更新日:2023/06/09
成人移行支援




主な研究内容・論文:カプセル内視鏡、消化器内視鏡、消化器病
保有免許・資格:米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医、日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医
成人移行支援とは
医療の発展に伴い、近年の小児期医療では多くの病気が治癒されるようになりました。そのため、小児期に発症した疾患を抱えながら、思春期や成人期を迎える患者が増えてきました。小児がんも例外ではなく、原疾患が治癒した後も、再発や晩期合併症に備えて定期的に通院している患者は少なくありません。
しかし、小児科だけでの診療を成人後も続けていると、成人期特有の病気への対応が難しいのも事実です。そのため、「成人移行支援」という考え方が必要とされています。※1、2、3
成人移行支援は転院促進ではないかと思われがちですが、実際は小児期医療と成人期医療を繋ぐ架け橋です。患者が小児期医療から成人期医療への移行が必要となった時、医療体制が整っていなければ適切な医療を受けることができなくなってしまいます。また、医療体制が整っていたとしても、患者自身の体と心の状態が整っていなければスムーズな移行は難しいです。
成人移行支援は、患者の年齢に見合った適切な医療を受けるためにも、医療側・患者側の双方が協力して取り組むべき課題とされています。※1、2、3
「”こども”から“大人”へ」患者主体の移行支援
成人移行支援では、ヘルスリテラシーの獲得が重要とされています。ヘルスリテラシーとは、患者自身が自分の病気を理解し、症状や気持ちなどを自分でコントロールする力のことです。※1
成人移行支援によって成人診療科などへ転科することはあくまで結果の一つにすぎません。この取り組みで最も重要とされているのは、患者自身が自分で診療科を選び、大人になった時に自ら受診できるようになることです。子どもたちのなかには、自分の病名を知らない子どもも少なくありません。薬に関しても、「飲むように言われたから」と、理由も分からずに飲んでいることがあります。患者自身にとって正しいヘルスリテラシーを獲得するためにも、子どもには遅くとも中学生になった時点で、疾患に関して詳しく説明する必要があるといわれています。※1、4
診察を受ける時には、今の症状を自分で話せるようになることも大切です。それと同時に、服薬の意味や薬剤の役割、投薬の目的なども考えられるようにしながら、薬を自己管理していくことも必要です。自分のことをきちんと自分でやれる力を身につけながら、将来の自分が疾患とどう付き合っていくかを考えられるよう、周りの大人たちが支援していくことが大切です。成人への移行期は、患者の思春期にも重なることから、心理面での支援も必要となります。※1、4
さらに患者が重症疾患の場合では、保護者(養育者)のヘルスリテラシー獲得も大切なポイントになります。主治医からの言葉だけではなく、しっかりと勉強し直し、疾患や病状について知識を増やすことが重要です。※1、2、3、4
医療連携室が中心となる移行支援
小児診療科から成人診療科への移行は、単なる転科とは異なるため、患者だけでなく保護者(養育者)に対する支援も必要となります。成人移行支援では、トランジション外来(移行外来)、診療科の担当医、総合診療部の医師、ソーシャルワーカーなどが連携をとり、患者や保護者(養育者)をサポートしていきます。この取り組みは、患者が最もよい診療を受けるためのものであり、他の医療機関に完全に任せるといったものではありません。
小児診療科と成人診療科の連携には、3つの方法があります。
1.成人診療科へ完全に転科
2.小児診療科と成人診療科で併診
3.小児診療科での診察を継続※2、4
年齢が上がればその分、成人診療の必要性は高まります。しかし、病状が安定していないなど、小児科で診療を継続することが適切と判断された場合、小児科で診療継続となることがあります。もちろん、診療継続となった場合でも、病状が安定したり、成長や発達に伴い自立支援が必要になったりと、状況は変わっていきます。そのため、成人診療科の必要性はもちろん、成人診療科を受診する機会は常に検討し、医療側・患者側の両方で取り組むことが大切です。※1、2、4
成人移行支援の取り組みは少しずつ増えているものの、小児医療側からの働きかけがほとんどで、成人医療側ではあまり積極的に行われていないのが現状です。
子どもたちが安心して一生診てもらえる体制をきちんと作っていくことが、現在の成人移行支援における重要な課題とされています。 ※1、4