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更新日:2021/01/02

がん検診は、線虫のしごと

『がん検診は、線虫のしごと』書評

著者名:広津 崇亮
出版社:光文社
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がん患者の尿のにおいに反応するという小さな白い生物「シー・エレガンス」。エレガントな名前だが、その正体は体調わずか1ミリほどの線虫のこと。目がない代わりに鋭敏な臭覚を持ち、がん特有のにおいを嗅ぎ分けます。

著者は、この線虫の研究を20年以上にわたって行い、線虫を用いた簡便で安価ながん検診の実用化に向けて研究を重ねている広津崇亮氏。線虫ががんを嗅ぎ分けるのを目の当たりにして「線虫が世界を変える」と思った広津氏は研究者から経営者へと転身。同著には、線虫によるがん検診の方法や実用化にむけての解説をはじめ、研究者だった著者がどのようにして起業したのか、といったことにも触れられています。

N-NOSE(エヌ・ノース)ががん検診を変える?

「N-NOSE(エヌ・ノース)」。これが広津氏によって考案された、実用化すれば世界初となる線虫を用いたがん検査の名称です。なんといっても尿一滴で検査できるという簡便な検査法。職場や自治体が行う健康診断では必ず尿検査が含まれているため、同検査法が導入されれば健診と同時にがん検査も実施できるというものです。

エヌ・ノースで検知できると判断されているがんの種類は、現在のところ大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん、子宮がん、膵臓がん、肝臓がん、前立腺がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、胆嚢がん、腎臓がん、膀胱がん、盲腸がんなど18種類。検査によっていずれかのがんであることことが判定できるのだそうです。

エヌ・ノースの特徴は、なんといってもごく初期のがんが判明できるということ。臨床試験によってステージ0の早期がんであっても9割近い確率で検知できるということです。現時点で、これだけ早期のがんを発見できる検査法はないといわれています。しかも尿一滴でできるわけなのですから、受ける人にとっても負担の少ない検査といえるわけです。

広津氏はエヌ・ノースの活用法について、この検査を先に受けて高リスク判定だった場合に、CTやMRIといった更に高度な検査を受けることを推奨しています。

ちなみに、エヌ・ノースで、がんでない人を「がんでない」と判定する確率は91.8%。また、がんの人を「がんである」と判定する確率は84.5%と高い確率です。希少がんについてはサンプルを集めるのに時間がかかるため、現在のところ明らかに検知できる状態ではないようですが、さらなる研究を重ねることで、今後は検知可能になる日もやってくるだろうと広津氏ははなしています。

なぜ線虫だったのか?

では、なぜ線虫だったのか?同著ではその疑問についても解説されています。そもそも線虫とは、学術的には線形動物の総称のことで、大きさは1ミリ以下のものから20~30センチほどの長さのものまでさまざまなのだとか。体は細長く、触手や足はなく目もありません。種類に至っては、一説には1億種以上ともいわれており、地球上で最も種類の多い生物とのこと。実際のところ、何種類いるのか誰にもわからないというのが現状のようです。

エヌ・ノースに用いられているシー・エレガンスは土壌にいる線虫で、研究によく使われるマウスやショウジョウバエと同じように、研究時の代表的なモデル生物のひとつ。そのため、過去3回ほど線虫研究でノーベル賞も受賞しているのだそうです。

シー・エレガンスは成虫でも体調が1ミリ程度、透明で肉眼では白っぽい糸のように見えます。寿命は約20日で、1匹の成虫が産む卵の数は100~300個。体が透明なので、そのまま顕微鏡で体内を観察できます。雌雄同体なので自家受精で卵を産むため繁殖が容易であるのと、遺伝的な個体差が生じることもないそうです。この点はがん検査においては大切な特徴なのだと広津氏はいいます。

日本の自然界にもシー・エレガンスは存在するそうですが、研究ではアメリカから分配されたものを使用します。冷凍保存が可能で、10年先でも20年先でも生き返らせることができるのだそうです。線虫ががん検査につながった背景には3つの発想の転換があったと著者は同著の中で語っています。

研究者から経営者へ

シャーレに尿を一滴だけ落として線虫が近づけば「がん」、遠ざかればがんではない。ひとことで言えばそれだけの検査ですが、ここまで検査としての精度を高めるためには、数知れないほどの実験が繰り返されました。著者いわく、自分以外にこれらの実験をやり遂げられる線虫研究者はいないだろうと自負していたほどです。

研究結果の論文が掲載されると新聞やテレビの取材が殺到し、共同研究したいという企業が押し寄せてきたといいます。しかし広津氏が目指したのは、安価で簡便な検査を多くの人に使ってほしい。人の役に立ちたいということでした。寄ってくる人たちの中には明らかに金儲けと思われる人もいたといいます。そこで、著者はベンチャーキャピタルには頼らずに資本金も自腹で調達し、研究者をどんどん雇っていったのです。企業価値を高めるためには必要だと思ったからでした。研究を進め、企業価値を見出した時点で、ようやく総額14億円の資金を調達することができたそうです。

現在、共同臨床研究拠点は国内17施設、海外1施設。それによって症例数も増えたわけですが、がんをがんと判定する確率も、がんでない人をがんではないと判定する確率も、論文を発表した基礎研究時点とほぼ同じ水準で推移しているそうです。

実用化されればこれまでにない簡単ながん検診が実現します。医療に関心のない人でも興味を持って読める一冊です。

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