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更新日:2022/08/14

がん治療生前線~がん遺伝子治療の発展とがん遺伝子パネル検査とは?

現在、日本人の死因第一位を独走している「悪性新生物」(がん)。厚生労働省のデータによると日本人の2人に1人は一生の内で一度はがんに罹患し、3人に1人はがんで死亡するとされています。日本人にとって、がんは非常に身近な病気と言ってよいでしょう。 がんの罹患率は年々上昇していますが、がんの早期発見に役立つ検査や効果の高い治療法の研究・開発により、がん患者の5年生存率もまた大きく上昇しています。 そこで今回は近年のがん治療において普及しつつある、がん発症に関与する遺伝子に基づいて治療法を決定する「がん遺伝子治療」と治療に必要な「がん遺伝子パネル検査」について詳しく解説します。

がん遺伝子治療とは?

オプジーボ®は、2014年7月に、世界に先駆けて、悪性黒色腫に対して承認されたお薬で、2015年12月には非小細胞肺がんも適応となっています。オプジーボ®は当初、薬価(お薬の値段)が非常に高価だったことでも注目を浴びました。保険適応の範囲が広がり、対象となる患者さんが増えたことで、日本の医療費を圧迫したともいわれています。

もちろん、高額となるにはそれなりの理由があったのですが、海外での薬価や、日本の社会情勢を踏まえ、2017年2月から、薬価がおよそ50%引き下げられることになりました。高額薬剤の象徴として扱わかれてきたオプジーボは、発売当初、100㎎で729,849円でしたが、2018年11月からは173,768円となります。同薬の値下げは3度目であり、薬価の大幅な引き下げが繰り返されたことで、販売当初から4年あまりで、4分の1まで薬価が下がることになります。

かつては「不治の病」とのイメージが強かった「がん」。日本癌治療学会のデータによれば、1963年のがん患者五年生存率は男性では29.5%、女性では50.5%であり、非常に予後が悪い病と捉えられてきました。しかし、1967年の胃がんに対する抗がん剤の開発や1975年のCT導入などを皮切りに、がんの治療や検査方法は驚異的な発展を遂げ、現在のがん患者5年生存率は67.9%まで上昇し、前立腺がんや乳がんなどでは発見時のステージによっては100%に上ります。
もはや「不治の病」ではなくなったがんに対するより効果の高い治療法の開発は現在も日々進められています。近年ではこれまでの治療法で目立った効果が見られなかった患者や治療法が存在しなかった患者に対して、がんの発症・進行に関与する遺伝子変異を探り、それに基づいた治療法を模索する「がん遺伝子治療」が普及しつつあります。
では、従来の標準的な治療法とがん遺伝子治療にはどのような違いがあるのでしょうか?詳しく見てみましょう。

従来のがん治療

これまでのがん治療は、「手術・薬物療法・放射線治療」の三本柱が基本となって行われてきました。手術は、がんの組織やがんが転移した組織そのものを切除するもので、がんを体から取り除く「直接的な」治療法です。一方、薬物療法はいわゆる「抗がん剤」と呼ばれる薬剤を使用するもので、がんの組織を特異的に攻撃してがんそのものを死滅させたり、がんの発症や進行に関与する特定の物質に作用してがんの増殖を抑えたりする作用を持つ薬物の点滴や内服を行うものです。そして、放射線治療は、身体の外側からがん細胞に向けて放射線を当てたり、がん細胞の近くに放射線を発する物体を埋め込んだりしてがん細胞を放射線の力で死滅・縮小させる治療法です。
これら三本柱となる標準的な治療法も日々研究が重ねられ、特に抗がん剤は非常に効果が高いものが開発されています。しかし、これらの三本柱による治療を行っても、十分な治療効果が得られず不幸な転機をたどるがん患者は後を絶ちません。そこで近年、注目されているのが、これまでの治療法とは根本的に異なる「がん遺伝子治療」なのです。

がん遺伝子治療

従来の標準的ながん治療は、胃がんや大腸がん、乳がん…などがんの種類やがん組織のタイプによって手術方法や抗がん剤の種類、放射線照射方法などの治療方針が選択されてきました。しかし、進行度によっては手術をすることができず、無事に手術を行ったとしても再発しやすいケースもあれば、抗がん剤・放射線照射が効きにくいケースもあり、標準的な治療に効果が見られないがん患者も多くいました。

~がんと遺伝子変異~

がんは様々な遺伝子の変異によって発症・進行することがこれまでの研究によって明らかになっています。そもそも、がんとは、身体を構成する正常な細胞から発生した異常な細胞が集合して形成されるものです。この「異常な細胞」は、正常な細胞の遺伝子に傷がつくことによって発現しますが、ごく少数のみの発現である場合は免疫の作用によって死滅します。しかし、その「異常な細胞」が増殖を繰り返すと、がんを発症してしまうのです。
このように正常な細胞が「異常な細胞」に代わる過程や「異常な細胞」が排除されずに増殖する過程には特定の遺伝子が関与していることが分かっています。たとえば、細胞増殖を促す遺伝子に変異が生じると細胞の異常増殖が生じたり、細胞増殖を停止させる遺伝子が変異することで、細胞増殖にブレーキがかからない状態となることことなどが挙げられます。

