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更新日:2023/07/23

白血病を引き起こすタンパク質の機能の一端を解明

公益財団法人庄内地域産業振興センター(理事長:皆川治氏)/国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室(横山明彦チームリーダー)、東京大学大学院新領域創成科学研究科(金井昭教特任准教授)、九州大学、および広島大学の研究グループは、悪性度の高い白血病を引き起こすAF10融合タンパク質が働くメカニズムの一端を解明した。

白血病は乳児を含む若年層で最も多く見られるがんであり、中には現行の治療法で治癒をもたらすことが難しい予後不良のタイプがある。「染色体転座」によってMLLやMOZといった遺伝子が別の遺伝子と融合し、その結果生み出される融合タンパク質が発現することで、正常の造血細胞が無限増殖能を獲得し、白血病を引き起こす。当研究グループはこれまでに、MLLやMOZがDOT1Lなどと協調的に働いて遺伝子の発現を活性化するメカニズムを明らかにしてきた。その過程でDOT1LがENLとDOT1L複合体を形成することや、ENLがAF4やP-TEFbとも結合し、AEP複合体を形成して機能することを見出してきた。MLLやMOZはCGという配列を多く含む遺伝子プロモーターに結合して、DOT1L複合体やAEP複合体を呼び込み、遺伝子からRNAを産生する転写反応を活性化する。MLLやMOZの変異はこの転写経路を異常に活性化することで白血病細胞が無制限に増殖するように働く。

AF10という遺伝子もまた、様々な遺伝子と融合して悪性度の高い白血病を引き起こす。代表的なAF10融合遺伝子として、CALM-AF10, MLL-AF10, NUP98-AF10などがある。AF10部分にはDOT1Lというタンパク質と結合する構造があり、DOT1LはENLという別のタンパク質と結合するため、結果的に、AF10融合タンパク質はDOT1LやENLと複合体を形成する。このことから、AF10融合タンパク質もまた、上述のMLL変異やMOZ変異の場合と同様にMLL/MOZ/DOT1L/AEPを介した転写経路を活性化すると予想されてきた。しかし、このAF10融合タンパク質が白血病の発症にどのように寄与するのかはわかっていなかった。

当研究グループはCALM-AF10融合遺伝子の構造を改変した人工遺伝子を多数作製し、どの構造が白血病化に必須であるかを探索した。その結果、CALM-AF10はENL中に含まれるYEATSドメインという構造を介して白血病を引き起こしていることを見出した。当研究グループは以前、ENLはYEATSドメインを介してMOZやその類似タンパク質であるMORFと結合するということを報告していた。そこで、CALM-AF10白血病細胞においてMOZ/MORFの遺伝子をノックアウトしたところ、白血病細胞が増殖を止め、無害な分化細胞へ変化した。

MOZ/MORFはDNAが巻き付くタンパク質であるヒストンをアセチル化する酵素であり、その酵素活性を阻害する薬剤が開発されていた。そこで、MOZ/MORF阻害剤を白血病マウスに投与したところ、顕著に白血病細胞が減少し、病態の進行が妨げられた。この結果は、MOZ/MORF阻害剤がAF10転座型白血病の治療薬となりうることを示唆している。MOZ/MORF阻害剤を添加するとCALM-AF10は標的遺伝子領域から解離し、標的遺伝子の転写は不活性化された。従って、MOZ/MORF阻害剤はCALM-AF10の機能を直接阻害する分子標的薬であると言える。さらに興味深いことに、DOT1Lに対する阻害剤と併用するとより高い抗腫瘍効果を示すことがわかった。これらの結果は、MOZ/MORF阻害剤が難治性のAF10転座型白血病の治療法として、単剤もしくは他剤との併用療法で高い治療効果を発揮することを示唆した。

今回の研究によってAF10白血病発症の分子メカニズムの一端が明らかになり、MOZ/MORF阻害剤が非常に効果的な治療薬となりうることが示された。しかし、現時点では臨床現場で使用可能なMOZ/MORF阻害剤はない。本研究を受けて、今後臨床で応用可能なMOZ/MORF阻害剤へと改良され、難治性の白血病に対する効果的な治療法の開発が進むことが期待される。
(Medister 2023年7月24日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 白血病を引き起こすタンパク質の機能の一端を解明 ~新たな治療法の開発に期待~

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