更新日:2023/02/10
FGFR2融合遺伝子陽性胆道がんを含む胆道がんの病態解明のためのアジア多施設共同前向き研究(CHOICE study)を開始
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院は、FGFR2融合遺伝子陽性胆道がんの病態解明を目指し、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、台湾を含めたアジア各国で国際共同研究を開始することとなった。
胆道がんは比較的アジアに多く、さらに治療が困難なため予後が不良ながん種に分類されている。しかし、近年いくつかの新しい標的分子が発見され、本疾患治療の改善の糸口が見えてきた。その中の一つであるFGFR2融合遺伝子を標的とした治療薬の開発が現在欧米や日本を中心に進んでいる。しかし、元来アジア太平洋に多いがん種であるにもかかわらず、この地域でのデータが不十分であり、未だどのような遺伝的背景をもった胆道がん患者が多いか不明な点が多いため、さらなる研究が必要である。
本研究は、アジア地域で実施している希少がん研究開発およびゲノム医療を推進する中央病院のプロジェクト「Marker Assisted Selective ThErapy in Rare cancers: Knowledge database Establishing registry, Asia; MASTER KEY Asia」において、転移性および/または再発の病変を有する胆道がん患者を対象にFGFR2融合遺伝子をはじめとする遺伝子異常を網羅的に調べるアジア多施設共同前向き研究「Molecular detection and clinicopathological characteristics of advanced/recurrent CHOlangiocarcinoma harboring FGFR2 rearrangements In Asian CountriEs: CHOICE(チョイス)study」として実施される。
MASTER KEY Asiaは2017年より日本国内で実施している希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する産学共同プロジェクト「MASTER KEY Project」をアジア地域へ拡大した国際共同研究である。希少がん患者の遺伝子情報や診療・予後情報などを網羅的に収集し、研究の基礎データとなる大規模なデータベースを構築すること、およびがん種を限定せず特定のバイオマーカー(遺伝子異常・蛋白発現等)を有する患者を対象に企業治験や医師主導治験を実施することの二つの大きな取り組みにより構成されている。CHOICE studyは希少がんに分類される胆道がん患者のデータを、日本国内だけではなくアジアの広い範囲から収集し、病態の解明に寄与する。本研究が日本を含むアジア地域で同疾患に悩まされる患者に、治療改善の希望を与える研究になると考えている。
本研究は、アジアに多いと言われている胆道がんのうち肝内胆管がんおよび肝門部領域胆管がん患者150名を対象に、腫瘍組織のDNAおよびRNAを網羅的に解析する。参加協力施設はMASTER KEY Asiaの関連施設で、遺伝子解析には700以上のがん関連遺伝子異常が検出可能な、がん遺伝子パネル検査(TOP2パネル)を用いる。また、腫瘍組織を用いたFISH法により、FGFR2融合遺伝子という特定の遺伝子を検出する検査も並行して実施し、がん遺伝子パネル検査による解析結果との一致度も評価する。さらに、アジアにおける胆道がんの発生が肝吸虫による感染症に関連するといわれていることから、寄生虫の罹患歴に関する調査も予定している。遺伝子解析の結果と患者の臨床情報を統合解析し、FGFR2融合遺伝子の頻度の特定や分子標的薬を用いた薬剤治療開発の促進を目指す。
本研究で得られた結果は、各施設の医師へ返却される。FGFR2融合遺伝子を認められた患者へのFGFR阻害薬投与に関する試験は予定していないが、各国の承認状況に応じた投薬を推奨し、患者の治療へ役立てられることが考えられる。
本研究では、FGFR2融合遺伝子の特定のみではなく、TOP2パネルを用いた遺伝子検査が行われるため、胆道がん(肝内胆管がんおよび肝門部領域胆管がん)における様々な遺伝子異常のプロファイルを検討することが可能となる。この研究結果が、新規薬剤開発のデータや既存の分子標的薬における市場の拡大につながる可能性がある。そして将来的に、同疾患で悩む日本やアジアの患者の治療の選択肢が増えることを期待している。
(Medister 2023年2月6日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース FGFR2融合遺伝子陽性胆道がんを含む胆道がんの病態解明のためのアジア多施設共同前向き研究(CHOICE study)を開始 アジア・太平洋地域での希少がん研究開発を進めるプロジェクトMASTER KEY Asiaでの初の大規模研究