~がんの遺伝子変異を応用した新たな治療法~

がんの発症・進行に関与する遺伝子は数百もの種類が発見されており、がんの発生部位が同じであっても遺伝子の異常は人によって異なることが分かっています。このような遺伝子異常のなかには、術後再発のしやすさ、抗がん剤や放射線照射の効きやすさなどを左右するものもあり、この遺伝子異常の違いが治療効果を決定する重要な因子であると考えられています。
このため、個々の遺伝子変異を調べることでその人に合った治療法を選択し、より高い治療効果を得ようと個別の治療を行う「がん遺伝子治療」が近年注目され、徐々に普及しつつあるのです。
とくに、従来の標準治療で効果が得られず有効な治療法がない患者、発見時転移が広範囲に広がっていたためにどの部位から発生したがんであるのか明確に分からない患者、治療法が確立していない希少がん(年間発生率が人口10万人あたり6人未満の稀ながん)患者などには最後の砦ともなりうる治療法とされています。

がん遺伝子検査とは?

がん遺伝子検査とは、「がんの発症や進行に関与する遺伝子変異の有無」を調べる検査のことです。がん遺伝子治療はどの遺伝子に異常が生じているのか正確に判定することからスタートするため、がん遺伝子検査は必要不可欠な検査となります。
2019年6月には、一度に多数の遺伝子変異の有無を調べることが可能な「がん遺伝子パネル検査」が一定の条件の元で保険適応となり、今後ますますがん遺伝子治療は需要が高まるものと考えられます。 では、保険適応に伴って受検者が大幅に増えることが予想される「がん遺伝子パネル検査」について詳しく見ていきましょう。

従来のがん遺伝子検査とは?

がんの発症や進行に関与する遺伝子変異の有無を調べる検査は、抗がん剤の選定や予後を予測する目的でこれまでも広く行われてきました。従来のがん遺伝子検査は、上述した細胞増殖にブレーキをかけるEGRF遺伝子など一つの遺伝子のみを調べる検査方法(コンパニオン検査)でした。しかし、がんの発現には一つの遺伝子変異でははなくいくつもの遺伝子変異が生じていることが明らかになっているため、より多くの遺伝子変異の有無を調べる必要があります

がん遺伝子パネル検査とは?

そこで開発されたのが、素早く大量の遺伝子解析が可能な「次世代シークエンサー」と呼ばれる装置を用いて、一度に数十~数百もの遺伝子変異を調べることができる「がん遺伝子パネル検査」です。遺伝子プロファイリング検査とも呼ばれ、一度に遺伝子変異を網羅的に調べることができるため、検査にかかる時間や患者への負担を軽減することが可能となるのです。

がん遺伝子パネル検査の実際

がん遺伝子パネル検査は一度の100以上もの遺伝子変異を調べることができるため、オーダーメイド化を目指すがん遺伝子治療に大きく貢献します。
しかし、一方では多くの遺伝子変異が分かることで現代の治療法を組み合わせても厳しい予後が予想されるケースがあること、遺伝性のあるがんでることが分かるなど、患者のプライバシーにも大いに配慮すべき検査でもあります。そのため、保険収載に至っては厳しい条件が課せられており、現段階では日本全国どこにいても検査が受けられるわけではありません。
では、がん遺伝パネル検査の対象となる患者や検査の流れの実際を詳しく見ていきましょう。

検査の対象

がん遺伝子パネル検査は、標準治療が終了したものの十分な治療効果を得られなかった患者・有効な標準治療がない患者が実施対象となります。また、これらの患者であっても全身状態が極めて悪いなど、遺伝子変異に適した薬物療法などの治療を受けることができないと医師が判断した場合は、検査の対象とはなりません。がん遺伝子パネル検査はあくまでも、検査後に個々に適した治療を行うことが前提となる検査なのです。

検査の流れ

がん遺伝子パネル検査は次のように非常に煩雑な流れを経る検査です。

~検査への同意~

まず、対象者は全国156か所の「がんゲノム医療連携病院」及び全国11か所の「がんゲノム医療中核拠点病院」(2019年4月現在)で医師から検査に関する説明を受けた後、検査に同意した場合のみ検査が開始されます。今回の保険収載では、保険適応の条件として「検査データを国立がん研究センター内に設置されたがんゲノム情報管理センターに収集する」ことが定められています。遺伝子情報を収集・解析し、データベース化することで小たらい的に新たな治療法の開発などにつながることが期待されるためです。当然ながら、ゲノム情報管理センターの職員には厳重な守秘義務が課せられ、遺伝子情報は重大な個人情報として扱われますが、このデータベース化に賛同できない場合は保険適応で検査を実施することはできません。

