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がんの痛み

がんの痛みについて、がん疼痛、原因、消化器のがんの痛み、泌尿器のがんの痛み、乳がんの痛み、痛みの種類など様々な観点から解説します。

目次


がんの痛み

がん疼痛

「痛み」とは、どのような状態を指すのでしょうか。「痛み」について、国際疼痛学会は「実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはその損傷の際に表現されるような不快な感覚体験及び情動体験」と定義付けています。つまり、体の中で何かしらの「損傷」が起こるときに体感する、不快な感覚が「痛み」なのです。

痛みは、急性痛と慢性痛に分かれます。急性痛の場合は、痛み自体が警告反応であり、また痛みが経過を示すパラメータの一つ(診断価値)になるため、診断が確定するまではできるかぎり除痛を行わないことが望ましいと言われていました。
しかし、近年においては、診断の発達とともに、診断や治療の妨げとなる疼痛を除去することで最大限の効果を期待する考えが浸透しています。
慢性痛の場合は、診断的価値もなく、慢性痛自体が、患者の様々な障害となります。そのため疼痛の制御が重要となります。

また、痛みは侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に分類され、このうち、侵害受容性疼痛は体性痛と内臓痛に分類されます。

体性痛とは皮膚や骨、関節、筋肉、結合組織といった体性組織を切る、刺すなどの「機械的刺激によって発生する痛み」と定義され、がんにおいては骨転移の痛みや、手術後の早期の創部痛、筋膜や筋骨格の炎症や攣縮に伴う痛みなどが挙げられます。多くの人が感じる、急性あるいは慢性に経験する痛みのことをいいます。

一方の内臓痛とは、食道、胃、小腸、大腸などの消化管(管腔組織)の炎症や閉塞、肝臓や腎臓、膵臓などの臓器の炎症、腫瘍による圧迫、臓器被膜の急激な進展※1が原因で発生する痛みと定義されます。がんにおいては胸部や腹部内臓へのがんの浸潤や圧迫が原因で、痛みが発生します。体性組織とは異なり、切る、刺すといった刺激による痛みとは痛みのメカニズムが違いますが、悪心や嘔吐、発汗などと言った随伴症状が認められることがあります。
※1 臓器被膜の急激な伸展:肝臓や腎臓、膵臓などのような臓器には、その表面を覆う薄い膜(臓器被膜)があります。これが、何らかの原因で急に伸びたり、引っ張られてしまうことをいいます。

神経障害性疼痛とは、痛覚を伝える神経が直接的に障害されたり(傷ついたり)、これらの神経の疾患があることによって生ずる痛みと定義されます。障害された神経が支配する領域に、さまざまな痛みや感覚異常が発生します。がんにおいては、浸潤によって生じる脊髄圧迫症候群や腕神経叢浸潤症候群、化学療法後の手や足の痛みなどが挙げられます。通常、疼痛を感じる領域の感覚は低下し、運動障害や自律神経の異常を伴うこともあります。通常、疼痛を感じる領域の感覚は低下し、運動障害や自律神経の異常を伴うこともあります。

このようにがんの痛みは単一なものではなく、障害部位や障害の状況などによって、さまざまな「痛み」として認識されています。がん自体が直接原因となる痛みで、がんの広がりや転移に生じる痛みをがん疼痛(がん性疼痛)と呼びます。

がんの痛みの原因

がんによる身体の痛みはその原因によって3つに分類されます。

がん性疼痛

一つはがん自体が直接原因となる痛み(がん性疼痛)で、がんの広がりや転移に生じる痛みです。がん性疼痛は、がん患者の約70%が経験する痛みともいわれており、その痛みは身体的な苦痛だけでなく、心理社会的にも苦痛を及ぼすものとされています。大きくは、前述した内臓痛、体性痛、神経障害性疼痛の3つに分類されます。

内臓器官へのがん浸潤による痛み
一般に、消化管や泌尿器・生殖器に原発した初期がんは痛みを伴わないことが多いですが、進行すると痛みが生じるようになります。
・がんが後腹膜腔に拡がると、痛みが出ます。
・胃、腸、胆道、尿管、子宮、膀胱などの管腔臓器にがん組織が浸潤して、内容物の通過を妨げると、痛みが現れます。

