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更新日:2021/05/29

がん医療を担う臨床試験・治験~実際の進め方と最新情報~

日本人の2人に1人は一生の内で一度はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる現在。高齢化社会を背景に、国内のがん患者数は年々増加しています。
もはや「国民病」と言っても過言ではないがんの新たな診断・治療技術は日々研究が重ねられ、がんに関連する新しい医療が続々と生まれています。従来の治療法では治る見込みがなかった患者も新たな診断・治療の誕生によって良好な生命予後を期待できるようになるケースも少なくありません。
そこで今回は、がん医療に於ける臨床試験や治験の実態と最新情報を詳しく解説します。

臨床試験・治験とは?

がん医療に限らず、新たな診断や治療技術が開発され、臨床の場で多くの患者に使用されるようになるまでには多くのプロセスが必要です。そのプロセスの大半を占めるのが臨床試験や治験であり、10年以上もの長い年月を要することも少なくありません。
では、新たな医療技術の開発から臨床での使用までに、なぜ多く臨床試験や治験を行う必要があるのでしょうか?詳しく見てみましょう。

そもそも臨床試験・治験ってなに?

臨床試験と治験はともに、新たな診断技術、薬、放射線治療や手術法などの治療技術をヒトに対して使用し、その効果や安全性を確かめる試験のことです。その中でも特に、厚生労働省から市販することが許可される「承認」を得るために行われる薬と医療機器の臨床試験を治験と呼びます。つまり、臨床試験は厚生労働省の認可などの取得を目的とするとは限らない試験であり、治験は臨床試験の一部に含まれるのです。

なぜ臨床試験や治験が行われるのか?

臨床試験や治験の目的は、新たな薬、治療法、診断方法などの効果や安全性を確かめることです。
これらの新たな医療技術は、研究が重ねられた人体の生理学的な反応や構造、種々の物質などの知識を組み合わせた上で「この病気には〇〇が有効だ」といった言わば「仮説」が立てられます。この段階の研究を「基礎研究」と呼び、実際に仮説を立てた医療技術に効果があるのか、安全に使用できるのかは未知の状態なのです。
そして、基礎研究で立案された新たな医療技術をマウスなどに行う「非臨床試験」が行われます。これは、新たな医療医術を行うことで動物にもたらす効果や副作用などを調べる試験であり、この段階で効果がないと判断されたものや危険性が高いと判断されたものは研究の終了や根本的な変更を検討することとなります。こうして多くの時間と費用をかけて研究され、動物実験で効果や安全性が立証された医療技術は最終的にヒトへの効果や安全性を確認するための臨床試験・治験に進んでいくのです。
研究段階での新たな医療技術はまさに「机上の空論」に過ぎません。理論上、どんなに優れていると考えられる新薬や治療技術であっても、ヒトに応用しても十分な効果がある・重大な副作用が現れないという保証はないのです。その効果や安全性を確認するための臨床試験や治験は安全な医療を実現するために必要不可欠な試験と言ってよいでしょう。

臨床研究や治験は安全なの?

臨床研究や治験は上で述べたように、新たな医療技術のヒトへの効果と安全性を確認するための試験です。このため、実際に臨床研究や治験を進めていかないとどのような副作用などが現れるか分からない面も多いと考えられます。
多くの臨床研究や治験は3つの段階を踏んで勧められていきます。第一に行われるのは、健康な成人に対しての試験です。主に医療技術をほどこしたことによって生じる副作用を確認するために行われる試験で、試験に参加するには健康状態などに厳しい制限が課されます。また、副作用の発現に迅速に対応できるよう入院した上で試験を行うことが多く、万全の体制の下で試験が実施されています。
そして、重大な副作用が確認できない場合は、少数の患者に対して試験を行って効果や副作用を確認し、最終段階ではさらに多数の患者に対して試験を行って多くのデータが集められます。
このように、臨床試験や治験は参加した健常者や患者の体調などに最大限配慮されながら行われるため、副作用などは未知とは言え、多くは安全に行うことが可能です。
しかし、2019年には国内で行われた抗てんかん薬の治験で死亡者が出たことも話題となっています。現段階では被験者の死亡と治験との因果関係は分かっていませんが、よい安全性が高い臨床試験と治験の実施も今後の大きな課題の一つです。

がん医療に於ける臨床試験・治験の実際

超高齢化が進む日本では、年々がんに罹患する人が増えており、がんは誰にとっても身近な病気といってよいでしょう。現在がんは死因第一位を独走しています。そのため、より効果の高い新たな治療法や診断法などの開発が日々進められており、全国で行われているがん医療の臨床試験や治験の数は非常に膨大です。
では、がん医療の臨床試験や治験はどのように進められるのでしょうか?

