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更新日:2021/05/29

がん患者と感染症

がん患者は抗がん剤や放射線治療によって、免疫細胞を産生する骨髄機能が低下するため免疫力も低下しがちなものです。また、それらの治療を受けていない人であっても、がん自体が骨髄機能にダメージを与えるケースも多々あります。
その結果、細菌やウイルス、真菌(カビ)などの病原体に感染しやすくなり、些細な原因で肺炎や腎盂腎炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。それらの感染症の悪化によって死に至るケースも少なくありません。がん患者と感染症は密接な関係にあり、がん患者には日常生活の中で様々な感染症を防ぐための対策を講じていく必要があります。
そこで今回は、がん患者がなぜ感染症にかかりやすいのか、その予防法と注意すべき疾患について詳しく解説します。

がんと免疫力の関係とは?

がん患者やがん治療中の人は免疫力が低下する傾向にあり、健康な人では問題にならないような些細なきっかけで感染症にかかりやすくなります。自身や家族など近しい人ががん患者である場合、感染症に注意するよう医師から注意を受けたことがある人も多いのではないでしょうか?
では、なぜがん患者は免疫力が低下しがちになるのでしょうか?がんと免疫力の関係を詳しく見てみましょう。

身体に「異物」を取り込ませない!

私たちの体内では、身体に害を及ぼすような「異物」が入り込まないよう常に免疫という作用が働いています。「異物」とは、感染症の原因となるウイルスや細菌、真菌などの病原体だけでなく、ホコリやチリ、アレルゲンなどのことも指します。
これら「異物」排除を行うのは、主に血液中の白血球に分類される好中球やリンパ球、マクロファージです。体内に「異物」が入り込むと、白血球やマクロファージが「異物」を攻撃して体内から排除しようとするのです。
また、血液中の細胞だけでなく、皮膚や粘膜も「異物」のバリア機能を発揮することで免疫に携わっていると考えられています。皮膚や粘膜には数多くの常在菌が潜んでいますが、通常では健康に害を及ぼすことはありません。が、ひとたびバリア機能が破綻して体内に常在菌が侵入してしまうと、肺炎など重症な感染症を引き起こすことがあります。

がんは免疫を破綻させる

末期がんや血液系のがんでは骨髄の機能が著しく低下して白血球など免疫を担う細胞が減少することで免疫力の低下が引き起こされます。また、抗がん剤や放射線も骨髄機能に影響を及ぼすものが多く、治療を行うことで免疫力の低下が見られるようになることも少なくありません。
さらに、抗がん剤や放射線は皮膚や粘膜に深刻なダメージを及ぼすことがあり、バリア機能の破綻を引き起こします。そのため、常在菌が体内に侵入しやすい状態となり、感染症を生じる引き金となることもあるのです。

がん患者は日和見感染症を発症しやすい?

日和見感染症とは、健康で正常な免疫力を持つ人であれば問題とならないような病原体が原因となって、重篤な肺炎などを引き起こす感染症のことです。日和見感染の原因となる病原体には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、緑膿菌などの細菌、アスペルギルス、カンジダ、ニューモチスティスなどの真菌が挙げられます。
がん患者やがん治療中の人で、著しい白血球数の減少などが起きている人は日和見感染症になりやすく、命に関わる危険もあるため特に注意が必要です。

がん患者の感染症予防とは?

白血球数の減少(好中球が500/μL未満)など血液検査で高度な免疫力低下が見られるがん患者はもちろんのこと、明らかな免疫力低下がない人であってもがんに罹患すると体力が落ち、治るまでに時間がかかってしまうこともしばしば。すべてのがん患者さんは適切な感染症予防を講じていくことが必要です。
では、実際にどのような対策を講じていけばよいのでしょうか?詳しく見てみましょう。

全てのがん患者に共通する予防策

免疫力に状態に関わらず、全てのがん患者に共通する感染症予防策には次のものが挙げられます。

  • ①手洗い、手指消毒

    病原体が体内に侵入するルートとして最も多いのが、病原体が手指に付着したまま口や目、鼻などに触れたり、料理をしたりすることです。いわゆる「接触感染」と呼ばれるもので、これを防ぐには手洗いや手指消毒を徹底することが大切です。
    病原体はドアノブ、電気スイッチ、エレベーターのボタン、つり革、トイレレバーなど日常生活の中で思わぬ場所に付着している可能性があります。もちろん、目には見えないものなので、帰宅したとき、トイレに行ったとき、調理前後、食事前などはしっかり石鹸で手を洗い、手指をアルコール消毒しましょう。最近では、アルコール消毒が設置されているトイレや手洗いも多いですが、外出時には持ち運びできる小型のアルコール消毒液を持ち歩くのが便利です。

  • ②マスクの着用

    感染症にかかった人の唾液や痰の中には多くの病原体が含まれています。咳やくしゃみをすると唾液や痰がしぶきとなって飛散し、それを吸い込んでしまった人に感染が拡がります。このような感染ルートを「飛沫感染」と呼びますが、予防するにはマスクを着用するしかありません。特に風邪やインフルエンザなどの感染症が流行っている時期、家族や職場など周囲に感染症にかかっている人がいるとき、公共交通機関や公共施設など不特定多数の人が出入りする場所を利用するときなどはマスクを正しく着用するようにしましょう。

  • ③予防接種

    インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンは、発症や重症化を予防する効果がありますので、がん患者は接種することをおすすめします。ただし、免疫力が著しく低下している場合には接種を控えなければならないこともありますので、まずは主治医と相談しましょう。

