更新日:2022/11/19
小児悪性脳腫瘍において新規の遺伝子異常を発見
国立研究開発法人国立がん研究センター研究所の脳腫瘍連携研究分野鈴木啓道分野長、The Hospital for Sick Children (カナダ) のDr. Michael D. Taylor、University of Manitoba (カナダ) のDr. Tamra E. Werbowetski-Ogilvie、Seattle Children’s Research Institute (アメリカ)のDr. Kathleen J. Millenを中心とした国際共同研究チームは、小児で最も頻度の高い悪性脳腫瘍である髄芽腫の約60%を占めるタイプにおいて、新しい遺伝子異常を発見した。
髄芽腫は最も頻度が高い小児の悪性脳腫瘍であり、治療が困難な病気である。手術・放射線・化学療法を組み合わせた非常に強い治療を行うが、5年生存率は60から70%程度である。有効な分子標的薬がないため、治療による合併症も問題となっており、多くの生存者は機能障害や二次的ながんの発生に悩まされることになる。髄芽腫はこれまでひとつの病気と考えられていたが、最近の研究により4つのタイプ(サブグループWNT、SHH、Group 3、Group 4)に分類され、WNT・SHH髄芽腫はそれぞれWNTシグナル伝達経路・SHHシグナル伝達経路に遺伝子異常が起こることが分かっていた。一方で、髄芽腫の約60%を占めるGroup 3とGroup 4髄芽腫では、特徴的な遺伝子異常が同定されておらず、なぜ腫瘍が発生するのか十分に解明されていなかった。そのため今回の研究では、Group 3とGroup 4髄芽腫でどのような遺伝子異常が起きているかどのように腫瘍が発生するのか調べた。
子供のがんは大人のがんに比べると稀なため、多くの症例を集めるには国際的な共同研究が必要である。カナダのThe Hospital for Sick Childrenを中心に髄芽腫の国際共同研究Medulloblastoma Advanced Genomics International Consortium (MAGIC) が結成され、非常に多くの髄芽腫症例に対してシークエンスを行った。本研究では、MAGICが行ったシークエンスデータを使用し、髄芽腫を引き起こす遺伝子異常を探索した。
本研究により、Group 3とGroup 4髄芽腫ではCBFA複合体の遺伝子異常が生じていることが明らかになった。またそれは胎生期の菱脳唇の神経細胞から発生していると考えられる。菱脳唇の神経細胞はOTX2、 CBFA2T2、CBFA2T3の適切な遺伝子発現により正常な神経への分化が誘導されるが、これらの遺伝子のいずれかに異常が生じることで、正常な分化ができない神経細胞が残存してしまい、この細胞が将来的に髄芽腫となると考えられる。
Group 3およびGroup 4の髄芽腫では腫瘍の発生メカニズムが不明だったため、治療の開発は進んでなかった。今回、研究グループが髄芽腫発症のメカニズムを解明したため、治療開発にむけた基礎研究が進むと考えられる。
また、髄芽腫になりうる細胞集団が同定されたため、それらの細胞の存在を調べることが可能な方法が開発されると、髄芽腫の早期発見・早期治療介入につながる可能性がある。
(Medister 2022年11月14日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 小児悪性脳腫瘍において新規の遺伝子異常を発見 発症メカニズム未解明の髄芽腫の治療開発に向けた基礎研究の大きな一歩 Nature誌に論文発表