更新日:2026/08/05
がん治療生前線~がん遺伝子治療の発展とがん遺伝子パネル検査とは?
この記事でわかること
- 「がんゲノム医療」とは何か、従来の治療との違い
- コンパニオン診断とがん遺伝子パネル検査の違い
- パネル検査の対象となる患者さんと検査の流れ(生検→C-CAT→エキスパートパネル)
- 保険収載されているパネル検査の種類と、代表的な2つの検査の概要
- パネル検査が受けられる病院の体制と今後の課題
がん遺伝子治療とは?
がんの治療は、手術・薬物療法・放射線治療という三本柱を中心に発展してきました。現在も研究と技術の進歩は続いており、国立がん研究センターがん情報サービスによれば、全がんの5年相対生存率は2018年診断コホートで64.8%に達しています(男性63.2%、女性66.8%)※10。ただし、この数値は対象集団全体の統計であり、個々の患者さんの見通しを示すものではありません。
一方、従来の三本柱による治療だけでは十分な効果が得られない患者さんが一定の割合で存在することも事実です。そうした状況のなかで注目されているのが、一人ひとりのがん細胞の遺伝子変異を調べ、その変異に応じた治療法を選択しようとする「がんゲノム医療」です※1。
従来のがん治療
従来のがん治療は、がんの発生した臓器・組織のタイプに基づいて治療方針を選択するのが基本でした。手術でがんを直接取り除く、薬物療法でがん細胞を攻撃・増殖抑制する、放射線治療でがん細胞を死滅・縮小させる—これら三つを組み合わせるのが標準的なアプローチです。
この枠組みは現在も治療の軸であり、日々研究が続けられています。しかし、同じ臓器のがんであっても患者さんによって遺伝子の変異パターンが異なるため、同じ治療法に対する反応性も人によって違うことが明らかになってきました。
がん遺伝子治療
がんは多数の遺伝子変異が積み重なることで発症・進行することがわかっています※1。正常細胞に遺伝子の傷が生じ、細胞増殖を促す遺伝子が過剰に働いたり、増殖を抑える遺伝子が機能しなくなったりすることで、細胞はがん化していきます。
こうした遺伝子変異のなかには、使用する薬物療法の効果を左右するものが含まれています。そのため、がんに関わる遺伝子変異を網羅的に調べ、その結果に基づいて一人ひとりに合った治療法を選択しようとする「がんゲノム医療」が普及しつつあります※1。
なお、「がんゲノム医療」は、正常な遺伝子を外部から補う「遺伝子治療(gene therapy)」とは異なる概念です。正確には、がん細胞の遺伝子変異を網羅的に解析し治療法の選択に役立てる「包括的ゲノムプロファイリング」とも呼ばれます※1。従来の手術・薬物療法・放射線治療と組み合わせて行われるものであり、それらに代わるものではありません。
特に、標準治療の効果が得られなかった患者さんや、有効な標準治療がない患者さん、希少がん(発生率が人口10万人あたり6人未満のがん)の患者さんなどを対象に、新たな治療の選択肢を探る手がかりになりうるとされています。ただし、治療選択肢が見つかるかどうかは遺伝子変異のパターンによって異なり、すべての患者さんに有効な治療法が見つかるわけではありません。国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)の集計(2022年6月30日までのデータ)では、新たな治療選択肢が提示された患者さんは44.5%、実際に比較的早期に治療が実施されたのは9.4%でした※8。
がん治療の三本柱やそれぞれの仕組みについては、がんの治療方法についてもあわせてご参照ください。
がん遺伝子検査とは?
がんゲノム医療では、治療法を選択するために「どの遺伝子に、どのような変異があるか」を正確に把握することが出発点となります。その手段ががん遺伝子検査です。がん遺伝子検査には大きく分けて二つの種類があります※2※3。
従来のがん遺伝子検査とは?(コンパニオン診断)
一つ目は「がん遺伝子検査(コンパニオン診断)」です。これは、使用を検討している特定の薬に合わせた遺伝子変異の有無を調べる検査です。一度の検査で調べるのは1つまたは少数の遺伝子に限られます※3。
例えば、肺がんや大腸がん・乳がんなど一部のがんでは、EGFR(上皮成長因子受容体)などの遺伝子変異の有無を調べることで、特定の分子標的薬が効くかどうかを事前に確認する検査が標準治療の一部として行われています※3。コンパニオン診断は、特定の薬を使うかどうかの判断に特化した検査であり、広く遺伝子変異を探すものではありません。
腫瘍マーカーを含む各種がん遺伝子検査の基礎については、腫瘍マーカーとはの解説もご参照ください。
がん遺伝子パネル検査とは?
