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更新日:2026/08/05

がん治療と妊娠~子どもを持つためにできることは?~

この記事でわかること

  • 若い世代・子どものがん罹患の実態(2023年全国がん登録)
  • 手術・化学療法・放射線治療が妊孕性に与える影響の仕組み
  • 女性・男性・子どもそれぞれの妊孕性温存療法の種類と研究段階の療法の現状
  • 保険適用外の費用と、厚生労働省「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」の助成上限額(令和8年4月改正)
  • 主治医・がん相談支援センターへの相談の進め方

若い世代でもがんを発症することはあるの?

がんは中高年以降に多い病気ですが、若い世代や子どもが発症することも決して珍しくありません。2023年の全国がん登録によると、0〜14歳(小児)の年間罹患数は約2,000例、15〜19歳は約900例、20代は約4,200例、30代は約15,000例と報告されています※1。

小児では白血病や脳腫瘍が多く、30代女性では乳がんが上位を占めます※1。また、子宮頸がんは20代後半から発症者が増え始め、乳がんは30代での発症が増加します。白血病をはじめとする血液のがんも、若い世代に発症する疾患として知られています※1。

こうした若い世代(思春期・若年成人=AYA世代と呼ばれる15〜39歳と、それ以下の小児世代)ががんの治療を受ける際に、重要な課題のひとつとなるのが将来の妊娠・出産への影響です。

がん治療が将来的な「妊娠」におよぼす影響とは?

がんの主な治療法である手術・化学療法(抗がん薬治療)・放射線治療は、がんへの治療効果と引き換えに、妊孕性(にんようせい。妊娠できる力のこと)に影響を及ぼすことがあります。以下では、女性・男性・子どもそれぞれの影響を説明します。

女性への影響

女性の妊孕性は、卵子を育てる「卵巣」と受精卵を育てる「子宮」が機能することで成り立ちます。がん治療はこれらの臓器に次のような影響を与えます。

化学療法(抗がん薬)の影響
細胞障害性抗がん薬は、成長している卵胞に影響を与え一時的な無月経を引き起こすことがあります。特にアルキル化剤や白金製剤は卵子の数を大きく減らし、月経の回復が難しくなることがあります。使用する薬剤の量が増えるほど卵巣へのダメージは大きくなり、卵子がすべてなくなってしまうことも報告されています※2。

放射線治療の影響
放射線治療は卵子の数を減らすことがあります。照射される線量が多いほど卵巣へのダメージは大きくなり、その結果として妊娠できなくなる場合があります。腹部・骨盤部への照射が行われた場合、子宮への影響から治療後の妊娠において流産・早産・低出生体重児・死産のリスクが高まることも知られています※3。

手術の影響
両側の卵巣あるいは子宮を摘出した場合は妊娠が不可能になります。子宮頸部への手術では流産・早産リスクが上昇し、骨盤内臓器の手術では卵管の癒着による妊孕性障害が生じることもあります※3。

男性への影響

男性の場合、精子を作り出す「精巣」と射精・勃起に関わる神経が、がん治療によって影響を受けることがあります。

化学療法(抗がん薬)の影響
精子のもとになる細胞は分裂が盛んであるため、アルキル化剤・白金製剤などの薬剤の影響を特に受けやすく、精子形成に重大な損傷を引き起こすことがあります※4。

放射線治療の影響
腹部・骨盤部への放射線照射では、精子のもとになる細胞が影響を受け、線量が増えるほど損傷も大きくなります。照射線量によっては永続的な精子形成障害が生じることがあります※4。

手術の影響
骨盤内臓器の手術では、勃起・射精に関わる神経を損傷する可能性があります。また、両側の精巣を摘出した場合は精子形成が完全に失われます※4。

子どもへの影響

子どもは成人に比べて抗がん薬や放射線への感受性が高く、より少ない量でも卵巣や精巣にダメージを受けやすいとされています。その結果、将来的に卵子・精子が正常に作られなくなる可能性があります※2※3※4。

子どもの場合、思春期に達するまで妊孕性を意識する機会が少ないことも多く、多くのケースでは医師と保護者が「救命」を最優先としてがん治療を選択します。子ども時代に治療を受けた方が、後にパートナーを持つ年齢になってはじめて妊孕性への影響を知るというケースも報告されています※2。

がん治療をしても…将来的な妊娠を叶えるには?