がん医療の臨床試験・治験の種類

新たながん医療の開発のためには主に、新たな薬と治療法の臨床試験や治験が行われます。
現在、がん治療で使用される薬には、従来の抗がん剤の他に分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など様々な種類のものがあり、数十年前に比べると治療効果や安全性は格段に向上しています。しかし、より効果が高い薬、副作用を軽減できる薬、既存の治療薬とは全く異なるメカニズムを持つ薬の開発は現在でも盛んに進められているのです。
また、がんの治療には主に薬物療法・手術治療・放射線治療の3つがあり、単独で行う場合もあればいくつかの治療法を組み合わせて行う場合もあります。このため、新たな手術方法や放射線照射法だけでなく、各治療の組み合わせ、複数の抗がん剤の飲み合わせなどによる治療効果や副作用を調べる臨床試験も行われているのが特徴です。

がん医療における臨床試験・治験の役割

がん医療においても、臨床試験や治験の最大の目的は、新たな医療技術の効果や安全性を確認することです。しかし、がん医療の臨床試験・治験は結果によって新たな標準治療が生まれるという点が大きなポイントです。
がんの標準治療とは、様々な研究や臨床試験の結果、現在利用できる最良の治療法であり、多くの患者に行われることが望ましいとされている治療法のことです。がんは発生部位によって性質が大きく異なるため、当然ながら治療法も大きく異なります。各部位のがんにはそれぞれに科学的根拠に基づいた標準治療が定められており、通常はそれに従って治療を進めていくこととなります。
臨床試験や治験で安全性に問題がないとされた新薬や新たな治療法の試験結果は、従来の標準治療と厳密に比較されます。そして、よりよい効果があると立証できる場合はそちらが新たな標準治療となるのです。
このように、臨床試験や治験は、がん医療を大きく変える可能性を持ち、がん患者の予後を改善するための一つの手段とも言えるでしょう。

がんの臨床試験・治験最新情報とは?

現在、日本では行われているがんに関連する様々な臨床試験や治験の多くはがん拠点病院などで行われ、日々研究が進められているのが現状です。
日本で実施中の臨床試験や治験の情報は、国立がん研究センターがん情報サービス「臨床試験の詳しい情報(リンク集)」で多数紹介されていますので参考にしてください。
なお、大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)によれば、現在日本の大学病院等で広く試験への参加者を募集しているがんの臨床試験は2304件に及び、準備段階の試験は1032件とされています。(2019年9月5日現在) 希少がんや末期がんなど確立した治療法のないがんに対する試験も多く行われており、今後の臨床応用されることが強く望まれるものも少なくありません。
また、肺悪性腫瘍に対する凍結治療(柏厚生総合病院)など保険適応とはなっていないものの近年注目されている治療の試験も行われており、データの蓄積による効果・安全性の確立によってさらなる普及が期待されるものもあります。
そして、がんの治療や診断に関わる試験だけでなく、乳がん消臭パッド試験(がん・感染症センター都立駒込病院)、消化器がんによって筋力低下した患者への運動・栄養介入試験(堺市総合医療センター)、乳がん患者に対する頭皮冷却による脱毛抑制研究(独立行政法人国立病院機構九州がんセンター)など、患者のQOLを向上させるための対策に関する試験が多く行われているのも特徴の一つです。

がん医療の臨床試験や治験に参加するには?

臨床試験や治験では、従来の標準治療とは異なる新たな治療が行われます。このため、従来のいかなる治療を行っても目立った効果が得られない患者の中には、効果や安全性が科学的に立証されていなくても試験に参加したいという人も多いでしょう。
臨床試験や治験への参加方法は大きく分けると2つあります。臨床研究や治験を行っている医療機関では、試験に適した状態の患者に対して医師から試験参加の打診を受けることがあります。もちろん参加は自由ですし、必要な薬代や副作用が出たときの治療に係る費用も必要ありませんので安心して参加することができるでしょう。
一方、かかりつけの医療機関以外で行われている臨床試験や治験への参加は担当医に紹介してもらう場合もありますが、参加者が一般募集されている試験は自身で応募できることもあります。国内で行われている臨床試験や治験は大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)、日本医薬情報センター(JAPIC)、日本医師会治験推進センター(JMACCT)などから検索することが可能です。ただし、試験を受けるにはこれまでの病状経過や治療歴の詳細な情報が必要であり、試験を受けることで返って病状を悪化させてしまう危険があるケースもありますので、応募する前に一度主治医に相談することをお勧めします。

参考文献

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kaiken_shiryou/2013/dl/130415-01.pdf
国立がん研究センターがん情報サービス 臨床試験のQ&A:基礎知識
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct_qa01.html
日本SMO協会 くすりができるまで
http://jasmo.org/ja/business/flow/index.html
エーザイ株式会社 E2082 の臨床第Ⅰ相試験(治験)における死亡例の発生について
https://www.eisai.co.jp/news/2019/news201958.html
国立がん研究センターがん情報サービス 標準治療
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/hyojunchiryo.html
UMIN-CTR 試験情報
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/index.cgi
臨床研究情報ポータルサイト 臨床研究について
https://rctportal.niph.go.jp/about2

執筆者 成田 亜希子 医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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