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更新日:2022/04/09

頭頸部がんの術後補助療法の新たな標準治療を確立

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が、中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、科学的証拠に基づいて患者に第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施している。

頭頸部がんの90%以上は、扁平上皮癌という組織型であることから、頭頸部扁平上皮癌を対象に臨床試験が実施され、標準治療(科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療)が確立されてきた。ステージ3、4の切除可能な局所進行頭頸部扁平上皮癌は、術後に放射線治療を行った場合でも、局所再発、遠隔転移の頻度は高く、5年生存割合40%と予後も不良である。特に、切除断端陽性、頸部リンパ節の節外浸潤陽性、頸部リンパ節転移の多発、大きなリンパ節転移などは、再発リスクが高い因子と認識されている。

治療効果や安全性の向上を目指して、術後の放射線治療に抗がん薬シスプラチンを同時併用する治療の開発が行われてきた。術後再発するリスクが高い因子を有する頭頸部扁平上皮癌患者を対象とした術後放射線治療とのランダム化比較試験の結果、シスプラチン100 mg/m2を3週毎に3コースを放射線治療と同時併用する化学放射線療法(シスプラチン3週毎+放射線治療)は、再発を抑える効果が優れていることが示され、術後補助療法の新たな標準治療になった。

しかし、1)吐き気、腎機能障害などの副作用が強い、2)副作用のために投与量を減らすことも多く、指示通りに治療を計画することが難しい、3)副作用のために長期の入院が必要である、4)術後の手術部位が感染するリスクが高まるなどを理由に、医師が治療提示を避けることが多く、普及してこなかった。そのため、術後補助化学療法単独、術後放射線治療単独などの治療が頻用されている状況であった。

実臨床では、副作用の軽減を期待してシスプラチンの用量を30mg/m2から40 mg/m2に減らし、毎週投与する化学放射線療法(シスプラチン毎週投与+放射線治療)が頻用されてきた。しかし、標準治療であるシスプラチン3週毎+放射線治療との比較試験が行われていないため、シスプラチン毎週投与+放射線治療が、標準治療と同等の治療効果を示すかどうか明らかになっていなかった。そのため、効果がわからない治療が実臨床で頻用されていることが問題視されていた。

頭頸部がんの術後補助療法の安全性・有効性を比較するためには、十分な精度をもった検証的な臨床試験が不可欠である。そこで、JCOGの頭頸部がんグループでは、日本の代表的な頭頸部がんの専門施設を中心に、術後再発リスク因子を有する頭頸部扁平上皮癌患者を対象に、標準治療であるシスプラチン3週毎+放射線治療に対して、シスプラチン毎週投与+放射線治療の非劣性を検証するランダム化比較第II/III相試験(JCOG1008)を実施した。

シスプラチン3週毎+放射線治療、シスプラチン毎週投与+放射線治療ともに実臨床で実施されていたが、本試験計画時点で、両群の治療とも、参加施設では実施経験が少なく、実施可能性および安全性の情報は十分ではないと判断された。そこで、第II相部分で両群の治療の安全性を確認し、第III相試験として試験を継続することが適切であるかを判断した後に、引き続いて第III相部分を行うランダム化第II/III相試験を実施した。第II相部分は、各群33例、両群66例とし、第III相部分は、各群130例、両群260例とした。主要評価項目は、第II相部分が治療完遂割合、第III相部分が全生存期間とした。

対象の主な組み入れ規準は、年齢が20~75歳、口腔・中咽頭・下咽頭・喉頭のいずれかに原発巣を有する頭頸部がん、組織学的に扁平上皮癌と診断、術後の診断にてステージIII/IVA/IVBのいずれかと診断、切除断端陽性あるいはリンパ節外浸潤の術後再発高リスク因子を有する、遠隔転移を有さない、全身状態が良好(ECOG PSが0または1)である、十分な臓器機能を有する、他のがんに対する治療も含めて、放射線治療、抗がん薬、ホルモン療法いずれも受けた経験がないことなどとした。

登録された患者は1:1にシスプラチン3週毎+放射線治療(シスプラチン3週毎投与群)かシスプラチン毎週投与+放射線治療(シスプラチン毎週投与群)に割り付けられ、どちらかの治療を受けた。2012年10月から2015年2月までに第II相分の登録が66例に達し、JCOG効果・安全性評価委員会にて試験の継続が認められ、第III相部分に移行し、2018年12月21日に261例で登録を完了した(シスプラチン3週毎投与群132例、シスプラチン毎週投与群129例)。

第III相試験における2回目の中間解析を実施したところ、フォローアップ期間中央値2.2年において、3年生存割合はシスプラチン3週毎投与群59.1%、シスプラチン毎週投与群71.6%とシスプラチン毎週投与群にて良好な傾向を示した。この結果、シスプラチン毎週投与+放射線治療がシスプラチン3週毎+放射線治療に比べて全生存期間で劣らないことが証明された。

また、シスプラチン毎週投与群はシスプラチン3週毎投与群と比較して、グレード3以上の好中球減少(35.3% vs. 48.8%)、グレード2以上のクレアチニン上昇(5.7% vs. 8.5%)、グレード2以上の難聴(2.5% vs. 7.8%)、グレード2以上の粘膜炎(50.0% vs. 55.0%)など、急性期にみられる副作用が軽いことも示された。

本試験の結果、シスプラチン毎週投与+放射線治療が標準治療であることがガイドラインに記載され、新たな標準治療となることから、今後患者に対してより安全で、エビデンスに基づいた治療を提供することが可能となる。また、シスプラチン毎週投与+放射線治療は、副作用が軽く、外来でも実施可能であることから、今まで術後補助療法を避けてきた患者に対しても術後補助療法が適切に実施されるようになり、頭頸部がん患者全体の予後改善が期待される。
(Medister 2022年3月22日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 頭頸部がんの術後補助療法の新たな標準治療を確立 ~標準治療の普及と予後の改善を期待~

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