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更新日:2021/06/19

仕事とがん治療

がんを患っていても、経済的あるいは社会的な側面から仕事を続けたいと考える方も少なくありません。仕事の継続を望むがん患者が直面する悩みの一つに、職場への伝え方があります。入院治療や退院後の通院治療についても、職場の協力があれば仕事とがん治療を両立できる可能性があります。ここでは、がん患者と雇用側のそれぞれの視点から、仕事とがん治療の両立について解説していきます。

仕事とがん治療を両立するため職場に伝える時のポイント

がんであることが分かった人が仕事と治療を両立するためには、まず職場にがんであることを伝え、理解を得る必要があります。職場の誰にどう伝えるかが重要なポイントです。

職場の誰に伝えるか

国立がん研究センターによると、職場では主に上司と人事労務担当にがんのことを伝えるとよいとしています。 特に上司は、ともに仕事をしている相手であり、業務の量や内容をコントロールできる立場でもあるため、真っ先に伝えておくべき相手といえます。特にがんの治療中は、通院や入院、治療による体調不良などで仕事を休まなければならないことも出てきます。そのフォローをお願いするという意味でも、上司に相談しておくことは重要です。

次に相談すべきなのは、会社の人事労務担当者です。人事労務担当者は休職制度や福利厚生、給与面の知識が非常に豊富なので、入院で休む際に利用できる制度はあるか、その間の収入はどうなるかといった、がん治療との両立に伴う不安を相談できる相手です。

また、もし職場に産業医や産業看護職などの医療者がいる場合には、自分の病状を報告し相談することをおすすめします。医療従事者の視点から、体調や健康面、その変化に伴う働き方について一緒に考えてくれる存在です。困ったことがあった時や仕事中の急な体調不良の時などに、支援を得られるかもしれません。上司や人事労務担当者と情報を共有し、理解を得る際に間に入ってフォローしてくれることもあるので、相談しておくのがよいでしょう。

伝え方のポイント

いろいろな情報を長々と伝えても、一度に全てを理解してもらうことは難しいかもしれません。職場の人にがんのことを報告する時は、次の3つのポイントに沿って伝えるとよいでしょう。

1、「がんになった」という事実
がんの部位までは言いたくない場合は、がんになったという事実を伝えておきましょう。可能ならば、消化器のがん、泌尿器のがんなど大まかな部位を伝えるのもよいでしょう。

2、治療の見通し
これからの治療予定を伝え、治療に伴い長期休暇が必要なのか、通院日などに休みが必要なのか、早退や遅刻が必要なのかといった、今後の働き方を相談しておきましょう。

3、職場に復帰する見通し
特に入院などによって長期間休職する場合には、職場に戻れる時期のほか、復帰した時にどういった体調になっているか、予測される副作用について説明するとよいでしょう。

とはいえ、検査結果がなかなか出ないために治療計画が立たず、入院のめども立たないというケースも珍しくありません。そのような場合でも、休暇の申請や仕事の引継ぎなど、準備が必要なことは早めに会社に報告しておくと安心です。担当医に「予想されるシナリオ」を確認し、そのシナリオに沿った暫定的な見通しを上司や人事労務担当者に伝えましょう。その際は、今後の診断結果によって見通しが変わる可能性がある点もあわせて伝えます。

上司と人事労務担当者を交えて今後についての検討を

報告を済ませた後は、上司と人事労務担当者を交えて今後の働き方について検討することをおすすめします。上司によっては仕事の内容についての理解はあっても、社内の就業規則までは細かく把握していない場合もあるからです。なかには、がんになったことを上司に相談したら「好きなだけ休んでよい」と言ってくれたのに、実際には就業規則の休職期間を超えてしまい、自動退職になってしまったというケースもあります。

このようなことを防ぐためにも、上司と人事労務担当者を交えた面談の場を設け、就業規則をもとにどのくらい休むことができるのかなどをあらかじめ話し合っておくとよいでしょう。

仕事と通院治療を両立するためのポイント

入院治療が終了し、通院治療を継続しながら仕事に復帰してもよいと医師から認められた後の、仕事とがん治療を両立するためのポイントについてご紹介します。

休職

残念ながら、2021年現在にはがん治療に特化して法的に義務付けられた休職制度はありません。しかし、会社ごとに「病気休暇制度」や「休職制度」を設けている場合があります。まずは、自身が雇用されている会社(事業所)へ確認しましょう。休暇や休職の制度がなく、治療と付き合いながら働くという場合にも、治療による副作用を周囲に理解してもらうと安心です。

傷病手当金

休職できたとしても、治療費の心配がありますが、会社員や公務員などの加入する公的医療保険には「傷病手当金」の給付があります。

配置転換

実際に受けた治療方法によって現れる副作用は異なるため、状況に合わせて働き方を考えることも必要です。例えば、時差出勤やフレックスタイム制の活用も一つの方法です。会社がリモートワークや在宅ワークに対応している場合は、業務の一部を切り替えることを検討するのもよいでしょう。副作用による苦痛症状や免疫機能の低下による感染症など、通勤に不安があるがん患者にもおすすめです。

また、例えば営業職や接客業をしている人が、抗がん剤の副作用で髪の毛やまつ毛が抜け落ちたことで人と対面することが苦痛になった場合には、かつらやメイクなどを駆使して外見を整えるほか、しばらく営業や接客以外の仕事をするという方法もあります。

特に初めての治療ではどのような副作用が出てくるか分からず、不安になることも多いでしょう。主治医に相談して副作用の内容や程度を予想したり治療を一度経験したりして、自身の副作用を知ったうえで改めて仕事の内容などを調整していくことも重要です。

