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更新日:2021/06/06

がん治療と妊娠~子どもを持つためにできることは?~

日本人の2人に1人が一度は発症するとされている「がん」。がんと言えば、中年以降の方が発症する病気と思われがちですが、子どもや30代までの若い方が発症することも少なくありません。若くしてがんを発症したとしても、懸命な治療を続けることで病気を克服し、社会復帰を果たされている方も大勢います。
しかし、若い世代の方ががんを発症した場合、問題となるのが将来的に訪れる「妊娠」への影響。がん治療は男女ともに「妊娠」に関わるさまざまな機能を損なわせることがあるのです。
そこで今回は、がん治療が将来的な「妊娠」に与える影響と現在日本で行われている対策について詳しく解説します。

若い世代でもがんを発症することはあるの?

「がん」は中年以降で発症する病気…そうイメージしている方も少なくないでしょう。たしかにがんは、男女ともに50代から80代頃にかけて急激に発症者が増えていきます。
しかし、20代や30代の若い方ががんになるリスクは全くないか…といえば必ずしもそうではありません。一年間にがんと新たに診断される方は20代で約4000人、30代で約15000人と推定されています。また、がん登録・統計(2018年)のデータによれば、今現在10歳の男性が10年後にがんになる確率は0.1%、20年後には0.4%に。女性では、10年後は0.1%、20年後は0.5%とのこと。決して「0%」ではなく、若い世代でもがんを発症する可能性は誰にでもあるのです。
とくに女性の子宮頸がんは20代後半から、乳がんは30代から発症者が増えていきます。また、男性の精巣がんは40歳未満で発症することが多く、20代後半から30代にかけて一つのピークがあるとのこと。また、白血病や悪性リンパ腫などいわゆる「血液のがん」は若い世代で発症する方も多く、大腸がんなど遺伝が関係するがんも20代・30代ころに発症するケースが多いとされています。
また、がんはもっと年齢の低い子どもでも発症する病気であり、とくに白血病・悪性リンパ腫や脳腫瘍がよく見られるとのこと。年間で2500人ほどの未成年ががんと診断されていると推定されています。

がん治療が将来的な「妊娠」におよぼす影響とは?

がんの治療の3つの柱「手術・化学療法・放射線治療」。いずれもがんを取り除いたり、縮小したりすることによって、がんを治癒へ導きます。しかしながら、どの治療方法もがんを克服することと引き換えに、私たちの身体に多くの影響を与えます。「妊孕性(にんようせい)」…つまり妊娠できる力もその一つ。がん治療はさまざまな角度から妊孕性に影響を与えるのです。
では、実際にがん治療は将来的な「妊娠」にどのような影響を与えるのでしょうか?詳しく見てみましょう。

女性への影響

女性のがん治療による影響には次のようなものが挙げられます。

・手術

女性が妊娠するために必要なのは卵子を育て排卵を行う「卵巣」、受精卵が着床して胎児を育てる「子宮」です。
20歳代後半頃から発症者が増える子宮頸がんは早期段階であれば病変部だけを切除するのみの治療が行われるため、卵巣や子宮へは影響を与えません。ですが、子宮頸がんは進行すると子宮内へと広がっていくもの…。病変部を切り取っただけの治療では不完全となり、子宮や卵巣・卵管、周辺のリンパ節までを広範囲に切除する手術が必要となります。そうなれば当然、卵巣も子宮もない状態となるため妊娠することはできなくなります。
また、子宮や卵巣とは直接的な関係はない大腸がんなども手術によって子宮や卵巣、卵管などに癒着が起こると深刻な不妊症を引き起こすことも少なくありません。

