更新日:2026/08/21
肝細胞がんとは|症状や検査、治療、ステージなど
肝細胞がんについて、原因となる肝炎ウイルス・症状・検査と診断・病期と肝機能の評価・治療・再発と経過観察・生存率など、さまざまな観点から解説します。
肝細胞がんには、他のがんと大きく違う点があります。がんそのものだけでなく、肝臓がどれだけはたらけるか(肝機能)によって受けられる治療が決まることです。
この記事では、原因から検査、肝機能の評価、治療の選び方までを公的機関の情報にもとづいて整理します。
肝細胞がんとは
肝臓は腹部の右上にある体内で最大の臓器です。「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどありません※1。
肝細胞がんは、この肝細胞が悪性化したものです。日本の肝臓がんの90%以上を占めます※1。
日本では2023年に肝臓・肝内胆管がんと診断されたのが32,673例(男性22,325例・女性10,348例)でした。人口10万人あたりでは26.3(男性36.9・女性16.2)です※2。
転移性肝がん
他の臓器にできたがんが肝臓に転移したものです。肝細胞がんとは別のもので、原発腫瘍に準じた治療が行われます※1。たとえば大腸がんが肝臓に転移した場合は、大腸がんの治療として扱われます。
原発性肝癌
肝臓そのものから発生したがんです。このうち90%以上が肝細胞がんです※1。本記事が扱うのはこの肝細胞がんです。
胆管細胞がん
肝臓の中の胆管から発生するがんで、肝内胆管がんとも呼ばれます。肝細胞がんとは治療の考え方が異なります。胆管のがんについては胆管がんもあわせてご覧ください。
肝細胞がんの症状
初期段階では無症状のことが多いのが特徴です※1。「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんで、症状が出てから見つかるのでは遅いことがあります。
進行すると、腹部のしこりや圧迫感があらわれます※1。
このため、後述するようにリスクの高い方を定期的に検査していくという考え方が重要になります。
肝細胞がんの原因
主要なリスク因子は、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスの持続感染です※1。
そのほか、次のものも危険因子とされています※1。
- アルコール摂取
- 喫煙
- 肥満
- 脂肪肝
- 糖尿病
肝炎ウイルスの持続感染がある方は、自覚症状がなくても定期的な検査の対象になります。B型・C型肝炎やウイルス感染を伴わない肝硬変がある方には、3〜6カ月ごとの超音波検査や腫瘍マーカー検査を受けることが勧められています※3。
肝細胞がんの検査と診断
検査は段階的に進められます※1。
CT、MRI検査
超音波検査に加えて、造影CT・造影MRIが行われます※1。がんの大きさ・数・位置・血流の特徴を調べ、診断と治療方針の検討に用います。
肝細胞がんは画像の特徴で診断がつくことが多く、悪性の判定が不確実な場合に生検が実施されます※1。
腫瘍マーカー
肝細胞がんでは、次の3つが測定されます※1。
| 腫瘍マーカー |
|---|
| AFP(アルファ・フェトプロテイン) |
| PIVKA-II(ピブカ・ツー) |
| AFP-L3分画 |
ただし、腫瘍マーカーの値のみでがんの診断を確定することはできず、画像検査などの結果と併せて総合的に判断されます※3。
小さな腫瘍では、2種類以上の腫瘍マーカーを測定することが推奨されています※3。腫瘍マーカーの考え方については腫瘍マーカーとはもあわせてご覧ください。
血管造影検査
肝臓の血管に造影剤を入れて、がんへ向かう血流を調べる検査です。後述する肝動脈化学塞栓療法(TACE)を行う際にも用いられます。
肝細胞がんの病期(ステージ)
病期(ステージ)分類
肝細胞がんの病期はI期からIV期で分類されます※1。がんの大きさ・数・血管への広がり・転移の有無で決まります。
肝障害度分類、Child-Pugh分類
肝細胞がんで特徴的なのが、病期だけで治療が決まらないことです。
Child-Pugh分類(A/B/C)により肝予備能(肝臓がどれだけはたらけるか)を評価します※1。肝障害度も同様にA/B/Cで分類されます※1。
これらは治療選択に重要とされています※1。同じ病期であっても、肝機能が保たれているかどうかで受けられる治療が変わるためです。
肝細胞がんの多くは肝炎や肝硬変を背景に発生するため、がんを治療できても肝臓が持たなければ意味がないという事情があります。「なぜ手術ではないのか」と感じたときは、肝機能の評価がどうだったかを主治医に確認してみてください。
肝細胞がんの生存率・予後
肝臓・肝内胆管がんの5年相対生存率は35.2%(男性36.5%、女性32.4%)です。2018年に診断された方についての、全国がん登録生存率データによる数値です※2。
この数字を読むときは、次の点に注意してください。
- これは「肝臓・肝内胆管」という括りの数値であり、肝細胞がん単独の生存率ではありません。公的統計はこの括りで集計されています
- 病期別の数値は公表されていません。また肝細胞がんでは、がんの状態に加えて肝機能が見通しに影響します。ご自身の場合については主治医にお尋ねください
- 集団を対象とした統計値であり、個々の患者さんの見通しを示すものではありません
参考として、死亡数は2024年で22,465人(男性15,133人、女性7,332人)でした(人口動態統計死亡データ)※2。
肝細胞がんの治療法
肝細胞がんの治療は、肝機能と腫瘍の状態で決定されます※1。
治療の選び方 ― 5つの因子で決まる
日本肝臓学会の「肝癌診療ガイドライン 2021年版」では、肝細胞がんの治療アルゴリズムが5つの因子にもとづいて組み立てられています※5。
| 因子 | 内容 |
|---|---|
| 肝予備能 | Child-Pugh分類による肝機能の評価 |
| 肝外転移 | 肝臓の外への転移の有無 |
