更新日:2026/08/22
未承認薬・適用外薬
がん治療では、国内でまだ正式に承認されていない薬や、承認されていても特定の疾患には使えない薬(適応外薬)が話題になることがあります。この記事では、こうした未承認薬・適用外薬の定義と分類、日本における現状と課題、医療機関で利用できる公的制度、そして個人輸入を検討する際に知っておくべきリスクについて、公的機関の情報をもとに解説します。
未承認薬・適用外薬とは?
未承認薬とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、通称「薬機法」)に基づく承認を国内で得ていない医薬品をさします※2。医薬品を国内で医療に用いるには薬機法に基づく審査・承認が必要で、その承認を得ていない薬がこれにあたります※2。
未承認薬・適用外薬は、大きく3種類に整理できます。
| 分類 | 概要 |
|---|---|
| 1. 開発途上薬 | 世界中のどの国でも承認されておらず、人を対象とした臨床試験や基礎研究が十分に行われていない、まだ候補の段階にある医薬品 |
| 2. 海外承認・国内未承認薬 | 米国や欧州といった海外では承認されているものの、薬機法に基づく国内の承認を得ていない薬剤 |
| 3. 適応外薬 | 日本でも薬機法上の承認を得て流通しているが、適応として認められている疾患が限られており、特定の疾患には使えない薬剤 |
未承認薬は国内の承認手続きのなかで有効性・安全性が確認されていない薬であり、適応外薬は使いたい疾患について適応が確認されていない薬です。いずれも利用を検討する場合は、後述する制度の枠組みや主治医との相談が前提となります。
種類
海外(米国・欧州)ではすでに承認されているにもかかわらず、日本では未承認となっている薬剤は、がん領域にも複数存在します。また、日本国内で承認済みの薬剤であっても、特定のがん種に対しては適応が認められていない「適応外薬」として扱われるものもあります※7。
未承認薬・適用外薬の存在は、患者さんにとって治療の選択肢に関わる重要なテーマです。ただし、これらの薬剤についての具体的な件数や内訳は定期的に更新されており、最新の情報は国立がん研究センターが公表しているリストや、後述する公的制度の枠組みを通じて確認するのが適切です※7。どの分類であっても、医師なしに個人が判断・使用することは大きなリスクを伴います。
日本の現状
海外で承認された薬が日本で使えるようになるまでには、審査の過程などから時間差が生じることがあります。この問題は「ドラッグ・ラグ」と呼ばれます。厚生労働省は、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬について開発要望を募り、優先的に承認へ向けた対応を検討する仕組みを設けています※2。
日本で未承認の薬を使いたい場合、正規の方法としては後述する先進医療・拡大治験・患者申出療養などの制度を利用することが基本となります。これらの枠組みを使う場合、通常診療と共通する部分(診察・検査・入院料など)は保険診療として扱われますが、先進医療技術に係る部分は患者さんが全額自己負担となります※3。
一方、これらの制度の枠外で医療機関が未承認薬を使用する場合や、個人が個人輸入した薬剤を使用した場合には、副作用が生じても国の医薬品副作用被害救済制度が適用されないことがあります。なお、この救済制度については、未承認薬かどうかにかかわらず、抗悪性腫瘍剤・免疫抑制剤などは「対象除外医薬品」として厚生労働大臣が指定しており、がん治療薬の副作用は制度の対象から外れています※4。この点は正確に理解しておくことが大切です。
また、一部の薬剤は患者数がきわめて少ないため、臨床試験の実施に長期間と多大な費用がかかるという事情もあります。
医薬品数
国立がん研究センターは、国内で薬機法上未承認・適応外となる医薬品・適応のリストを定期的に更新・公表しています(2025年11月30日改訂版が現時点の最新)※7。データは医薬品医療機器総合機構(PMDA)の情報に米国・欧州の承認情報を加えて作成されています。
また、厚生労働省も、学会や患者団体などから寄せられた開発要望をふまえて承認に向けた検討を行っています※2。
具体的な品目数は調査時点により変動するため、最新の状況は以下の公的情報源でご確認ください。
- 国立がん研究センター「国内で薬事法上未承認・適応外である医薬品について」(ncc.go.jp)
- 厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の開発要望募集について」(mhlw.go.jp)
未承認新規医薬品等を用いた医療提供
患者さんが医療機関を通じて未承認薬・適用外薬を使いたい場合、正規の枠組みとして次の4つの制度が整備されています※1・※2。制度ごとに対象・費用の扱い・位置づけが異なるため、どの制度が自分の状況に合うかは主治医と相談のうえで検討することが重要です。
| 制度名 | 対象・位置づけ | 費用の扱い |
|---|---|---|
| 先進医療A | 未承認薬などを使用しない医療技術で特に重点的な観察・評価を必要としないもの、または未承認薬などを使用する医療技術で人体への影響が極めて少ないもの※1 | 先進医療技術に係る費用は全額自己負担。通常診療部分は保険適用※3 |
| 先進医療B | 未承認薬などを使用する医療技術で人体への影響があると判断されるもの、または未承認薬などを使用しない医療技術で臨床試験での安全性・有効性評価が必要とされるもの※1 | 同上 |
| 拡大治験(expanded access) | 生命に重大な影響がある疾患で既存治療に有効なものがなく、承認・保険適用を待てない場合に人道的な観点から実施される治験。通常の治験対象とならない患者さんが対象※1 | 費用の扱いは試験ごとに異なる。主治医に確認が必要 |
