更新日:2026/08/20
がんの痛み
がんと診断されると、「痛みはどのくらい続くのか」「痛みは和らげられるのか」という心配が生まれます。痛みは必ず誰にでも起こるわけではありませんが、がんの種類や進行度によっては強い苦痛となることがあります。大切なのは、痛みを我慢せずに主治医や緩和ケアチームに伝え、適切なサポートを受けることです。
- がんの「痛み」の定義と、急性痛・慢性痛・侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛という分類
- 痛みの原因となる3つのカテゴリー(がん自体・がん治療・それ以外)
- 消化器がん・泌尿器がん・乳がんなど、がんの種類ごとに起こりやすい痛みの特徴
- NRSと全人的苦痛(total pain)を使った痛みの評価の考え方
- 心の痛みのケアと、主治医・緩和ケアチームへの上手な伝え方
がんの痛み
痛みとは
「痛み」とは何でしょうか。国際疼痛学会(IASP)は2020年7月、41年ぶりに痛みの定義を改訂しました。改訂版の定義は次のとおりです※1。
「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」
(国際疼痛学会〔IASP〕による2020年改訂の定義。日本語訳)
2020年改訂では「言語化・表出できない人も痛みを経験しうる」ことが明記されました。痛みは常に個人的な体験であり、身体的な要因だけでなく心理的・社会的要因にも影響されます。また、痛みの訴えは尊重されるべきものです※1。
急性痛と慢性痛
痛みには「急性痛」と「慢性痛」があります。急性痛は組織の損傷が治癒するにつれて消えていくことが多い痛みです。一方、慢性痛は長期間にわたって続く痛みで、身体的な障害だけでなく日常生活や精神的な健康にも影響します。がんによる痛みは慢性痛として現れることが多く、適切なコントロールが重要です※3。
侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛
痛みは大きく「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられます。がんの痛みにはこれらが単独または組み合わさって現れます※3。
| 種類 | 特徴 | がんでの例 |
|---|---|---|
| 体性痛(侵害受容性) | 皮膚・骨・筋肉・結合組織への刺激による痛み。場所が明確で鋭い | 骨転移の痛み、術後の創部痛など |
| 内臓痛(侵害受容性) | 内臓への浸潤・圧迫・閉塞による痛み。鈍く広がる感じで、吐き気を伴うことがある | 腹部内臓へのがんの浸潤・圧迫など |
| 神経障害性疼痛 | 痛覚を伝える神経が直接障害されて生じる。電気が走るような、灼けつくような痛みが特徴 | がんによる神経圧迫、薬物療法後の手足の痺れや痛みなど |
がんの痛みはひとつではなく、障害を受けている部位や状況によってさまざまな形で現れます。日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版(第3版)」でも、同様の3分類(体性痛・内臓痛・神経障害性疼痛)を採用しています※3。
がんの痛みの原因
がんによる身体の痛みは、その原因によって大きく3つに分けられます※2。
がん性疼痛
1つ目は、がん自体が直接の原因となる痛みで、「がん性疼痛(がん疼痛)」と呼ばれます。腫瘍の増大・浸潤・転移によって周囲の組織や臓器、神経が圧迫・破壊されることで生じます。内臓痛・体性痛・神経障害性疼痛のいずれか、あるいは複合したかたちで現れます※2。
WHOの2018年のガイドラインによると、がん治療を受けている患者の約55%、進行・転移・末期がんの患者では約66%が痛みを経験するとされています※4(集団を対象とした統計であり、個々の患者さんの状況を示すものではありません)。
がんの治療に伴って生じる痛み
2つ目は、がんの治療によって生じる痛みです。手術後の傷の痛み、放射線治療による皮膚や粘膜の炎症、薬物療法による末梢神経障害(手足のしびれや痛み)・口内炎などが代表的です。治療の方法や患者さんの状態によって現れ方が異なります※2。
がんやがん治療が直接の原因でない痛み
3つ目は、がんやがん治療以外が原因の痛みです。もともと持っていた関節炎や胆石症などの痛みや、不安・抑うつ・疲労・不眠などの心理的要因によって痛みが増強することもあります。これらは複合してがんの痛みに関わることがあります※2。
がんの種類ごとの痛み
がんの痛みは、どの臓器にがんが生じているかによって特徴が異なります。以下では、がん情報サービスの部位別情報をもとに、代表的な例をご紹介します。いずれも、早期には痛みが出にくく、進行とともに症状が現れることが多い点が共通しています。
消化器のがんの痛み
食道がんでは、早期に「飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む」「熱いものを飲み込んだときにしみる感じ」などが現れることがあります。がんが進行して周囲の臓器に及ぶと、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります※5。
胃がんは、早期段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合もあります。症状が出る場合は、みぞおち周辺の痛みや不快感、胸やけ、吐き気、食欲低下などがみられます※6。
