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更新日:2026/08/05

がんとは -発生・転移メカニズム-

がんは、正常な細胞の遺伝子に複数の変異が積み重なることで発生します。なぜがん細胞は止まらず増え続けるのか、どのような経路で転移するのか——この記事では、がんの発生から転移のメカニズムまでを、国立がん研究センターやNCIなどの一次情報にもとづいて解説します。

この記事でわかること

  • 正常細胞とがん細胞の根本的な違い
  • 多段階発がんのプロセス(遺伝子変異の蓄積)
  • がん遺伝子・がん抑制遺伝子のはたらき
  • がんの発生部位による分類(癌腫・肉腫・造血器腫瘍)
  • 転移の経路(リンパ行性・血行性・播種)と悪性腫瘍の特徴

がん細胞と正常細胞

私たちの体は、約37兆個もの細胞から成り立っています※1。それぞれの細胞は、体や周囲の状況に応じて増殖のタイミングを調整しています。たとえば傷口ができると細胞が増殖して修復し、傷が治れば増殖をやめます。このように正常細胞の増殖は厳密に制御されています※2。

がん細胞は、正常細胞から発生した異常な細胞です。最大の違いは、増殖の制御が失われている点にあります。がん細胞は「周囲の状況を無視して増え続ける」性質をもちます※2。増え続けるうちに周囲の組織に染み込むように広がり(浸潤)、血管などを介して体のあちこちに飛び火して新しい塊をつくります(転移)※2。

良性腫瘍は細胞が増えても浸潤や転移を起こさず、周囲の組織を押しのけるようにゆっくり大きくなるにとどまります。完全に取りきれば再発しないことが多く、生涯にわたって症状が出ないものもあります※2。悪性腫瘍(がん)との最大の違いは「浸潤と転移」の有無です。

発がん要因

がんの発生には、体の外から働く要因と、加齢や体の状態に関わる内的な要因の両方が関係しています。国立がん研究センターは、科学的根拠に基づくがんの要因として以下の6項目を挙げています※3。

要因 具体的な内容
喫煙 たばこ煙(受動喫煙を含む)に含まれる発がん性物質が遺伝子を傷つける
過度の飲酒 過度の飲酒はがんのリスクを高める
食生活 塩分の過剰摂取・野菜・果物の不足・熱すぎる飲食物の摂取
身体活動・体重 運動不足・太りすぎ・やせすぎ
感染 ウイルスや細菌(ピロリ菌、B型・C型肝炎ウイルス、HPVなど)

これらの外的要因のほかに、加齢も重要なリスク因子です。NCIは、加齢をがんの最も重要なリスク因子の一つとして明記しています※4。これは、年齢とともに遺伝子変異が長い時間をかけて蓄積していくためと考えられています※2。また、免疫抑制状態では免疫細胞によるがん細胞の認識・排除がうまく機能しなくなり、特定のがんのリスクが高まるとされています※5。

日本人男性の43.4%、女性の25.3%が喫煙・飲酒などの生活習慣や感染が関係するがんを発症したと推定されています※3。これらは生活習慣の改善や感染対策によってリスクを下げられる要因でもあります。

発がんの段階

正常な細胞ががん細胞になるには、複数の遺伝子変異が必要とされています。これらの変異は一度に起きるのではなく、長い年月をかけて徐々に蓄積していきます※2。このプロセスを「多段階発がん」と呼びます。

多段階発がんの流れを示す図。正常細胞から遺伝子変異の蓄積、異常細胞、腫瘍形成、浸潤・転移へと段階的に進むプロセス
正常細胞が遺伝子変異を積み重ね、がん細胞になるまでの多段階のプロセス

多段階発がんの主な流れは次のとおりです※2。

  1. 正常な組織に、遺伝子が傷ついた異常な細胞が現れる
  2. 複数の遺伝子変異が蓄積し、腫瘍(細胞の塊)が形成される
  3. 腫瘍が周囲の組織に染み込むように広がる(浸潤。基底膜を越える)
  4. 血管やリンパ管に入り込み、全身に広がる(転移)

遺伝子の傷を引き起こす外的要因には、喫煙・飲酒・食物の焦げ・紫外線・化学物質・放射線などがあります※2。こうした外的要因は、細胞内のDNAに直接あるいは間接的に損傷を与えます。体には通常、損傷したDNAを修復する仕組みが備わっていますが、その修復が追いつかない変異が積み重なると、がんが発生しやすくなります。

がん遺伝子

細胞の増殖を促す役割をもつ遺伝子に変異が生じると、細胞がどんどん増えて止まらなくなり、がんの発生につながることがあります。このような遺伝子を「がん遺伝子」と呼びます※2。

がん遺伝子は、車でいえば「アクセル」に例えられます。正常な状態ではアクセルは必要なときだけ踏まれますが、変異によってアクセルが踏みっぱなしの状態になるイメージです。代表的ながん遺伝子として、EGFR遺伝子・HER2遺伝子・RAS遺伝子が知られています※2。これらの遺伝子の変異は、特定のがん種の診断や治療方針の決定にも関わるものです。

