更新日:2026/08/11
エンディングノート
がんの診断を受けたとき、あるいは大切な家族の病気を前にしたとき、「自分が望む医療や最期の過ごし方を、きちんと伝えておきたい」と感じる方は多いと思います。エンディングノートは、そのような思いを書き残すための文書のひとつです。
この記事では、エンディングノートの位置づけと「人生会議(ACP)」との関係を中心に、医療・ケアの希望の伝え方をご説明します。
- エンディングノートと遺言書の違い(法的効力)
- 「人生会議(ACP)」とは何か、愛称が生まれた背景
- 延命治療・緩和ケア・療養場所など、医療・ケアの希望の書き方
- 自分の情報・家族への情報をどう整理するか
- いつ書き始めればよいか、定期的な見直しの大切さ
エンディングノートとは何か
エンディングノートとは、自分の情報・気持ち・大切にしていること・医療やケアについての希望などを書き留めておくための文書のことです。法律上の定義はなく、書き方の決まりもありません。
最も重要な特徴のひとつは、エンディングノートは法的効力を持たない任意の私的文書であるという点です。財産の分割や相続人の指定など、法律上の効力が必要な事項については、民法に定められた要件を満たす「遺言書」が別途必要になります※1。エンディングノートとは異なる文書であり、目的と効力が違います。
法務省と日本司法書士会連合会は、「エンディングノート〜あなたに届け、わたしの想い〜」と題した冊子を共同で制作・公開しています(2023年8月改訂)。この冊子では、相続・遺言・後見などについて平易な言葉で説明しており、エンディングノートを書くきっかけとして活用できます※1。
人生会議(ACP)とエンディングノートの関係
エンディングノートを書く際に重要な考え方として、「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」があります。厚生労働省は人生会議を「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」と定義しています※2。
ACPには「人生会議」という愛称があり、2018年11月に公募により選定されました※2。がんの診断を受けた方やその家族にとって、これからの医療やケアについて前もって話し合っておくことは、特に重要な考え方です。
エンディングノートに医療・ケアの希望を書き留めておくことは、この人生会議を「かたちにする」作業のひとつといえます。ただし、エンディングノートはあくまで文書による記録であり、人生会議の本質は「家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合う」ことにあります※2。書いたら終わりではなく、話し合いを重ねながら内容を更新していくことが大切です。
エンディングノートには決まりはあるのか
エンディングノートに法的な決まりはなく、書く内容も順番も自由です。ただ、多くの場合は大きく2つの観点から内容を整理します。
自分自身の情報
自分の情報として書いておくと役立つのは、次のような内容です。
- 氏名・生年月日・血液型などの基本情報
- 現在の連絡先・緊急連絡先
- 学歴・職歴・資格などこれまでの歩み
- 好きなこと・趣味・思い出のエピソード
- これからやりたいこと
これらをまとめていくと、自分がどのように生きてきたかを振り返る「自分史」としての側面も生まれます。本籍の移転歴などを加えておくと、後に書類を揃える際に役立つ場合があります。
家族のために書き残す情報
家族へのメッセージや、家族が困ったときに役立つ情報として整理しておくとよい内容には、次のようなものがあります。
- 感謝の気持ちや家族への思い
- 自分が望む最期の過ごし方についての気持ち
- 緊急時に連絡してほしい人のリスト(関係と連絡先)
- 金融資産・保険・不動産・ローンなど財産に関する情報(口座名義・証券番号など)の所在
- 各種サービスの登録状況など、本人しか知り得ない情報
財産に関する具体的な情報の書き方や、法定相続人の確認・戸籍謄本の取り方などについては、法的な専門知識が必要になる場合があります。法務省のエンディングノート冊子や、司法書士などの専門家にご相談いただくことをお勧めします※1。
エンディングノートに書く具体的なこと
がんと診断された方やその家族にとって、エンディングノートの中で特に重要なのが「医療・ケアについての希望」です。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)は、本人の意思決定を基本とし、医療・ケアの方向性を本人・家族・医療チームが繰り返し話し合うことを最も重要な原則としています※3。
この話し合いの内容を、エンディングノートに書き留めておくことができます。
医療・ケアの希望(ACPの7つの論点)
厚生労働省のガイドラインおよび「人生会議」ポータルサイトをもとに整理すると、医療・ケアの希望として書き留めておくとよい主な項目は次のとおりです※2※3。
| 項目 | 書き留めておく内容のイメージ |
|---|---|
| 受けたい治療・受けたくない治療 | どのような治療を希望するか、または希望しないか |
| 人生の最終段階を過ごしたい場所 | 自宅・病院・施設のうち、どこで過ごしたいか |
| 一緒に過ごしたい人 | 誰に傍にいてほしいか |
| 延命治療に関する希望 | 人工呼吸器・胃ろう・心臓マッサージなどについての希望 |
| 緩和ケアに関する希望 | 痛みや苦痛を和らげるケアについての希望 |
| 病状の告知についての希望 | どこまで病状を告げてほしいか |
| 代理意思決定者 | 意識・判断能力が低下した際に意思決定を代わりに行ってほしい人 |
これらの項目について、本人が「正解」を出す必要はありません。厚生労働省は「大切なのは『正解』を出すことではなく、あなたの気持ちを家族や信頼できる人と共有しておくことです」と述べています※4。
延命治療と緩和ケアの希望について
延命治療(人工呼吸器・胃ろうなど)をどうするかは、本人にとって大変重要な決断です。厚生労働省のガイドラインでは、医療・ケア行為の開始・不開始・変更・中止は、医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すると定められており、本人・家族・医療チームが話し合って方針を決めていくものとされています※3。