・化学療法

化学療法で用いられる抗がん剤は、がんの細胞にダメージを与えてがんを小さくする働きがあります。ですが、抗がん剤が攻撃する細胞はがん細胞だけとは限りません。多くの抗がん剤は正常な細胞にもダメージを与えることでさまざまな副作用を引き起こします。
とくに乳がんや悪性リンパ腫などの治療に用いられるアルキル化剤と呼ばれるタイプの抗がん剤は、卵巣に深刻なダメージを与えることが知られています。その結果、卵巣での女性ホルモンの分泌が著しく低下して月経が巡ってこなくなったり、早い段階で閉経してしまったりすることも…。自然な妊娠は叶わなくなります。
また、乳がん治療で広く行われるホルモン療法は卵巣の老化を促す効果があるとされており、卵巣機能の低下から不妊の原因になることも少なくありません。

・放射線治療

放射線治療とは、身体の表面や身体に埋め込んだ機器などからがんにめがけて放射線を照射し、がんの縮小を図る治療方法のことです。単独で放射線治療のみを行うこともあれば、手術後の再発を予防したり、手術前にがんを少しでも縮小させたりするために行うこともあります。
しかしながら、放射線もまたがん以外の細胞にダメージを与えてしまうもの。治療中に浴びる放射線の量によっては、卵巣の機能が低下して永久的な不妊を引き起こすことも…。とくに、白血病などの治療として骨髄移植を行う際に実施される全身への放射線照射は、卵巣の機能を著しく低下させます。また、子宮がんなど卵巣に近い部位に存在する臓器への放射線治療もまた、卵巣の機能を低下させる可能性があります。

男性への影響

男性のがん治療による影響には次のようなものがあります。

・手術

若い男性に多く見られる精巣がんは基本的に手術による切除が行われます。そのため、両方の精巣にがんを発症した場合は、どちらの精巣も切除することになるため精子を作ることができなくなるため、永久的な不妊に陥ります。
また、妊娠を叶える男性側の因子として大切なのは、健康的な精子の生成が行われるだけでなく、性行為の際に勃起するかどうか。大腸がんなど下腹部の手術をすると勃起を引き起こす神経にダメージを与えることがあります。そのため、術後にED(勃起不全)となることで、自然な妊娠が不可能となることも思いのほか少なくありません。

・化学療法

アルキル化剤などをはじめとしたタイプの抗がん剤は、精巣に深刻なダメージを与えることが分かっています。その結果、精巣が萎縮して精子の産生量が少なくなったり、中には全く精子が作られなくなるケースも…。こうなってしまえば、不妊を引き起こすことになります。
現在では副作用の少ない抗がん剤も多く開発されていますので、万が一抗がん剤の副作用で精子の生成に異常が生じたとしても、数年で回復していくことが半数以上とのこと。その一方で、多くの抗がん剤を投与したり、アルキル化剤など精巣にダメージを与えやすい抗がん剤を使用したりすると、永久的に精子が作られなくなってしまうこともあります。

・放射線治療

精子は元来、放射線のダメージに弱い臓器の一つ。女性の場合と同じく、骨髄移植前の全身照射や精巣に近い部位への照射線治療などを行うことで精巣にダメージを引き起こすとされています。
とくに、多くの放射線を浴びた場合には、精子のもとになる「精母細胞」が完全に破壊されてしまうため、その後どのような治療を行ったとしても妊娠を叶えるのは難しくなります。

子どもへの影響

まだまだ「妊娠」は先の話…と思っていても、がんの治療によって妊孕性に影響が生じるのは子どもの同じです。
とくに子どもは抗がん剤や放射線への感受性が強いため、大人よりも少量で卵巣や精巣にダメージを与えることに…。その結果、卵子や精子が正常に作られなくなることで将来的な不妊に陥ることも少なくありません。
ですが、すでに思春期に入って夢精や月経のある方でなければ、子どもの妊孕性を意識する機会は少ないのが現状でしょう。多くは医師と保護者が妊孕性の喪失というリスクを知りつつも、「救命」のために治療を行うことを選択します。そのため、子ども時代にがんを発症して治療を受けた方の中には、治療によって妊孕性が行われたことを知らず、パートナーができたり結婚したりして「妊娠」を意識するようになり、はじめて問題となるケースも少なくありません。

がん治療をしても…将来的な妊娠を叶えるには?