がん抑制遺伝子

がん遺伝子(アクセル)とは対照的に、細胞の増殖を抑えたり、遺伝子の変異を修復したり、異常な細胞を排除したりする役割をもつ遺伝子を「がん抑制遺伝子」と呼びます※2。

がん抑制遺伝子は「ブレーキ」に例えられます。このブレーキが変異によって働かなくなると、増殖の歯止めが失われ、がんの発生や進行につながります。代表的ながん抑制遺伝子として、TP53遺伝子・RB遺伝子・BRCA1/2遺伝子が知られています※2。

実際のがんの発生には、増殖を促す側(がん遺伝子)のはたらきが強まることと、抑える側(がん抑制遺伝子)のはたらきが失われることが組み合わさっている場合が多く、アクセルが踏みっぱなしになりブレーキも効かなくなった状態にたとえられます※2。どのような遺伝子変異があるかは、がんの種類や性質によって異なります。詳しくは主治医や専門医にご確認ください。

遺伝子の変異

遺伝子の傷とはDNAの傷のことです。DNAとは、細胞の核の中に存在する遺伝情報を担う物質です。遺伝子はこのDNA上に暗号として記録されています※1。

DNAは、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)と呼ばれる4種類の塩基が対を形成しながら2本のらせん状に束なった構造(2重らせん構造)をしています。人の遺伝情報は、DNA上のG・A・T・Cという約30億個の文字で書かれており、細胞は約2万数千個もの遺伝子によってコントロールされています※1。

遺伝子の変異とは、この遺伝子の暗号を構成する文字の一部が別の文字に置き換わったり、抜け落ちたり、本来なかった文字が付け加わったりすることです※13。こうした変異が修復されずに積み重なり、増殖を促す遺伝子(がん遺伝子)のはたらきが強まったり、増殖を抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)のはたらきが失われたりすると、がんの発生につながります※2。

ただし、すべての遺伝子の変異ががんにつながるわけではありません。多くは修復されるか無害なもので、複数の変異が積み重なることではじめてがんの発生に至ると考えられています※2。

がん発生部位

がんは基本的に、すべての臓器・組織に発生しうるとされています※2。がんは発生した細胞の種類によって大きく3つに分類されます。

がんの分類を示す図。上皮細胞から発生する癌腫、非上皮細胞から発生する肉腫、血液・骨髄・リンパ節から発生する造血器腫瘍の3分類
がんは発生する細胞の種類によって「癌腫」「肉腫」「造血器腫瘍」の3つに大別される
分類 発生する細胞 代表例
癌腫(がんしゅ) 上皮細胞(皮膚・消化管・気道などの表面を覆う細胞) 大腸癌・肺癌・胃癌・乳癌・前立腺癌・膵臓癌・肝細胞癌
肉腫(にくしゅ) 骨・筋肉・脂肪組織などの非上皮細胞(間質細胞) 骨肉腫・軟骨肉腫・脂肪肉腫・未分化多形肉腫・粘液線維肉腫・平滑筋肉腫
造血器腫瘍 血液・骨髄・リンパ節内の細胞 白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫

癌腫と肉腫をあわせた固形腫瘍(こけいしゅよう)は、臓器や組織に塊を形成して大きくなります。造血器腫瘍は固形の塊を形成しないため、固形腫瘍とは区別されます※2。

がんの転移

転移(てんい)とは、がん細胞が最初に発生した場所(原発巣)から離れた別の場所に到達し、そこで増殖して新たな腫瘍をつくることをいいます※2。転移したがんは、転移先の臓器の細胞ではなく、原発がんと同じ種類の細胞からなります。たとえば乳がんが肺に転移した場合、肺にできた腫瘍は乳腺の細胞からなります※2。

転移の種類

転移は、がん細胞が原発巣を離れ、血管・リンパ管・体腔などを経由して別の部位に到達するものです。転移したがんの細胞は原発がんと同じ細胞種からなっており、転移先の臓器固有の細胞に変わるわけではありません※2。したがって、肺に転移した乳がんの細胞は「肺がんの細胞」ではなく「乳腺の細胞」です。このことは、転移がんの治療方針を考えるうえでも重要な意味をもちます。

転移の経路

がん細胞が原発巣から別の場所へ移動する経路には、主に3つのパターンがあります。

がんの転移経路を示す図。リンパ行性転移(リンパ管を経由)、血行性転移(血管を経由)、播種(体腔内への散布)の3経路
転移の3つの主な経路——リンパ行性・血行性・播種

リンパ行性転移
がん細胞がリンパ管に入り込み、リンパ液の流れに乗って途中のリンパ節にたどり着いて増殖します※6。リンパ節への転移は一定の規則性があり、原発巣に近いリンパ節から順に遠いリンパ節へと広がる傾向があります※6。

