更新日:2021/06/06
がんの再発と転移はなぜ起こる?そのメカニズムを徹底解説
目次
日本人の2人に1人は一生のうちで一度はがんになるとされる現在。がんは日本人の「国民病」と言っても過言ではありません。一方で、医学の画期的な進歩に伴い、がんの治療はどんどん進化しています。かつては治療が困難とされたがんでも長期的な生存が可能なケースが増えているのも現状です。
しかしながら、がんは適切な治療を行ったとしても「再発」を繰り返すことがあります。また、ある臓器にできたがんが全く別の臓器やリンパ節に「転移」してしまうことも…。このようなケースでは現代の医学でも救命が難しくなることは多々あります。今後、がん患者の生存率をさらに上昇させるには、再発や転移をどのように抑制し、効果的に治療していくかが一つの課題となるでしょう。
そこで今回は、がんはどのように再発や転移を起こすのか詳しく解説します。
がんの「再発」を詳しく知ろう!
まずは、がんの「再発」について詳しく見てみましょう。
がんの「再発」とはどんなもの?
再発とはその名の通り、治療後に再び同じ性質を持つがんが発生することを指します。
現在、がんは手術・化学療法(抗がん剤、分子標的薬など)、放射線療法の3つが大きな柱となって治療を進めていきます。治療方法はがんの種類、大きさ、場所、転移の有無などによって大きく異なり、患者さん一人一人に合った治療が行われます。また、治療方法は一種類だけとは限らず、手術後に化学療法を行うケースもあれば、化学療法と放射線療法を組み合わせるなど方法などさまざまです。
これらの治療により、内視鏡検査やCT、MRIなどの画像検査の結果ではがんをすべて取り切ることができた…と判断されても、実際のところ内視鏡では分からない粘膜の奥にがんが残っていたり、画像検査では描出できない小さながんが残っていたりする可能性はゼロではありません。そして、それらのがんが数か月~数週間後かけて検査で発見できる大きさにまで生育すると「再発した」と判断されます。
「再発」には3つのタイプがある
がんの再発は、メカニズムによって次の3つのタイプに分類されます。
①局所再発
一般的にイメージされる「再発」といえば局所再発のこと。最初にできたがんと同じ場所やその周辺に再発するものです。治療で取り切れずに残った極小さながん細胞がその場で生育することによって発生すると考えられています。
②領域再発
治療で取り切れなかったがん細胞が、最初にがんが発生した部位周辺のリンパ節や組織で生育するタイプの再発を指します。がん細胞は必ずしも一か所に留まって生育していくとは限らず、周辺に浸潤した後にその場で大きくなることも少なくないのです。
③遠隔再発
最初にがんが発生した部位から離れた場所で残ったがん細胞が生育するタイプの再発です。がん細胞は血管やリンパ管の内部に入り込みやすく、血液やリンパ液に乗って遠く離れた場所に「移動」することも少なくありません。取り残されたがん細胞もこのように「移動」し、全く別の場所で生育して再発することがあるのです。
「再発」はどのように治療する?
再発に対する治療方法は、上述したどのタイプのものかによって大きく異なります。
局所再発や領域再発の場合は、再びその部分にできたがんの切除、化学療法、放射線療法などを行って根治を目指すのが一般的です。
一方、遠隔再発の場合は既にがん細胞がさまざまな部位に飛んでしまっている可能性も否定できない状態となります。そのため、再発部位のみをターゲットとした治療では不十分なことも少なくありません。
また、再発が起きる時期にもよりますが、がんの治療後は免疫力や体力も落ちているため、再発が起きたとしても手術など身体に負担になる治療ができないことも多々あります。
再発に対してどのような治療を進めていくかは、全身の状態、再発がんの大きさ、位置を考慮し、患者さんやご家族の希望に合わせて行っていくのが一般的です。
「再発」を予防するには…?
