更新日:2023/04/27
白血病細胞が悪性度を維持しながら増殖するメカニズムを解明
公益財団法人庄内地域産業振興センター(理事長:皆川治、鶴岡市末広町)/国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室(横山明彦チームリーダー)、東京大学大学院新領域創成科学研究科(金井昭教特任准教授)、米国のコロラド大学(Tatiana Kutateladze教授)及びカナダのラヴァル大学(Jacques Côté教授)の研究グループは、悪性度が高い白血病を引き起こすMOZ融合タンパク質*1やMORF融合タンパク質が働くメカニズムの一端を解明した。
白血病は若年層で最も多く見られるがんであり、現行の治療法で治癒をもたらすことが難しい予後不良のタイプがある。遺伝子異常の一種である「染色体転座」によって産みだされるMOZやMORF融合遺伝子は非常に強い発がんドライバーとして機能し、予後不良の白血病を引き起こす。同じように予後不良の白血病を引き起こす遺伝子変異としてMLL融合遺伝子がある。研究チームはこれまでに、MLL融合タンパク質とMOZ融合タンパク質が同じゲノム上のプロモーターに結合する事を見出し、報告してきたが、その分子基盤は不明であった。MLL融合タンパク質にはCXXCドメインというメチル化されていないCG配列に直接結合する機能ドメインがあり、それによってCG配列を含む様々な遺伝子プロモーターと結合することが明らかにされていた。一方で、MOZ/MORF融合タンパク質にはCXXCドメインはないため、どのようなメカニズムで遺伝子プロモーターを認識しているかは不明であった。
研究グループはMORFに含まれる二つのウィングドヘリックス構造が両方ともDNAと結合する性質を持っており、特に一つ目のウィングドヘリックス(WH1)が遺伝子プロモーターとの結合に重要である事を見出した。ウィングドヘリックス構造がDNAと結合する性質についてさらに詳しく解析していくと、WH1は「メチル化されていないCG配列」と結合し、二つ目のウィングドヘリックスであるWH2は逆に「ATに富む配列」と結合する事がわかった。これらのウィングドヘリックス構造がゲノム上の局在に与える影響をChIP-seq法と呼ばれる方法で解析したところ、WH1を持つタンパク質が「メチル化されていないCG配列」を多く含むゲノム領域に特異的に結合する事を示した。また、MOZ-TIF2融合遺伝子のWH1を欠損させた変異体はマウスの造血細胞に無限増殖能を与える事ができなくなっていたことから、WH1とCG配列の結合が白血病発症において必須のイベントであることが明らかになった。一方で、WH2を欠損させると、CG配列への結合能は保持されていなかったが、遺伝子プロモーターへの結合の程度は減少しており、WH2もまたMOZ融合タンパク質がゲノムと結合する上で、補助的な役割を果たしている事が示唆された。実際、WH2の機能を欠損させたMORF融合タンパク質変異体は発がんドライバーとして十分な機能を発揮する事ができず、WH2を持つMORF融合タンパク質よりもやや弱くHOXA9遺伝子の発現を活性化し、培養を続けても最終的には造血細胞を不死化することはできなかった。これらの結果はMOZ/MORF融合タンパク質が発がんドライバーとして機能するためには二つのウィングドヘリックスを介してDNAと強く結合する事が必要であり、この機能を阻害するような薬剤は分子標的薬となりうる事を示唆した。
今回の研究結果はMOZ/MORF融合タンパク質が造血細胞の異常な自己複製を引き起こす上で、ウィングドヘリックス構造を介したDNAとの結合が鍵となることを示した。特に、WH1がメチル化されていないCG配列と結合するという知見はMOZ/MORF融合タンパク質が広範な遺伝子プロモーターを活性化し、親細胞の時に発現していたプロモーターを娘細胞においても活性化する分子基盤を説明するものであった。これらの知見はMOZ/MORFタンパク質が造血細胞の自己複製を制御する重要なタンパク質あることを示すとともに、創薬開発においても重要な分子標的である事を示した。今後はMOZ/MORFを標的とした分子標的薬の開発が進み、白血病治療が発展することが期待される。
(Medister 2023年4月27日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 白血病細胞が悪性度を維持しながら増殖するメカニズムを解明