~試料採取~

検査には遺伝子解析の試料となるがん組織の採取が必要となります。一般的にはがんにめがけて体表から針などを刺してがんの一部を採取する「生検」が行われます。試料となるがん組織が十分に採取できない場合は、正確な検査ができないこともあり、再検査が必要になる場合もあります。

~遺伝子解析~

採取された試料は各種検査機関で「次世代型シークエンサー」によって遺伝子の配列が解析されます。この際、全ての遺伝子配列は、標準的な配列や正常組織の配列を比較され、遺伝子変異が検出されます。

~がんゲノム情報管理センターへの報告~

遺伝子変異の情報は患者の年齢・性別・がんの種類・ステージ・これまでの治療内容・治療効果などの臨床情報と合わせてがんゲノム情報管理センターへ報告されます。
がんゲノム情報管理センターでは「がんゲノム情報レポジトリー」や「がん知識データベース」などの遺伝子配列に関するデータベースを元に、治験段階も含めて当該患者に対して効果が期待できるあらゆる薬剤による治療法の提案する「がんゲノム検査CKDB報告書」が作成され、中核拠点病院に提出されます。

~エキスパートパネル~

がんゲノム中核拠点病院では、がんの薬物療法・遺伝医学・病理学・ゲノム医療などに関する専門家と主治医による専門家会議「エキスパートパネル」が構成され、「がんゲノム検査CKBD報告書」に基づいて患者に最適な治療法を決めていきます。
そして、多くの専門家によって決められた治療法が中核拠点病院や連携病院で行われることとなるのです。

がん遺伝子パネル検査の保険適応

がん遺伝子パネル検査に基づく「オーダーメイド治療」ともいえるがん遺伝子治療は既存の有効な治療法が存在しないがん患者に対して、高い効果が予想される治療です。しかし、これまでがん遺伝子治療に必要な遺伝子パネル検査は自由診療であり、莫大な自己負担が必要でした。経済格差による医療格差を防ぐためにも、2019年6月からは必要な条件を満たした患者に対して保険適応を可能とすることが決定しています。
2019年6月現在、保険適応となるがん遺伝子パネル検査は、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」(中外製薬)・「OncoGuide NCC オンコパネル システム」(シスメックス)の二種類があり、いずれも試料採取や検査結果の判断・説明量などを含めて保険点数は56000点(56万円)となります。

FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル

324の遺伝子に関する変異を網羅的に一括して検出することが可能な検査です。遺伝子解析は米国のファウンデーション・メディシン社が保有するデータベースに基づいて行われ、自社の専門家によって当該患者の遺伝子変異が臨床的にどのような症状をもたらし、予後にどのように関与するのかについてのレポートも付加されるため、がんゲノム情報管理センターにおける「がんゲノム検査CKDB報告書」に利用されます。

OncoGuide NCC オンコパネル システム

114の遺伝子に関する変異を検出することが可能です。また、オプシーボで知られる免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が予測可能な場合もあります。
そして、生まれながらの遺伝子変異(生殖細胞系遺伝子変異)を同時に調べることが可能なため、がん細胞だけに生じている遺伝子変異(体細胞遺伝子変異)と区別することで、発症したがんに遺伝性があるか否かを判断するのにも役立つとされています。

まとめ

近年、急速に普及しつつある「がん遺伝子治療」。がんの発症や進行に関与する遺伝子変異を検出することで患者それぞれに合った治療を可能にする「オーダーメイド医療」の要となるがん遺伝子パネル検査は、2019年6月に保険収載されました。
今後、受検者がますます増えていくことが予想されますが、個人情報の管理や日本全国どこにいても検査を受けられる体制づくりが課題となっています。
より多くのがん患者が良好な予後を得られるよう、今後もがん遺伝子治療のさらなる発展が期待されます。

参考文献

厚生労働省 がんの罹患数と死亡数
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kaiken_shiryou/2013/dl/130415-01.pdf
厚生労働省 遺伝子パネル検査の保険適用に係る論点について
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000504301.pdf
厚生労働省 がんゲノム医療の現状について
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000504302.pdf
厚生労働省 エキスパートパネル標準化案
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000486814.pdf
国立研究開発法人国立がん研究センター 全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0409/index.html
国立研究開発法人国立がん研究センター 国立がん研究センターが開発した日本人のためのがん遺伝子パネル検査「OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム」保険適用
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0529/index.html
国立がん研究センターがん情報サービス がんゲノム医療 もっと詳しく知りたい方へ
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html
国立がん研究センターがん情報サービス 細胞ががん化する仕組み
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/cancerous_change.html
兵庫県立がんセンター がんゲノム医療
http://hyogo-cc.jp/genom/
富山大学附属病院 がんゲノム医療の保険診療について
http://www.hosp.u-toyama.ac.jp/guide/news/news180816.html
金沢大学附属病院 がん遺伝子パネル検査「プレシジョン検査」について
https://web.hosp.kanazawa-u.ac.jp/patients/soudan/ganidensipanerukensa.html
中外製薬株式会社 FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル 
https://chugai-pharm.jp/pr/npr/f1t/report/report/

執筆者 成田 亜希子 医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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