更新日:2026/08/19
新たながん治療「光免疫療法」~その原理と今後の可能性とは?
光免疫療法は、2020年9月に日本で世界に先駆けて承認された治療法です。
ただし、対象は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に限られており、副作用がない治療でもありません。この記事では、承認された内容と、公的機関の資料が示す効果・副作用のデータを整理します。
光免疫療法とは?~従来の治療法との違い
光免疫療法は、がん細胞に結合する抗体に光感受性物質を結合させた薬を点滴し、そのあとレーザ光を病巣に照射する治療法です。
使われる薬と承認の内容
日本で承認されている薬はアキャルックス点滴静注250mg(一般名: セツキシマブ サロタロカンナトリウム(遺伝子組換え)、楽天メディカルジャパン株式会社)です※2。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承認日 | 令和2(2020)年9月25日※2 |
| 効能又は効果 | 切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌※1 ※2 |
| 審査の区分 | 先駆け審査、条件付き早期承認※2 |
| 販売開始 | 2021年1月※1 |
作用のしくみ
添付文書は作用機序を次のように説明しています。この薬はキメラ型抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体であるセツキシマブと、光感受性物質である色素IR700を結合させた抗体薬物複合体で、腫瘍細胞の細胞膜上に発現するEGFRに結合し、波長690nmのレーザ光照射により励起されたIR700が光化学反応を起こし、腫瘍細胞の細胞膜を傷害することにより殺細胞効果を示すと考えられています※1。
標準的な治療が可能なときは、そちらが優先される
ここが最も重要な点です。添付文書は次のように定めています。
「化学放射線療法等の標準的な治療が可能な場合にはこれらの治療を優先すること」※1
また術後補助療法における有効性及び安全性は確立していないとされ、他の抗悪性腫瘍剤との併用における有効性及び安全性も確立していません※1。
つまり手術・放射線治療・薬物療法の代わりに最初から選ぶ治療ではありません。
光免疫療法の原理とは?~3つの着目点
①がん細胞の表面にあるEGFRを標的にする
この薬の抗体部分はEGFR(上皮成長因子受容体)に結合するセツキシマブです※1。EGFRは頭頸部がんなどの細胞膜上に発現しています※1。
②光感受性物質IR700を結合させる
抗体に光感受性物質である色素IR700を結合させています※1。
③波長690nmのレーザ光を照射する
波長690nmのレーザ光照射により励起されたIR700が光化学反応を起こし、腫瘍細胞の細胞膜を傷害します※1。
照射は薬とセットで管理されます。添付文書は本剤とともに癌を標的として使用することを目的として承認されたPDT半導体レーザを使用しレーザ光照射を行うこととしています※1。
実際の投与のしかた
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 点滴 | 1日1回640mg/m²(体表面積)を2時間以上かけて点滴静注※1 |
| レーザ光照射 | 点滴静注終了20〜28時間後に病巣部位に照射※1 |
| くり返し | 完全奏効が得られない場合は4週間以上の間隔を空けて、最大4回まで※1 |
| 前投薬 | infusion reactionを軽減させるため、投与前に抗ヒスタミン剤及び副腎皮質ホルモン剤の前投薬を行う※1 |
点滴して翌日に照射する、という2日にわたる治療です。
光免疫療法の副作用
添付文書には次の重大な副作用が記載されています※1。
| 重大な副作用 | 頻度 |
|---|---|
| 頸動脈出血 | 頻度不明 |
| 腫瘍出血 | 5.6% |
| 舌腫脹 | 13.9% |
| 喉頭浮腫 | 5.6% |
| Infusion reaction | 2.8% |
| 重度の皮膚障害 | 頻度不明 |
| レーザ光照射部位の瘻孔 | 2.8% |
| レーザ光照射部位の皮膚潰瘍 | 5.6% |
| レーザ光照射部位の粘膜潰瘍・皮膚壊死・粘膜壊死 | 頻度不明 |
舌腫脹・喉頭浮腫については、嚥下障害、呼吸困難等を伴うことがあるので注意することとされています※1。
そのほかの副作用として、20%以上に適用部位疼痛、10〜20%未満に顔面浮腫・疲労・適用部位浮腫・顔面痛・限局性浮腫・末梢性浮腫・嚥下障害・紅斑・発疹・口腔咽頭痛、10%未満に光線過敏性反応・ざ瘡様皮膚炎・口内炎・舌潰瘍などが記載されています※1。
治療後4週間、直射日光を避ける必要がある
この治療に特有の、生活に直接かかわる注意です。
添付文書は光線過敏症を起こすことがあるので、本剤投与後7日目以降に腕の一部に対して直射日光等を照射し、皮膚反応の消失が確認できるまでの間、又は本剤投与後4週間は直射日光を避けるよう指導することとしています※1。
薬そのものも光に不安定なため、点滴中は常に遮光カバーで点滴静注バッグを被覆するとともに、投与を行う部屋の窓はカーテンやブラインド等で覆うとされています※1。
禁忌と警告
禁忌(投与してはいけない場合)は次のとおりです※1。
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 頸動脈への腫瘍浸潤が認められる患者(腫瘍縮小・壊死に伴う頸動脈出血、腫瘍出血があらわれることがある)
また警告として、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法及び光線力学的療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与すること、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与することと定められています※1。