がん治療による妊孕性への影響を最小限にするため、治療を開始する前に「妊孕性温存療法」を行うことが選択肢として存在します。これは救命のためのがん治療を妨げるものではなく、がん治療と両立を図りながら将来の妊娠の可能性を残すことを目的とした医療です。ただし、妊孕性温存療法を行った場合でも、将来の妊娠・出産を保証するものではありません。

妊孕性温存療法の種類。女性: 胚(受精卵)凍結・未受精卵子凍結・卵巣組織凍結(研究段階)。男性: 精子凍結・精巣内精子採取による精子凍結・精巣組織凍結(研究段階)
女性・男性それぞれの妊孕性温存療法の選択肢。卵巣組織凍結・精巣組織凍結は現在も研究段階の療法。

女性・女児の妊孕性温存治療

女性の妊孕性温存療法には主に次の3種類と、手術方法の工夫があります。

(1)胚(受精卵)凍結保存
パートナーがいる場合に選択肢となる方法です。排卵誘発剤を使って卵巣を刺激し、採卵した卵子をパートナーの精子と体外受精・顕微授精させた後に受精卵(胚)を凍結します。採卵までにある程度の時間が必要です※5。

(2)未受精卵子凍結保存
パートナーがいない場合や、宗教・倫理的な理由で胚凍結を希望しない場合に選択肢となります。採卵後に未受精のまま卵子を凍結し、将来的に顕微授精を行う方法です※5。

(3)卵巣組織凍結保存(研究段階)
腟内処置が難しい女児・思春期前の女性や、治療を急いで開始する必要がある場合に検討される方法です。腹腔鏡手術で卵巣組織を採取して凍結します。排卵誘発剤を必要とせず、採取時間が短い点がありますが、現在も研究段階の療法とされており、白血病など一部のがんでは採取した組織にがん細胞が混入するリスクがあるため、実施の可否を慎重に検討する必要があります※5。

手術方法の工夫:広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)
子宮頸がん(IA2期またはIB1期相当で、明らかなリンパ節転移がなく妊娠可能年齢の患者さん)では、妊孕性を温存しながら同等範囲を切除できる「広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)」が選択肢となります。子宮体部と卵巣を残したまま広汎子宮全摘出術と同じ範囲を切除する術式です。ただし再発リスクや、治療後の流産・早産リスクの上昇、対応できる施設が限られることに留意が必要です※6。早期段階のがんでは「子宮頸部円錐切除術」も選択肢となります※6。

男性・男児の妊孕性温存治療

男性の妊孕性温存療法には主に次の方法があります。

(1)精子凍結保存
思春期以降で確立された方法です。がん治療を開始する前に、自己採取(マスターベーション)で精子を採取し凍結保存します※7。

(2)精巣内精子採取術(TESE)による精子凍結
精子数が少ないなど自己採取が困難な場合に検討される方法です。精巣内から直接精子を採取します。対応できる施設が限られます※7。

(3)精巣組織凍結(研究段階)
思春期前で射精が不可能な男児向けに検討される方法です。精巣組織を採取して凍結しますが、極めて試験的な治療法であり、現時点では出産に至った成功例の報告はないとされています※7。

子どもの妊孕性温存治療は難しい…?

上記のように、思春期前の子どもに対する妊孕性温存療法の選択肢は限られており、その効果も現時点では十分に確立されていません。また、実際に妊娠を希望する年齢に達するまでの長期間、凍結保存の管理が必要となる場合があり、費用面での課題も生じることがあります※7。

さまざまな面で子どもの妊孕性温存療法は困難なケースも多く、主治医・小児科医・生殖医療専門医が連携して対応を検討します。

妊孕性温存治療にはどれくらいの費用がかかるの?

妊孕性温存療法(胚凍結・卵子凍結・卵巣組織凍結・精子凍結など)および温存後の生殖補助医療は、現在のところ保険適用外であり、費用は全額自己負担が前提となります※8。医療機関によって費用は異なるため、受診する施設に事前に確認することが重要です。

費用の一部を助成する国の事業が2021年から始まっており、経済的な負担を軽減できる可能性があります。詳しくは次のセクションで説明します。また、がん治療そのものにかかる費用についてはがんの治療費の記事もあわせてご参照ください。

数十万単位の費用も…?

助成制度もあるの?

妊孕性温存療法の費用が高額になることを踏まえ、国は「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」(厚生労働省)を2021年(令和3年)4月1日に開始しました。2022年(令和4年)4月1日には温存後の生殖補助医療も助成対象に拡充され、2026年(令和8年)4月7日に実施要綱の一部が改正されています※8。

この事業の主な概要は次の通りです。

項目 内容
対象年齢 43歳未満
所得制限 なし
助成回数 対象者一人につき通算2回まで
申請先 居住地の都道府県(都道府県によって条件が異なる場合あり)

助成上限額(令和8年4月改正時点)は療法の種類ごとに定められています※8。

国の妊孕性温存療法助成上限額(令和8年4月改正)。胚凍結35万円、未受精卵子凍結20万円、卵巣組織凍結40万円、精子凍結2万5000円、精巣内精子採取術による精子凍結35万円。温存後生殖補助医療: 凍結胚使用10万円、凍結卵子使用25万円、卵巣組織再移植後30万円、凍結精子使用30万円
妊孕性温存療法の種類ごとの助成上限額。申請先・条件は都道府県によって異なる場合がある。