どんな種類、ステージのがんであれ、がん細胞を100%の確率で完璧に取り除くことは困難…。がんの治療後は常に再発のリスクを伴います。
このため、再発やその進行を予防するには次のような治療や対策が勧められています。
①術後補助療法
手術でがんを切り取った後、取り切れなかった微小ながん細胞に化学療法や放射線療法で追い打ちをかけることを「術後補助療法」といいます。
現在、多くのがんでは術後補助療法を行うのが標準的になっており、最初のがんの治療の段階から再発を予防する対処が行われています。とくに、再発は進行したがんほど起こりやすいため、ステージが高い場合は徹底的な術後補助療法が必要です。
術後補助療法にも様々な方法があり、局所再発や領域再発のみの危険があると判断された場合は「局所」やその「領域」に放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療が行われます。一方、進行がんなどで遠隔再発を生じることが疑われるような場合は、全身のがん細胞に効果を発揮する抗がん剤や分子標的治療薬などを用いた化学療法が必要になることも…。
もちろん、全身のコンディションによってはできない治療もありますので、さまざまな条件に適した治療が選択されます。
②治療後の定期検査
がんの治療後は定期的に再発がないかチェックするための定期的な検査が勧められています。がんの種類や進行度などによって定期的な検査を行う期間は異なりますので、医師の指示に従うようにしましょう。一般的には5年ほど…。長丁場となりますが、再発も早く発見できればそれだけ治療しやすく、治療方法の選択肢も多いものです。
最初のがんだけでなく、再発も早期発見・早期治療を目指して検査を続けることが大切なのです。
がんの「転移」を詳しく知ろう!
では次に、がんの「転移」について詳しく見てみましょう。
がんの転移とはどんなもの?
がんの「転移」とは、最初に発生したがんの細胞が血管やリンパ管の中に入り込み、血液やリンパ液に乗って離れた部位に移動。その場で生育することを指します。
がんの種類や進行度などによって転移のしやすさ・しにくさは異なります。ですが、転移が起こりやすい部位は決まっており、リンパ液の流れが豊富なリンパ節、血流が多い肺、肝臓、骨、脳などによく見られるのが特徴です。
最初のがんと全く別の部位に発生するため、別の場所に新しいがんができたのでは…?と思われがちですが、がんの組織の特徴などは最初にできたがんと同一のもの。たとえば、大腸がんが肝臓に転移した場合、肝臓にできたがんの組織を調べると大腸がんと同一なのです。そのため、転移してできたがんは肺がん・肝臓がん…などとは呼ばれず、「肺転移」・「肝転移」などと呼ばれます。
一方、がんは周囲の組織や臓器を破壊しながらどんどん生育していきます。胃に発生したがんが胃の壁を突き破って十二指腸などに及んでいく…このようながんの生育の仕方は転移ではなく「浸潤」と呼ぶものです。
がん細胞が周囲の血管やリンパ管に入り込むことは浸潤の一つですが、浸潤と転移は全くの別物。最初にがんができた部位やその周辺のみにがん細胞が拡がっている浸潤に比べ、転移は血管やリンパ管を通して全身にがん細胞が拡がっていることを意味しますのでより進行した重篤な状態と考えてよいでしょう。
転移しやすいのはどんながん?
転移は必ずしも全てのがん患者さん起こるものではありません。また、転移が起こったとしても、その時期や部位、数などはがんの種類や進行度によって異なります。
一般的に転移が起こりやすいとされるがんとしては、肺がん、前立腺がん、膵がん、胆道がんなどが挙げられます。一方、転移が起こりにくいのは肝臓がんや一部の乳がんです。
ですが、転移を起こしやすいとされるがんであっても全ての患者さんに転移が生じるわけではありません。転移はがんが進行するほど起こりやすくなりますので、早期段階で発見できたがんほど転移は少なく、膵がんや前立腺がんなど進行するまで症状が現れず、発見が遅れがちながんは転移がよく見られる…ということになります。
転移しやすい・しにくいといった違いは結果論に過ぎない面もあります。一般的に転移しやすいとされるがん以外のがんであっても転移を生じる可能性は十分にあると考えておきましょう。
「転移」はどのように治療する?