がん性疼痛のうち、約80%がお薬でコントロールできるとされており、お薬の適切な使用が、もっとも重要な疼痛コントロールのポイントともいえます。

がんの治療に伴って生じる痛み

二つ目は、がんの治療に伴って生じる痛みです。例えば、手術後の痛みや放射線治療、化学療法によって生じる、神経障害や口内炎といった副作用による痛みのことを指します。

がんやがん治療が直接の原因でない痛み:全身衰弱や合併症による痛み

三つ目は、全身衰弱や合併症による痛みです。これは上記のいずれにも該当しない原因によって、生じる痛みのことを言います。がんによって長期臥床となってしまうと、腰痛や褥瘡、手足のむくみなどといった、いわゆる「廃用症候群」が生じ、これに伴って筋肉などに痛みを感じるようになります。また、新たに合併した疾患(例えば帯状疱疹など)による痛み、もともと患者自身が罹患していた疾患に対する痛みなども、これに分類されます。

がんの痛みは他の痛みと違い、時間が経てば消えるということはなく、増強しながら続いていくという特徴があります。

また、がん患者の痛みの中には、「オンコロジーエマージェンシー」に関係した痛み、という場合もあります。これは、例えば、脊髄圧迫症候群や硬膜外転移、体重支持骨の骨折または切迫骨折、脳転移や軟髄膜転移、感染症、消化管の閉塞や穿孔、出血よって生じる痛みのことをいいます。これらの原因による痛みの場合、腫瘍学的には「緊急的な対処を必要とする痛みである」とされています。



がんの種類ごとの痛み

消化器のがんの痛み 食道がん/胃がん/大腸がん/肝がん/膵がん

【食道がんの痛み】
・がんの初期、食べ物を飲み込んだ時に胸の奥がチクチクしたり、熱いものを飲み込んだ時しみるような痛みが出ます。
(がんが大きくなると感じなくなる時があります。)
・がんが増大すると、食道の内側が狭くなり、食べ物がつかえます。この時に痛みが出ます。
・がんが拡大し、食道の壁を貫くと、肺や背骨、大動脈を圧迫し、胸の奥や背中に痛が出ます。
・がんが進行し、気管、気管支、肺へ及ぶと、咳、血痰と共に痛みが出ます。
【胃がんの痛み】
・胃がんが進行し、管腔が狭窄すると、通過障害を引き起こし、痛みを生じます。
(幽門部に発生したがんは狭窄をきたしやすい。)
・痛みの中で、最も多いのが、みぞおちを中心とした心窩部の痛みです。
【大腸がんの痛み】
・大腸がんは進行する際、まず内腔に向かって増殖するので、痛みはなかなか出ないとされています。
(集団検診で、大腸がんが発見された患者の3大自覚症状:1. 便秘がち、2. 便が細くなった、3. 痔。腹痛は少ない。 )
・直腸がんが潰瘍化し、二次感染を起こすと、炎症の痛みが出ます。
・がんが増大し、通過障害が起こると、イレウスとなり、腹痛が出ます。
・がんが大腸の外壁に拡がり、骨盤腔内に入り込むと、痛みが出ます。
【肝がんの痛み】
・肝臓に原発したがんや肝臓に転移したがんによって、右季肋部、心窩部に痛みが出ます。
・肝臓にがんが発生して増殖すると、肝臓の被膜が伸のび、被膜にある痛覚受容器を刺激して、鈍い疼く痛みが出ます。
(肝臓全体:腹部上部に痛み、圧迫感、不快感等を感じます。)
・肝がんが肝表面に拡がると、腹腔内に出血して、痛みが出ます。
・がん増大による門脈の塞栓症や排便等の腹圧上昇により、肝がんが破裂すると、痛みが出ます。
【膵臓がんの痛み】
・膵臓原発のがんでは、膵管が徐々に閉塞され急激に膵管の内圧上昇が起こらないため、強い腹痛は起こらないとされています。
・がん増大により、膵液の通路となる膵管の内圧が上昇すると痛みが出ます。
・膵臓内および膵臓周囲への炎症の影響で、痛みが出ます。
・がんが増殖し、後腹膜膜に拡がると、強い上腹部痛あるいは背部痛が現れます。
・転移したがんにより、膵液の排泄が滞ることで、膵液に含まれる解酵素が活性化されて、膵臓の分解が促進されます。この影響で、血液成分が血管外に出てることで膵臓が腫れ、心窩部から背部にかけて痛みが出ます。

