更新日:2021/05/01
がんだけど、素敵な話
医学の進歩によってがんは治る病気となりました。それでも死をイメージする人は少なくありません。この本の著者は保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆医師。同著には、保坂医師と患者さんとのエピソードが多数紹介されています。がんになっても前向きに生きる人々の素敵な話が綴られており、元気になれる一冊です。
精神科医30年以上の経験の後にみつけた天職、サイコオンコロジー科
サイコオンコロジー科とは、がん患者さんや家族の心の問題に対応する専門の科です。がんと診断され、うつ症状などを呈する患者さんは少なくありません。時間とともに症状は軽減していくことが多いものの、中には自ら命を絶つ人もいます。
保坂医師は、30年以上にわたって精神科医師として勤務してきましたが、その間どうしても気になっていたのが、若い頃、米国留学中に学んだ「サイコオンコロジー」という領域でした。
大学病院の精神科教授だった当時、中途退職して最後の仕事として選んだのが聖路加国際病院での精神腫瘍科の開設でした。その後、同院を定年退職してからは、聖路加国際病院の目の前にクリニックを開業。がんと診断された患者さんたちの診療にあたっています。
冒頭に書かれた絵画の意味は
同著には、写真やイラストなどが多数掲載されています。その中で印象的なもののひとつが、冒頭に描かれている一枚の絵画です。絵に描かれているのは大きな一本の道。その道の両側には木々が生い茂り森のような空間が広がっています。途中には渦巻きのようなものが行く手を遮り、道は狭くなりながらも続いていきます。先の方はもやがかかっていますが、それでも道は続きます。
保坂医師は、この道を標準治療に例えて解説。大きな道は患者さんがこれから歩む治療にあたります。治療が進むなかで民間療法などの脇道にそれていく人も出てきます。それが森の部分です。患者さんによってはそのまま森の中に迷い込んでしまう人も少なくないそうです。そして、森の中には科学的に効果が判明していない治療法が含まれており、高額で妖しい薬などが売られることもあるというのです。
がんのステージが進行すると大きかった道は狭くなり、視界も悪くなっていきます。でも保坂医師はいいます。「ステージ4であっても、その道の先にも標準治療はあるのです」と。
人生の方向性や価値観を見つけていく
患者さんとのつきあいが長くなると、病気のことに限らず家庭や仕事などプライベートな話題に発展することも少なくないそうです。
48歳で乳がんになった患者さん。治療を終えて再就職する際に書いた履歴書で、自分が高卒であることに劣等感を持ったことを打ち明けました。保坂医師は彼女にいいます。「今から大学に行ったらどうか」と。治療を終えた彼女は仕事をしながら通信制の大学に入学。50歳での学生生活を実現し、四年制大学卒業の資格を取得しました。
39歳、子宮頸がんの患者さんは妻のいる男性と11年にも及ぶ不倫中でした。彼女の目標はその彼との結婚です。でも11年も結婚してくれない彼が今後結婚をしてくれる可能性は高くはありません。保坂医師は彼女に人生についての価値観や方向性をカウンセリングで問いていきます。人生の意味を見つけていくことは大切なことだからです。彼女は自らの判断で彼と別れ、「安心できる家庭生活」という方向性を示すまでになったそうです。
保坂医師のところにはさまざまな背景を持つ患者さんがやってきます。ひとりひとりが置かれた環境を考慮しながら行われるカウンセリングは、ある意味人生のよきアドバイスのようにも思えます。がんになって人生に迷っても前向きに生きようとする患者さんたちの人生模様が綴られています。
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