更新日:2026/08/10
がんと排泄について
がんやがん治療によって、排便・排尿のリズムが変わることがあります。下痢や便秘、頻尿や尿漏れなど、排泄にかかわる変化は日常生活の質(QOL)に直結し、体だけでなく気持ちにも影響します。「誰かに話しにくい」「こんなことで相談していいのか」と一人で抱え込んでいる方も少なくありません。
排泄の変化はがん治療中に起こりうる症状の一つです。多くの場合、主治医や看護師に相談することで、薬や生活の工夫を組み合わせながら対処できることがあります。また、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設した場合も、公的な支援制度があり、日常生活を続けながら療養する方法があります。
この記事では、国立がん研究センター がん情報サービスをはじめとするT1情報をもとに、排泄の変化の原因・対処法・制度の正確な情報を整理します。
この記事でわかること
- がん治療中の下痢・便秘の主な原因と、生活上の対処のポイント
- オピオイド(医療用麻薬)による便秘(オピオイド誘発性便秘)とその対処薬
- 頻尿・尿漏れ・排尿困難の原因と対処(泌尿器がん以外でも起こりうる)
- 人工肛門・人工膀胱(ストーマ)の種類とQOL——ストーマがあっても日常生活は続けられる
- がんの手術は公的医療保険の対象。ストーマ装具費用は身体障害者手帳と日常生活用具給付制度で助成が受けられる場合がある
排便
がん治療中の排便の変化は、大腸がんなどのがんそのものによる腸への影響、手術、薬物療法(細胞障害性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など)、放射線治療(腹部・骨盤内)、医療用麻薬(オピオイド)の副作用、食事内容の変化、安静による活動量の低下など、複合的な要因によって生じます※1。原因が一つとは限らず、主治医や看護師に症状を伝えて原因を確認することが大切です。
下痢
下痢は、一般に1日3回以上の泥状・水様の便が続く状態とされています※2。薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬・細胞障害性抗がん薬・分子標的薬)、腹部や骨盤内への放射線治療、手術後の腸の変化、感染症、重い便秘に伴って起こる下痢、がんそのもの、食事やストレスなど、さまざまな原因があります※2。
対処として、こまめに水分と電解質を補うこと(経口補水液やスポーツドリンクなど)、消化の良い食事(おかゆや豆腐など)を中心にすること、症状に応じて主治医が薬(ロペラミドなど)を処方することがあります※2。下痢が続くと脱水になりやすいため、量と回数をメモしておくと主治医への相談に役立ちます。
がんと食事・栄養の関係についてはがんと食事・栄養についても参考にしてください。
便秘
便秘は、排便の間隔があいて回数が減る、便が硬くなる、量が少なくなる、残便感があるといった状態を指します※1。がんの痛みを和らげるために使う医療用麻薬(オピオイド)は、腸の動きを抑えるため便秘(オピオイド誘発性便秘)を引き起こしやすく、痛み治療を受けている患者さんに高頻度に見られます※1。そのほか、活動量の低下、水分・食事量の変化、薬の副作用なども原因になります※1。
おおよそ3日以上排便がないとき、または下剤を使って1〜2日たっても便が出ないときは、主治医や看護師に相談する目安とされています※1。オピオイドによる便秘には、ナルデメジンなどのオピオイド誘発性便秘症の治療薬が使われることがあります※1。酸化マグネシウム・センナ・ルビプロストンなどの下剤を組み合わせて使う場合もあります※1。薬による対処に加え、生活の工夫が助けになることがあります。ただし、すべての方に同じ結果が出るわけではなく、判断は主治医と相談して行います。
生活上の工夫としては、1日1.5〜2L程度の水分をとること(T1記載の目安値)、食物繊維や乳酸菌を含む食品をとること、できる範囲で体を動かすこと(ベッド上での体操を含む)、腹部マッサージ、落ち着いた排便環境の整備、生活リズムを整えることなどが挙げられています※1。
がん治療の副作用全般についてはがん治療の副作用と合併症もあわせてご覧ください。
排尿
排尿の変化も、がんやがんの治療によって生じることがあります。膀胱がんや前立腺がんなど泌尿器のがんに限らず、膀胱周囲への浸潤、排尿を司る神経・筋肉への影響(手術・放射線治療による損傷など)、薬剤の副作用など、さまざまな原因があります※3※4。「自分のがんとは関係ないはず」と思わず、気になる症状があれば主治医に伝えてください。
頻尿・尿漏れ
昼間の排尿が8回以上になる状態を昼間頻尿、夜間に2回以上トイレに起きる状態を夜間頻尿と呼びます※3。尿意切迫感(急に強い尿意をもよおす)や尿漏れ(尿失禁)が生じることもあります※3。前立腺がん・子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん・直腸がんなどの手術後に排尿神経が影響を受けた場合や、放射線治療・薬物療法による膀胱炎などで起こりうるとされています※3。