泌尿器のがんの痛み 腎がん / 膀胱がん

【腎細胞がんの痛み】
・腎臓に発生したがんが急速に増殖すると、腎臓の被膜が伸び、腰背部、特に肋骨錐体三角部(肋骨と脊柱に囲まれた三角形の部分)に痛みが出ます。
・腎細胞がん、腎盂・尿管のがんから大量に出血すると、血液が固まって凝血塊となりが尿管を閉塞します。閉塞が急に起こると、尿管結石症のような疝痛発作を生じます。
【膀胱がんの痛み】
・膀胱にがんが広がると、下腹部に限局した鈍痛が出ます。
・膀胱がから大量に出血すると、膀胱内で血液が固まり、痛みが出ます。

乳がんの痛み

・がんが炎症を伴わずに乳腺内にとどまっている場合では、痛みを感じることは少ないです。
・炎症が乳房内に拡がると、痛みが出ます。
・がんが胸郭にまで及んだり、がん組織に潰瘍できたり、感染が発生すると、痛みが出ます。
・乳房手術の結果神経損傷により痛みが出ることがあります。

その他

【がん組織による血管閉塞】
・血管壁にがん組織が及ぶと、びまん性の灼けつく痛みや疼く痛みが出ます。
・血管を部分的に閉塞あるいは完全に閉塞すると、うっ血、虚血が現れ、浮腫を招き、結果として痛みが出ます。
頭蓋腔を出る静脈が閉塞すると、頭痛が出ます。
【骨転移の痛み】
・がんが増大し、骨膜に分布する痛覚受容器を刺激することで痛みが出ます。
・進行がんにおいて以下の場合などで胸痛が出ます。
【がん組織の末梢神経浸潤による痛み】
・がんによる末梢神経や脊髄神経の圧迫、がんの軟部組織への広がりによって痛みが出ます
・手術や化学療法・放射線療法などのがん治療の結果、神経損傷による痛みが出ます。
【脳内転移】
・脳実質そのものは痛みを感じませんが、がんが脳に転移したときなど、痛覚受容器が分布する大血管髄膜で痛みが出ます。

痛みの種類

がん患者の持つ痛みには、身体的な疼痛のみならず、社会的、精神的、経済的、霊的な痛み等があり、これらを統合して全人的痛み(total pain)として捉える必要があります。
痛みの評価としては、痛みの質、痛みの量、困りの度合いの評価が重要です。

痛みの評価
1.疼痛の性質と強さ
(1)痛みの部位
(2)痛みの始まりと経時的変化(いつから、頻度、間欠的・持続的、時間経過による痛みの変化)
(3)痛みの性質と強さ
(4)痛みに影響する因子(増強因子・緩和因子、痛みと関連する他の症状)
(5)今までの治療(これまでの治療法とその効果)
(6)生活への影響(身体機能・社会機能・日常生活・精神状態への影響)
2.痛みの原因を診断するために必要な身体所見、画像検査
(1)神経学的所見
(2)画像検査所見(CT、MRI、骨シンチグラフィなど)
(3)精神学的所見
がん性疼痛は、がん患者にみられる体重減少、食欲不振、呼吸困難などの症状などと密接な関連を持つことが多く、逆に睡眠や休息、人とのコミニケーションなどは、痛みを減少させるとされています。疼痛コントロールは、がんの治療および身体的疼痛を取り除くことが第1優先であるが、それが難しい患者でも、理解し、指示する態度を示すことで痛みを和らげることができる可能性があります。

