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更新日:2021/05/23

患者さんのための膵がん診療ガイドラインの解説

『患者さんのための膵がん診療ガイドラインの解説』書評

編集: 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会
発行所: 金原出版
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膵がんは、平成25年に年間の死亡者が3万人を超え、現在では肺がん、胃がん、大腸がんに続いてがんによる死亡原因の第4位です。膵がんが近年急速に増加している理由は、高齢化だけでなく、がんの中でも早期発見が難しく、治療後の回復の見込みもよくないという特徴があるためです。その特徴から「21世紀に取り残されたがん」と例えられるほどです。本書では、「病気は医療者だけで治すものではなく、患者さんや社会全体が一体となって防ぎ、治療していくことが重要」という考えのもと、膵がんの診療ガイドラインが読みやすくまとめられています。

なぜ膵がんは早期発見が難しいのか

本書は、大きく分けて3部構成になっています。膵臓や膵がんそのものの予備知識、次に診断法、そして治療法について、です。全部で25の質問があり、各質問は2~4ページで読み切れる形式です。

どこから読んでもよく、知りたいところだけ読んでも構わない構成ですが、まずは最初の「膵がんとは/科学的根拠(エビデンス)に基づく診療ガイドラインとは」に目を通すことを強くすすめます。この項目は、膵がんの治療に関係する基本的知識だけでなく、ほかのがん治療にも当てはまることが細かく記載されているからです。

そもそも、膵臓について詳しく知っている人は多くないでしょう。膵臓は、消化液のひとつである膵液を分泌する機能と、血糖値などを調整するホルモンを分泌する機能があります。そのため、膵がんによって膵臓の機能が低下すると、腹痛や糖尿病の悪化という症状が現れます。しかし、これらの症状は膵がんに限ったものではないため、膵がんの可能性が見落としがちになってしまいます。これが、膵がんの早期発見を難しくしています。

また、膵臓のどこに腫瘍があるかによって手術の方法が変わる場合があるため、膵臓そのものの形状や、胃や腸などのほかの臓器との位置関係を最初に把握しておくことは大切です。

そして、膵がんは難治性のがんとして知られていますが、新しい治療法が進められているのも事実です。しかし一般の人からすれば、新しい治療法は安全なのか、どのくらい信頼できるか、わかりにくいところがあります。

そこで本書では、診断法や治療法を紹介する前の段階で、診療ガイドラインとは何か、臨床研究とは何かについて4ページにわたって記載しています。臨床試験で集められるデータの重要性を把握することで、その後に紹介される診断法や治療法がどの程度信頼できるのか、読者自身が判断できるのです。

実際、診断法や治療法の項目では、何人の患者に行い、このような結果になったという臨床試験がいくつも紹介されています。これらの数字を正しく理解することが、治療を受けるときに必要なのです。

治療法を方法別にわかりやすく紹介

膵がんの患者さんにとって最も不安なのは治療法でしょう。治療法については、さらに外科手術、手術に伴う補助療法、放射線療法、化学療法、ステント療法に分けられて紹介されています。

外科手術では、膵臓の切除だけでなく、バイパス手術やステント療法についても、イラストでわかりやすく解説しています。また、放射線療法や化学療法では、具体的なスケジュールを示しているので、治療を受ける上で見通しを立てられるようになります。

ただ、本書に記載されていることは刊行時点によるものであり、研究が進むことで見方が変わる可能性があるとも述べられています。しかしながら、主治医と治療法などについて相談するときの参考になるのは間違いないでしょう。膵がんの基本的な知識、さらには膵がんに限らず、がん治療を受ける上で必要な考え方を学ぶのに適した一冊です。

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