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更新日:2026/08/04

がん患者とリハビリテーション

がんやがんの治療は、身体機能だけでなく精神面・社会面にも大きな影響を及ぼします。こうした影響に対応し、日常生活動作(ADL。食事・移動・入浴など日常の基本的な動作)の維持・向上を目指す医療が「がんのリハビリテーション医療」です。

がんのリハビリテーション医療は、診断直後から緩和ケアの段階まで、あらゆる治療時期に対応します。この記事では、リハビリテーションの4区分・治療別のリハビリの考え方・緩和的リハビリテーション・退院後に使える制度を、国立がん研究センター がん情報サービスなどの一次情報をもとに解説します※1。

この記事でわかること

  • がんのリハビリテーション医療の定義と目的
  • 予防的・回復的・維持的・緩和的の4区分の違い
  • 手術・薬物療法・放射線療法それぞれのリハビリの考え方
  • 緩和的リハビリテーションと緩和ケアの関係
  • 退院後に利用できる通院リハ・訪問リハ・介護保険の仕組み

がん患者にリハビリテーションが必要な理由とは?

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性で61.1%、女性で50.1%(2023年全国がん登録罹患データ)とされています※2。がんは多くの人にとって長期にわたって向き合う病気です。

がんは局所の病変にとどまらず、痛みや食欲低下・息苦しさ・だるさなど、全身のさまざまな機能に影響を与えます。さらに治療そのものも身体機能に大きな負荷をかけることがあります。こうした心身・社会面への影響に対応するため、がんのリハビリテーション医療が行われます※1。

国立がん研究センター がん情報サービスは、がんのリハビリテーション医療を「がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために受ける医療」と定義しています※1。多職種のチームが連携して対応するのが特徴で、リハビリテーション科医・看護師・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)・管理栄養士・メディカルソーシャルワーカー(MSW)・ケアマネジャーなどが関わります※1。

がんのリハビリテーション医療の4区分

がんのリハビリテーション医療は、治療の時期と目的によって4つに区分されます※1。

がんのリハビリテーション4区分(予防的・回復的・維持的・緩和的)を時系列で示したフロー図
がん診断から緩和段階まで、4つのリハビリテーション区分が連続して対応する
区分 時期・対象 主な目的
予防的リハビリテーション 治療開始前・直後 合併症・後遺症を事前に防ぐ
回復的リハビリテーション 治療と並行 身体機能の回復を促進する
維持的リハビリテーション 再発・転移時 現在の機能を維持し低下を防ぐ
緩和的リハビリテーション 症状緩和中心の時期 QOL(生活の質)と自分らしい生活を維持する

これらの区分は連続したものであり、治療の経過とともに重点が移行していきます。どの時期にどのリハビリを受けるかは、主治医やリハビリテーションスタッフと相談しながら決めていきます。

また、厚生労働省のがん対策推進基本計画(第2期計画、2012年6月閣議決定)では「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点課題として明記されており、リハビリテーション医療もこうした施策の流れのなかに位置づけられています※3。

がんの治療とリハビリテーション

がんのリハビリテーションが対象とする機能低下には、「がんそのものによる機能低下」と「がん治療の過程で生じる機能低下」の2種類があります※1。

がんそのものによる機能低下としては、痛み・食欲低下・息苦しさ・だるさなどが代表的です。一方、治療に伴う機能低下は、手術・薬物療法(化学療法)・放射線療法それぞれの副作用や後遺症によって生じます。治療はがんへの直接の働きかけである一方、患者さんのQOLを著しく低下させることもあり、リハビリテーション医療はこの悪影響に対処する役割を担います※1。

手術に対するリハビリテーション

手術に対するリハビリテーション医療は、術前と術後に分けて行われます※1。

術前のリハビリテーションでは、腹式呼吸法の訓練や専用の器具を使った呼吸リハビリテーションを行い、術後肺炎の予防を図ります。また、手術後のリハビリテーションの重要性を事前に理解し、リハビリスタッフとコミュニケーションをとっておくことも大切とされています※1。

術後のリハビリテーションでは、手術後できるだけ早くベッドから離れて生活すること(早期離床)が推奨されています。早期離床は、筋力低下・肺塞栓症などの合併症を防ぐうえで重要です※1。がんの種類や手術の内容によって必要なリハビリテーションは異なるため、主治医や理学療法士と十分に話し合って進めていきます。