受けたい緩和ケアについての希望も、エンディングノートに書いておくことができます。緩和医療とはで解説しているとおり、緩和ケアはがんと診断されたときから受けられるものであり、終末期だけのものではありません※5。国立がん研究センター がん情報サービスによれば、緩和ケアは外来・入院(一般病棟または緩和ケア病棟)・自宅(訪問診療・訪問看護等)という3つの場で受けることができます※5。
自宅での療養・ケアについては「がんと在宅医療・介護」の記事もご参照ください。療養場所の選択肢と在宅で受けられるサービスについてまとめています。
意識・判断能力が低下したときの備え
ガイドラインでは、本人の意思は変化しうることを踏まえ、繰り返し話し合うことを求めています。また「本人が特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要」と明記されており※3、誰に代わりに意思決定を行ってほしいかをエンディングノートに書き留めておくことは、医療・ケアチームにとっても重要な情報になります。
意識が低下して自分の意思を伝えられなくなったとき、家族等が本人の意思を推定できる場合はその推定意思を尊重することが原則とされています※3。エンディングノートに記録しておくことで、家族が本人の意思を推定する際の手がかりになります。
がんの告知を受けてから感じる不安や、気持ちの整理の仕方については「がんの不安」の記事もあわせてご覧ください。
財産・相続・住まいに関する情報の整理
エンディングノートには、医療・ケアの希望だけでなく、財産に関する情報の所在(預貯金・株式・不動産・ローン・年金・保険の口座番号・証券番号など)を書き残しておくことも一般的です。遺された家族が必要な手続きを進めやすくなります。
ただし、財産の分割方法や相続人の指定など、法律上の効力が必要な事項については遺言書が必要です。エンディングノートにこれらの内容を書いても、法的な効力は生じません※1。財産・相続・後見に関する事項については、司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
今後の住まいについてどのような選択肢があるか(自宅で過ごし続けるか、施設に移るかなど)も、考えておくとよい論点のひとつです。ご家族の介護負担との関係については「家族介護者とがん」の記事もご参照ください。
エンディングノートはいつ書けば良い?
エンディングノートは、思い立ったときからいつでも書き始めることができます。「今」感じていること・大切にしていることを、自分のペースで書き留めることができます。年齢や健康状態に関係なく始められるのが、エンディングノートの特長のひとつです。
がんの罹患リスクと書き始めるタイミング
国立がん研究センター がん情報サービスの最新がん統計(2023年罹患データ)によれば、生涯のうちにがんに罹患する確率は男性で61.1%、女性で50.1%とされています※6。がんの罹患率は年齢とともに上昇し、特に60歳代以降で高くなる傾向があります※6。
(集団を対象とした統計の数値であり、個々の方の罹患リスクを示すものではありません。)
エンディングノートを書くことは、体も頭も使う作業です。ある程度の余力があるうちに一度書いておくと、自分の考えを整理する機会になります。書いたものを家族と共有すれば、「もしもの話」を自然に始めるきっかけにもなります。
書いたら終わりではなく、繰り返し話し合う
厚生労働省の人生会議(ACP)の考え方では、「気持ちは変わっていくこともあり、その都度、何度でも繰り返し話し合うことが大切」とされています※4。エンディングノートも同様で、一度書いたら終わりではなく、定期的に見直して「今」の自分の思いを更新することが大切です。
家族の状況・健康状態・治療状況が変わるたびに、書いた内容が現在の気持ちと合っているかを確認し、必要に応じて書き直してください。エンディングノートに「できあがり」はありません。
よくある質問
- エンディングノートに書いた内容は法的に有効ですか?
- いいえ、エンディングノートには法的効力はありません。財産の分割や相続人の指定など法律上の効力が必要な事項については、民法の要件を満たした遺言書が必要です。エンディングノートは任意の私的文書であり、法的拘束力はありません※1。
- 緩和ケアはいつから受けられますか?
- 緩和ケアは、がんと診断されたときから受けることができます。終末期だけのものではありません。外来・入院(一般病棟または緩和ケア病棟)・自宅(訪問診療・訪問看護等)の3つの場で受けられます※5。
- 延命治療をしないという希望を書いておけば、必ず守られますか?
- エンディングノートは法的効力を持たないため、記載した内容が必ず守られるとは限りません。ただし、家族や医療・ケアチームが本人の意思を把握する重要な手がかりになります。厚生労働省のガイドラインでは、医療・ケア行為の方針は本人・家族・医療チームが話し合って決めることを原則としています※3。希望の実現には、エンディングノートへの記録に加え、主治医・家族との繰り返しの話し合いが重要です。
- 人生会議(ACP)はどこに相談すればよいですか?
- まず主治医や担当看護師にご相談ください。緩和ケアチームや医療ソーシャルワーカーが相談窓口になる場合もあります。厚生労働省の「人生会議」ポータルサイトにも情報が掲載されています※2。
- エンディングノートはどこに保管すればよいですか?
- 法律的な保管義務はありません。ただし、いざというときに家族が見つけられる場所に保管することが大切です。存在と保管場所を家族に伝えておくことをお勧めします。
本記事は2026年8月12日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 法務省・日本司法書士会連合会「エンディングノート〜あなたに届け、わたしの想い〜」(2023年8月改訂)(最終確認日: 2026年8月12日)
- 厚生労働省「人生会議してみませんか」(最終確認日: 2026年8月12日)
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)(最終確認日: 2026年8月12日)
- 厚生労働省「人生会議(ACP)について」(最終確認日: 2026年8月12日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(最終確認日: 2026年8月12日、ページ最終更新: 2020年8月26日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」(全国がん登録・生涯罹患リスクは2023年罹患データ)(最終確認日: 2026年8月12日)





