対処として、骨盤底筋体操(尿道や膣をゆっくり締めたり緩めたりする運動)、膀胱訓練(尿意を感じてもすぐにトイレに行かず少しずつ間隔を延ばす方法)、排尿日誌(トイレの時間・量を記録する)、ケア用品(パッドや尿もれパンツなど)の活用があります※3。どの方法が合うかは状態によって異なるため、主治医や看護師に相談することが大切です。
排尿困難・残尿感
尿が出にくい、残尿感がある、ひどい場合には尿が全く出なくなる(尿閉)といった症状も、がんやその治療によって生じることがあります※4。膀胱・前立腺・子宮・卵巣・直腸のがんによる尿道の圧迫、脊髄への転移や脳腫瘍による排尿神経障害、骨盤内の手術による神経損傷のほか、医療用麻薬や不安軽減薬などの薬剤の副作用も原因になりえます※4。
対処として、導尿カテーテル(尿の管)を使って排尿を補助する方法、薬物療法、時間を決めてトイレに行く「時間排尿」、骨盤底筋体操などがあります※4。症状が強い場合や急に起きた場合は、早めに主治医に知らせてください。
人工肛門と人工膀胱
手術によってがんを切除する際に、肛門や膀胱から排泄することが難しくなる場合があります。そのような場合に、腸管や尿路をおなかの表面に引き出して排泄口(ストーマ)を作る手術が行われることがあります※5※6。ストーマには専用の袋(ストーマ装具)を装着して排泄物を受け取ります。
人工肛門
大腸がん(特に肛門に近い直腸がん)や婦人科系のがんなどで、肛門からの排便が難しい場合に人工肛門(消化管ストーマ)が造設されることがあります※5。腸管をおなかの外に引き出して排泄口を作るもので、括約筋(肛門を締める筋肉)がないため、自分の意思で排便をコントロールすることはできません※5。そのため、ストーマ装具を装着して便を受け取る管理が必要です。
人工肛門には2つの種類があります※9。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 一時的人工肛門 | 将来的に閉鎖(元に戻す手術)を前提としたストーマ。腸を一時的に休めたり、術後の回復を助ける目的で造設される |
| 永久人工肛門 | 肛門を切除する手術を受けた場合に造設されるストーマ。生涯にわたって使用する |
がんの治療にかかる手術は公的医療保険の対象で、自己負担は年齢・所得区分に応じて1〜3割、高額療養費制度により月ごとの自己負担に上限が設けられています※7。ストーマ造設を含む手術費用の具体的な扱いについては、主治医や病院の医療ソーシャルワーカーにご確認ください。
ストーマ装具(蓄便袋など)の費用については、永久的な人工肛門を造設した場合、身体障害者手帳(ぼうこう又は直腸機能障害)の対象になることがあります※5。手帳が交付されると、日常生活用具給付制度によりストーマ装具の費用助成が受けられる場合があります※8。申請の要否や手続き、自己負担額・支給の基準額は市区町村の判断により異なるため、市区町村の障害福祉担当窓口やがん相談支援センターにご確認ください※8。
ストーマ周囲の皮膚にトラブルが生じることがあります。異常を感じたときは早めに担当医や看護師に相談してください。慣れるまでには時間がかかることがありますが、看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師など)や訪問看護のサポートを受けながら少しずつ慣れていくことができます※5。
人工膀胱
膀胱がんなど泌尿器系のがんで膀胱を摘出する場合、尿路を変更する術式(尿路変更術)が行われ、尿路ストーマが造設されることがあります※6。尿を自分の意思でためたり出したりをコントロールすることができないため、専用のストーマ装具(採尿袋)を装着して尿を受け取る管理が必要です。
尿路変更術には複数の術式があります※6。
| 術式 | 概要 |
|---|---|
| 尿管皮膚ろう造設術 | 尿管を直接腹壁に固定して排尿口を作る |
| 回腸導管造設術 | 小腸の一部を使ってストーマを作る方法で、最も広く行われている術式 |
| 自排尿型新膀胱造設術 | 腸管の一部でつくった袋を尿道につなぐ方法。外部のストーマ装具が不要となるが、すべての方に適応があるわけではない |
採尿袋はおおむね週2〜3回交換します※6。ストーマ装具を用いて尿を受け取りながら、日常生活のなかで管理していくことができます。
人工膀胱をつくる手術(尿路変更術)も、がんの治療の一環として公的医療保険の対象です※7。永久的な尿路ストーマを造設した場合は、人工肛門と同様に身体障害者手帳の対象になることがあり、認定を受けると日常生活用具給付制度によるストーマ装具の費用助成が受けられる場合があります※8。申請の要否や手続きの詳細は、市区町村の障害福祉担当窓口、またはがん相談支援センターのソーシャルワーカーにご相談ください。
ストーマ周囲の皮膚トラブルが起きやすいことが知られています※6。異常を感じた場合はすみやかに担当医や看護師に連絡してください。
ストーマがあっても日常生活は続けられる
ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設していても、取り扱いに慣れることで外出・入浴・軽い運動・旅行・仕事といった日常生活を続けることができるとされています※5。食事に特別な制限が設けられているわけではありません※5(ただし担当医の指示がある場合はそれに従ってください)。
外出先や公共施設では、オストメイト(ストーマ造設者)対応の多機能トイレが活用できます※5。このトイレには専用シャワー・汚物入れ(サニタリーボックス)・着替え台などが備えられています。全国のオストメイト対応トイレは「オストメイトJP」で検索できます※5。
ストーマのケアに不安がある場合は、訪問看護や皮膚・排泄ケア認定看護師によるサポートを受けることができます※5。相談窓口としては、がん相談支援センター・ソーシャルワーカー・日本オストミー協会などがあります※5。がんと社会活動・補助の制度全般についてはがんと社会活動・補助をご覧ください。治療費や社会保障制度についてはがんの治療費も参考になります。
よくある質問
- Q. がん治療中の便秘は薬で対処できますか?
- 主治医に相談することで、症状や原因に合った薬(下剤、オピオイド誘発性便秘に対する治療薬など)を処方してもらえることがあります※1。効果には個人差があり、薬だけでなく水分摂取や食事・運動などの生活上の工夫を組み合わせることもあります※1。「よくなる」と断定はできませんが、一人で我慢せず、早めに主治医や看護師に症状を伝えてください。
- Q. 頻尿や尿漏れは泌尿器のがんでなくても起きますか?
- はい。前立腺がん・子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん・直腸がんなどの手術や放射線治療によって膀胱・排尿神経が影響を受け、頻尿や尿漏れが生じることがあります※3。泌尿器系のがん以外でも起こりうるため、気になる症状があれば主治医に伝えることが大切です。
- Q. ストーマ造設の費用(手術代)に保険は使えますか?
- がんの治療は公的医療保険の対象で、自己負担割合は年齢・所得によって1〜3割、高額療養費制度による月の自己負担上限額の仕組みも利用できます※7。ストーマ造設を含む手術費用の具体的な扱いは、主治医や病院の医療ソーシャルワーカーにご確認ください。ストーマ装具の費用については、永久的ストーマを造設した場合に身体障害者手帳の対象になることがあり、認定後は日常生活用具給付制度による助成が受けられる場合があります※8。
- Q. 身体障害者手帳はどこで申請できますか?
- 身体障害者手帳の申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で受け付けています。申請の要否や必要書類、認定の要件は自治体によって異なるため、まずは窓口でご確認ください。手続きの流れに不安がある場合は、入院・通院している病院のがん相談支援センター(医療ソーシャルワーカー)に相談することもできます。詳しくはがんと介護保険・介護認定も参考にしてください(介護保険との組み合わせについても解説しています)。
- Q. ストーマがあっても入浴や外出はできますか?
- 取り扱いに慣れることで、入浴・外出・旅行・運動・仕事など多くの日常生活を続けることができるとされています※5。外出先のオストメイト対応トイレが活用できます※5。不安がある場合は皮膚・排泄ケア認定看護師や訪問看護師にサポートを求めることができます※5。
本記事は2026年8月10日時点の公的機関の情報および診療ガイドラインをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「便秘」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「下痢」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「頻尿・尿漏れ」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「排尿困難(尿が出にくい)」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)療養」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん 治療」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「医療費の負担を軽くする公的制度」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 厚生労働省「福祉用具(日常生活用具給付等事業)」(最終確認日: 2026年8月10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療」(最終確認日: 2026年8月10日)





















