更新日:2021/05/29
がん患者と新型コロナウイルス~重症化するリスクと予防法について
目次
現在、世界を震撼させている新型コロナウイルス感染症。2019年12月頃から中国武漢市を中心に発症者が増え、瞬く間に113もの国や地域に広がりを見せています。日本も例外ではなく、2020年3月12日現在、国内では619名に感染が確認され、そのうち15名が命を落としています。今のところ終息の気配はなく、アメリカをはじめとした海外でも非常事態宣言が出されるなど今後も世界規模で多くの感染者と死者が生じると予想されています。
新型コロナウイルスに感染すると肺炎など重篤な呼吸器症状を引き起こす可能性があるとされていますが、感染が確認されているものの無症状のケースも多いことがわかっています。また、新型コロナウイルス感染症の詳しい病態は未だ不明であり、重症化するリスク要因なども明確には解明されていないのが現状です。しかし、がん患者は重症化しやすいことも患者調査によって分かってきており、徹底した感染対策が求められています。
そこで今回は、がん患者と新型コロナウイルスの現状について詳しく解説します。
新型コロナウイルスとは?
まずは、新型コロナウイルスの特徴について、現状分かってることを詳しく見てみましょう。
新型コロナウイルスはどこから来たの?
新型コロナウイルスは中国武漢市が発祥とされる新たに発見されたウイルスです。武漢市の海鮮市場内で集団発生したこと、同市場内で野生動物を扱うエリアからウイルスが検出されていることなどからコウモリなど自然界の動物から持ち込まれたとの説が有力視されています。しかし、未だどのような経緯で発生したのか、ヒトに感染するようになったのか明確には解明されていません。
新型コロナウイルスはヒトからヒトへ感染する性質を持ち、すでに日本国内においても三次感染、四次感染が起きているとされています。感染が確認された方の中には感染経路が不明なケースも多く、市中感染が始まっていることが示唆されているのが現状です。また、ライブハウスなどで集団発生したケースもあることから、いわゆる「クラスター」が発生する可能性が高く、今後も感染者は増えていくことが予想されます。
どのような治療が行われているの?
今のところ、新型コロナウイルス感染症に対する治療法は確立されていません。世界中で新型コロナウイルス感染症の治療法やワクチンの開発が進められていますが、それらが無事に開発されとしても一般に出回るまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。
現状では、新型コロナウイルスに特異的な効果を示す薬剤はなく、基本的には解熱剤や鎮咳薬による薬物療法、酸素投与など対症的な処置が治療の中心となっています。一方で、抗HIV薬や抗インフルエンザ薬が新型コロナウイルス感染症の症状改善に一定の効果を持つとし、日本を含め世界中で試験的な使用が行われています。 また、日本国内の医療機関では入院患者に喘息治療薬「オルベスコ」を使用したところ、抗HIV薬を投与しても症状改善が認められなかった患者の回復とウイルスの陰転化が認められたことを発表しました。
症例数が少ないため、これらの薬剤の有効性が確立されたわけではありませんが、今後も症例数を積み重ねて研究を進めていくことが期待されています。
がん患者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい?
新型コロナウイルス感染症は、死に至る可能性もある重篤な感染症である一方、感染したとしても何ら症状もなく感染したこと自体に気付かない方も多いとされています。
まだまだ明確な解明はなされていないのが現状ですが、重症化しやすい要因としては次のようなことが考えられています。
高齢者や基礎疾患あり
新型コロナウイルスが発生したとされる中国のデータによれば、60歳以上の高齢者は重症化や死亡のリスクが高まることが分かっています。とくに、80歳以上の方は21.9%が命を落としたとのこと。
また、基礎疾患がある方も重症化や死亡のリスクが高く、心・血管系疾患がある方は13.2%、糖尿病は9.2%、高血圧は8.4%、慢性呼吸器疾患は8.0%の方が亡くなったと報告されています。基礎疾患のない若者の現状での死亡率は1.4%であるため、基礎疾患がある方はリスクが極めて高くなることが分かります。
がんは新型コロナウイルス感染症にどう影響する?
