更新日:2021/01/02
緩和ケア医が、がんになって
本著は緩和ケア医である医師が自らがんを患い、自身の経験を基にがん患者としての気持ちを綴ったものです。著者の大橋洋平医師は10万人にひとり発症するという稀な悪性腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)と診断されます。医師であっても病気を患えばひとりの患者。そのときどきの不安や家族への思いが飾らないことばで表現されています。
構成は5章からなっていて、どこから読んでもいいようにまとめられています。がんを患うすべての人へエールを送っています。
稀ながん、GIST
大橋医師ががんを発症したのは2018年6月のことでした。夜中に突然もよおした便意で目がさめると大量の下痢。しかも特有の臭いと異変を感じるものでした。
下血というと胃か大腸だろう、医師である著者はすかさず消化器疾患を疑いました。夜中の4時という時間にもかかわらず冷静な判断ができたのは医師だからこそ。救急車でいったところで病院は夜間救急外来体制。入院になることを想定してシャワーを浴びたり入院の準備を行ったりしながら朝になるのを待ちました。
翌朝になって病院を受診すると、同僚だった医師に診察をお願いし、緊急入院となります。入院後の検査の結果、胃の入り口に10センチの悪性腫瘍があることがわかりました。消化管間質腫瘍、GISTといわれるがんでした。しかもがんは10cmにもおよぶものでした。
GISTは5cmまでなら完治が見込まれるものの10cmを超えていれば転移や再発のリスクが高くなる。そんなことが著者の脳裏に浮かんでいました。
手術、抗がん剤治療そして転移
入院して手術はできたものの、それで完治が望めるというものではありません。加えて術後は悪銭苦闘の日々。手術によって胃のほとんどを切除した著者にとっては食事ひとつ摂るのもひと苦労です。それまで好きだったものが食べられなかったり、食事の量も少なくなったりしました。100キロあった体重は20キロ減少。そしてまたさらに減少、と体力もなくなっていきました。
退院から1週間後に病理検査の結果説明を受けた著者。悪性度は高く、がん細胞の分裂数も桁外れに高いことが判明し落ち込みます。あとどのくらい生きられるのだろう、と命に限りがあることを突きつけられた瞬間でした。
そしてはじまった抗がん剤治療。比較的少ないとはいっても吐き気や白血球減少などの副作用の起きる薬剤です。抗がん剤治療が続けられれば5年生存率は92%といわれているものだけに、激しい副作用にみまわれながらも抗がん剤治療をがんばりました。なかでも特に大変だったのは食事が摂れなくなったことだと大橋医師は語っています。心配する妻あかねさんとも口論の絶えない日々が続きました。
そしてようやく、週に2回、午前中だけ非常勤として、緩和ケア病棟での仕事も始められるようになりました。面談を受ける患者さんのほとんどが著者よりも元気だったといいます。
そんな中で発覚したのが肝臓への転移でした。手術してから1年が経過した頃のことでした。主治医からは手術をすすめられたものの、大橋医師の返事はNOでした。
理由はふたつ。ひとつは自身のGISTが高リスクのものであることから手術で取り除いたとしてもすでにどこかに転移している可能性があり、いずれにしても抗がん剤治療を続けることに変わりないこと。そしてもうひとつは手術自体への不安でした。前回の胃の手術でさえ大変だったため、まして肝臓となれば耐えられるだけの体力もないと判断したためでした。主治医は大橋医師の気持ちを受け入れ、手術はせずに次の抗がん剤治療がスタートすることになりました。
結果がわからないからこそ、生きやすい
転移が発覚し、二種類目の抗がん剤治療を行っている大橋医師。彼はいいます。「結果はわからないほうが、生きやすい」と。
抗がん剤が効くかどうかはやってみなければわかりません。効果がなければ二種類目の抗がん剤治療も中止となってしまいます。この治療がいつまで続けられるのか。命の時間がどのくらい残っているのか。わからないことだらけです。
でも、そんな中でも生きているという実感はあります。もし、結果がわかったとしたら、安心して生きることができるだろうか?著者は疑問を投げかけます。そして、結果がわからないからこそ生きられる。大橋医師はそう思いました。
がん患者にとって最大の不安は、進行、転移、再発など死に直結するものです。そんな不安を抱えて日々過ごしているがん患者本人やその家族に読んでほしい一冊です。
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