血行性転移
がん細胞が血管(主に静脈)に入り込み、血液の流れに乗って別の臓器や器官に移動して増殖します※7。骨・肝臓・肺が最も一般的な転移先とされています※8。がんの種類によって転移しやすい臓器が異なり、たとえば乳がんは脳・肝臓・肺・骨に、肺がんは副腎・脳・肝臓・骨や肺の別の部位に転移しやすい傾向があるとされています※8。

播種(はしゅ)
がん細胞がもとの臓器から剥がれ落ち、腹腔・胸腔・脳脊髄腔などの体内の空間に種をまいたように散らばって増殖することです※9。

がん(悪性腫瘍)の特徴

自律性増殖能をもつ

悪性腫瘍(がん)の最大の特徴は、体の全身的なバランスを無視して自律的に増殖を続ける点にあります。正常細胞が増殖を制御されているのに対し、がん細胞は周囲の状況にかかわらず増え続けます。増殖したがん細胞は、発生部位の周囲に染み込むように広がり(浸潤)、さらに体のあちこちに転移して次々に新しいがん組織をつくります※2。

一方、良性腫瘍は増殖能をもっていても浸潤や転移を起こしません。周囲の組織を押しのけるようにゆっくりと大きくなり、完全に取り除ければ再発しないことが多いとされています※2。良性腫瘍でも、発生した部位によっては圧迫症状を来すことがあります。

悪液質(あくえきしつ)を起こす

悪液質(がん悪液質)は、がん患者さんに見られる進行性の症候群です。骨格筋量の減少が持続し、通常の栄養補給だけでは完全に回復できない状態と定義されています※10。

原因は単純な「栄養の奪い合い」ではありません。腫瘍が産生するサイトカイン・神経ペプチド・腫瘍由来因子などのメディエータが関与し、脂肪・タンパク質・炭水化物の代謝に異常をもたらします※10。このため通常の栄養補給のみでは改善しにくく、医療チームとの相談が重要です。がん悪液質については別記事でもくわしく説明しています。

腫瘍による症状の一例

腫瘍によって引き起こされる症状にはさまざまなものがあります。

局所的な症状

腫瘍が周囲の組織を圧迫したり、閉塞を起こしたり、局所を破壊することで症状が現れます。代表的な例を以下に示します※11※12。

メカニズム 状況の例 生じうる症状の例
圧迫・閉塞 脳腫瘍による頭蓋内圧の上昇 頭痛・吐き気・意識障害
圧迫・閉塞 胆道ががんによって閉塞する 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)・尿の色が濃くなる
局所破壊 血管・神経・消化管へのがんの浸潤 出血・疼痛・消化管穿孔など

こうした局所の症状のほか、がん悪液質のように全身に影響が及ぶこともあります※10。現れる症状は腫瘍のできた場所や種類によって大きく異なります。気になる症状がある場合は、まず主治医にご相談ください。

よくある質問

Q. がん細胞と正常細胞の最大の違いは何ですか?

A. 増殖の制御が失われている点です。正常細胞は体の状況に応じて増殖をやめますが、がん細胞は周囲の状況を無視して増え続けます。さらに周囲に染み込む(浸潤)・離れた場所に飛び火する(転移)という性質をもつことが、悪性腫瘍の特徴です※2。

Q. 転移がんは、転移先のがんとは別のがんですか?

A. 転移がんは原発がんと同じ細胞種からなります。たとえば乳がんが肺に転移した場合、肺にできた腫瘍は「肺がん」ではなく「乳腺の細胞からなる腫瘍」です。治療方針も原発がんの性質にもとづいて検討されます※2。詳しくは主治医にご確認ください。

Q. 悪液質は栄養をとれば回復しますか?

A. 悪液質は通常の栄養補給だけでは完全に回復できない状態と定義されています。腫瘍が産生するサイトカイン等の物質による代謝異常が原因であるため、栄養管理だけでなく医療チームによる総合的なアプローチが必要です※10。がん悪液質の詳細については専門ページもご覧ください。

本記事は2026年8月6日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。

参考資料

  1. 国立がん研究センター がんゲノム情報患者向けサイト「遺伝子・ゲノムとは」(最終確認日: 2026年8月6日)
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(最終確認日: 2026年8月6日)
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防法」(最終確認日: 2026年8月6日)
  4. NCI「Age and Cancer Risk」(最終確認日: 2026年8月6日)
  5. NCI「Immunosuppression」(最終確認日: 2026年8月6日)
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「リンパ行性転移」(最終確認日: 2026年8月6日)
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「血行性転移」(最終確認日: 2026年8月6日)
  8. NCI「Metastatic Cancer」(最終確認日: 2026年8月6日)
  9. 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「播種」(最終確認日: 2026年8月6日)
  10. NCI PDQ®「Nutrition in Cancer Care–Health Professional Version」(最終確認日: 2026年8月6日)
  11. 国立がん研究センター がん情報サービス「脳腫瘍〈成人〉について」(最終確認日: 2026年8月6日)
  12. 国立がん研究センター がん情報サービス「胆道がんについて」(最終確認日: 2026年8月6日)
  13. 国立がん研究センター がんゲノム情報患者向けサイト「がん発症の仕組み」(最終確認日: 2026年8月6日)

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