しかし、がんの当事者ではない上司には、治療による副作用の辛さをなかなか理解してもらえないこともあるかもしれません。患者自身が医師に治療の副作用について説明を受けた時のように、医療用語をかみくだいて説明したり、公的機関や医療機関のWebサイトに掲載されているがん情報を印刷して手渡したりと、理解を得られるように情報提供を行いましょう。

就職

がんについての企業側の理解が不十分で、がん患者というだけで採用には消極的で不採用になる場合もあります。また、就職後も、治療の状況によっては業務に支障を及ぼす可能性もあります。就職にあたっては、がんを伝えることは確実に必要ということはないですが、業務で考慮して欲しいことは事前に明確に伝え、自分にあった職場を探すことが大切です。

最近ではがん患者や障害者の雇用に特化した人材紹介会社もあり、治療への配慮を求人側に事前に伝えているので、仕事を探す手段として利用するもの一つの選択肢になります。病気は働き方に大きな影響を与えるので、患者が会社に対してがんに対して相談できる関係を築くことが大切です。

雇用者に求められる配慮と支援

がん患者を雇用する、あるいは従業員にがんであることを報告された場合には、雇用者側の配慮と支援が必要となります。

雇用者によるサポートは重要

がん治療は年々入院日数が短くなり、仕事をしながら通院によるがん治療を受ける方が増えています。その一方で、内閣府が行った「がん対策に関する世論調査」によると、がんの治療や検査のために2週間に1回程度病院に通う必要がある場合、働き続けられる環境だとは思わないと回答した人が約6割いることも分かっています。

がんの治療をしながら就労を継続することは、がん患者本人だけでなく雇用者や社会全体にとっても大きな課題です。雇用者は、被雇用者である従業員が仕事とがん治療を両立できるようサポートしていくことが大切です。

配慮すべきポイント

雇用者が、がん治療を受けている被雇用者(従業員)に配慮すべきポイントは3つあります。 1、話をしっかりと聞くこと
がんの種類や治療期間、治療内容などは可能な限り聞いておきましょう。がん治療の説明の中には専門用語もあり、説明を聞いても分からないものもあるかもしれません。そういった場合には、かみくだいた説明を求めたり、医療機関のパンフレットなどを提示してもらったりして理解していきましょう。ただし、がんの部位や進行度など具体的な病気の内容までは話したくない人もいるため、本人の意志を尊重しましょう。

2、就業規則を確認し、休める日数を提示すること
就業規則には休める期間などが明記されていますが、従業員やその上司のなかには正確に把握していない方もいます。人事労務担当者とも連携し、利用できる休職制度や具体的に休める日数を提示して、治療スケジュールを立てやすいように計らいましょう。また、復帰後も副作用や後遺症に応じて、治療と仕事が両立できるよう柔軟な働き方を検討することも必要です。

3、がんを理由とした解雇や減給をしないこと
なかには、がんを理由として不当に解雇したり、有給を使いきった後は通院のための休暇を全て減給扱いにしたりする会社もあります。しかし、それではがん患者が仕事とがん治療を両立することにはつながりません。がん患者が治療と両立しながら働きやすい環境を整えることが、雇用する側に求められています。

過去にがんに罹患した方が採用面接を受けに来た場合も、配慮が必要です。がん患者だけでなく、雇用を希望する人が病歴を話さずに採用面接を受けることについては、法的に何ら問題がありません。

また、もし雇用を希望する人が面接や履歴書において病歴を伝えてきた場合も、がんを理由に不採用にすることはあってはなりません。現在の健康状態や職務遂行能力、応募された職種とスキルが合っているかどうかなど、がんという病歴以外から総合的に判断していきましょう。

さまざまな職種の活用

事業所内にがん経験者がいない場合には、今いるスタッフだけでがん患者の気持ちや生活を理解するのは難しいかもしれません。そのため、産業医や保健師などの産業保健スタッフを配置する事業所が増えています。専門知識を持った産業保健スタッフと密に情報交換を行っていくことで、がん患者の気持ちや生活を理解できるだけでなく、職場復帰後のフォローや主治医との情報共有も可能となります。

職場にがん患者がいる場合や、これから新たにがん治療中の方を雇用することになった場合には、産業医や保健師などを配置し、連携に取り組むのもよいでしょう。

参考文献

国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部 AYA世代のがんとくらしサポート
https://plaza.umin.ac.jp/~aya-support/life/work/mab15/
国立がん研究センターがん情報サービス 診断から復職まで
https://ganjoho.jp/public/support/work/qa/all/qa01.html
国立がん研究センターがん情報サービス 復職後の働き方
https://ganjoho.jp/public/support/work/qa/all/qa02.html
横浜市 がん治療と仕事の両立に向けて
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/gan/taisaku/gan-ryouritsu.html
内閣府 「がん対策に関する世論調査」の概要
https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-gantaisaku/gairyaku.pdf
埼玉県 事業者向け がん治療と仕事の両立支援ポイントhttps://www.pref.saitama.lg.jp/documents/50429/20210414.pdf
国立がん研究センターがん情報サービス 新しい職場への応募
https://ganjoho.jp/public/support/work/qa/all/qa03.html

執筆者 岡部美由紀(看護師ライター)


埼玉県内および東京都内の総合病院での中央手術室勤務、クリニック勤務等のほか、IT関連企業にて10年間の勤務経験あり。 2011年よりライターに転向し、保健医療福祉分野を中心に「正しいことを分かりやすく」をスタンスとして、Webサイトでの記事作成、取材、紙媒体での原稿作成等を行う。 正看護師のほかにも、医療経営士3級、健康食品管理士を取得。

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