なお、手術の副作用や後遺症についてはがん治療の副作用と合併症もあわせてご参照ください。

薬物療法・放射線療法に対するリハビリテーション

薬物療法(化学療法)や放射線療法は、長期間にわたって続けることが多い治療です。これらの治療中は、栄養不良・活動低下・がんによる栄養奪取(悪液質)が重なり、筋委縮・筋力低下の悪循環が生じることがあります。運動療法と栄養管理はこの悪循環を遮断する手段として推奨されています※1。

化学療法後も長期間続く倦怠感・だるさはQOLを著しく低下させます。がん情報サービスでは、運動療法として「週150分以上の中等度の有酸素運動」と「週2〜3日(1日おき)、上半身・下半身の大きな筋肉を中心とした筋力トレーニング(1日8〜12回を目安)」が紹介されています※1。これは「がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版」(日本リハビリテーション医学会、2019年)をもとにした記述です※1。

ただし、この数値はあくまでも参考であり、治療中の体調・個人差によって無理なく継続することが大前提です。具体的な運動の種類・強度・頻度は、必ず主治医や理学療法士に相談してから実施してください。

がんと運動の関係についてはこちらの記事もご参照ください。→がんと運動について

有害事象の種類と程度は患者さんによって異なるため、リハビリテーション科医・看護師・理学療法士・管理栄養士・薬剤師など多職種のチームが連携し、一人ひとりの状態に合わせて対応します※1。

緩和的リハビリテーションとは?

がんが進行して症状緩和を中心とする医療の時期に入っても、リハビリテーションは継続されます。これを「緩和的リハビリテーション」といいます。体力が著しく低下した状況においても、患者さん本人の要望を尊重しながら、残っている能力を活かして身体・精神・社会的な生活の質(QOL)の維持を目指します※1。

緩和的リハビリテーションの目標は機能の「回復」ではなく、「動く・食べる・排泄する・会話する」という自分らしい生活動作の継続です。歩行器や車いす・手すりなどの補助具を積極的に活用し、できるかぎり自分で動ける状態を保つことが重要とされています※1。また、環境整備・姿勢の工夫・定期的な軽い運動の指導などにより、横になっている時間が長くなることを防ぎます※1。

緩和的リハビリテーションは「緩和ケア」と組み合わせて行われます。緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者さんとその家族に対し、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価・対処することで、苦痛を予防し和らげることを通してQOLを向上させるアプローチです(WHO 2002年定義の日本緩和医療学会定訳)※4。痛み・息苦しさ・精神的な苦しみなどを和らげることで、リハビリテーションを続けられる土台をつくります。

緩和ケアは終末期だけに行われるものではなく、「がんと診断された時から始まる」ものとされています※5。早い段階から緩和ケアとリハビリテーション医療を並行して受けることで、自分らしい生活をより長く維持できるとされています。

進行するがんにより呼吸困難が生じる患者さんは多く、座位姿勢の工夫・腹式呼吸の練習・軽い運動による気管支拡張の促進などのリハビリテーションが行われます※1。緩和ケア病棟(ホスピス)においてもリハビリテーションの利用は可能です※1。

緩和医療について詳しくはこちらをご参照ください。→緩和医療とは

退院後の生活

がん治療の進歩と「病院から在宅へ」という医療の流れのなかで、自宅で療養しながら通院治療を続ける患者さんが増えています。退院後も身体機能の維持・向上を目指すリハビリテーションを継続することが大切です※1。

通院リハビリテーションと訪問リハビリテーション

自宅に退院する際には、医師・理学療法士が身体機能の状態と自宅の環境を評価し、日常生活動作(ADL)を維持・向上するためのアドバイスと在宅リハビリテーション計画を立てます※1。退院前に家族も話し合いに参加し、自宅環境の整備を確認しておくことが望ましいとされています※1。

退院後に利用できる通院リハ・訪問リハ・介護保険・相談窓口の体系を示したツリー図
医療保険・介護保険・相談窓口を組み合わせて退院後のリハビリテーションを支える

退院後に利用できる主なリハビリテーションの枠組みは以下のとおりです※1。

保険制度 サービスの種類 主な特徴
医療保険 通院リハビリテーション 病院・クリニックに通院して受ける
介護保険 訪問リハビリテーション PT・OT・STが自宅に訪問して行う
介護保険 通所リハビリテーション(デイケア) 施設に通所してリハビリを受ける

介護保険とがん患者(40〜64歳も申請できる場合がある)