皮膚または粘膜への腫瘍浸潤がある患者についても、レーザ光照射部位において瘻孔、皮膚・粘膜の潰瘍又は壊死があらわれることがあるため、慎重に判断するとされています※1。
妊娠可能な女性には投与中及び投与終了後一定期間、適切な避妊を行うよう指導するとされ、授乳については授乳しないことが望ましいとされています※1。
光免疫療法と「免疫」の関与
「光免疫療法」という名前から免疫のはたらきを利用する治療と思われがちですが、公的に承認されている作用機序は「免疫」ではありません。
添付文書が示す作用機序はレーザ光照射により励起されたIR700が光化学反応を起こし、腫瘍細胞の細胞膜を傷害することにより殺細胞効果を示すというものです※1。免疫のはたらきを介する記述はありません。
がん細胞が壊れることで免疫が動きだすのではないか、という考え方は研究の場で議論されていますが、それが治療効果として確立しているわけではありません。
あわせて知っておきたいのは、免疫療法の全体像です。がん情報サービスは免疫療法を治療効果や安全性が科学的に証明された「効果が証明された免疫療法」と科学的に証明されていない「効果が証明されていない免疫療法」に分け、後者を自由診療として行われる免疫療法と研究段階の医療として行われる免疫療法に分けています※3。
また、効果が証明されている免疫療法として挙げられているのは免疫チェックポイント阻害薬です※3。光免疫療法はこの一覧に挙げられていません※3。詳しくは免疫療法の比較もご覧ください。
光免疫療法の展望と、現在わかっていること
承認の根拠になったデータ
添付文書に記載された臨床成績は次のとおりです※1。
| 試験 | 内容 |
|---|---|
| 国内第Ⅰ相試験 | 3例が対象。中央判定による奏効率は66.7%(部分奏効2例)。投与された3例全例に副作用が認められた(適用部位疼痛3例=100%など) |
| 海外第Ⅰ相/Ⅱa相試験(第Ⅱa相パート) | 30例が対象。中央判定による奏効率は43.3%[95%信頼区間 25.46, 62.57]。30例中25例(83.3%)に副作用が認められた |
第Ⅱa相パートの内訳は完全奏効(CR)4例(13.3%)、部分奏効(PR)9例(30.0%)、安定(SD)11例(36.7%)、進行(PD)5例(16.7%)、評価不能1例(3.3%)でした※1。
対象となったのは、放射線療法又は白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法に抵抗性で、かつ標準的な治療が困難な局所再発の頭頸部扁平上皮癌の患者です※1。ほかに手立てが少ない状況での成績である点をふまえて読む必要があります。
「条件付き早期承認」であることの意味
この薬は条件付き早期承認品目です※1 ※2。添付文書には承認条件として次が記載されています※1。
- 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること
- 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施すること
- 切除不能な局所再発の頭頸部癌患者を対象に実施中の第Ⅲ相試験における有効性及び安全性について、医療現場に適切に情報提供すること
- 本剤を用いた治療法についての講習を受け、当該治療法に関する十分な知識・経験ある医師のみによって用いられるよう、必要な措置を講じること
「国内での治験症例が極めて限られている」と国自身が記していること、そして第Ⅲ相試験が実施中であることが、この治療の現在の位置づけを表しています。
受けられる施設は限られている
上記の承認条件により、講習を受け、十分な知識・経験のある医師のみが行う治療です※1。実施施設は限られます。
まとめ
光免疫療法について、いま確かに言えることを整理します。
| 論点 | 公的資料が示していること |
|---|---|
| 承認 | 2020年9月25日に承認。先駆け審査・条件付き早期承認※2 |
| 対象 | 切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌のみ※1 |
| 位置づけ | 化学放射線療法等の標準的な治療が可能な場合には、そちらを優先する※1 |
| 効果 | 承認の根拠となった第Ⅱa相パート30例で奏効率43.3%※1 |
| 副作用 | ある。国内第Ⅰ相の3例全例、海外第Ⅱa相の83.3%に副作用※1。重大な副作用に頸動脈出血・腫瘍出血・舌腫脹・喉頭浮腫・照射部位の瘻孔や潰瘍・壊死※1 |
| 生活上の注意 | 投与後4週間は直射日光を避ける(皮膚反応の消失が確認できるまで)※1 |
| 今後 | 第Ⅲ相試験が実施中。全症例を対象とした使用成績調査が承認条件※1 |
頭頸部がんの治療全般については喉頭がんや舌癌もあわせてご覧ください。治療の選び方の全体像はがんの治療方法についてをご覧ください。
本記事は2026年7月30日時点の公的機関の情報にもとづき、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではなく、特定の治療法や医療機関を推奨するものでもありません。この治療が適応となるかどうか、副作用や生活上の注意については、必ず主治医にご相談ください。医薬品の情報は改訂されることがあります。最新の内容はPMDAの添付文書でご確認ください。
参考資料
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「アキャルックス点滴静注250mg 添付文書」(2024年10月改訂 第8版)(最終確認日: 2026年7月30日)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「2020年度 承認品目一覧(新医薬品)」(最終確認日: 2026年7月30日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんの免疫療法」(最終確認日: 2026年7月30日)





