大腸がん(結腸がん・直腸がん)は、早期にはほぼ無症状です。進行すると血便・貧血症状・便秘・下痢・おなかの張り感などが現れ、さらに腸閉塞に至ると腹痛や嘔吐が起こります※7。
肝細胞がんは「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓に生じるため、初期にはほぼ自覚症状がありません。がんが進行すると、腹部にしこりや圧迫感、痛みがあらわれることがあります※8。
膵臓がんは小さいうちは症状が出にくく、早期発見が難しいがんです。進行すると腹痛・食欲不振・腹部膨満感・黄疸・体重減少・腰や背中の痛みなどが現れます※9。
泌尿器のがんの痛み
腎細胞がんは初期にはほぼ無症状で、検査で偶然発見されることが多いがんです。がんが大きくなると、血尿・背中や腰の痛み・腹部のしこり・足のむくみなどが現れます。骨転移が生じると骨の痛みや骨折を起こすことがあります※10。
膀胱がんの主症状は血尿で、痛みを伴わないことが特徴です。血尿は継続的でなく、一時的に出ることもあります。その他に頻尿・排尿時の痛み・残尿感などがあり、がんが進行するとわき腹・腰・背中の痛みや足のむくみが出ることもあります※11。
その他
乳がんをはじめとするその他のがんでも、がんが周囲の組織に広がると痛みが生じることがあります。たとえば、乳がんは初期にはしこりを触れることで気付くことが多く、乳房の痛みは主症状として記載されていませんが、進行した場合には周囲組織への影響が現れることがあります※12。
また、がんが骨に転移した場合(骨転移)には、骨の痛みや骨折リスクが高まります。転移部位によって症状は異なります。詳細については主治医や担当チームにご相談ください。
痛みの評価
痛みを適切にコントロールするためには、まず痛みの程度と性質を評価することが大切です。
NRS(ニューメリカル・レイティング・スケール)
NRS(Numeric Rating Scale)は、痛みを数字で伝えるスケールです※2。「0」が痛みのまったくない状態、「10」がこれ以上考えられないほどつらい痛みを意味します。今の自分の痛みが0から10のどの数字に当たるかを伝えることで、医療者と痛みの程度を共有できます。
全人的苦痛(total pain)の4側面
がん患者さんが経験する苦痛は、身体的な痛みだけではありません。日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版(第3版)」では、痛みを「全人的苦痛(total pain)」として捉えることを重視しています※3。
| 側面 | 主な内容 |
|---|---|
| 身体的苦痛 | がんによる痛み・倦怠感・息切れ・食欲不振・眠れないなど |
| 精神的苦痛 | 不安・恐怖・怒り・うつ・無力感など |
| 社会的苦痛 | 仕事・経済的問題・家族関係・人間関係への影響など |
| スピリチュアルな苦痛 | 生きる意味や目的への問い、死への恐怖、罪悪感など |
これら4つの側面は互いに影響し合い、身体の痛みが精神的苦痛を強めることも、逆に不安や孤独感が身体の痛みを増強させることもあります。痛みの評価では、身体的な評価とあわせて、こうした全人的な側面を医療者に伝えることが重要です※3。
痛みの評価で医療者に伝えるとよい情報には、痛みの性質と強さ(部位・いつから・持続的か間欠的か・どんな感じかなど)、痛みに影響する要因(増える場面・和らぐ場面)、日常生活への影響(食事・睡眠・移動など)が含まれます。
がんには心の痛みもある
がんと診断されると、さまざまな場面で心の痛みが生じます。がん情報サービスによると、こうした心理的反応は自然なことです※13。診断直後の強いショックや否定感から始まり、将来への不安や落ち込みの時期を経て、多くの方は2週間程度で生活に適応していくとされています。ただし、一部の方は適応障害やうつ病などに移行することがあり、適切なサポートが必要です。
心の痛みは、身体的な苦痛と密接に結びついています。がんによる痛みや倦怠感が心のつらさを強め、逆に精神的な孤立や不安が身体の痛みを増強させることがあります。こうした全人的苦痛の観点(前のセクション「痛みの評価」参照)からも、心のケアは早期から取り組む価値があります。
心の痛みの主な側面を以下に整理します。
- 身体的な苦痛からくる心のつらさ:がんの痛みや治療の副作用が心のつらさに直結します
- 社会的なつらさ:仕事を続けられるか、治療費の問題、周囲への告知をどうするかなどが心の重荷になります。がんの治療費については別記事でも解説しています
- 人間関係のつらさ:職場の人やご家族にがんをどう伝えるか、家族それぞれが異なる形で心の痛みを抱えることがあります
- 心理的なつらさ:将来への不安、自分ながんになった理由への問いなど、さまざまな気持ちが交錯します
こうした気持ちは一人で抱え込まなくても大丈夫です。担当医・看護師・心理士・ソーシャルワーカーなど、医療チームへ気軽に相談してください※13。「つらさと支障の寒暖計」という自己スクリーニングツール(がん情報サービス掲載)を活用して自分のつらさを可視化し、相談のきっかけとすることもできます※14。
がんの痛みの伝え方
痛みは主観的な体験であり、言葉で伝えにくい部分があります。しかし、正確に伝えることで医療者がより適切なサポートを提供できます。
痛みの特徴を伝える
主治医や看護師に痛みを伝えるときは、以下のような情報をできる限り具体的に伝えましょう※2。
- 痛みの部位:どこが痛むか、範囲は広いか狭いか、場所は変わるか
- 痛みのタイミング:1日中か、特定の時間帯か、動いたときか、安静時か
