更新日:2021/05/28
女性のがん 心のケア―がん患者さんと家族のための診療室
先月に引き続き今月も大西秀樹医師の著書「女性のがん 心のケア」です。大西医師は埼玉医科大学国際医療センターで精神腫瘍科を担当しています。同著は前作「女性のがん 心のケア」の増補改訂版。がんの告知を受けた患者さんやご家族のメンタルケアの重要性を感じた大西医師が悲しみを乗り越え希望を見出せるようにとの想いで書かれたものです。実際のがん患者さんとのやりとりなども紹介されていて、大西医師のお人柄も垣間見られる内容です。
ゆがんだ認知を修正する精神腫瘍科
がんの告知を受けた患者さんの中には治療を受けることもできないほど落ち込んでしまう人がいると大西医師は前作の著作の中でも述べています。そのような状態では治療を受けるどころではありません。このような場合、まずがん患者さんの心のケアが必要になると大西医師は指摘します。
うつ病は「脳が疲れた状態」にあるため、まずは脳を休ませる必要があるとのこと。でなければ不眠や抑うつなどの症状が悪化することがあるそうです。そのため安静にすることが一番。たとえばリハビリを行っている人で少し症状が回復してもあまり無理はせずに安静にしていることが大切なのだと大西医師は強調します。
うつ病の患者さんはものごとを否定的にとらえたり、自分の能力を過剰に低く評価してみたり、過度に自分を責めたりして、一種の被害妄想的な感情を持つことがあるとのこと。
精神腫瘍科では、バランスのとれた前向きな行動がとれるように手助けを行っています。この治療法は認知療法と呼ばれるもので、がん患者さんの悩みに向き合いながらゆがんだ認知を修正していきます。
患者さんの本当の痛みとは
大西医師が実際に担当した肩の激しい痛みを訴えセカンドオピニオンで来院した進行がんの50代女性患者さんのケース。がんが肝臓や肺に転移しているものの、画像診断からは新たな病変など診られないため、痛み対して鎮痛薬が処方されます。しかし、翌週になっても痛みは軽減しません。大西医師はさらに強い鎮痛薬を処方しますが、症状は改善しませんでした。
そこで、大西医師が行ったのがうつ病の検査。結果はうつ病と診断され、抗うつ薬が処方されます。それから2週間後、激痛を訴える患者さんの痛みはほぼなくなり、1か月後には消失していたそうです。
大西医師が患者さんから詳しい状況を聞くと、前の病院で「もう治療としてできることはない」などといわれ絶望的になっていたことがわかってきました。同院では診断の結果、腫瘍の大きさに変化はないので経過をみていきましょうといわれ安心したとのことです。痛みの原因は「もう治療法がない」という医師のひとことだったそうです。
心にも自然治癒の力が
がんに罹患することで患者さんはさまざまな喪失感を体験すると大西医師は指摘します。子宮がんであれば子宮、卵巣がんであれば卵巣の切除を余儀なくされ、また乳がんであれば乳房の全摘術が行われることも少なくありません。若い女性にとって子宮や卵巣の切除は、将来の妊娠の不安となります。また、ホルモンバランスの変化による更年期障害に悩まされる女性もいるとのこと。
このような喪失体験は死への恐れにつながると大西医師は話します。そこで診察時に行っているのが「語りと傾聴」です。「からだに自然治癒力があるように、心にも自然に治る力が備わっている」と大西医師はいいます。回復へ向かう要となるのは「語りと傾聴」。大西医師は患者さんの心身の状態を診ながら、共に解決法を探っていきます。そうするなかで、患者さんはもう一度生きる意欲が湧いてくるのだそうです。
精神腫瘍科のことをまだよく知らないという人も多いと思いますが、患者さんをはじめご家族の方にもお勧めの一冊です。
執筆者 美奈川由紀 看護師・メディカルライター
看護師の経験を活かし、医療記事を中心に執筆
西日本新聞、週刊朝日、がんナビ、時事メディカルなどに記事を執筆
著書に「マンモグラフィってなに?乳がんが気になるあなたへ」(日本評論社)がある
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