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更新日:2021/05/29

集学的治療

かつてのがん治療は、がんが出来ている部位を切除することが一般的でした。近年になり、放射線による治療や、抗がん剤などによる化学療法を組み合わせて行うことが増えてきました。こういった治療法は“集学的治療”と呼ばれ、がんの種類や病期(ステージ)に合わせた治療法を選択していく治療法が確立しつつあります。

集学的治療”には、多くの専門家が関わっている

がんを克服していくためには、次のような治療法やケアの方法があります。

  • 1. 手術療法
  • 2. 放射線治療
  • 3. 化学療法
  • 4. 免疫療法
  • 5. 栄養指導
  • 6. 緩和ケア
  • 7. 疼痛コントロール

この他、がんの種類や病期(ステージ)を明らかにするために、検体検査や病理検査、画像検査及び画像診断などが必要になります。例えば消化管のがんであれば、内視鏡検査を行いますし、ごく早期の胃がんや大腸がんであれば、内視鏡検査と併せて切除※1を行うこともあります。また、最近では患者さん自身の免疫力を高めて、がん細胞を攻撃する「免疫療法」という治療法もあります。免疫療法は比較的新しい治療法ですが、手術療法、放射線治療、化学療法と併用することが可能で、「第4の治療法」ともいわれています。自分自身の免疫力を高めることで、がん細胞に対する攻撃力が増すだけではなく、抗がん剤などによって身体が受けるダメージを和らげる効果が期待されています。

このように、多くの治療法やケアの方法を組み合わせて行うことを“集学的治療”と呼びます。1人のがん患者さんを中心にして、それぞれの専門家が連携しながらがん治療を進めていくという考え方、取り組み方のことです。

患者さんを中心にした専門家の連携

集学的治療

※1 内視鏡検査と併せて切除:例えば、早期胃がんに対して内視鏡下で行うがんの切除には、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection, EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection, ESD)の2種類がある

“集学的治療”の実際を見てみると…

では、いくつかのがんについて、実際の関わり方を見てみましょう。

胃がんの場合

胃がん患者さんは多くの場合、胃部の不快感や食欲・食事量の減少などで受診したり、健康診断(主に胃カメラ検査や胃透視の検査)の結果などにより受診して、確定診断を受けます。その後、がんのサイズや病期(ステージ)により、内視鏡下での切除、手術療法、放射線治療、化学療法、免疫療法などが選択肢として挙がりますが、治療前後の食事・栄養指導を受けることがありますし、痛みや辛さの緩和のために、緩和ケアチームによるケアや、麻酔科医によるペインコントロールが必要となることもあります。また、治療にかかる費用の相談や、退院後の生活に関する相談(社会復帰や、在宅での療養等を含む)などは、ソーシャルワーカー(MSW)とよばれる職種とともに解決策を見い出していくことがあります。

この流れの中でも、実は患者さんと直接接することがないため分かりにくいのですが、がんの種類や病期(ステージ)をはっきりさせるために、病理医や検査部などの医療者も関わっています。1人の胃がん患者さんに関わる医療者は、次のようなものをイメージすると良いかもしれません。

胃がんの集学的治療

この他にも、例えば在宅でのケアが必要になれば、在宅ケアチーム(在宅での診療医、訪問看護師、訪問介護士、ケアマネージャーなど)が関わってくることもあります。



大腸がんの場合

大腸がんの初期症状には、血便、下痢や便秘などの排便障害、便が細くなる、排便時にスッキリしない、などがありますが、これらの症状がみられるようになる頃には、大腸がんはだいぶ進行していると考えて良いでしょう。特に血便は、痔による出血と勘違いしてしまうこともあり、注意が必要です。

これらのような症状がみられる、あるいは健康診断の検便の結果で指摘を受けて医療機関を受診し、大腸内視鏡や直腸診、注腸造影検査、CTやMRIなどの画像診断、血液検査などを受けます。これらにより大腸がんであると診断されたら、病期(ステージ)に合わせ、内視鏡による腫瘍切除、手術療法、放射線治療、化学療法、免疫療法などを組み合わせて行います。この他、治療前後での栄養指導や、痛みや辛さに対する緩和ケア、ペインコントロールなどが必要となる場合があります。

大腸がんの集学的治療

また、大腸がんで手術を受ける場合は、人工肛門を増設することがありますので、退院後の生活が大きく変わる可能性もあります。社会復帰に向け、在宅ケアチームやソーシャルワーカー(MSW)の助けを必要とすることもあります。



