更新日:2023/02/24
日米連携研究プロジェクト 「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」 ムーンショット型研究開発事業で始動
名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学教授(国立がん研究センター研究所/先端医療開発センター分野長)の西川博嘉氏をプロジェクトマネージャーとする研究プロジェクト「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」が、令和4年度「ムーンショット型研究開発事業(ムーンショット目標7 日米連携による「がんゼロ社会」に向けた研究開発)」に採択され、国内7施設とアメリカ3施設の日米連携研究チームにより2023年1月よりプロジェクトが始動する予定である。
日本のがんの罹患率・死亡率は年々増加傾向にあり、その克服は医科学、生命科学のみならず日本社会全体の喫緊の課題である。さらなるがん克服には、従来の新規治療法開発に向けた研究に加えて新たな発がん予防法の探索と研究が重要である。これまでに、20-30% 程度のがんの発症に、ウィルス(肝がん、子宮頸がんなど)、ヘリコバクター・ピロリ等の細菌(胃がん、悪性リンパ腫)、炎症性腸疾患(大腸がん)等の慢性感染および慢性炎症が関わることが解明され、その一部に対しては抗微生物薬・抗ウィルスワクチン等による発がん予防が進められている。さらに近年では、慢性炎症が加齢や肥満、糖尿病によっても引き起こされ、発がんに寄与することが明らかになりつつある。一方で、同じ慢性炎症でも発がんに至る場合と至らない場合があり、そのメカニズムは解明されていない。そのため、慢性炎症から発がんに至る因子や、発がんを促進または抑制する炎症のメカニズムの違いなどを解明することががん予防の重要なキーとなる。
従来のがん研究では、がんの病態を一場面一時点で切り取り、かつ特定の細胞に着目して解析することが主であり、炎症―前がん状態―発がんへの時間的変化を空間的な相互作用も含めて検討することは十分に進められていなかった。本プロジェクトでは、炎症―前がん状態―発がんへの変化をマルチスケール(例:免疫、ゲノム、エピゲノム、代謝)で解析し、時間的変化についても時系列の検体解析に加えて数理モデルによる予測を融合することで発がんに至る慢性炎症のメカニズムを解明する。
慢性炎症が起始点となって生まれたがんの起源細胞の解析を行い、炎症―前がん状態―発がんの状態を予測する「発がん予測数理モデル」を確立する。発がん予測数理モデルによるがん化リスクに基づいた先制医療(プレシジョン先制医療)を実現し、超早期治療介入や、ウェアラブルデバイス等を用いた高感度生体モニタリングシステムの開発を行う。米国から3施設がプロジェクトに参加し、研究におけるパートナーシップだけではなく、人種差などを含めた検証が可能である。「がんは発症してから治療する」という従来の常識的な概念を取り払い、革新的研究に基づく発がん予測・先制医療、超早期診断・治療の開発によるがん予防へとつながる礎となるプロジェクトである。
(Medister 2023年2月20日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 日米連携研究プロジェクト 「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」 ムーンショット型研究開発事業で始動