更新日:2022/02/06
希少がんの治療開発をアジア・太平洋地域5か国と連携し推進
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院は、希少がんの治療開発を推進するため、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムのアジア・太平洋地域5か国の10施設との国際共同研究「MASTER KEY Asia」を開始する。
希少がんとは、人口10万人あたり年間6例未満の「まれ」な「がん」で、肉腫、GIST、小児がん、脳腫瘍、眼腫瘍、皮膚腫瘍、頭頚部腫瘍、中皮腫、原発不明がん、神経内分泌腫瘍、血液疾患など200種類近い悪性腫瘍が希少がんに分類される。がん種個々の「希少性」のためメジャーながん種と比べて標準治療が確立されておらず、希少がんの予後は、メジャーながん種よりも不良となっている。
一方で、希少がん全体の患者数は全がん種の約22%を占め、また世界の新規がん患者の約半数はアジアが占めていることから、アジアで希少がんの臨床試験を実施していくことが、希少がんの治療開発に欠かせない。しかし、多くのアジア地域では、喫煙者の割合が多いことや、がん検診制度の未整備やがんゲノム医療の未普及などの現状があるため、日本主導でアジアの研究体制を整備し、アジア全体で臨床試験を実施できるようにする必要がある。
本国際共同研究は、中央病院が2017年より日本国内で実施している希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する産学共同プロジェクト「MASTER KEY Project」をアジア・太平洋地域へ拡大するもので、希少がん患者の遺伝子情報や診療・予後情報などを網羅的に収集し、研究の基礎データとなる大規模なデータベースの構築と、がん種を限定せず特定のバイオマーカー(遺伝子異常・蛋白発現等)を有する患者を対象に企業治験や医師主導治験を実施する大きく二つの取り組みから成る。
アジア地域では、がんゲノム医療の普及が十分ではないものの、本国際共同研究では対象となった希少がん患者のゲノム情報を次世代シークエンサーで解析し、診療・予後情報と合わせデータを収集する。「MASTER KEY Project」においては、これまで国内で2107例 (2021年9月末時点)の希少がん患者の遺伝子・臨床情報が登録され、世界最大の希少がんデータベースを構築している。また現在、12社の製薬企業が参加し、19件の治験(医師主導治験12、企業治験7)が行われている。今後、アジア地域への拡大により日本を含め全アジア地域で年間1000例の追加登録を見込んでいる。
希少がんの治療開発を加速度的に進め、また希少がんの中でも超希少ながんにも対応するためには、日本人と似た特徴のがんのゲノム変異を有するアジア人での協力と、アジア地域でのがんゲノム医療のさらなる普及が必須である。
国立がん研究センター中央病院は、現在のわが国のがんゲノム医療の礎となった臨床研究「TOP-GEARプロジェクト」による遺伝子パネル検査「NCCオンコパネル」の開発および先進医療での検証、また希少がんセンターの立ち上げなどの知見を有し、2020年からはアジア地域での臨床研究・治験実施体制整備を目的とする「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(ATLAS project)」も開始している。「MASTER KEY Asia」においては、「ATLAS project」と連動し、希少がんの新規治療開発の推進に取り組むという。
(Medister 2022年1月17日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 希少がんの治療開発をアジア・太平洋地域5か国と連携し推進 「MASTER KEY Asia」開始