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更新日:2022/05/13

線維芽細胞の性質を変えることにより、抗がん剤の効果を増強させる技術を開発―難治がんの新規治療法への応用を期待―

名古屋大学医学部附属病院消化器内科・病院助教飯田忠、同・病院助教水谷泰之、名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学・教授川嶋啓揮、同腫瘍病理学・教授榎本篤、藤田医科大学国際再生医療センターの高橋雅英センター長、藤田医科大学消化器内科学教授 廣岡芳樹、および東京大学消化器内科学教授藤城光弘の共同研究グループは、名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部の支援のもと、膵がんの間質(かんしつ)で増える線維芽細胞(せんいがさいぼう)の性質を遺伝子操作あるいは化合物によって変化させると、抗がん剤の効果が増強することを、膵がんマウスモデルを用いて明らかにした。線維芽細胞の性質を人為的に改変する技術がヒトのがんにも応用できる可能性を示している。

ヒトの膵がん等の難治がんの特徴として、間質に高度な線維化を伴うことが指摘されている。がん間質の線維化において中心的な役割を果たすのは、CAFの増生である。活性化したCAFは、コラーゲン等の細胞外基質およびそれらを架橋するリシルオキシダーゼ(LOX)ファミリー分子群を産生することによって、重合されたコラーゲン線維を形成する。その結果、がん組織の硬化と内圧上昇、血管の虚脱を誘導し、抗がん剤の浸透を阻害することが知られている。

一方、海外の先行研究では、CAFを標的とする治療法の開発が失敗しており、本分野の研究者は、CAFは多様な機能をもつ細胞の集団であり、がん促進性CAFとがん抑制性CAFが存在する可能性があると考えていた。本研究者チームは2019年に、がん抑制性CAFの初の機能マーカーとしてGPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)によって細胞膜にアンカーされている膜型分子であるMeflinを同定した。また、マウスモデルを用いた検証から、がんの進行中に、Meflin陽性がん抑制性CAFが、α-SMA(平滑筋アクチン)陽性のがん促進性CAF(Meflinは陰性~弱陽性)に形質転換することも報告した(CAFががん細胞の敵から味方へ寝返りする現象)。また、非小細胞肺がんにおいては、Meflin陽性CAFの数が多い患者では免疫チェックポイント阻害剤の奏効率が高いことも報告している。このように、Meflin陽性・陰性CAFの存在やその量比ががんの進展に大きく影響することを、今までの研究で明らかにしてきた。しかしながら、人為的にがん抑制性CAFを増やす技術、あるいはCAFの性質を変化させる有効な技術についてはわかっていなかった。

本研究チームは、がん促進性CAFをがん抑制性CAFに戻す、すなわちMeflinの発現を上昇させる物質の探索を目的として、化合物ライブラリーのスクリーニングを実施した。その結果、自然界に存在しない合成レチノイドの一つであるAM80がMeflinの発現を有意に上昇させ、CAFの性質をがん促進性からがん抑制性に変化させることを見出した。担がんマウスモデルで検証したところ、AM80自体は抗腫瘍効果を示さなかつたが、AM80と抗がん剤を併用したところ、Meflin陽性がん抑制性CAFと腫瘍血管面積の増加、コラーゲン線維の配向の変化、組織の軟化、腫瘍血管の拡張とともに腫瘍内抗がん剤濃度の上昇が確認された。また、AM80と抗がん剤の併用は、抗がん剤単独と比較して有意な抗腫瘍効果を示した。本効果はMeflin遺伝子欠損マウスでは確認されなかった。また、組み換えセンダイウイルスベクターを用いてMeflin遺伝子をCAFに人工的に導入した検証でも、同様の抗がん剤の効果の増強が確認された。

次に、Meflin分子の発現の上昇ががん間質の性質を変化させる機序を解明するため、Meflinの結合分子を探索したところ、LOXを同定した。組換えタンパク質を用いた実験により、本Meflin-LOX間結合は直接的な結合であり、またMeflinはLOXのコラーゲン架橋活性を阻害することが判明した。LOXはコラーゲン等の細胞外基質の架橋と組織硬化を引き起こす重要な酵素と知られていることから、その活性を抑制するMeflinの機能の本質は、組織硬化の抑制(=組織を柔らかくすること)である可能性が示唆された。これらの検証結果から、AM80はCAFにおけるMeflinの発現を上昇させる、あるいはMeflin陽性がん抑制性CAFを増加させることにより、組織軟化と内圧の低下を介して、腫瘍血管の拡張と抗がん剤の薬物送達の増強を誘導する可能性が示唆された。

本研究の成果は、薬物によりがん抑制性CAFの数を増加させることが新しい難治がんの治療法になることを示している。本成果を受けて現在、名古屋大学消化器内科学および東京大学消化器内科学において、切除不能膵がんに対するAM80(タミバロテン)と従来の抗がん剤(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル)の併用効果を検証する第Ⅰ/Ⅱ相医師主導治験(治験責任医師:川嶋啓揮)が承認され、治験を開始している【Investigator-initiated Clinical Trial of MIKE-1 (MIKE-1) 、AMED臨床研究・治験推進研究事業における研究開発課題「国産既存薬の新効能による膵がんの間質初期化治療法の開発と第Ⅰ/Ⅱ相医師主導治験の実施」、研究開発代表者:藤城光弘】。なお、本医師主導治験は名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部、ラクオリア創薬株式会社およびテムリック株式会社の協力のもとに実施されている。今後は本研究成果を受けて、CAFの性質を制御する技術の開発がますます進んでいくことが期待される。
(Medister 2022年4月25日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 線維芽細胞の性質を変えることにより、抗がん剤の効果を増強させる技術を開発―難治がんの新規治療法への応用を期待―

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