更新日:2023/03/21
S-1補助療法が胆道がん根治手術後の標準治療となることを証明
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が、中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)では、科学的証拠に基づいて患者に第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施している。
JCOGの肝胆膵グループでは、根治手術が施行された胆道がんの患者440人を対象に、S-1補助療法を行うことが、術後経過観察よりも優れているかを検証するため、ランダム化第III相試験(JCOG1202/ASCOT試験、研究代表者:国立がん研究センター東病院肝胆膵外科 小西大)を実施した。その結果、S-1補助療法を行うことで、生存期間が有意に延長することが示された。今後、日本のガイドラインが新たな標準治療に書き換えられる予定で、胆道がんの患者に対してエビデンスに基づいた治療の提供が可能となる。
胆道がんには胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がんが含まれる。国内で年間約2万人が罹患するがんで、部位別では第13位と比較的まれながん種である。治癒するためには外科手術が必要であるが、早期発見が難しく、診断時にはがんが周囲の重要臓器・血管に広がっていることが多いために手術不能なことが多くある。手術可能な場合でも、肝切除や膵切除などの大きな手術が必要になることが多い疾患である。
また、胆道がんは手術後の再発率が高く、膵がんと並んで難治がんとされてきた。そのため、補助療法の確立が長年求められてきた。これまで、胆道がん手術後の補助療法に関して、いくつかのランダム化第III相試験が行われ、英国ではカペシタビンの有用性が報告されていたが、統計学的には有意な結果は示されておらず、十分なエビデンスが確立しているとは言えない状況であり、国内では術後経過観察が標準治療であった。
JCOG の肝胆膵グループでは、全国38施設の協力を得て、標準治療である術後経過観察に対し、胆道がん手術後にS-1補助療法を行う治療の優越性を検証するランダム化第III相試験を実施した。
2013年9月から2018年6月の期間に胆道がんの患者440人が登録された。登録終了後、3年後に解析が行われ、3年生存割合は経過観察群で67.6%、S-1群で77.1%と、S-1群で有意に生存期間が延長するという結果が得られた。また、S-1群の主なGrade (重症度評価)3~4の有害事象は、好中球減少 (14%)、胆道感染(7%)であった。以上の結果から、S-1補助療法が胆道がん根治手術後の標準治療となった。
本試験の結果を受け、エビデンスに基づいた治療の提供が可能となり、胆道がんの根治手術後はS-1補助療法を行うことが第一選択として推奨された。同様の臨床試験は海外でも実施されており、本試験の結果により、日本だけでなく海外のガイドラインでも標準治療に書き換えられ、胆道がん患者にさらに有効な治療が提供されることが期待される。また、JCOG肝胆膵グループではさらなる治療成績の向上を目指して、現在、ゲムシタビン、シスプラチン、S-1の3剤併用による術前化学療法の有効性を検証するランダム化第III相試験を実施している。
(Medister 2023年3月20日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース S-1補助療法が胆道がん根治手術後の標準治療となることを証明 ―The Lancetに論文発表-