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更新日:2021/05/29

がん悪液質|症状や治療、ステージなど

がん悪液質について、症状、原因、病期(ステージ)、検査・診断、治療法など様々な観点から解説します。

がん悪液質とは

がん悪液質とは病状の進行に伴い、体重減少、低栄養、消耗状態が徐々に進行していく状態を指します。言い換えると「身体が吸収しようとしている栄養を、がん腫瘍が吸収してしまうことによって身体が衰弱していく状態」のことをいいます。悪液質という言葉はもともと、がんに限らず、様々な慢性消耗性疾患の栄養不良の終末像であるとされてきました。

2011年に発行されたEuropean Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)の「悪液質に対するガイドライン(EPCRCガイドライン)」では、がん悪液質を「従来の栄養サポートで改善することが困難で進行性の機能障害をもたらし、(脂肪組織の有無にかかわらず)著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である。病態生理学的には経口摂取の減少と代謝異常による負の蛋白、エネルギーバランスを特徴とする」と定義しています。

がん悪液質の発生機序(メカニズム)に関しては、不明な点が多いことが特徴です。現在の研究によって明らかとなっているのは、腫瘍からタンパク質分解誘導因子の関与や神経内分泌系の異常によるもの、とされています。また、がんの種類によっては悪液質を生じにくいものもあり、その進行速度もさまざまであり、患者さん一人ひとりが持つ要因も大きく関係してくるため、悪液質の状態を見極めることが重要です。

がん悪液質の症状とは

がん悪液質の症状は、低栄養やそれによる体重減少、代謝、異化(とりこんだ食物をエネルギーに変えるための過程)の亢進である、とされています。

低栄養、体重減少に導く食欲低下の理由はさまざまであり、以前の研究では、腫瘍増大により消化管に負担を掛けることによる悪心、嘔吐、腹痛、肝障害や腎障害、オピオイド(麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬)の使用による悪心などが考えられてきました。しかし最近の研究では、炎症性サイトカインの活性が考えられています。つまり、がんによって体の中では慢性的な免疫反応と炎症が起こっており、体の中に取り込んだ栄養素がこれらの反応に使われているため、上手く栄養素を自分のエネルギーに変換できなくなっており、さらにこれらの反応による産物である化学物質「サイトカイン」が活性化している、ということです。また、体重減少も単に低栄養によって陥るものではなく、脂肪分解の亢進、筋タンパク合成能の低下、筋タンパク分解の亢進、つまり取り込んだ栄養素を上手く代謝させることが出来なくなっていること、などによるものとされています。

がん悪液質の原因と予防

がん悪液質の主な原因は、生体内の代謝異常と食欲不振によるものと考えらえています。生体内の代謝異常は、炎症性サイトカインの過剰な分泌によるものと考えられています。

サイトカインとは免疫、炎症、生体防御を担い、細胞間の相互作用の媒介を行うタンパク質の総称です。中でも、炎症反応が強く起きている時には、炎症性サイトカインが多く生成されます。この炎症性サイトカインの働きが亢進することによって、身体の細胞は「急性期の状態」がみられるようになります。炎症性サイトカインは、がんの経過の中でも比較的早い段階で見られ、体重減少などの症状が顕著に出る前から、体内ではタンパク質の分解亢進が見られています。

この他の要因としては、酸化ストレス(物質の酸化反応により引き起こされる、生体にとって有害な作用のこと。加齢や喫煙でも酸化ストレスは増大する)や腫瘍壊死因子などが考えられています。

この代謝異常が重度になってくると、いくら栄養サポートを行っても状態は改善せず、栄養障害は不可逆的(ふかぎゃく=元には戻らない)なものとなります。そのため、代謝異常の状態が軽度であるうちから、適切なサポートを受けることが必要です。栄養不良の進行を遅らせる、あるいは他の理由によって栄養不良となっているならばそれを改善することも可能となります。

栄養障害が改善できれば、化学療法などの「がん治療」を受けるための体力が回復し、治療を継続することができるようになります。

がん悪液質の病期(ステージ)

EPCRCガイドラインでは、がん悪液質は前悪液質、悪液質、不可逆的悪液質という3段階のステージで構成されている、としています。

前悪液質 正常な状態からは逸脱した状態で、体重減少が5%以内、食欲不振と代謝異常を伴う状態
悪液質 以下の条件のうちいずれかに該当し、経口摂取不良、全身炎症を伴うもの
● 体重減少が5%以上、
● もしくはBMI20%以下かつ体重減少が2%以上
● もしくはサルコペニア(筋肉量が減少し筋力や身体機能が低下した状態、BMI18.5未満)であり体重減少が2%以上
不可逆的悪液質 がん悪液質の様々な状態であり、異化状態、治療抵抗性があり生命予後が3か月以内の場合を指し、最も死に近いもの

いずれの場合でも、一旦悪液質になってしまうと、元通りの栄養状態に戻すことが難しくなります。特に不可逆的悪液質になってしまうと、そこからの予後は3か月以内と考えられており、非常に危険な状態にあるといえます。

