更新日:2021/11/06
LC-SCRUM-Asiaの研究結果に基づいて新規遺伝子診断薬「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」承認
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院(以下東病院)は、肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Asia」(研究代表者:東病院呼吸器内科長後藤功一)に蓄積された検体と遺伝子解析データを活用し、Amoy Diagnostics社(代表取締役社長兼CEO:Limou Zheng、中国)が開発した新たな遺伝子診断薬「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」の良好な診断性能を確認した。
日本における死因の第1位はがんであり、その中で肺がんはがん死亡原因として最多である。肺がんに罹患した患者のうち、約3分の2の患者が手術不能の進行がんとして発見され、抗がん剤治療や放射線治療などを受けている。近年の遺伝子解析技術の進歩により、肺がん発症の原因となる様々な遺伝子異常が相次いで発見され、これらの遺伝子異常を有する肺がんには、遺伝子異常を標的とした抗がん剤(分子標的薬)が極めて有効であることが分かってきた。現在、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、METといった遺伝子に異常のある肺がんには、それぞれに対する分子標的薬を初回治療として用いることが肺癌診療ガイドラインでも強く推奨されており、進行肺がんの治療開始前には、遺伝子検査によってこれらの遺伝子異常を診断することが必須となっている。
これまでの遺伝子診断法は、個々の遺伝子をひとつずつ検査する“1遺伝子1検査”の方法が用いられてきた。しかしこの方法で複数の遺伝子を診断するには、多くの時間と検体量が必要であるため、全ての遺伝子異常の結果を確認する前に、分子標的薬以外の通常の抗がん剤で治療を開始しなければならない状況が多くみられた。近年、次世代シーケンサー(NGS)を用いた遺伝子診断法が国内で承認され、複数の遺伝子を同時に診断できるようになった。しかし、NGSを用いた遺伝子診断は、診断結果を得るまでに約2~3週間かかること、検体の量不足や質不良のため遺伝子解析が成功しない場合もあった。このため、微量の検体でも、複数の遺伝子を迅速にかつ確実に診断できる検査方法が求められていた。
LC-SCRUM-Asiaでは、2013年からの8年間で1万3千例を超える肺がん患者の遺伝子解析を行い、様々な新規分子標的薬や遺伝子診断薬の開発、臨床応用に貢献してきた。2019年6月からは、東病院 呼吸器内科医長の松本慎吾が中心となり、PCR法を用いた新たなマルチ遺伝子診断薬「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」を、LC-SCRUM-Asiaにおける肺がんの遺伝子解析へ導入した。
本診断薬は、気管支鏡検査や針生検検査などで得られる肺がんの微量な検体を用いて、既存のNGSを用いた方法よりも迅速に、かつ複数の標的遺伝子を同時に診断することが可能である。LC-SCRUM-Asiaで本診断薬の診断精度や有用性を検討するとともに、株式会社Precision Medicine Asia(代表取締役:池田龍哉、東京都港区)からの委託研究として、LC-SCRUM-Asiaに蓄積された検体と遺伝子解析データを活用して本診断薬の臨床性能評価を行った。その結果、本診断薬は複数の肺がん標的遺伝子について極めて良好な診断性能を有し、臨床応用が可能であることが評された。この臨床性能評価の結果に基づき、販売元の理研ジェネシスから本診断薬の承認申請が行われ、2021年6月25日にまず4つの遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF)の診断薬として国内製造販売承認を取得した。さらに8月12日には、MET遺伝子も含む計5遺伝子の診断薬として国内製造販売承認を取得した。
LC-SCRUM-Asiaでこれまでに約3000例を対象に行った本診断薬による前向きの遺伝子解析では、検体を提出してから解析結果報告までの期間は中央値で3日であり、また解析成功割合は95%であった。従って、本診断薬を用いることで、進行肺がんの患者に有効な治療薬をより早く確実に届けることができることが期待される。
「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」は、今回の5つの標的遺伝子以外に、4つの標的遺伝子の解析もできるように設計されており、合計9つの遺伝子解析を短期間で行うことが出来る。残りの4つの遺伝子は、既に承認されている治療薬の標的遺伝子や、臨床試験で有効性が報告されている有望な治療薬の標的遺伝子から構成されており、今後、残り4つの遺伝子の診断性能も評価し、コンパニオン診断として承認されることを目指している。将来的に、9つ全ての遺伝子を同時に診断して治療に繋げることが可能となれば、遺伝子診断に基づく肺がんの個別化医療がますます発展していくと期待される。
(Medister 2021年9月27日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース LC-SCRUM-Asiaの研究結果に基づいて新規遺伝子診断薬「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」承認 ~5つの治療標的遺伝子を迅速に診断可能~