乳がんの場合

乳がん患者さんも多くの場合は、自分自身で乳房のしこりに気付くか、健康診断などで指摘を受けて受診します。乳がんの治療法としては、手術療法、放射線治療、化学療法、免疫療法などを組み合わせて行いますので、それぞれの専門医が関わってきます。また、乳がんは骨転移、脳転移、肺転移などを起こすことがありますので、状況によっては同じ外科系の医師でも、整形外科医、脳外科医、胸部(呼吸器)外科医なども関わりますし、手術後の乳房再建が必要な場合は、形成外科が関わることもあります。医師だけでも、これだけ多くの診療科の医師が関わってくるのです。

さらに、乳房手術後は、腕が上がりにくくなることがありますので、理学療法(リハビリテーション)も必要です。乳がん患者さんは比較的若い女性であることが多いため、社会復帰や家族との関わり方等で、ソーシャルワーカー(MSW)の助けを必要とすることもあります。

乳がんの集学的治療

前立腺がんの場合

前立腺がんは、早期では目立った自覚症状が少なく、多くの場合は健康診断などで腫瘍マーカーの1つである「PSA」の値が高いことを指摘され、専門医(泌尿器科)を受診します。そこで前立腺生検などの検査を行い、確定診断となります。

前立腺がんの治療は、手術療法、放射線療法、ホルモン療法(内分泌療法)、化学療法、免疫療法などが選択できますので、泌尿器科医、放射線科医、薬物治療の専門医などが関わります。また、社会復帰を目指してソーシャルワーカー(MSW)が関わることもありますし、痛みや辛さの緩和のために、ごく早期から緩和ケアチームなどが関わることもあります。さらに、高齢患者さんが多いことから、栄養サポートチーム(NST)が関わることもあります。前立腺がんは、治療後の経過観察が長くなること、排尿などに関するトラブルが続く可能性があることから、在宅ケアチームが関わることもあります。

前立腺がんの集学的治療

患者さんの病期(ステージ)や年齢、生活環境や家族構成、住環境などの違いにより、関わってくる専門家が違ってくるケースも少なくありません。

“集学的治療”のメリットとは

現在は、医療の分野でも細分化や専門化がすすみ、それぞれの分野における専門家がいます。新しい治療法もどんどん確立されていますので、すべての治療法やケアの方法について、どの医療者でも対応できるとは言い切れない部分もあります。

こういった現状を背景として、広がってきたのが“集学的治療”といえます。それぞれの専門家が専門分野における知識と経験を活かし、1人の患者さんをあらゆる方向からサポートしていく、という考え方です。

“集学的治療”のメリットは、その患者さんにとって最良の治療法を、多くの専門家が1つのチームとなって見つけることにあります。単に複数ある治療法を試してみよう、ということではなく、様々な職種の専門家が一同に会してカンファレンスを行い、その時その患者さんにとって最良と思われる方法を模索していく過程が重要なのです。もちろん、定期的な振り返り(治療効果の評価)を行い、それ以降の介入方法を変えていくこともあります。こういった一連の流れを、適切に提供していくことが、患者さんにとっての“集学的治療のメリット”といえるでしょう。

“集学的治療”に関する、日本の現状と課題

“集学的治療”を行っていくためには、様々な職種の専門家が必要です。治療法の組み合わせ方によって予測される治療期間や、治療による副作用なども変わってきます。こういった一連の流れを、正確に確実に把握していくためには、医療者同士の連携力が必要です。

現在の日本で、このような専門家を多く集めたり、より効果的・効率的な“集学的治療”を提供していくことが出来るのは、比較的大きな病院であることが多いようです。 例えば、欧米諸国では、「がんである」ことが分かったら、ある程度の規模の病院に患者さんを集中させます。その中で、様々な治療法から最適な方法を患者さんが選択できたり、治療後のケアも充実させることが出来る、という考え方のようです。

しかし日本の場合、様々な治療法の元となるエビデンス(根拠)が欧米に追随している形であること、新しい治療法が行える施設(病院)が限られてしまう可能性があることなどの特殊性があります。また、患者さん側の心理として「なるべく近いところで治療を受けたい」という傾向が強いことも、治療法の選択肢を少なくしてしまう要因となるようです。

現在のところ、地域の中核病院など、比較的大きな病院でなければ“集学的治療”を受けにくい状況にあります。やはりこういった新しい考え方は、地域の中核病院などを中心として広がっていくようですが、地域のクリニックや訪問看護・訪問介護ステーションなどが強い連携力をもっている地域も増えてきています。

“集学的治療”は、がん治療やその後のQOL※2の向上に向け、様々な方法を組み合わせていく考え方です。これにより、治療の選択肢が広がる可能性がありますし、がんと「しっかりと向き合った生活」をしていくことが出来るようになります。これまでのような身体的アプローチだけではなく、心理的・社会的なアプローチによる治療やケアを、選択できる可能性があるといえます。

※2 QOL:身体面だけではなく、物理的な豊かさ、受けるサービスの質や量、精神的な豊かさを含めた、生活全体の質

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