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がん患者とリハビリテーション

更新日: 2020/03/29

リハビリテーション(rehabilitation)とは、「re(再び)+habilis(適した)」から生まれた言葉。身体面や精神面だけでなく、社会生活を送る上でも様々な機能をその人に最も適した水準まで回復させることを目標とした治療の一つです。
これまで、リハビリテーションは外傷など元の状態に戻る可能性が高い疾病に対して積極的に行われてきました。このため、病状が進行する「がん」はリハビリテーションの対象となることはほとんどなかったといっても過言ではありません。
しかし近年、がん患者が自分らしくより良い生活を送っていくため、様々な面でのリハビリテーションが行われるようになってきました。
そこで今回は、がん患者とリハビリテーションの現状について詳しく解説します。

目次


がん患者にリハビリテーションが必要な理由とは?

日本人の2人に1人は一生のうちで一度はがんを発症するとされる昨今。私たちにとってがんは身近な病気の一つです。さらに、3人に1人はがんが原因で亡くなるとされており、発症してから亡くなるまでがんと向き合っていかなければならない方も少なくありません。
がんは重症度にもよりますが、がんを発症した局所だけでなく全身に様々な影響を及ぼします。また、治療によって失われる機能も多く、進行すると全般的な身体機能の低下が引き起こされることに…。精神的・社会的影響も見過ごすことはできません。
このため、がん患者はよりよい生活を送るため、失われた機能への適応、残っている機能の維持・向上を目指すことが重要であると考えられるようになってきたのです。欧米ではおよそ30年も前からがん患者のリハビリテーションが重要視されており、がんと診断された直後から様々なリハビリテーションを続けることで社会復帰を可能にし、がんになる前と同じような生活を送っている方も多いとされています。

Dietzの分類

1981年、アメリカのDietz医師はがんの進行段階によって次のようなリハビリテーションを行うべきであると提唱しました。

・予防的リハビリテーション

がんと診断された直後から、手術や化学療法、放射線療法による機能の低下や喪失を防ぐために行うリハビリテーションです。 治療を行う前や行った直後からできるだけ早く開始することが望まれるとされています。

・回復的リハビリテーション

がんの治療によって低下・喪失した機能を最大限に回復し、残った機能を維持・向上することを目的としたリハビリテーションです。

・維持的リハビリテーション

がんの再発や転移などによって全身の様々な機能の低下・喪失が同時に進行する患者に対し、長期臥床などによる関節拘縮・筋委縮・筋力低下・褥瘡を引き起こさないよう自助具を用いたセルフケアなどを行っていくリハビリテーションです。

・緩和的リハビリテーション

末期がん患者が身体的・精神的・社会的により良い生活を送ることができるよう患者の希望を尊重しながら、疼痛や呼吸困難、むくみといった終末期特有の症状を緩和し、マッサージやリラクゼーション、動作の訓練などを適宜行うリハビリテーションです。


日本では2012年に政府によるがん対策推進基本計画において「がんと診断された時からの緩和ケア」が提唱され、さらに2018年には「がんのリハビリテーション」の重要性も明記されました。
すでに30年以上前からがん患者のリハビリテーションを行ってきた欧米と比べると遅れをとってはいるものの、今後はがん患者に対するリハビリテーションが益々広がっていくことが予想されます。

がんの治療とリハビリテーション

がんのリハビリテーションは、がんそのものによる機能低下を対象に行うものと治療の過程で生じる機能低下を対象に行うものがあります。 「がんそのものによる機能低下」とは、脳転移による麻痺や言語・嚥下障害、骨転移による骨折や痛み、脊髄転移による直腸膀胱障害などが挙げられます。これらの機能低下はがんそのものによる障害であるため、発症を避けることができないケースも少なくありません。

一方、「がん治療の過程で生じる機能低下」とは、化学療法・放射線療法による体力の消耗、手術後の肺炎などの合併症、神経麻痺など手術による後遺症、抗がん剤による様々な副作用など多岐に渡ります。これらの機能低下はがんそのものを治癒に導く可能性がある反面、がん患者のQOLを著しく低下させることにつながりかねません。このため、がんのリハビリテーションでは治療前や治療直後から終末期を通してリハビリテーションを行い、これらの機能低下を予防することが大切であると考えられているのです。

では、がんの代表的な治療である「手術」・「化学療法」・「放射線療法」に対してそれぞれどのようなリハビリテーションが行われているのか詳しく見てみましょう。

「手術」に対するリハビリテーション

「手術」による機能低下に対するリハビリテーションは手術前に行うものと手術後に行うものに分けられます。
まず、手術前に行うリハビリテーションはDietzの分類の「予防的リハビリテーション」に含まれます。この時期のリハビリテーションでは、術後に備えて呼吸機能を高める訓練や術後の痛みを緩和する腹式呼吸法の練習など身体的なリハビリテーションももちろん大切です。しかし、最も大切なのは、手術直後からのリハビリテーションの重要性をよく理解し、手術やその後の生活に対する不安、悩みなどを和らげること。手術前からリハビリスタッフとよくコミュニケーションと取り、手術後はスムーズにリハビリテーションを行うことができるよう準備しておきましょう。

一方、手術直後に行うリハビリテーションは、早期離床による筋力低下予防や肺塞栓症などの合併症予防などのほか、乳がんや四肢に発生したがん、脳腫瘍の手術のように運動機能の低下を引き起こすものに対しての歩行訓練や関節運動なども含まれます。
これらのリハビリテーションは手術による合併症や後遺症を防ぎ、手術によって低下した機能の維持・向上が目的です。がんの種類や受ける手術によって、手術後に必要となるリハビリテーションは異なりますので、どのようなリハビリテーションを取り入れるのか主治医や理学療法士とよく話し合って自身のペースに合わせて進めていきましょう。