がん悪液質の検査と診断

がん悪液質の診断基準は、12ヵ月以内に5%の体重減少に加え
1. 筋力が低下しているか
2. 疲労感があるか
3. 食欲低下があるか
4. 除脂肪体重はいくつか
5. CRP、Hb、Albなどの生化学データの異常(5項目中3項目以上)
などをみていくことになります。

例えば、慢性心不全やCOPD、慢性腎不全、がんなどの慢性疾患である場合、これらによって食欲不振、慢性的な炎症、貧血などを起こしやすくなります。こういった状態が長く続くと、脂肪組織の減少、筋肉の消耗などがみられるようになり、体重減少や虚弱・疲労といった状態に陥ります。

その結果、過去12か月以内に5%以上の体重減少に加え、筋力低下、疲労感、食欲不振、除脂肪体重が低くなる、生化学データに異常が見られるといった5項目のうち3項目以上が該当すると、悪液質であると診断されます。

主な検査は、血液検査や体重測定です。悪液質では「ここ数か月にどのような変化が見られるか」が診断基準となりますので、定期的な検査が必要です。また食欲不振、疲労感などといった、本人の「自覚症状」も診断基準となり、体調の変化、食事量の変化などは、悪液質の早期発見、早期治療につながりますので、記録をしておくと良いかもしれません。
その他にも以下のような検査が行われます。

DEXA(二重エネルギーX線吸収法)

DEXA法(DXA法)は、サルコペニアの状態を調べる検査であり、主には四肢の骨格筋量を測定します。2種類のエネルギーX線を測定部位に照射することによって、骨成分と他の成分を分類し、骨密度や骨格筋量を測定することができます。測定時間が短い、誤差が少ない、照射するX線量が少なく被ばくの心配がない、というメリットがあります。

CT

CTは、X線で体の内部(断面図)を描き出し、病変の状態や周辺の臓器へのがんの広がり、転移の有無を調べる検査です。悪液質検査としては腰部の断面図から腰部骨格筋面積指標(腰部の骨格筋のおおよその量)を計算することができます。

BIA(生体電気インピーダンス法)

体内に微弱な電流を流し、電流の流れやすさを計測することにより、体組成を測定する検査です。体内にある「脂肪」はほとんど電気を流しませんが、筋肉などの電解質を多く含む組織は電気を流しやすいという特性を利用しています。
この検査は、体重計のような機械にのるだけで測定可能ですが、わずかとはいえ電流を流すため、ペースメーカーを装着している方や、骨折などの手術によって体内に貴金属が埋め込まれている方は、検査の対象とはなりません。

がん悪液質の治療法

がん悪液質の治療は、上記検査によって、がん悪液質のレベルを割り出した上で行われます。主な治療法は、栄養療法です。早期がんの場合、消化管の通過障害などが見られなければ、経口摂取、経腸栄養など、個人の病状に合わせて選択して行うことが前提です。がん終末期であれば点滴による輸液管理が主な治療法となります。

前悪液質の場合

この段階では、これ以上悪液質を重症化させないよう、予防的な介入(栄養療法)やモニタリングが行われます。特に注意するのが体重の変化と代謝異常の変化です。

悪液質の場合

この段階では、定期的に重症度を判定し、その時の重症度や病状に応じた治療とケアが行われます。重症度の判定には
● 体重やBMI値の変化
● 食欲不振の程度
● 栄養摂取量
● 骨格筋量や筋量の変化
などが用いられ、身体機能の変化や精神的な変化に対する、十分な観察を行います。

具体的には、経口栄養や経腸栄養、胃ろうからの経管栄養、中心静脈からの持続的な輸液などが行われます。しかし、継続的に輸液を行うと、腹水や浮腫、気道内での分泌物の増加、せん妄などがみられるようになるため、注意が必要です。

また、持続的な輸液等による拘束感、終末期へ向かうことへの抵抗感など、精神的な苦痛に対するケアも行われます。

不可逆的悪液質の場合

悪液質が進展した不可逆的悪液質の状態では、すでに「栄養投与に反応しない段階」と定義されているため、栄養投与量は徐々に減らしていくことになります。体重やBMI値の変化や、食欲不振の程度、骨格筋量および筋量の変化などの観察も必要ですが、場合によっては緩和医療が必要になったり、精神的なサポートが重視されるようになります。終末期に入り、生命予後が1~2週間とされている場合には、余命延長を目的とした輸液投与を行わないことが、推奨されています。

参考文献

国立がん研究センターがん情報サービス
http://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/basic.html
日本緩和医療学会
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/2013/pdf/02_09.pdf
日本救急医学会
http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/1027.htm
日本静脈経腸栄養学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/30/4/30_917/_pdf
公益社団法人日本薬学会
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3
東京医科歯科大学医学部付属病院 臨床栄養部
http://www.tmd.ac.jp/medhospital/medical_central/document/eiyou_syokusai40.pdf
日本静脈経腸栄養学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/32/1/32_841/_pdf
日本緩和医療学会
http://jpps.umin.jp/issue/magazine/pdf/0702_02.pdf

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