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更新日:2021/05/28

僕のコーチはがんの妻

『僕のコーチはがんの妻』書評

著者名:藤井 満、藤井 玲子
出版社:つちや書店
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著者の藤井満氏は、元朝日新聞社の記者。2017年7月に妻の玲子さんが進行性のメラノーマと診断されます。子どものいない50代夫婦。結婚以来、家事も料理もしたことのない著者は妻から料理を教えてもらうことになります。

生きること=食べること。料理の猛特訓を受ける様子ととともに最愛の妻との日々が綴られます。巻末には玲子さんから教えてもらった「鬼コーチレシピ」と題するレシピ集が料理の写真とともに掲載されています。

同著は朝日新聞デジタル版に掲載された人気連載記事を書籍化したもの。時に漫才のような会話の中にも夫婦愛のつまった闘病の記録です。

メラノーマと診断された妻のためにはじめた家事

長期休暇で海外にいた著者に父親の逝去の知らせが届いたのは2017年7月のことでした。急遽、日本に帰国した藤井氏。出迎えに来た妻の玲子さんの鎖骨にあるほくろが、旅に出る前よりも大きくなっていることに気が付きます。

父親の葬儀を終えてひと段落したところで妻に病院への受診を促します。検査の結果、メラノーマ(悪性黒色腫)と診断されます。ステージ2Bの進行がんでした。

著者は家事を教えてほしいと頼みますが、それは治療で玲子さんの体調が悪い時に自分が家事をするためでした。

それから玲子さんの猛特訓がはじまります。最初に出されたレシピは「なすと豚肉とピーマンのこってり炒め」。野菜を切る順番からまな板の使い方、食器の片付け方やシンクの掃除に至るまで、ことこまかい玲子さんのダメ出しが入ります。 関西弁で、時に漫才のように掛け合うふたり。料理をしている時間だけは、病気のこともこれからのことも忘れられる瞬間でした。

患者や家族は孤独

主治医の説明によると、転移はしていないものの腫瘍の大きさが4ミリを超えているため、内蔵への転移の可能性はゼロではないとのことでした。そこで著者はがん相談センターなどに電話をして情報を集めます。その中でたどりついたのが国立がんセンターの「希少がんセンター」でした。今後、治療の選択に迷った時にセカンドオピニオンを受ける病院の見つけ方などを教えてもらうことができました。

そんな中で藤井氏が感じたことは、相談センターはがん患者や家族の心まで支えてくれるものではないということでした。そんな時にみつけたのが患者会の存在でした。気持ちが救われたと感じた著者でしたが、投稿ブログなどが途中でとぎれていてこわい、と入会をためらう玲子さん。著者はひとりで患者会に入会します。

妻が遺してくれたもの

翌年の2月、肝臓への転移が判明します。動揺する著者とは対照的に玲子さんは冷静です。でも、それは冷静さを装っていただけなのかも知れません。結婚20周年を翌年に控えた夫婦。玲子さんは夫に「20年間しあわせだった」と伝えます。でもふたりは決して翌年の結婚記念日のことを口には出さず、記念写真を撮りにいったり、さらなる料理の特訓にはげんだりします。妻の家事の負担を少しでも減らそうと料理を習いはじめた著者でしたが、転移を知った玲子さんは自分がいなくなった後のことを考えるかのように、夫に家事をたたきこみます。

「1年ってあっという間やね」とつぶやく玲子さん。

1年前は二人でジョギングしながら花を愛でていたことを思い出す著者。同じ風景がまったくちがって見えると著者はつぶやきます。

玲子さんは3月に再び入院します。著者はその日から玲子さんへ毎日手紙を書くことにしました。ふたりの会話には料理の話題が絶えません。どんな料理を作るのか、作り方やレシピのポイントなどが玲子さんから夫である著者に伝えられます。それは玲子さんが治療のため入院している時でも途絶えることはありませんでした。

やがて、これ以上の治療はできないと医師に告げられ、自宅での療養に入ります。訪問看護やヘルパーさんに入ってもらいながら、自宅での最期を迎えます。

玲子さんの死後、机の中からみつけた妻からの手紙。夫を思う玲子さんの気持ちには胸を打たれます。

著者である藤井氏は根っからの自由人。玲子さん亡き後、この連載を完結すると新聞社を退社し、供養のためお遍路に出掛けます。そこはかつて玲子さんと共に訪れた場所でもありました。悲しみや寂しさを胸に「今・ここ」を生きる藤井氏。

料理や家事を通して、お互いを思いやる気持ちにあふれた一冊です。

執筆者 美奈川由紀 看護師・メディカルライター

国立療養所南福岡病院(現・国立病院機構福岡病院)附属看護学校卒業。看護師
看護師の経験を活かし、医療記事を中心に執筆
西日本新聞、週刊朝日、がんナビ、時事メディカルなどに記事を執筆
著書に「マンモグラフィってなに?乳がんが気になるあなたへ」(日本評論社)がある

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