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更新日:2021/09/05

遺族外来

「遺族外来」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。 一般的に、医療機関における「外来」とは病気やケガをしている患者が診療を受けるところです。一方、配偶者や親、兄弟姉妹などの大事な家族を亡くした「遺族」の方が受診できる場所を、遺族外来といいます。がん患者が亡くなった後、ともに生きて治療を支えた家族を医療の力で支えるのが遺族外来の役割です。

遺族外来とは

親や家族、配偶者など、大切な人ががんになることは非常につらい体験です。「がんになった」という事実に驚くと同時に、この先どうなるのか、これまでの生活が変わってしまうのかなど、大きな不安を抱くことでしょう。また、家族の視点でがん患者とどのように接したらよいか、どのような言葉をかければよいのか分からなくなることもあるかもしれません。

大切な人ががんになったその時から、患者本人だけでなくその家族も、看病を通して心は揺れ動きます。さまざまな葛藤を抱えながら生活スタイルを調整し、大切な人を懸命に支えていることも少なくありません。家族も患者と同様にさまざまな不安を抱き、精神的ストレスや肉体的変化に悩むことがあります。がん患者の家族は「第2の患者」と呼ばれるように、同じくケアを必要としているのです。

病状が進み、やがて大切な人をがんで亡くすという経験をすると、かねてから抱いていた不安がより強くなったり、気分が落ち込んでネガティブな感情が出てきたりします。症状によっては、それまでの生活が一変してしまうこともあるでしょう。大切な人を失う「死別」という体験は、私たちの日常において最も大きなストレスとなります。残された遺族にとっては、その後の人生が大きく変わってしまうほどの強い影響力があるできごとです。

気分が落ち込み、食事をとれなくなったり、眠れなくなったりするほか、今まで普通にできていたことができなくなる、人と会うことがつらいと感じる、孤独を感じ深い悲しみから抜け出せなくなるなどの変化が現れる人もいます。これは、大切な人を失ったことにより、うつ状態またはうつ病を発症しているのかもしれません。このように心と体に大きな影響を与えてしまうほど、死別は私たちの人生において最もつらい体験の一つであるといえます。

大切な人ががんと診断され、大きな不安を抱えて毎日懸命に看病し、その後、大切な人を失った家族が抱える苦痛は、はかり知れないほど大きいものです。しかし、そのような苦痛を抱えている家族に対するケアは、現在の医療においてまだ体制が整っていないのが現状です。遺族の苦痛が少しでも軽減され、心が穏やかになり、新たな生活の第一歩をいきいきと踏み出せるように支えていくための医療が「遺族外来」なのです。

 

遺族外来を設置している病院の一例

遺族外来という名称は一例であり、病院によっては「家族ケア外来」や「グリーフケア外来」という名称で開設されていたり、特別外来や専門外来の一環として診療を行っていたりします。また、遺族だけでなく闘病中のがん患者とその家族も対象として心理的・医療的なサポートを行う外来もあります。日本にはこういった遺族外来を設置している医療機関はまだ多くはありませんが、一例を挙げます。

●埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科
当サイトでもご紹介している書籍『遺族外来――大切な人を失っても』を執筆された大西秀樹先生が中心となり、2007年に開設されました。診療の対象となるのはがん患者だけでなく、その家族(家族外来)や家族をがんで亡くされた遺族(遺族外来)と幅広く、精神腫瘍医や心理士など多領域の専門職が精神医学的な側面から治療とケアを行います。

●山口宇部医療センター 家族ケア外来
山口宇部医療センターでは、特殊外来の一環として家族ケア外来を開設しています。大切な人をがんで亡くした遺族はもちろん、闘病中のがん患者の家族に対するケアも行っています。完全予約制で、初回は無料相談も可能となっています。

●都立駒込病院 精神腫瘍科・メンタルクリニック
がんやそのほかの疾患を治療中の患者に対するカウンセリングや薬物療法のほか、その家族や遺族に対しても外来診療を行っています(家族ケア外来)。リエゾン・コンサルテーション※1や緩和ケアチームの活動のほか、診察以外の心理相談など、さまざまな方法を用いて患者や家族の気持ちに寄り添い、希望を見出すためのケアを行っています。