二つ目が「がん遺伝子パネル検査」(がんゲノムプロファイリング検査)です。次世代シークエンサー(NGS: Next Generation Sequencer)と呼ばれる装置を用いて、がんに関連する数十から700以上の遺伝子の変異を一度に網羅的に調べる検査です※2。
コンパニオン診断が「決められた薬に対応する遺伝子だけを調べる」のに対し、がん遺伝子パネル検査は「まず遺伝子変異を広く調べ、そこから治療の可能性を探る」という発想で行われます。検査によって対象となる遺伝子数は異なり、検体は腫瘍組織(生検や手術で採取した組織)を用いるもの、または血液を用いるもの(リキッドバイオプシー)があります※2。
一度に多数の遺伝子変異を調べられるため、個々の患者さんに合った治療を探る「プレシジョン・メディシン(精密医療)」の実践において中心的な役割を担うとされています※1。
がん遺伝子パネル検査の実際
がん遺伝子パネル検査は、検査結果から治療法を検討するまでに複数の専門機関が関わる、一連の流れを経て行われます。また、遺伝性のがんに関わる情報が明らかになりうるため、患者さんのプライバシーに対する十分な配慮が求められる検査でもあります※4。
検査の対象
保険診療でがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)を受けられる患者さんの条件は、以下のとおりです※4。
- 標準治療がない固形がんの患者さん
- 局所進行または転移が認められ、標準治療が終了した(または終了が見込まれる)固形がんの患者さん
- 2025年3月1日からは、急性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫などの造血器腫瘍(または類縁疾患)の患者さんも対象に加わりました※4
ただし、これらの条件に当てはまる場合でも、全身状態や臓器機能から判断して検査後に薬物療法を行える可能性が低いと主治医が判断した場合は、検査の対象とならないことがあります。あくまでも「検査後に個々の患者さんに合った治療を行うことが前提」の検査です※4。
また、保険診療でこの検査を受けるには、検査結果のデータを国立がん研究センター内に設置された「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」に提出することへの同意が求められます。ただし、同意しない場合でも検査自体を受けることは可能であり、同意しない旨が記録されます※4。
検査の流れ
検査は次のような流れで行われます※4※6。
①説明と同意
担当医から検査の目的・流れ・費用・遺伝情報の取り扱いについて説明を受け、同意した場合に検査が開始されます。C-CATへのデータ提出についても、この段階で意思確認が行われます。
②検体採取
がんの組織を採取する「生検」(体表から針を刺してがんの一部を取り出す方法など)が行われるのが一般的です。腫瘍組織の採取が困難な場合には、血液を検体とする検査(リキッドバイオプシー)が選択されることもあります。なお、検体の量や質が不十分な場合は再検査が必要になることがあります。
③次世代シークエンサーによる遺伝子解析
採取した検体を検査機関に送り、次世代シークエンサーを用いて遺伝子の配列を解析します。正常組織の遺伝子配列と比較することで、がん細胞の遺伝子変異が検出されます。
④C-CAT(がんゲノム情報管理センター)への登録・報告書の作成
解析結果は患者さんの年齢・性別・がんの種類・ステージ・これまでの治療経過などの臨床情報とともにC-CATに登録されます※6。C-CATは「C-CAT調査結果」(CKDB報告書)を作成し、担当病院に提供します。2019年6月の保険診療開始から2026年4月末までの累計登録数は131,886人、月間2,476人(2026年4月)に達しています※8。
⑤エキスパートパネルでの検討
がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院で、薬物療法の専門医・遺伝医学の専門医・病理医・遺伝カウンセリングの担当者などによる多職種専門家会議「エキスパートパネル」が開かれます。C-CAT調査結果をもとに、患者さんに適した治療候補(既承認薬・臨床試験等を含む)が検討されます※7。
⑥担当医による結果説明と治療提案
エキスパートパネルでの議論をもとに、担当医が患者さんに結果を説明し、今後の治療の選択肢(既承認の薬・臨床試験への参加等)を提案します。検査の結果、治療につながる遺伝子変異が見つからない場合もあります。
遺伝子パネル検査の費用や高額療養費制度については、がんの治療費の解説もあわせてご参照ください。
がん遺伝子パネル検査の保険適応
2019年6月以前、がん遺伝子パネル検査は自由診療(全額自己負担)でした。2019年6月に保険収載が認められ、所定の条件を満たす患者さんは公的医療保険が適用されるようになりました。自己負担額は加入している保険の負担割合に応じて異なり、高額療養費制度の対象となります。保険適用の範囲や要件は診療報酬の改定によって見直されることがあります※4。
2019年6月に保険収載されて以降、対象となる検査や疾患は追加されてきました。がん組織を検体とする検査のほか、血液を検体とする検査(リキッドバイオプシー)もあり、血液を用いる検査はがん組織を十分に採取できない場合などの選択肢になります。保険収載されている検査の最新の一覧は、がんゲノム医療を行う医療機関やがん相談支援センターで確認できます。以下では2019年6月に保険収載された代表的な2つの検査を紹介します。
FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル
FoundationOne CDxは、固形腫瘍を対象に多数の遺伝子の変異を一括して調べる検査です。2019年に保険収載された検査のひとつです。腫瘍組織を検体として用います。
解析結果にはC-CAT調査結果の作成に活用されるレポートが付加されます。なお、生殖細胞系列変異(生まれながらに持つ遺伝子の変異)とがん細胞固有の変異(体細胞変異)の区別は、この検査単独では判断できません。
OncoGuide NCC オンコパネル システム
