更新日:2021/05/29
未承認薬・適用外薬
未承認薬・適用外薬について、種類、日本の現状、医薬品数、未承認新規医薬品等を用いた医療提供、個人輸入など様々な観点から解説します。
未承認薬・適用外薬とは?
未承認薬とは「一定状の効果は確認されているが、安全性についてはまだ科学的に確認が取れていない薬剤」のことを言います。
未承認薬といわれる薬剤には大きく分けて3種類あります。
● 1:世界中のどの国でも承認されていない、開発途上にある医薬品の候補で、人を対象とした臨床試験や基礎研究が十分に行われていないもの
● 2:米国や欧州といった外国では承認されているものの、日本では薬事法における承認がないもの
● 3:日本でも薬事法上の承認を得て流通はしているものの、適応となる疾患が限られており、疾患によっては治療薬として使われないもの
特に2と3においては、日本の医療環境、あるいは日本人の体質的に有効性や安全性が十分に確立されていないため、承認がなされていないお薬です。そのため、個人で使用を希望したとしても、医療機関自体が使用しない方針となっている可能性があります。
いずれにしても、未承認薬は臨床試験として使用するのが大前提となります。どれくらいの効果があるのか、どのような副作用がどれだけ起こるのかが、未知であるということです。このことを十分に理解したうえで医師と話し合い、使用を検討する必要があります。
また、3のお薬については、適応外薬と呼ばれることもあります。日本でも海外でも承認・販売されているものの、適応となる疾患に限りがあるため、日本では一部の適応症にしか使用することができない薬剤のことを言います。
種類
がん領域における日本未承認薬の状況を考えてみます。アメリカまたはヨーロッパですでに承認されているにも関わらず、日本では未承認薬となっているお薬は、たくさんあります。その種類を見ていくと、最も多いのは血液系のがんに対するお薬です。次いで泌尿器のがんのお薬、その後に乳腺、皮膚、卵巣がんのお薬が同率で続き、さらに骨軟部と肺、小児へのお薬となります。
1番多い血液のがんの未承認薬と、2番目に多い泌尿器のがんの未承認薬とでは、およそ3倍の開きがあり、日本での「血液のがんに対する薬の未承認薬」がいかに多いのかがわかります。
日本の現状
ではなぜ日本には未承認薬や適応外薬が多いのでしょうか。
他国で販売されたお薬が日本で販売されるまでの期間を見ると、日本では4.7年ほどかかっており、これは他国と比較すると約2~3倍以上の時間を要していることになります。その要因には、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。
例えば
● 製薬企業における開発着手自体が遅いこと
● 行政機関において新薬承認審査などに時間がかかっていること
● 臨床試験の実施体制などの基準整備が不十分な面があること
● 日本では臨床治験に参加する患者さんの数が十分に集まらないこと
などです。
現在、日本での未承認薬を使用したい場合は、費用を個人で負担した上で、個人輸入する必要があります。病院で未承認薬による治療を受けた場合、本来医療機関が保険請求できる薬剤費・診察料・検査料もすべて保険請求ができなくなるため、治療にかかった費用のすべてを全額自己負担しなければなりません。さらに、未承認薬を使って万一副作用が出た場合は、国の医薬品副作用被害救済制度の適用外となってしまいます。
一方、未承認薬の中には患者数がごく限られているものがあり、臨床試験の実施に長い時間と多額の研究開発費用がかかるため、製薬企業1社では負担が大きく、対応できないこともあります。患者側にも「リスクが高い」など、後ろ向きなイメージがある、という現実もあります。
このような状況にある中、日本でもいくつかの対策が立てられています。まず、未承認薬等の開発支援対策として、日本製薬工業協会が「未承認薬等開発支援センター」を設立し、承認のための資金援助や専門的な支援を行っています。
また、厚生労働省など国の機関を中心に、徐々に日本でも未承認薬や適応外薬の研究に取り組める環境が整えられ始めており、日本でも未承認薬、適用外薬の承認に向けた積極的な動きが広まってきています。
医薬品数
それでは日本における適応外薬や未承認薬をがんの分野で見ていきます。
2017年12月25日時点では、アメリカかヨーロッパで承認されているものの、