※1リエゾン・コンサルテーション:身体的な疾患の診療を担当する診療科と連携し、患者への心理的サポートや合併する精神疾患に対する治療などを行うこと

●淀川キリスト教病院 精神神経科 グリーフケア外来
グリーフとはかけがえのない存在を失った時に体験する深い悲しみのことで、グリーフケアとはそういった喪失体験をした人に寄り添い、援助することをいいます。予約制で、精神科医師による診療や公認心理士によるカウンセリング(心理療法)を行っています。

残された遺族の想い

がんで大切な人を亡くした遺族のなかには、「がんセンターやホスピスに連れて行くべきだった」「本当に最高の治療を受けてきたのだろうか」「もっとこうしていれば最愛の人は長く生きられたのではないか」など、後悔の気持ちを抱いてしまう方が少なくありません。大切な人ががんの診断を受けた後、治療の過程でがん患者の家族は、患者の代わりにあるいは患者とともに考えながら多くの判断をしていかなければなりません。患者の状況によっては、治療法などのさまざまな意思決定が家族に委ねられることもあります。

しかし、がん患者の家族は自分自身がこれまでに判断してきたことに対して、後悔の念を抱きやすいと考えられています。その時々で自らが考え、悩み抜いて決定してきた治療法だったとしても、思うような効果が得られなかったりかけがえのない人を失ったりした時、その決断を深く後悔して思い悩んでしまうことがあるのです。場合によっては、「もしかしたら自分の決断が間違っていたから亡くなったのではないか」と強い不安や疑念を抱くこともあります。

そんな時、医療者に質問することができれば、「それは違う、あなたの判断は間違っていない」と言われて悩みが晴れることもあるかもしれません。医学的な内容にまつわる悩み、特に治療に関する後悔については、適切な回答ができる医療者に相談するのが一番です。しかし、相談する場や機会がなく自分を責め続け、いつまでも後悔の念を抱き続けてしまう遺族も少なくありません。

また、日常的な言動は至って普通なのに、亡くなった方がまだ生きているかのように話しかけたり環境の変化を心配したりするような言動が、遺族にみられることもあります。これは亡くなった人との関係を一定に保つことで、心の平穏を取り戻そうとしているのかもしれません。心が傷つかないように死を徐々に受け入れていくためのプロセスと考えられ、このような遺族に対しては専門知識を持つ医療者が柔軟に対応する必要があります。

なかには、亡くなった方との思い出や過去に起こったことの記憶が、部分的に抜け落ちてしまう遺族もいます。一時的な記憶の喪失が起こっているのです。ふとしたきっかけで思い出すこともありますが、遺族本人にとって記憶の喪失は悩ましいことです。それだけ大切な人の死がつらい経験だったのでしょう。

こういった遺族のつらさや悲しみに寄り添い、医療的・心理的なケアを行うことができるのが、遺族外来です。

遺族のケアの必要性

死別は私たちの人生においてとてもつらい出来事であり、強いストレスをもたらします。そのため、身体的にも心理的にもさまざまな影響が生じてしまいます。心に対する影響としては、死別後にうつ病にかかりやすいことが分かっています。その傾向は、配偶者を亡くした人や子どもを亡くした親に多いことが明らかになっています。大切な人と死別した後、疲労感が強く体が思うように動かない、眠れない、何をしても楽しくないなど、心と体に不調を抱えながら生活をしている人も多くいます。

また、死別に対しての意識や感覚は人それぞれであり、遺族の感情に対してどのように接するかはさまざまなとらえ方があります。そのため、周囲の人の何気ない言動で遺族が傷ついてしまう場合もあります。例えば、遺族を励まそうとして「しっかりしなきゃ」「がんばって」といった声をかける人もいます。なかには、「なぜ亡くなったの?」「どんな最後だったの?」など、無理に詮索しようとする人たちもいるでしょう。言っている本人にとっては励ましや何気ない好奇心のつもりでも、遺族にとっては心ない言葉であり、こういった無神経な言葉がけによって深く傷ついてしまう場合もあります。こういった周囲の人からの言葉がけで傷ついてしまった遺族に対するケアも必要です。

また、死別を体験した後に不眠や食欲不振などの身体症状がみられても、「悲しい経験をしたから仕方がない」ととらえがちです。うつ病を発症していることに気付くことができず、苦痛を抱えたまま生活している遺族も多くいます。大切な人を失った遺族にしか分からない感情をそのままにせず、その感情としっかりと向き合うことでうつ病の発症を抑えられる可能性が高まります。遺族が抱く苦痛を軽減していくための専門的なケアが求められるのです。