転移したがんに対する治療方法は、最初にできたがんの種類や転移先の臓器、数などに左右されます。
手術で取り除ける場合には第一選択として手術が行われますが、転移が複数に渡っているような場合では手術ですべて取り除くのは困難です。手術で切除した場合でも更なる転移や再発を予防するために抗がん剤などを用いた術後補助療法が行われますが、手術が困難なケースでは全身に効果がある化学療法や放射線の全身照射が行われます。
ですが、がんはただでさえ全身の体力を奪う病気…。たとえ治療が可能な転移であったとしても全身の状態が悪く、転移に対する適切な治療ができないことも稀ではありません。全身の状態に見合わない負担が大きな治療を決行することで命を縮めてしまうこともあるのです。
一方でがんの治療は「がんを取り除く」ことだけが目的ではありません。残念ながら現在の医学を駆使しても、治療が困難ながんは数多くあります。取り除くのが困難ながんに対しては、がんによる諸症状を和らげる、がんの更なる進行を抑える、といった治療が必要です。
転移を起こしているがんの治療の進め方は、医師による医学的な判断と共に患者さんの希望を尊重して決められていきます。転移を伴うがんが発見されたときは、どのような治療を希望するのか、治療中や治療後にどのような生活を送りたいのか、よく考えておきましょう。
転移する前にがんを発見することが大切!
一般的に、進行して転移が生じたがんは早期がんに比べて生存率は低く、治療も難しくなります。複数の臓器に転移が生じている状態で発見されたケースでは、「手の施しようがない」…といったことも多々あるのが現状です。
がんは転移が起こる前の早期の段階で発見できるほど治療しやすく生存率も高くなります。2人に1人ががんになる時代、がんは決して他人事の病気ではありません。がんに勝ちぬくためにも早期発見・早期治療を目指して定期的ながん検診を受けるようにしましょう。
再発、転移によるダメージは最小限に…
がん患者さんにとって「再発」や「転移」というキーワードほど恐ろしいものはないと言ってよいでしょう。発見された時すでに多数の転移があった…、痛みに耐えて手術を乗り越えたのにたった一年で再発してしまった…。患者さんは精神的に大きなダメージを受けることになります。その結果、抑うつ気分、不眠、食欲低下など精神的な不調を引き起こすことも少なくありません。
ですが、がんの治療に気力は必須です。精神的な不調が治療の妨げになってしまうことも少なくありません。大きなショックを受けたとしても、正しい知識を持って医師とよく相談しながらそれぞれに納得のいく治療をしてくことが大切です。
参考資料
厚生労働省 がんの罹患数と死亡数
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kaiken_shiryou/2013/dl/130415-01.pdf
国立研究開発法人国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録2012年3年生存率、2009年から10年5年生存率公表 喉頭・胆嚢・腎・腎盂尿管癌3年初集計
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0808_1/index.html
国立がん研究センター がん情報サービス 再発、転移とは
https://ganjoho.jp/public/support/saihatsu/chapter1.html
国立がん研究センター がん情報サービス がんの再発や転移のことを知る
https://ganjoho.jp/public/support/saihatsu/hikkei_03-01-10.html
国立がん研究センター がん情報サービス 用語集 術後補助療法
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/jutsugohojoryoho.html
日本胃癌学会 Ⅱ章 治療法
http://www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-e.html
日本臨床外科学会 一般のみなさま
http://www.ringe.jp/civic/igan/igan_15.html
日本がん転移学会 がん転移Q&A がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか?
http://jamr.umin.ac.jp/qa/a01.html
日本がん転移学会 がん転移Q&A 転移しやすいがんとそうでないがんがあるのですか?
http://jamr.umin.ac.jp/qa/a05.html
日本がん転移学会 がん転移Q&A 転移したがんの治療法にはどんなものがありますか?転移先により変わりますか?
http://jamr.umin.ac.jp/qa/a09.html
日本がん転移学会 がん転移Q&A 転移したがんは治りにくいと聞きますがどうしてですか?
http://jamr.umin.ac.jp/qa/a08.html
執筆者 成田 亜希子 医師


2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。