無関係であるとも言い切れません。
ストレスが無い状態は悪いことではありませんし、逆にストレスを強く感じることで、身体的・精神的な影響が出るようならば、がんに限らず、何らかの治療を行う意欲は低下し、精神的なストレスが他の症状を誘発することがあります。結果的に、適切な治療を行うことができず、最終的には死亡してしまうという可能性があるのです。特にがんの場合は、適切な治療を受けなければ死に至る可能性が高いわけですから、過度なストレスは「がんによる死亡率」を高める可能性もあります。
それでは、ストレスをどのように予防していけば良いのでしょうか。ストレスを予防していくためには、ストレスに対する考え方を転換し、ストレスとうまく付き合っていくことが効果的であるとされています。ストレスとうまく付き合うということはどのようなことなのでしょうか。
ストレスとうまく付き合う ~心理面~
心理的にストレスとうまく付き合うためには、考え方を柔軟にすることが求められます。完璧主義を捨てて、思考を柔軟にし、「目標の80%をやりきるつもりでやる」というような考え方への転換です。
また、過去にこだわらず、物事を前向きに、プラスの方向に考えることも必要です。特に前向きな気持ちというのは、仮にがんになった後でも効果があるとされており、がんになった後でも免疫力を上げる可能性が指摘されています。
がんであることが分かったら、1人で全てを抱え込まずに、周囲の人に相談していくことも、ストレスとうまく付き合う上では、大切なことです。自分自身の気持ちが治療に前向きになれば、がん治療も上手く進むかもしれません。
ストレスとうまく付き合う ~身体面~
身体面でストレスとうまく付き合うために最も大切なのが、睡眠です。私たちは、睡眠が不足するだけで、イライラしたりストレスだと感じてしまいますが、これは「生理的ストレス」と呼ばれます。生理的ストレスを最初から作らないように、しっかりと睡眠をとることはとても大切です。
睡眠時間を長くとるということだけでなく睡眠の質も大切です。より良い睡眠がとれるよう寝具を工夫したり、眠るときの環境を整えることも、ストレスの予防には良いでしょう。
また、ストレス解消法として挙がってくるアルコールやたばこなどの嗜好品に頼り切ることにも注意が必要です。これらは依存性が高いため、やめたくてもやめられない、いわゆる依存症になる可能性もあります。節度を守った量を保つことが大切です。特にたばこは、様々ながんの発生要因となることが分かっています。禁煙をこころがけ、別のストレス発散方法を探してみましょう。
またこの他にも、自分のストレスの原因となるストレッサーを知ることも大切です。自分にとってのストレッサーを知り、ストレスを未然に回避することが、さらなるストレスを予防することにもつながります。
ストレスを感じる状態になると、身体にはさまざまな症状が出現します。
全身に現れる症状としては、疲れやすい、体がだるい、気力の低下などがみられるようになります。例えば、
● 筋肉系:肩こり、首のこり、片頭痛や関節痛など
● 循環器系:胸の痛みや動機、脈が飛んでいる「不整脈」の自覚
● 消化器系:下痢や便秘、食欲不振、胃もたれや胃のむかつきなど
● 感覚器系:目の疲れやめまい、音に対する過敏症、寝つきが悪い、眠りが浅い、寝た気がしない
これらの症状が現れたら、ストレスが溜まっていることを自覚し、上手に発散していくことが大切です。
同じ「がん」であっても、早期発見・早期治療により、がんが無くなる、あるいはがんを小さくできる可能性があります。ストレスによる体の不調を感じたら、その状態を我慢するのではなく、早めに医療機関で適切な検査を受けましょう。そしてそれががんによるものであれば、早めにがん治療を始めましょう。
参考文献
日本成人病予防協会 ストレスについて http://www.japa.org/?page_id=6951
日本消化器病学会 ストレスと胃腸の病気 http://www.jsge.or.jp/citizen/2006/kinki2006.html
日本消化器病学会 ストレスと胃腸病-心と胃腸のキャッチボール http://www.jsge.or.jp/citizen/2007/kinki2007.html
第 19 回病態生理学会 細見記念シンポジウム 『防衛医学推進研究』
消化管炎症への精神的ストレスの影響 http://byoutaiseiri.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20110304141052-81B83E59607896E5F806508E38B087CC28ECC3C9C242C4AE9C095FD51994ACD6.pdf
日本消化器病学会誌 クローン病に合併する直腸肛門管癌 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/110/3/110_396/_pdf
一般社団法人中央調査社 ストレスに関する世論調査 http://www.crs.or.jp/backno/old/No593/5932.htm
eヘルスネット 情報提供 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-008.html
大阪府 ストレス予防・対処マニュアル http://kenko-osaka21.jp/pdf/library/shodokuhon/sutoresuyobou_1.pdf
日本成人病予防学会 ストレスについて http://www.japa.org/japa/?page_id=6954
日本成人病予防学会 ストレスについて ストレス状態の兆候 http://www.japa.org/japa/?page_id=6953