OncoGuide NCCオンコパネルシステムは、国立がん研究センターとシスメックスが共同開発した国内製の検査です。多数の遺伝子を対象とし、腫瘍組織と血液(正常細胞)の両方を検体として使用します(マッチドペア解析)。2018年12月に製造販売承認を受け、2019年6月に保険収載されました※5。
腫瘍組織と血液の両方を比較解析するため、がん細胞のみに生じた体細胞変異と、生まれながらに持つ生殖細胞系列変異(遺伝性のがんに関わる可能性がある変異)を区別できるのが特徴です。遺伝性のがんであることが明らかになった場合は、患者さんご本人だけでなく血縁者にも関わる情報となるため、遺伝カウンセリングの利用が重要になります。免疫チェックポイント阻害薬の治療効果の指標となるTMB(腫瘍変異負荷)やMSI(マイクロサテライト不安定性)の解析も可能です。
免疫チェックポイント阻害薬については、免疫チェックポイント阻害剤の解説もあわせてご参照ください。
まとめ
がんゲノム医療は、一人ひとりのがん細胞の遺伝子変異を調べることで、個別化された治療の選択肢を探る医療です。がん遺伝子パネル検査は2019年6月に保険収載が開始され、その後も対象の拡充が続いています※4※5。
がんゲノム医療は、役割に応じて「がんゲノム医療中核拠点病院」「拠点病院」「連携病院」に指定された全国の医療機関で受けられ、その体制は年々拡充されています。最新の施設一覧は、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)の病院一覧などで確認できます※9。
一方で、いくつかの課題も続いています。パネル検査を受けられる施設が特定の地域に集中している状況があること、検査から実際の治療につながる割合はまだ限られていること、遺伝性のがんに関わる情報(生殖細胞系列変異)が明らかになりうることへの対応として遺伝カウンセリングの充実が必要であることなどが挙げられます。厚生労働省は、がんゲノム医療をより身近な医療機関で受けられるよう、拠点病院等の体制整備を進める方向で検討しているとされています※9。
がんゲノム医療の対象となるかどうか、どの施設で受けられるかは、主治医との相談を通じて確認することが大切です。パネル検査の結果、治療につながる遺伝子変異が見つからないこともあります。焦らず、まず担当医に「この検査の対象になるか」を尋ねることから始めてみてください。
よくある質問
- Q. がん遺伝子パネル検査は誰でも受けられますか?
- A. 保険診療での検査は、標準治療がない固形がん患者さん、または標準治療が終了した(終了見込みを含む)固形がん患者さんが対象です。2025年3月からは造血器腫瘍の患者さんも対象に加わりました。全身状態や臓器機能などから主治医が判断します。受検を希望される場合は、まず担当医にご相談ください※4。
- Q. 検査で必ず治療法が見つかりますか?
- A. 必ずしも治療法が見つかるとは限りません。C-CATの集計(2022年6月30日までのデータ)では、新たな治療選択肢が提示されたのは44.5%、実際に比較的早期に治療が実施されたのは9.4%でした※8。遺伝子変異のパターンによっては、現時点で対応する薬が存在しない場合もあります。
- Q. 検査でわかった遺伝子情報はどのように管理されますか?
- A. 検査結果は国立がん研究センター内に設置されたがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録・管理されます。遺伝子情報は重大な個人情報として厳重に管理されます。登録に同意しない場合でも検査を受けること自体は可能ですが、その場合は同意しない旨が記録されます※4※6。
- Q. 生殖細胞系列変異とは何ですか?家族に影響しますか?
- A. 生殖細胞系列変異とは、生まれながらに持つ遺伝子の変異であり、遺伝性のがんに関わる可能性があります。OncoGuide NCCオンコパネルシステムなど一部の検査では体細胞変異(がん細胞のみの変異)と区別することが可能です。生殖細胞系列変異が検出された場合、患者さんご自身だけでなく血縁者にも関わる情報となります。遺伝カウンセリングの利用についても担当医にご相談ください※5。
- Q. がん遺伝子パネル検査を受けられる病院はどこで調べられますか?
- A. 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)の患者向けサイト、またはがん情報サービスで、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の一覧を確認できます。最新の指定施設一覧はC-CATの病院一覧ページでご確認ください※9。
本記事は2026年8月5日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がん遺伝子パネル検査とは」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん医療における遺伝子検査」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療 もっと詳しく知りたい方へ」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター プレスリリース「OncoGuide NCCオンコパネルシステム保険適用」(2019年5月29日)(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「設立の背景と役割」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「エキスパートパネルとは」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「C-CAT登録状況」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がんゲノム医療を受けられる病院一覧」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」(最終確認日: 2026年8月5日・統計更新日: 生存率2026年7月14日)





