| 患者申出療養 | 患者さんが「国が承認していない薬などを使った新しい治療を受けたい」という申出を起点とする制度。2016年4月開始※5。申出しても必ず実施されるわけではない※1 | 未承認薬などの費用に加え、研究支援・品質管理・統計解析の費用もかかり、負担が多額になる可能性がある※8。通常診療部分は保険適用 |
先進医療として認定されている技術は定期的に見直されており、最新の一覧は厚生労働省で確認できます※3。患者申出療養の申請の流れは、患者さん・主治医が相談のうえ、臨床研究中核病院が実施計画を作成して国に申し出て、厚生労働大臣が審査・決定するという手順です※5。
これらの制度は、いずれも治療の効果や安全性を保証するものではありません。利用できるかどうか、どの制度が自分の状況に合うかは、主治医・担当医と詳しく相談してください。
なお、治験や臨床試験の基本的な仕組みについては、がん医療を担う臨床試験・治験~実際の進め方と最新情報~もあわせてご覧ください。がんの標準的な治療方法についてはがんの治療方法についてで解説しています。
個人輸入
医療機関の公的制度を使わずに、個人が未承認薬を海外から直接購入(個人輸入)するという手段もあります。しかし、個人輸入には以下のとおり複数の重大なリスクがあります。厚生労働省は、個人輸入された医薬品は薬機法に基づく品質・有効性・安全性の確認がなされていないと明示しています※6。
| リスクの種類 | 内容 |
|---|---|
| 品質・安全性の未確認 | 日本の薬機法に基づく品質・有効性・安全性の確認がなされていない。正規品を偽った偽造医薬品が流通している場合もある※6 |
| 副作用救済制度の対象外 | 個人輸入された医薬品による健康被害は、医薬品副作用被害救済制度の対象外※6。また、がん治療薬(抗悪性腫瘍剤など)は承認・未承認を問わず同制度の対象除外医薬品に指定されている※4 |
| 費用はすべて自己負担 | 保険診療の適用はなく、全額自己負担となる |
| 他者への転売・提供は違法 | 個人輸入した医薬品を他者に販売・授与することは法律違反※6 |
| 持込禁止物 | 麻薬・覚せい剤の原料・大麻など、日本国内への持込が禁止されている物質がある。また、海外でサプリメントとして販売されていても、日本では医薬品として扱われるものもある※6 |
個人輸入を予定する場合は、事前に輸入区域を管轄する厚生局(または都道府県庁の薬務主管課)への相談が必要です※6。問題が生じても個人の責任となる点を十分に認識したうえで、個人輸入を検討する際は必ず主治医に相談してください。
なお、治療に関わる費用の制度全般についてはがんの治療費、自由診療・保険外治療の概要については免疫療法の比較もご参照ください。
よくある質問
- 未承認薬と適用外薬はどう違いますか?
- 未承認薬は国内で薬機法上の承認を得ていない薬剤全般をさします。適用外薬(適応外薬)は、国内で承認・販売されているものの、特定の疾患や用途には適応が認められていない薬剤のことです※1。
- 医療機関で未承認薬を使うことはできますか?
- 先進医療・拡大治験・患者申出療養などの公的制度を通じて、一定の条件下で使用できる場合があります。これらは治療の効果や安全性を保証するものではなく、利用できるかどうかは主治医と相談のうえで判断します※1・※2。
- 副作用被害救済制度は未承認薬の副作用に使えますか?
- 未承認かどうかにかかわらず、抗悪性腫瘍剤・免疫抑制剤などは対象除外医薬品として指定されており、がん治療薬の副作用は同制度の対象外となっています(PMDA)※4。また、個人輸入品による被害も対象外です※6。
- 患者申出療養制度の申請は誰でもできますか?
- 申請は患者さんと主治医が相談のうえ行いますが、申請したからといって必ず実施されるわけではありません。費用は多額になる可能性があり、実施にあたっては厚生労働大臣の審査・決定が必要です※1・※5。
- 個人輸入した薬を家族に渡してもよいですか?
- 個人輸入した医薬品を他者に販売・授与することは法律違反です。また、個人輸入品は品質・安全性が確認されておらず、副作用被害救済制度の対象にもなりません※6。
本記事は2026年8月2日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「研究段階の医療基礎知識」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 厚生労働省「医薬品・医療機器」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 厚生労働省「先進医療について」(最終確認日: 2026年8月23日)
- PMDA「医薬品副作用被害救済制度 Q&A(Q6 対象除外医薬品等とされている医薬品とはどのようなものか)」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 厚生労働省「患者申出療養制度(医療従事者向けページ)」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 厚生労働省「医薬品等を海外から購入しようとされる方へ」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 国立がん研究センター「国内で薬事法上未承認・適応外である医薬品について」(最終確認日: 2026年8月2日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「研究段階の医療 Q&A(患者申出療養の費用)」(最終確認日: 2026年8月2日)





