医療者が遺族に対してできること

大切な人を失った遺族は、心に大きなショックを受け、これまでの生活が大きく変わっています。さまざまな苦痛を抱えながら一生懸命に生活をしている遺族は、「この苦痛を誰かに話したい」「この苦悩から少しでも解放されたい」と願い、ケアを求めています。しかしながら、「一番つらいのは亡くなった患者だ」という意識から、自分自身の心理的苦痛を表に出せない遺族もたくさんいます。

このような遺族の思いに触れる医療者は、「自分は聴いてあげる立場だ」と考えるかもしれません。しかし実際には、そのように人の上に立つ姿勢で臨むのではなく、遺族と同じ視点に立ち、真摯に聴くことが大切です。遺族がこれまで歩んできた人生を振り返り、新しい人生を歩むための土台作りができるよう、時間をかけて遺族と関わることが医療者には求められています。

遺族にかけてはいけない言葉

遺族の心情を思い、よかれと思ってかけた言葉が、遺族の感情を傷つけ深い心の傷を負わせることになってしまうおそれもあります。

例えば、「がんばって」「元気?」「あなたの気持ちは分かります」などは、遺族の感情を支えるためではなく言葉をかけた側が満足したいだけの言葉です。大切な人との死別直後に、周囲からこれらの言葉をかけられて傷ついたという遺族は少なくありません。特に、医療者からは絶対にかけてはいけない言葉といえます。

「がんばって」は、声をかけた本人が遺族の何かを手伝うという意味は含んでいません。遺族自身が何とかすることを求める言葉に過ぎず、すでにがんばっている遺族にかけるべき言葉ではありません。

「元気?」という問いかけは、遺族が「元気です」と答えることで、声をかけた側が安心したいがための言葉です。

「あなたの気持ちは分かります」は、最もかけてはいけない言葉です。なぜなら、遺族の感情は遺族にしか分からないものであり、第三者が「分かる」ものではないからです。どんなに遺族を思いやっていたとしても、遺族の感情を完全に理解することは困難なので、決してかけてはいけない言葉といえます。

社会全体の変化も求められる

現時点では、遺族に対して精神医学的な見地から診療ができる施設は決して多くはありません。しかし近年、メンタルケアの専門家が遺族ケアを行う意義が明らかになっており、病院内での遺族ケアが発展していくことが期待されています。また、社会全体が「愛する人の死は人生における最もつらい体験の一つである」という認識を持つことも、遺族ケアの発展には必要です。今後、さまざまな場で遺族を支える医療が発展し、死別を体験した遺族が苦しむことなく新たな生活に進める社会になることが望まれています。

参考資料

(Web):
国立がん研究センター中央病院 家族ケア外来
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/consultation/consultation/tokushu_gairai/010/family_support.html
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科
https://www.international.saitama-med.ac.jp/detail1/d1-15/
淀川キリスト病院 グリーフケア外来のご案内
http://www.ych.or.jp/department/psychiatry/d4eesi0000000s5q-att/grief_care_new5.pdf
公益社団法人ホスピス財団 遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究4 (J-HOPE4) Ⅱ主研究 2.遺族の抑うつ・複雑性悲嘆
https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/j-hope/J-HOPE4/J-HOPE4_2_2.pdf
埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 家族外来
https://www.international.saitama-med.ac.jp/detail1/d1-15/
山口宇部医療センター 家族ケア外来
https://yamaguchiube.hosp.go.jp/outpatient/cnt1_00120.html
都立駒込病院 精神腫瘍科・メンタルクリニック 家族ケア外来
https://www.cick.jp/shinkei/?doing_wp_cron=1624847855.6153700351715087890625
Christina Blanner Kristiansen etc Prevalence of common mental disorders in widowhood: A systematic review and meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30699843/
Ulrika Kreicbergs etc Anxiety and depression in parents 4-9 years after the loss of a child owing to a malignancy: a population-based follow-up
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15724874/

(書籍):
大西秀樹、2017年6月、遺族外来―大切な人を失っても、河出書房新社
2018年3月発行、がん看護 Vol.23No.3 2018年3-4月号 家族看護のケースファイル 思考と実践のプロセス、南江堂 臨床で出会うがん患者の家族の基本的なとらえ方と家族援助 P292③家族の意思決定支援 家族の意思決定を困難にする状況

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