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更新日:2021/06/07

難治性の膵臓がんに対する“長鎖非翻訳RNA”を標的とした新しい治療法の開発

名古屋大学大学院医学系研究科・腫瘍生物学分野の近藤豊教授、田﨑慶彦大学院生(筆頭著者)らの研究グループは、名古屋市立大学、東京大学、ナノ医療イノベーションセンター、がん研究会との共同研究により、タンパク質に翻訳されないRNA(長鎖非翻訳RNA)のうちTUG1を標的とした治療薬が膵臓がんに対して有効である可能性を発見した。

膵臓がんは、5年生存率が10%以下とがんの中で最も予後が悪い難治性のがんのひとつであり、有効な治療法の開発は喫緊の課題と考えられている。手術による腫瘍の切除は、膵臓がんの重要な治療方法であるが、診断がついた段階で手術できる患者は約20%に過ぎず、切除できても術後の再発率が高く、術後の5年生存率は20~40%と不良である。そのため、ほとんどの膵臓がん患者に対して5-FUやゲムシタビンなどの抗がん剤による薬物治療を行うが、いまだに効果は限られている。現在使用されている抗がん剤には2つの課題がある。がん細胞が抗がん剤に対する耐性を獲得することにより効果を失ってしまうことと、抗がん剤が正常細胞に毒性を示してしまうことである。そこで今回の研究では、膵臓がん細胞が抗がん剤耐性を獲得するメカニズムを解明し、膵臓がん細胞のみで効果を発揮する治療薬を見つけることを目的とした。

正常な膵臓細胞と膵臓がん細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した結果、膵臓がん細胞でTUG1の発現が顕著に上昇していることが分かった。長鎖非翻訳RNAはタンパク質に翻訳されないRNAの一種である小分子RNAと相互作用して、その小分子RNAの標的遺伝子の発現をコントロールする。そこで、TUG1と相互作用する可能性のある小分子RNAとその標的遺伝子を探索したところ、TUG1はmiR-376b-3pとの相互作用を介して、ジヒドロピリミジン脱水素酵素(DPD)の発現を増加させていることが分かった。DPDは5-FUを分解し、抗がん剤としての効果を減弱させる酵素として知られているが、TUG1はDPDの発現上昇を介して、膵臓がん細胞の5-FUの耐性獲得に寄与することを証明した。

次に本研究グループはTUG1の作用を抑制する薬剤の作製を試みた。薬剤をがん細胞のみに到達させるための“運び屋”を、TUG1を抑制する核酸医薬と組み合わせた治療薬(TUG1-DDS)をナノ医療イノベーションセンター、東京大学との共同研究で作製した。このTUG1-DDSを用いることにより、TUG1の作用を抑制する薬剤を膵臓がん細胞のみに送達することができた。

5-FUに耐性を示す膵臓がん細胞を移植したマウスにTUG1-DDSと5-FUを投与し、治療効果を確認した結果、5-FUを単独で投与したマウスと比較して、TUG1-DDSと5-FUを同時に投与すると、5-FUの薬効が保たれ顕著に腫瘍増殖が抑制した。

本研究からTUG1は膵臓がん細胞においてmiR-376b-3pとの相互作用を介してDPDの発現を上昇させることにより、5-FUの耐性を獲得する能力をもたらすことを世界で初めて明らかにした。TUG1-DDSは膵臓がん細胞のみに送達され効率的に5-FUの効果を増強するため、5-FUの投与量が少なくて済むことにより正常細胞への毒性を抑えつつ、難治性のがんである膵臓がんにおいて有効な治療薬となる可能性を見出すことができた。

現在TUG1-DDSは臨床応用に向けての開発を進めている。膵臓がんに対してTUG1-DDSの使用が可能になることを目標とし、TUG1-DDSについて副作用等を含めた解析を進め、安全性について検討していく予定だという。
(Medister 2021年6月7日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 難治性の膵臓がんに対する“長鎖非翻訳RNA”を標的とした新しい治療法の開発

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