このように、新型コロナウイルス感染症は重症化しやすい一定の要因があると考えられています。では、がんは新型コロナウイルス感染症の発症や重症化にどのような関りを持つのでしょうか?詳しく見てみましょう。
同じ中国のデータによれば、がん患者も7.6%の方が亡くなっており、死亡のリスクが高まることが示唆されています。また、がん患者は重症化する頻度が高く、発症してから全身状態が悪化するまでの期間が13日程度と短いのも特徴の一つです。
がん患者が重症化や死亡のリスクが高くなる原因ははっきり分かっていません。しかし、がん患者は免疫力や抵抗力が健常な方より低い傾向にあり、呼吸機能なども低下しやすいことが要因の一つと考えられます。
また、中国国内の新型コロナウイルス患者1590名の調査を行った別の研究によれば、患者の約1%にがんの既往があり、この数値は中国全土のがん発生率(0.29%)より高い数値となっています。がんの種類別では、肺がん患者が最も多かったとのことです。このような結果から、がん患者は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいだけでなく、感染しやすいことが考えられます。
また、2020年1月30日付けのアメリカ疾病予防管理センターのガイダンスによれば、明らかなエビデンスはないものの免疫抑制状態は重症化や死亡の極めて高いリスクの一つとされています。多くのがん患者に使用される抗がん剤や分子標的治療薬などの中には強力に免疫作用を抑えるものも少なくありません。中国国内患者の調査においても、一か月以内に化学療法を受けた患者は、より重症化しやすいことが分かっています。
化学療法を受けている方や数か月以内に受けたことがある方は新型コロナウイルスへの感染や重症化のリスクがより高くなるため注意が必要です。
新型コロナウイルスから身を守るためには…?
これまでの各国での調査の結果、がん患者は新型コロナウイルスに感染するリスクが高くいばかりでなく、感染すると重症化しやすいことがわかりました。このため、がん患者は健常な方よりも感染対策を徹底することが必要です。では、どのような対策を講じればよいのか見てみましょう。
新型コロナウイルスの感染経路は?
現在のところ、新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染であると考えられています。
飛沫感染とは、感染者のくしゃみや咳、唾液などのしぶきを介して感染するルートのことです。感染者のこれらのしぶきの中にはウイルスや細菌などの病原体が含まれており、近くにいる人が、そのしぶきを鼻や口から吸いこんでしまうことで体内に病原体が入り込みます。 しかも、しぶきは思いのほか遠くまで飛散し、その範囲は半径2m前後に及びます。そのため、感染者との密な接触がなくても知らず知らずの内に感染してしまう可能性があるのです。
接触感染とは、ドアノブや電気スイッチなどに付着した病原体を他の人が触り、その手で鼻や口を触ることで体内に病原体を取り入れてしまうルートのことです。感染者の唾液や鼻汁などと共に排出された病原体は、感染者の手によって様々な場所に付着します。感染症が流行している時期は、日常生活の中で手を触れる様々な場所に病原体が付着している可能性があるといっても過言ではありません。
どうやって予防すればいいの?
感染症を予防するための三大原則は、「感染経路のシャットアウト」・「病原体の排除」・「免疫力の向上」です。それぞれ次のような対策を行いましょう。
新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染。これらをシャットアウトするには、ウイルスが含まれた飛沫を吸い込まないこと、手に付着したウイルスを体内に取り込まないことが大切。そのためには、手洗い・手指消毒をこまめに行い、外出時にはマスクの着用が有用です。また、口や鼻の周りはなるべく手を触れないようにしましょう。そして、感染者が多い地域の方はできるだけ不要な外出は控えることも大切です。
新型コロナウイルスはアルコール消毒が効きます。感染者が多い地域の方は、カートやつり革など多くの人の手が触れる場所に触るときは除菌シートなどで消毒するとよいでしょう。
また、そのような対策ができない時は、外出先でもこまめに石鹸で手洗いすることを徹底してください。実験によれば、石鹸で60秒の揉み洗いの後15秒間流水で洗浄すれば、0.001%まで残存率を下げられることが分かっています。最近はアルコール消毒も品薄になっていますので、感染対策の基本である正しい手洗いを今一度見直してみましょう。
がん患者はただでさえ免疫力が低下しがちです。治療の影響で免疫力が大幅に低下している方もいますが、少しでも免疫力をアップできるよう、十分な休息と睡眠を取り、規則正しい生活を心がけるようにしましょう。またストレスは免疫力の大敵。できるだけストレスが溜まりにくい生活を送り、ストレス解消につながる趣味などを持っておくのが望ましいと考えられます。
がん患者は新型コロナウイルスに細心の注意を払うべき!
がん患者は新型コロナウイルスに感染しやすく、しかも重症化しやすい傾向にあります。がん治療の継続が困難になるだけでなく、命を落とすケースも珍しくありません。終息の気配は見えず、日々感染者と死者が増加している現状の中、がん患者は正しい感染対策を講じながら感染を予防することが大切です。
今回ご紹介した感染対策を実施し、新型コロナウイルスの猛威から身を守りましょう。また、地域の流行の程度によっては、免疫力低下を引き起こす化学療法などの治療を一時的に中断する必要があるケースもあります。担当医と相談しながら感染対策を徹底していきましょう。
参考文献
(WEB)
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
(2020年3月12日閲覧)
一般社団法人日本感染症学会 当院における新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症患者 3 例の報告
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/2019ncov_casereport_200205.pdf
(2020年3月12日閲覧)
執筆者 成田 亜希子 医師

2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。





