このように、男性も女性も子どもも、がん治療には将来的な妊娠の可能性を低くするさまざまなリスクがあります。とはいうものの、妊孕性の低下という副作用があるとしても、命を守るためのがん治療は必須。これまで、若くしてがんを発症した多くの方が、泣く泣く妊娠を諦めてきました。しかし、近年では若いがん患者に将来的な妊娠の可能性を残すべく、がん治療を行う前に適切な処置を講じる「妊孕性温存治療」が広く行われるようになっています。
では、具体的にはどのような治療が行われているのでしょうか?詳しく見てみましょう。

女性・女児の妊孕性温存治療

女性の妊娠に関わる臓器は卵巣と子宮の2つ。そのどちら一方が強いダメージを受けたり、失われたりすると妊娠することはできなくなります。

・手術方法の工夫

胎児を育てるための子宮は、通常抗がん剤や放射線によるダメージを受けにくいものです。ですが、子宮頸がんを発症した場合は進行すると子宮全体を摘出しなければならないことも…。将来的に妊娠を希望するケースでは、妊娠に影響がないよう子宮頚部のごく一部のみをくり抜くように切除する「子宮頚部円錐切除術」が選択されます。ただし、この術式は早期の段階のがんにしか適応になりません。もう少し進行した子宮頸がんに対しては子宮頚部のみを広範囲に切除し、残った子宮と膣をつなぎ合わせることで妊孕性を維持しようとする手術が行われることもあります。

・卵子などの冷凍保存

一方、卵子を成熟させて排卵が生じる卵巣は抗がん剤や放射線のダメージを受けやすいもの。完全にダメージを予防する方法はありません。そのため、治療前に卵子や卵巣の組織などを冷凍保存する治療が勧められています。思春期以前の子どもの場合、早急に治療を行うべき場合などは卵子の元となる卵母細胞が含まれる卵巣組織の凍結が行われます。一方、思春期以降の未婚女性は卵子、既婚女性はパートナーの精子と人工授精させてある程度成長させた胚の冷凍保存が選択されるとのこと。
とくに治療前に冷凍した胚によって無事に妊娠し、出産した方は非常に多く妊娠率が高いことが分かっています。が、凍結した卵子を用いての妊娠率は4.5~12.9%に過ぎず、冷凍した卵巣組織を用いて出産まで至ったのはわずか60件とのこと。
冷凍保存を行ったからといって必ずしも妊娠に至ることができるわけではありません。ですが、ほぼ0%の妊娠率から少しでも妊娠できる可能性が高くなることは、患者にとって大きな希望の光となるでしょう。

男性・男児の妊孕性温存治療

男性の妊娠に関わる臓器は精巣です。精巣は卵巣と同じく抗がん剤や放射線によるダメージを受けやすいためがん治療を始める前に精巣などを採取し、凍結保存する治療が行われます。
通常に射精できる方であれば、採取した精子を凍結保存することが可能です。ですが、射精ができない方、EDの方などは精子を採取するための処置が必要になることも…。具体的には、針を精子の通り道に刺して精子を直接吸引する方法、精巣の一部を切開して精子を取り出す方法などによる「精巣精子採取術」が行われます。
一方で、思春期前の射精がない男児の場合には、精巣組織自体を凍結する治療が行われます。しかし、冷凍した精巣組織を用いて、実際に出産まで達成したケースは現時点ではないとのこと。まだまだ研究段階の治療法と言えます。

子どもの妊孕性温存治療は難しい…?

このように、女性も男性も適切な妊孕性温存治療を受けることで将来的に子どもを持つことができる可能性はグンと高まります。
ですが、思春期前の子どもに対する妊孕性温存治療の効果は高くありません。また、実際に妊娠を希望する年齢に達するまで長期間を要する場合には、冷凍保存の管理料や更新料が必要になるケースもあるため経済的な面で問題を生じることも…。
さまざまな面で子どもの妊孕性温存治療は困難なケースも多いのが現状です。

妊孕性温存治療にはどれくらいの費用がかかるの?