介護保険は65歳以上の方が対象のイメージがありますが、40歳から64歳までのがん患者さんも、がんの治療が難しくなり生活で何らかの介護が必要になった場合には介護保険を申請できる場合があります※1。これは、介護保険の第2号被保険者(40〜64歳)が「特定疾病」に起因する要介護状態の場合に介護保険を利用できると定められており、がんはこの特定疾病16種のひとつとして含まれているためです※6。申請書の病名欄には「がん」と記載します※1。

介護保険で利用できる主なサービスには、訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・通所リハビリテーション・短期入所・福祉用具の貸与・住宅改修などがあります。自己負担は基本1割(所得により2〜3割)です※1。

家族の関与と相談窓口

自分の力で動いたり食事をしたりすることが難しい患者さんには、家族がベッド上での関節可動域訓練やマッサージなど簡単なリハビリテーションを継続することが大切とされています※1。ただし、これは専門家(医師・理学療法士など)の指導のもとで実施することが前提です。

退院後のサービスや手続きについては、メディカルソーシャルワーカー(MSW)・かかりつけ医・ケアマネジャー・市区町村役場の介護保険課に相談することができます※1。

在宅医療・介護の詳しい仕組みについてはこちらをご参照ください。→がんと在宅医療・介護

まとめ

がんのリハビリテーション医療は、診断を受けた直後から症状緩和を中心とする時期まで、それぞれの段階に合った形で継続されます。「予防的・回復的・維持的・緩和的」の4区分はそれぞれ目的が異なり、多職種チームが連携して患者さんの状態に応じた対応を行います※1。

手術・薬物療法・放射線療法それぞれにリハビリテーションの役割があり、特に治療後の倦怠感や筋力低下に対する運動療法は、がんのリハビリテーション診療ガイドラインをもとにした参考値が示されています※1。ただし具体的な運動の内容は個人差が大きく、必ず主治医や理学療法士と相談したうえで取り組むことが重要です。

退院後は医療保険・介護保険を使ったリハビリテーションが選択肢になります。40〜64歳のがん患者さんも介護保険の特定疾病として申請できる場合があり、まずはMSWやケアマネジャーへの相談が一歩目です※1※6。

本記事でお伝えした内容はいずれも一般的な情報です。個々の患者さんの状態や治療経過によって、適したリハビリテーションの内容・時期・強度は異なります。必ず担当の主治医やリハビリテーションスタッフにご相談ください。

よくある質問

Q. がんのリハビリテーションはいつから始めるのですか?
A. がんの診断直後から始めることができます。治療開始前から合併症・後遺症を防ぐ「予防的リハビリテーション」があり、治療中・治療後・緩和ケアの段階まで継続されます。具体的な開始時期は主治医やリハビリスタッフと相談して決めます※1。
Q. 体力が低下して動くのがつらいときでもリハビリテーションを受けられますか?
A. 体力が著しく低下した時期にも「緩和的リハビリテーション」として、補助具の活用・環境整備・姿勢の工夫などを中心にリハビリテーションを継続することが可能です。緩和ケアとあわせて行われることが多く、患者さんの希望と状態を最優先にして進めます※1。
Q. 退院後は自宅でどのようにリハビリテーションを続けられますか?
A. 医療保険での通院リハビリテーション、介護保険での訪問・通所リハビリテーションが利用できます。まず退院前に医師・理学療法士に相談し、自宅の環境評価と生活での運動の取り入れ方を確認しましょう。メディカルソーシャルワーカー(MSW)も相談窓口です※1。
Q. 40代・50代でもがんで介護保険が使えますか?
A. 40歳から64歳のがん患者さんでも、がんの治療が難しくなり日常生活に介護が必要になった場合、介護保険を申請できる場合があります。がんは介護保険の「特定疾病」に含まれます。詳しくはケアマネジャーや市区町村の介護保険課に相談してください※1※6。
Q. 家族はリハビリテーションにどのように関わればよいですか?
A. 退院前から医師・理学療法士との話し合いに参加し、自宅環境の整備を確認することが推奨されています。動くことが難しい患者さんには、専門家の指導のもとで関節可動域訓練や簡単なマッサージを行うことも大切とされています※1。

本記事は2026年8月4日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。なお、記載の統計数値は集団を対象とした統計値であり、個々の患者さんの見通しを示すものではありません。

参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」(最終確認日: 2026年8月4日)
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」(最終確認日: 2026年8月4日)
  3. 厚生労働省「がん対策推進基本計画」(最終確認日: 2026年8月4日)
  4. 日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)定訳」(最終確認日: 2026年8月4日)
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(最終確認日: 2026年8月4日)
  6. 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」(最終確認日: 2026年8月4日)

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