がんには心の痛みもある

がんには身体の痛みだけでなく心の痛みもあります。心の痛みとは、がんになったということが分かった直後だけでなく、病状告知の後、治療の選択をするとき、通院治療を開始するあるいは退院をしたとき、転移・再発をした後など、その期間も長きにわたりますが、特にがんが告知されてからの2週間は、心の痛みが強く出る時期であると考えられています。 また、痛みの種類も多岐にわたります。具体的には身体的な側面、社会的な側面、人間関係の側面、心理的な側面による心の痛みです。

身体的な側面の痛みとは、身体的な症状の痛みによる辛さが、心の痛みに直結するものです。特にがんによる痛みは前述したようにがんが治るまで続いていくものであり、がんの進行とともに増強していきます。この痛みは身体だけでなく心の痛みにもつながっていきます。また、治療による身体の痛みも、心の痛みへとつながっていきます。

社会的な側面の痛みとは、仕事の継続の可否や治療による経済的な側面であり、これらのことを考えることが、心の痛みになってしまうことがあります。

人間関係では、職場の人へのがんについてどのように伝えるか、また家族に対しての接し方などが、心の痛みへとつながります。特に家族においては、家族のどの役割の人ががんを罹患したとしても、それぞれに心の痛みが生じます。例えば、稼ぎ頭ががんを罹患すれば家族の経済状況への不安を持ちますし、家事の中心を担っていた人ががんを罹患すれば家が上手く回らないということに心の痛みを持つでしょう。

心理的な痛みは、がんを罹患したことによる将来への不安、なぜ自分ががんを罹患したかという悲観的な考えによるものとされています。

痛みの伝え方

がんによる痛みを和らげていくためにはどうすればよいのでしょうか。身体の痛みをとるための具体的な方法は、身体の痛みを上手に医師や看護師に伝え、適切な薬を処方してもらうことです。痛みというのは主観的な情報であるため、他人へはうまく伝わりにくい傾向にあります。そのため、他人に痛みをうまく伝えるために、NRS(Numeric Rating Scale)やFPS(Face Pain Scale)といった痛みの評価法としてのツールを用いることがあります。

NRSとは痛みを数値化して伝えるもので、全く痛みのない状況を0、痛みの最大を10として痛みを伝えます。もう一つのFRSは、現在の痛みに一番合う顔を選んでもらうことで痛みを評価するものであり、3歳以上の小児の痛みの自己評価や高齢者の痛みの評価において有用性が報告されています。

また、痛みを伝える場合には、「痛みの特徴」も併せて伝えます。

● 痛みのタイミング:痛みは1日中あるのか、どんな時にどのように痛むのか、時々なのか急になのかなど
● 痛みの場所:いつも同じところが痛むのか、痛みの場所は変わるのか、広範囲なのか狭い範囲なのかなど
● 痛みの感じ方:ヒリヒリ、ピリピリ、ずきずき、じんじんなどという言葉を使用して表現

この他、日常生活への影響についても伝えられると良いでしょう。特に日常生活への影響については、食事がとれない、トイレへ行けない、お風呂に入れないなど、ご自身の生活上の行動が制限されている事柄を、細かく伝えていきましょう。また、痛み止めを使用している場合には、その痛み止めを使用したことにより、痛みにどのような変化が現れたのかを伝えることも必要です。

また、心の痛みは、一人で抱え込まないことも必要です。現在、QOL(クオリティオブライフ)という考え方があり、生活の質を向上させることが重要視されます。そのため、心の痛みで心を病ませるのではなく、誰かに相談したりすることも大切です。相談先としては、医療関係者やがん患者の会などがあります。

参考文献

日本緩和医療学会 がん疼痛の分類・機序・症候群
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2010/chapter02/02_02_02.php
国立がん研究センターがん情報センター 痛みを我慢しない
https://ganjoho.jp/hikkei/chapter3-1/03-01-09.html
同上 がんと言われたあなたの心に起こること
https://ganjoho.jp/hikkei/chapter1/01-00-03.html
日本質的心理学会 がん告知を受け手術を体験する人々の心理的過程
http://www.jaqp.jp/JJQPfull/JJQP_06_2007_158-173_full.pdf

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