免疫力が著しく低下している人の予防策

免疫力が著しく低下している人は、上で述べたような基本的な感染症予防に加えて、次のようなことにも注意する必要があります。

  • ①食事

    免疫力が低下していると、食べ物に付着したわずかな細菌やウイルス、寄生虫でも重篤な感染症を引き起こすことがあります。食事はしっかりと火を通したものを食べるように注意し、サラダや果物、刺身、生焼けの肉、生ハム、半熟卵などは控えましょう。
    また、食事を作る時は生の食材が触れたまな板や包丁などが加熱した食べ物に付着しないように注意し、調理器具はその都度しっかり洗浄して熱湯、アルコールなどで消毒するようにしましょう。 そして、日本人が好んで食べる納豆も免疫力が落ちている人が食べるとよくないとの報告もあるため、控えた方が無難です。

  • ②ホコリやチリ対策

    室内のホコリやチリにも微小な細菌やウイルス、真菌などが含まれており、吸い込んでしまうと肺炎や気管支炎を引き起こすことがあります。室内はこまめに隅々まで掃除し、掃除中にホコリが待っている時は窓を開けて換気をし、マスクの着用を忘れないことが大切です。また、空気清浄機などを利用するのも一つの方法です。

  • ③ペット

    近年ではペットを飼っている家庭も増えていますが、犬や猫、鳥などには人間にはないトキソプラズマなどの病原体を持っていることがあります。がんに罹患する前からペットのお世話をしているという人も多いと思いますが、これらの病原体に感染すると命取りになってしまうことも少なくありません。糞などの世話はできるだけ家族に頼み、患者本人が行う場合には必ずビニール手袋、使い捨てエプロン、マスクなどを着用して処理後は速やかに外して手洗いをしましょう。
    また、ペットとの過度な交流も禁物です。口元をなめられたり、甘噛みをされたりしないよう注意しましょう。

  • ④外出を控える

    免疫力が著しく低下しているときは、むやみに外出するのは控えましょう。特に人ごみや電車などの密閉した空間は避けることが大切です。買い物などは家族に頼んだり、ネットスーパーを利用するなどして病原体を取り込まないように注意する必要があります。

  • ⑤口腔ケアを徹底する

    口の中には多くの細菌が存在しており、唾液と共に誤って気管内に流れ込むと「誤嚥性肺炎」を引き起こすことがあります。「誤嚥性肺炎」は寝たきりの高齢者に多い病気ですが、免疫力が著しく低下している人は些細なむせ込みなどで発症してしまうことがあります。
    「誤嚥性肺炎」を予防するためには、日頃から歯磨きなどの口腔ケアを徹底し、口の中を清潔な状態に保つようにしましょう。

がん患者がかかりやすい感染症は?

がん患者はあらゆる病原体による感染症に注意する必要があります。感染症にかかるリスクは好中球の数によって異なり、好中球数が少ないほどより厳重な感染予防策が必要となります。

好中球の数に注意!

好中球が500/μL以上の場合は、インフルエンザウイルスや肺炎球菌など健康な人にも感染症を引き起こすウイルスや細菌の感染に注意し、手洗いやマスクの着用など一般的な感染対策を行いましょう。
一方、好中球が500/μL未満になると、何らかの感染症にかかる確率が50%以上にも上り、その数が少なくなるほど確率が高くなるとの報告もあります。このような状態の場合には、健康な人では感染したとしても発熱などの症状を引き起こさないような緑膿菌、MRSAなどの細菌と真菌の一種であるカンジダの感染に注意する必要があります。
また、さらに好中球が100/μL以下になると、環境内にいる微量な細菌やウイルスに感染して肺炎や敗血症などを引き起こします。また、カンジダだけでなく、アスペルギルスやムコールなどの重篤な感染症を生じる真菌に感染する危険も高くなるのです。

感染症の再燃も?

感染症の中には、ヘルペスや帯状疱疹などのように一度症状が軽快したとしても病原体が体内に潜み続けるものや、結核のように感染したとしても何ら症状を引き起こさないまま体内で病原体が不活性化しているものもあります。
これらの感染症は、がんやその治療によって免疫力が低下すると病原体が活性化して非常に重度な症状を引き起こすことがあります。再燃や発症を予防するには、抗ウイルス薬や抗結核薬の予防的な内服が効果的ですので、過去に感染していることが分かった場合には予防的な治療を行うか否か、主治医とよく話し合って決めましょう。

まとめ

がん患者は感染症にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。感染症は重症化すると死にいたることもあるため、日頃からしっかり感染症対策を講じていくことが大切です。 がん治療の他に感染症対策…がん患者に必要とされることは多々ありますが、感染症によって中断することなく確実にがん治療を行うためにも、日頃から病状に注意してそれぞれに合った感染症対策をしていきましょう。

参考文献

(WEB)
医学書院 週刊医学会新聞第3179号 「目からウロコ!4つのカテゴリーで考えるがんと感染症」
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03179_07
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「日和見感染とは」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kansenshou/hiyorimikansen.html
国立がん研究センター東病院「日常生活での注意点」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/safety_management/about/kansen/020/030/20181002162544.html
慶応義塾大学健康管理センター「インフルエンザ予防のための手洗い、マスク、うがい」
http://www.hcc.keio.ac.jp/ja/health/2009/11/20091102.html
東京医科歯科大学 感染予防における食事指導
https://tmu.repo.nii.ac.jp/
恩賜財団済生会「口腔ケアで感染症予防」
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/oralcare/
医学書院 週刊医学会新聞第3191号「目からウロコ!4つのカテゴリーで考えるがんと感染症」
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03191_03
NCCN腫瘍学臨床実践ガイドライン「がん関連感染症の予防と治療」
http://www.jccnb.net/guideline/images/gl19prev.pdf
国立がん研究センターがん情報サービス「がん患者さんの感染症に対する予防」
https://ganjoho.jp/public/support/infection/index.html

執筆者 成田 亜希子 医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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