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更新日:2022/12/24

制御性T細胞のがん組織における活性化プログラムのキーとなる分子を発見

国立研究開発法人国立がん研究センターと名古屋大学の研究チームは、がんの進展やPD-1/PD-L1阻害薬の治療抵抗性に関与しているものの、がん組織内での活性化のメカニズム等の詳細が解明されていない制御性T細胞について、微量な組織で解析できる新たな手法を開発し、肺がん組織内の制御性T細胞を1細胞レベルで詳細に解析した結果、がんの組織内の制御性T細胞の多様性と、がん組織内で制御性T細胞が活性化していくプログラムを解明した。

がん組織には、抑制性の免疫細胞である制御性T細胞が豊富に存在しており、CD8陽性T細胞の働きを妨害することも知られているが、がん組織における制御性T細胞の活性化メカニズム、特に詳細なクロマチンの状態に関しては、多くの点が未解明のままであった。

がん組織内の制御性T細胞の特徴を明らかにするために、肺がん組織から制御性T細胞と制御性T細胞以外のCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞を採取し、ATACシーケンスとRNAシーケンス法を用いて、各々のT細胞のクロマチンの状態(クロマチンアクセシビリティ)と遺伝子発現の詳細な解析を実施した。その結果、肺がん組織内の制御性T細胞は、がん組織内の他のT細胞や肺がん患者の血液中の制御性T細胞のいずれとも全く異なるクロマチン構造と遺伝子発現のプロファイルを有していることが明らかになった。この結果から、がんの微小環境下に適応するために、制御性T細胞のクロマチンは特徴的な構造にリモデリングされていることが示唆された。

血液中やがん組織内の制御性T細胞と制御性T細胞以外のCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞を採取し、ATACシーケンスの解析を行った。がん組織内の制御性T細胞は、他のT細胞や血液中の制御性T細胞と異なるクロマチン(クロマチンアクセシビリティ)の構造を有することが分かった。

網羅的な解析データから、がん組織内での制御性T細胞の分化と活性化のキーとなる分子を探索したところ、転写因子のBATFが候補として同定された。BATFは、免疫細胞においてはTh17細胞で、その結合領域のクロマチンを緩め、他の転写因子などをその結合領域にリクルートする機能を持っていることが知られていた。BATF発現は、がん組織内の制御性T細胞で非常に高いことが示された。さらにBATFの結合するクロマチン領域を検討したところ、がん組織内の制御性T細胞ではBATF結合クロマチン領域が緩んでいることが分かった。これらの解析結果から、がん組織内の制御性T細胞のクロマチン構造のリモデリングにBATFが関与している可能性が示唆された。特にBATFがプロモーター/エンハンサーに結合してクロマチンアクセシビリティを変化させ、転写が促進される遺伝子には、制御性T細胞の抑制活性に重要なCTLA-4や、がん組織内の制御性T細胞に特徴的な分子であるCCR8などが含まれていた。

肺がんの組織の多重免疫染色を実施した。FoxP3陽性の制御性T細胞で、BATFのタンパク発現が非常に高いことが明らかになった。BATFの結合によって、がん組織内の制御性T細胞のクロマチンアクセシビリティが上昇することが示唆された。

次に、シングルRNAシーケンスとシングルセルATACシーケンス手法を用いて、血液、正常肺組織、がん組織内の制御性T細胞の1細胞解析を実施した。シングルセルシーケンスで得られたデータを用いて制御性T細胞のクラスタリングを行い、その結果を次元圧縮法[Uniform Manifold Approximation and Projection (UMAP)]を用いて、二次元上に描出した。その結果、がん組織内の制御性T細胞は、複数の特徴的な制御性T細胞集団に分類することができ、多様な細胞集団の集合であることが明らかになった。擬似時間解析を用いて、ナイーブ制御性T細胞からがん組織内で最も活性化している制御性T細胞への擬似的な時間軸を作成し、制御性T細胞の分化における転写因子の発現変動を解析した。すると、制御性T細胞の活性化に寄与することが報告されている他の転写因子と比較して、制御性T細胞の活性化の早期から転写因子BATFの発現上昇が認められた。以上より、がん組織内の制御性T細胞の分化でBATFが早期相から働いていると考えられた。

BATFの制御性T細胞活性化における重要性が示されたことから、BATF遺伝子をノックアウトしたマウスを用いて、がん組織内の制御性T細胞におけるBATFの機能をさらに検討した。BATF遺伝子のノックアウトによって、マウスのがん組織中の制御性T細胞の数や、制御性T細胞/CD8陽性T細胞の比は著減し、その抑制活性も有意に低下した。さらに、Ctla4、Icos、Il10、Ccr8、Tnfrsf8を始めとして、がん組織内の制御性T細胞で特に発現が上昇している遺伝子の特徴的なオープンクロマチン領域が、BATFのノックアウトによって失われることが明らかになった。以上より、BATFは、がん組織内で制御性T細胞がその特徴的なクロマチン構造を構築し、増殖、活性化するために必須であることが解明された。最後に、制御性T細胞のみでBATFの発現がノックアウトされるコンディショナルノックアウトマウスのBatffl/fl Foxp3EGFP-cre-ERT2マウスを作成して、がん細胞の増殖への影響を検討した。制御性T細胞特異的にBATFがノックアウトされたマウスでは、がんの増殖が著明に低下し、がん組織内で制御性T細胞が十分に活性化して抗腫瘍免疫応答を抑制するためには、BATFが必須であることが証明され、制御性T細胞を標的としたがん免疫療法の新たな可能性が示された。

本研究では、転写因子のBATFが、がん組織内の制御性T細胞のクロマチンのリモデリングに重要であり、 制御性T細胞の活性化プログラムのコアを担っていることを発見した。血液、正常組織、がん組織内の制御性T細胞を詳細に解析して得られた結果は、がん組織内の制御性T細胞を標的とする免疫治療開発のみならず、制御性T細胞が発症に関わる自己免疫性疾患の理解などを始めとして、様々な医学研究に応用されることが期待される。
(Medister 2022年12月19日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 制御性T細胞のがん組織における活性化プログラムのキーとなる分子を発見 制御性T細胞を標的とした新規免疫療法の開発へ

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