● 日本では未承認となっているお薬:41
● 日本では適応外のお薬:26
となっています。2010年~2014年の5年間の状況と比較すると、その数は約4倍近くも増えており、年々、日本での未承認薬・適応外薬が増えているということがわかります。
さらにこの41ある未承認薬の内訳をみてみると、
● アメリカ、ヨーロッパともに承認されているが、日本では未承認:20
● アメリカとヨーロッパいずれかでは承認されているが、日本では未承認:21
となっていました。
未承認新規医薬品等を用いた医療提供
医療機関における未承認薬・適用外薬の使用においては、病院ごとにルールを設けて実施しています。例えば、日本で使用されていない未承認新規医薬品を使用する際には、その使用を院内の医療安全管理部や評価委員会へしかるべきタイミングで報告し、慎重に評価・協議した上で、使用を許可していく、という流れです。
また、医療機関によっては全くの新しいお薬を使うのではなく、未承認、適用外薬であってもすでにいくつかの病院が使用しているものや、再審査が通っており、結果待ちの段階で使用するということもあります。未承認、適用外であるからといって、一概に「安全性が確立されていないとは言い難い」と、判断されていることになります。
また、リスク評価においては適応外、高リスク、禁忌投与に分けて評価を行います。
● 適応外:薬剤自体は日常的に使用されるが適応外で使用をする場合
● 高リスク:警告の記載が添付文書にあり危険性が高いあるいはリスクの判定ができないため使用場所や使用者に制限をかける必要があるもの
● 禁忌投与:事故が起きた場合の責任が重大であり、極力使用を避けるもの
などに分類し、評価が行われています。
個人輸入
使用したい薬剤が、日本においては未承認・適用外となる場合は、費用を自己負担した上で、個人輸入をするという手段をとります。個人が個人での利用目的で輸入する場合は原則として、地方厚生局に必要書類を提出して、非営利目的という証明を受ける必要があります。お薬によっては、この証明を受けず「関税を通ることができれば輸入可能」という場合もあります。
ただし、麻薬や覚せい剤の原料、抗精神病薬や大麻などは日本国内への持ち込みが禁止されています。また、海外ではサプリメントとして売られているものが、日本では医薬品としての適用となってしまうこともあるため、注意が必要です。
さらに、海外で有害事象の発生が報告されているお薬や、偽造医薬品として流通しているものも、個人輸入では問題が起きても一個人の責任となります。医薬品を個人で輸入する場合には、慎重に薬剤を選択する必要があります。
参考文献
国立がん研究センターがん情報サービス 未承認薬とは
https://ganjoho.jp/child/dia_tre/treatment/drug.html
https://ganjoho.jp/hikkei/saihatsu/chapter6/index.html
https://www.ncc.go.jp/jp/senshiniryo/iyakuhin/index.html
国立がん研究センター 国内で薬事法上未承認・適応外である医薬品について
https://www.ncc.go.jp/jp/senshiniryo/iyakuhin/index.html
製薬協 「未承認薬・適用外薬とは」
http://www.jpma.or.jp/event_media/campaign/campaign2010/top.html
製薬協 「日本の現状」
http://www.jpma.or.jp/event_media/campaign/campaign2010/top.html
製薬協 製薬産業の社会的貢献
http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q52.html
東京医科歯科大学 医学部付属病院 臨床試験センター
http://www.tmd-ac.jp/medical/unapproved/
東邦大学医療センター 大森病院
http://www.omori.med.toho-u.ac.jp/sinryoka/misyonin.html
厚生労働省 「医薬品の個人輸入について」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/0104/tp0401-1.html