若くしてがんを患った方にとって、妊孕性温存治療の進歩と普及は大きな転機と言えます。
つらいがん治療を始めると同時に、将来自分の子どもを持つことを諦めなければならなかい…こんな悲しい思いをしてきた方も少なくありません。
ですが、妊孕性温存治療には高額な費用も掛かります。具体的にどれくらいの費用がかかるのか詳しく見てみましょう。

数十万単位の費用も…?

生殖細胞の凍結保存は基本的に保険診療とはならないため、費用は高額になります。医療機関によって費用に差はありますが、採取に高度な技術が必要な卵子は採取して冷凍保存するまでに15~30万円ほどかかるのが相場。さらにパートナーとの精子と人工授精させて培養した胚の状態で冷凍保存するには20~50万円ほどかかります。そして、卵巣や精巣の組織を冷凍保存するには手術もすべて含めて60万円近くの費用が必要となります。
一方、射精して採取した精子の冷凍保存は1万円前後が相場とのこと。
どのような細胞や組織を冷凍保存するかによって費用は違いますが、このほかにも毎年数万円単位の更新料がかかるケースも…。さらに冷凍保存した細胞や組織を用いて妊娠にトライするにはまた別に高額な費用が必要となります。

助成制度もあるの?

ただでさえがん治療で経済的な負担を強いられる中、妊孕性温存治療でも高額な費用がかかるとなれば、妊孕性を諦めてしまう方もいるかもしれません。
そこで、日本には妊孕性温存治療を行う方のためのさまざまな女性制度が整いつつあります。
近年、がんの種類に関係なく申請することができる独自の助成金制度を設置する自治体が増えています。助成される金額は男性が3万円程度、女性が25万円程度を上限とするなど全ての費用を賄うことがわけではありませんが、経済的な負担を少しでも軽減することが可能です。
また、血液のがんに対する骨髄移植や抗がん剤治療など妊孕性を損なう可能性が極めて高い治療を行う場合には、「NPO法人 全国骨髄バンク推進連絡協議会」が男女ともに妊孕性温存治療にかかる費用や保存費用、交通費の一部などを助成する基金を立ち上げています。
これらの助成金を申請するには、年齢や世帯年収制限などがある場合もありますが、申請できるものは積極的に活用するようにしましょう。

将来的な「妊娠」の希望となる妊孕性温存治療はがん治療の一部!

妊孕性温存治療の技術は日々進歩し、これまでがん治療のために妊娠を諦めざるを得なかった方が自分の子どもを持つことも可能な時代となっています。
将来的に妊娠を希望する方ががん治療を受ける時には、主治医だけでなく産婦人科や泌尿器科の医師ともよく相談しながら妊孕性温存治療を受けるか決めることが大切です。治療を受ける場合は高額な費用が必要となります。近年ではさまざまな助成制度がありますので、申請できるものはうまく利用して経済的な負担を軽減しながら治療に取り組むとよいでしょう。
子どもに対する妊孕性温存治療はまだまだ研究段階で難しい面もありますが、更なる研究が進み有効な治療法が確立することが望まれます。

参考資料

国立がん研究センター がん情報サービス がん登録・統計 最新がん統計 
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター AYA(思春期・若年成人)世代がんへの取り組みについて 
https://www.nnh.go.jp/hospital_department/dept11/generation_cancer/
国立がん研究センター がん情報サービス 子宮頸がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/
国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/
公益社団法人日本産科婦人科学会 不妊症
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15
日本がん・生殖医療学会 がんと妊娠の相談窓口
http://www.j-sfp.org/ped/dl/cancer_consultation_brochure_jp.pdf
三重がん・生殖医療ネットワーク 費用・助成金について
https://www.medic.mie-u.ac.jp/oncofertility/grant.html
福島県庁 がん患者支援事業(妊孕性温存治療費助成事業)について
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045c/ninnyousei-onnzonn.html

執筆者 成田 亜希子 医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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