「化学療法」と「放射線治療」に対するリハビリテーション

化学療法や放射治療は大きく進歩しており、以前は助からなかった種類のがんであっても生存率が飛躍的に伸びたものも少なくありません。その一方で、化学療法や放射線はがん細胞を破壊したり増殖を抑えたりするものの、身体の正常な細胞にまで作用して様々な有害事象を引き起こします。
しかも、化学療法や放射線治療は手術のように一時に限定した治療ではなく、長く続けていくのが一般的です。このため、化学療法では吐き気や脱毛、口内炎、易感染性、手足のしびれなどの症状が現れることがあります。また、放射線治療では化学療法のような全身にわたる有害事象は現れませんが、放射線を照射した部位の周囲の組織も障害され肺炎や直腸・膀胱出血などを引き起こすことも少なくありません。

化学療法や放射線治療ではこれらの有害事象に長く悩まされることが多いため、慢性的な倦怠感や活動性の低下を引き起こし、筋力低下、抑うつ気分など身体的・精神的な影響を受ける方も多いとされています。
近年では、化学療法や放射線治療が終了して数年異常が経過したにも関わらず体力や持久力の低下に悩まされる「がん関連倦怠感」ががん患者の治療後のQOLを低下させるとして積極的にリハビリテーションを行うことが推奨されるようになっています。
具体的には、ウォーキングやエアロバイクなどの有酸素運動を週3~5日20~30分行うと体力の維持や向上につながるとされており、化学療法や放射線治療を行っている時から治療を終了した後も引き続き行うのが一般的です。
そのほか、治療中には起こりうる様々有害事象の辛さを和らげるためのリハビリテーションが行われます。有害事象の程度や種類は個人差が大きいため、医師、看護師、理学療法士、薬剤師、栄養士などがチームとなって患者ひとりひとりに合わせたリハビリテーションを遂行していきます。

緩和的リハビリテーションとは?

終末期を迎えたがん患者は体力が著しく低下し、がんによる強い痛みや薬の副作用による食思不振など様々な症状が現れてきます。このため、活動性が低下して寝たきり状態となったり、食事を摂れずに中心静脈栄養や経管栄養などを行わざるを得ない方も少なくありません。
現在では終末期を迎えた患者であっても、最期のまで自分の力で動き、食事や会話を楽しむことができるよう患者の希望を尊重しながら積極的にリハビリテーションを行うべきであるとの考え方が一般的です。
しかし、末期がん患者はがんの痛みに悩まされ、がんそのものがエネルギーを消費するため少し動くだけでも大変な体力を消耗します。リハビリテーションを行う場合は、薬で痛みを和らげる「緩和ケア」を行い、より早い段階から生活の中に取り入れていくことが大切です。また、自分の足で立つことができなくなった場合でも、寝たきりになることは避け、歩行器や車いすなどを使ってできるだけ自分で動けるようにすること、手すりなどを使って自分で上半身を起こすことができるようにすることを目標としたリハビリテーションを続けていきます。

退院後の生活

「病院から在宅へ…」という政府が主導する医療の方針に伴い、がん患者であっても自宅から通院しながら治療を続ける方も増えています。
もちろん、自宅へ退院した後も入院中と同じく筋力や体力、持久力の低下を予防するためのリハビリを続けていくことは大切です。通院でリハビリテーションを受けることもできますが、退院前に医師や理学療法士と話し合って日常生活の中でどのような運動を取り入れていくのが望ましいか確認しておきましょう。その際には、家族の方も話し合いに参加し、患者を取り巻く環境の整備などもチェックするのが望ましいです。
また、自分の力で動いたり食事をしたりすることができない方は、家族がベッド上での関節可動域訓練やマッサージなど簡単なリハビリテーションを続けることが大切です。そのほかにも、介護保険制度を用いた訪問リハビリテーションなどを利用して、残っている機能の維持・向上を目指す専門的なリハビリテーションを自宅で受けることもできます。

まとめ

がん患者は診断が下されて治療を開始する前から終末期を迎える時までそれぞれの段階に合ったリハビリテーションを続けていくことが大切です。適切なリハビリテーションを続けることで、身体機能の低下や喪失を阻止し、QOLの向上を目指すことができます。
がんを患っても最期までよりよい生活を送ることができるよう、医師や理学療法士の指導に従って自身の考えも取り入れながら積極的にリハビリテーションを続けていきましょう。

参考文献

慶應義塾大学病院KOMPAS 悪性腫瘍(がん)のリハビリテーション
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000145.html (2020年3月閲覧)
公益社団法人日本理学療法士協会 がん理学療法の取り組み
http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/topics/topics_jspto201901.pdf (2020年3月閲覧)
公益社団法人日本理学療法士協会 No.21 特集「がんと理学療法」 
http://www.japanpt.or.jp/general/tools/pr_magazine/egao21.html (2020年3月閲覧)
国立がん研究センターがん情報サービス がんの療養とリハビリテーション 
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/rehabilitation/reha01.html (2020年3月閲覧)
厚生労働省 在宅医療・介護の推進について 
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/zaitakuiryo u_all.pdf (2020年3月閲覧)

執筆者 成田 亜希子  医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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