| 脈管侵襲 | 血管への広がりの有無 |
| 腫瘍数 | 単発/2〜3個/4個以上 |
| 腫瘍径 | がんの大きさ |
このガイドラインで推奨されている治療は、肝切除、穿刺局所療法(ラジオ波焼灼など)、肝動脈塞栓療法(TACE/TAE)、薬物療法、体幹部定位放射線治療、肝移植です※5。
治療アルゴリズムは、2005年版で肝障害度・腫瘍数・腫瘍径の3因子から始まり、版を重ねるごとに改定されてきました※5。ガイドラインは数年ごとに改訂され、治療方針が変わります。ご自身の治療がどの版のどの分岐にあたるのかは、主治医にご確認ください。
なお同ガイドラインは医療者向けに書かれたもので、一般向けの解説は用意されていません※5。本記事では分岐の考え方までを紹介しています。
手術(外科療法)
肝切除
がんのある部分の肝臓を切除します。3個以下が目安とされています※1。
切除できるかどうかは、がんの数・大きさ・位置に加えて、切除したあとに残る肝臓で機能が保てるかで判断されます。ここでChild-Pugh分類による評価が効いてきます。
肝移植
肝臓そのものを移植する治療です※1。がんと、その背景にある肝硬変の両方に対応できる方法ですが、適応の条件が定められています。
抗がん剤(化学療法)
肝細胞がんの薬物療法では、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬が用いられます※1。
手術や局所療法が難しい場合、あるいは転移がある場合の選択肢になります。抗がん剤一覧もあわせてご覧ください。
穿刺局所療法
体の外から針を刺して、がんを直接治療する方法です。ラジオ波焼灼療法(RFA)が推奨されています※1。
ラジオ波焼灼療法は、針の先端から出すラジオ波の熱でがんを焼く治療です。開腹手術より体への負担が小さく、がんの数や大きさが条件に合う場合に選択されます。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
もう1つの重要な治療が肝動脈化学塞栓療法(TACE)です※1。がんに栄養を送っている肝動脈に、抗がん剤と血管を詰まらせる物質を注入して、がんへの血流を止める治療です。
肝細胞がんは動脈から栄養を受ける性質があるため、この方法が成り立ちます。複数のがんがある場合などに用いられます。
放射線療法
肝細胞がんでは、穿刺局所療法(アブレーション)が難しい場合などに放射線治療が行われることがあります※1。主な方法として、病変に放射線を集中して照射する体幹部定位放射線治療(SBRT)や、陽子線・重粒子線による粒子線治療があります※1。
体幹部定位放射線治療は、肝機能が保たれている場合(Child-Pugh分類AまたはB)で、がんの大きさや個数などの条件に合うときに検討されます※1。粒子線治療を行える施設は限られています※1。ご自身が対象になるかどうかは主治医にご確認ください。放射線治療全般については放射線療法とはをご覧ください。
免疫療法
肝細胞がんは、免疫チェックポイント阻害薬が実際に用いられる部位の1つです※1。薬物療法の選択肢として、分子標的薬とともに挙げられています※1。
一方で、自由診療で提供されている免疫療法には効果が証明されていないものがあります。両者は別のものです。詳しくは免疫療法の比較をご覧ください。
陽子線治療
粒子線治療は、肝細胞がんの標準的な治療の柱ではありません。ただし条件が合えば選択肢になることがあります。
重粒子線治療では、大型肝細胞がん(4cm以上、混合型を含む)と肝内胆管がん(腫瘤形成性)が公的医療保険の適用対象となっています※4。大きさなどの条件が定められている点にご注意ください。
重粒子線治療
上記のとおり、大型肝細胞がん(4cm以上)は保険適用の対象です※4。保険適用外の肝細胞癌については、先進医療として実施される場合があります※4。
適応の詳細は重粒子線治療をご覧ください。ご自身が対象になるかどうかは主治医にご確認ください。
肝細胞がんの再発・転移
肝細胞がんで最も重要な点の1つが、再発の起こり方です。肝臓内の再発が90%以上を占めます※1。
これは、がんを取り切ってもその背景にある肝臓の状態(肝炎・肝硬変)が残るためです。新しいがんが別の場所にできることがあります。
そのため治療後は、3〜6カ月ごとに定期検査を行うことが推奨されています※1。長期的なサーベイランス(継続的な監視)が必須とされています※1。
「治療が終わったのになぜ何年も通うのか」と感じるかもしれませんが、肝細胞がんでは経過観察そのものが治療の一部といえます。定期検査で早く見つけられれば、体への負担が小さい治療を選べる可能性が高まります。
再発・転移の仕組みについてはがんの再発と転移はなぜ起こる?もあわせてご覧ください。療養中のつらさについては緩和ケアをご覧ください。
本記事は2026年8月22日時点の公的機関の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。記載の生存率は集団を対象とした統計値であり、個々の患者さんの見通しを示すものではありません。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肝細胞がん」(最終確認日: 2026年8月22日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計 肝臓」(最終確認日: 2026年8月22日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん(肝細胞がん) 検査」(最終確認日: 2026年8月22日)
- QST病院(量子科学技術研究開発機構)「重粒子線治療が適応となる疾患」(最終確認日: 2026年8月22日)
- 日本肝臓学会「肝癌診療ガイドライン 2021年版」(Mindsガイドラインライブラリ)(最終確認日: 2026年8月22日)


