助成上限額の内訳は次の通りです。

療法の種類 助成上限額
胚(受精卵)凍結 35万円
未受精卵子凍結 20万円
卵巣組織凍結 40万円
精子凍結 2万5,000円
精巣内精子採取術による精子凍結 35万円
温存後生殖補助医療(凍結胚使用) 10万円
温存後生殖補助医療(凍結卵子使用) 25万円
温存後生殖補助医療(卵巣組織再移植後) 30万円
温存後生殖補助医療(凍結精子使用) 30万円

上記はあくまで助成上限額であり、実際の自己負担額は治療費から助成額を差し引いた分となります。また、都道府県によって独自の上乗せ助成を設けている場合もあるため、居住地の都道府県の窓口に確認することをお勧めします※8。

将来的な「妊娠」の希望となる妊孕性温存治療はがん治療の一部!

妊孕性温存療法は、救命を目的とするがん治療の一部として位置づけられており、がん治療と両立を図りながら進めることが原則です。「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂 第2版」(日本癌治療学会)では、対象疾患領域が11領域(肺・耳鼻咽喉・頭頸部・膠原病を新たに追加)に拡大され、各疾患の診療アルゴリズムが整理されています※9。

将来の妊娠を希望する場合、がん治療を開始する前に主治医へ意向を伝えることが大切です。主治医から産婦人科・生殖医療専門医を紹介してもらうことができます。妊孕性温存療法の実施可否・種類・タイミングは患者さんの状況(年齢・がんの種類・ステージ・治療の緊急性・パートナーの有無など)によって個別に判断が異なります。判断は必ず主治医と生殖医療専門医とともに行ってください。

相談できる窓口

  • 主治医: まず担当医に将来の妊娠に関する希望を伝えてください。生殖医療専門医への紹介を受けられます※10。
  • がん相談支援センター: 全国のがん診療連携拠点病院に設置されており、妊孕性温存に関する情報提供・医療機関の紹介を無料で行っています※10。
  • 一般社団法人 日本がん・生殖医療学会(j-sfp.org): 妊孕性温存が可能な医療機関の情報を提供しています※10。

子どもに対する妊孕性温存療法はまだ研究段階の部分も多く残っていますが、研究の進展とともにより多くの選択肢が生まれることが期待されています。今後の治療方針については、必ず専門医とともに検討してください。

よくある質問

Q. 妊孕性温存療法はがん治療を遅らせてしまいますか?
A. 妊孕性温存療法を行う場合、がん治療の開始が数週間程度遅れることがあります。治療の緊急性によっては温存療法が実施できない場合もあります。遅らせてよい期間かどうかは、がんの種類・ステージ・進行速度によって大きく異なりますので、必ず主治医と相談して判断してください。
Q. 妊孕性温存療法を行えば、必ず妊娠できますか?
A. 妊孕性温存療法は将来の妊娠の可能性を残すことを目的とした療法であり、妊娠・出産を保証するものではありません。成功率はがんの種類・治療の内容・年齢など個人の状況によって異なります。詳しくは生殖医療専門医にご相談ください。
Q. 国の助成事業を利用するにはどうすればいいですか?
A. 「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」の申請先は居住地の都道府県です。申請の条件や手続きは都道府県によって異なる場合があります。主治医やがん相談支援センターに相談するか、居住地の都道府県の窓口に問い合わせてください※8。
Q. 子どもが治療を受けた場合、親はどこに相談すればよいですか?
A. 主治医(小児科医)にまず相談してください。また、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも相談を受け付けています。日本がん・生殖医療学会のウェブサイトでも対応施設の情報を確認できます※10。

本記事は2026年8月5日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。

参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「小児・AYA世代のがん罹患」(最終確認日: 2026年8月5日)
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 女性患者とその関係者の方へ」(最終確認日: 2026年8月5日)
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 女性患者とその関係者の方へ」(放射線・手術の影響)(最終確認日: 2026年8月5日)
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 男性患者とその関係者の方へ」(最終確認日: 2026年8月5日)
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 女性患者とその関係者の方へ」(温存療法の種類)(最終確認日: 2026年8月5日)
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス「子宮頸がん 治療」(最終確認日: 2026年8月5日)
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 男性患者とその関係者の方へ」(温存療法の種類) / 一般社団法人 日本がん・生殖医療学会「妊孕性/妊孕性温存について」(最終確認日: 2026年8月5日)
  8. 厚生労働省「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」(最終確認日: 2026年8月5日)
  9. 一般社団法人 日本癌治療学会「『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂 第2版』発刊のお知らせ」(最終確認日: 2026年8月5日)
  10. 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 女性患者とその関係者の方へ」(相談窓口) / 国立がん研究センター がん情報サービス「妊孕性 男性患者とその関係者の方へ」(相談窓口)(最終確認日: 2026年8月5日)

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