- 痛みの感じ方:ズキズキ・ヒリヒリ・ビリビリ・焼けつくような・重い・締め付けられるような、など
- 痛みの強さ:NRS(0〜10の数字)で伝えると共有しやすいです
- 日常生活への影響:食事がとりにくい・眠れない・歩けないなど、具体的に伝えましょう
- 痛み止めの効果:使っている薬がある場合は、使った後に痛みがどう変わったかも伝えてください
痛みは我慢しない
痛みは我慢しなくてよいものです。「少しくらいなら耐えられる」と感じていても、早めに伝えることで適切なサポートを受けやすくなります。痛みをこらえ続けると、日常生活の質が低下するだけでなく、精神的なつらさにもつながります。
早期からの緩和ケア
緩和ケアは、末期・終末期だけのものではありません。がんと診断されたときから始まるものです※15。緩和ケアは痛みや身体症状を和らげるだけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルなつらさも含めた全人的苦痛に対するアプローチです。
緩和医療とは何かについては、こちらの記事で詳しく解説しています。また、病状によってはベストサポーティブケア(BSC)という選択肢があることも、担当チームに確認してみてください。
緩和ケアチームは医師・看護師・薬剤師・心理士・ソーシャルワーカーなど多職種から構成されており、がんによるさまざまな苦痛に総合的に対応します※15。
相談先
痛みや不安を相談できる窓口を知っておくと、いざというときに動きやすくなります※16。
- 主治医・担当看護師:まずは日頃の診察・看護の場で相談を
- 緩和ケアチーム:入院中や外来通院中に専門チームへの相談依頼が可能です
- がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院に設置。がんに関する心配事を無料で相談できます(電話・チャット対応あり)※16
よくある質問
- Q. がんの痛みは必ず出るものですか?
- がんの種類・進行度・個人差によって異なります。早期のがんでは痛みが出ないことも多く、一方で進行がんでは痛みを経験する方が増えます。WHOの2018年のガイドラインによると、進行・転移・末期がんの患者さんの約66%が痛みを経験するとされています※4。ただしこれは集団の統計であり、個人の状況を示すものではありません。
- Q. 痛みは我慢した方がよいですか?
- いいえ、我慢する必要はありません。痛みを放置すると日常生活の質が低下し、精神的なつらさにもつながります。早めに主治医や看護師に伝えることで、適切なサポートを受けやすくなります。
- Q. 緩和ケアは終末期にならないと受けられませんか?
- がんと診断されたときから緩和ケアを受けることができます※15。緩和ケアチームへの相談は、治療の早い段階から行うことが勧められています。
- Q. 痛みを主治医に伝えるのが難しい場合はどうすればよいですか?
- NRS(0〜10の数字)で痛みの強さを伝えたり、痛みの場所・タイミング・感じ方をメモに書いて持参したりすると伝えやすくなります。がん相談支援センターに事前に相談して、うまく伝えるための練習をすることもできます※16。
- Q. 心のつらさが強いときはどこに相談すればよいですか?
- まずは担当医や看護師に伝えることが第一歩です。必要に応じて精神科医・心理士・ソーシャルワーカーを紹介してもらえます。がん相談支援センターでも無料で相談できます※16。
本記事は2026年8月5日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- IASP「IASP Terminology — Pain」(最終確認日: 2026年8月21日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」(最終確認日: 2026年8月5日)
- Minds「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」(日本緩和医療学会、第3版)(最終確認日: 2026年8月5日)
- World Health Organization「WHO Guidelines for the Pharmacological and Radiotherapeutic Management of Cancer Pain in Adults and Adolescents」(2018年)(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「食道がん」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がんについて」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肝細胞がん」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「膵臓がん」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん)」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(最終確認日: 2026年8月5日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターのご案内」(最終確認日: 2026年8月5日)


















