更新日:2021/03/16
国立がん研究センターと日本電気株式会社が共同開発した内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」医療機器承認
国立研究開発法人国立がん研究センターと日本電気株式会社が共同で開発した人工知能(AI)を用いた早期大腸がん及び前がん病変を内視鏡検査時にリアルタイムに発見するソフトウェアが2020年11月30日に日本で医療機器として承認された。また、欧州においても同年12月24日に医療機器製品の基準となるCEマークの要件に適合した。
大腸がんは我が国において頻度の高い疾患であり、罹患者数も死亡数も増加している。大腸の場合、通常“がん”は前がん病変である腫瘍性ポリープ(陥凹性病変や平坦型腫瘍を含む)から発生することが明らかとなっており、人間ドックや大腸がん検診で前がん病変が発見された場合は、積極的に内視鏡的切除が行われている。実際に米国では、1993年に報告されたNational Polyp Studyと2012年に報告されたそのコホート研究の結果から、前がん病変の多くを占める腺腫性ポリープを内視鏡的に切除することが大腸がんの罹患率を76%~90%抑制し、死亡率を53%抑制したことが明らかにされている。
したがって、こうした前がん病変あるいは早期がんを内視鏡検査時に見逃さないことが重要であるが、肉眼での認識が困難な病変や解剖学的死角、医師の技術格差等により24%が見逃されているという報告もある。また別の報告では、大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんに至るケースが約6%あり、その原因は内視鏡検査時の見逃し(58%)、来院しない(20%)、新規発生(13%)、不十分な内視鏡治療による遺残(9%)が挙げられている。
大腸内視鏡検査時の病変見逃しを改善し、前がん病変発見率を向上させることが、大腸がんの予防、早期発見に大きく寄与する。
本ソフトウェアでは、1万病変以上の早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像25万枚(静止画・動画)の画像一枚一枚に国立がん研究センター中央病院 内視鏡科スタッフが所見を付けた上でAIに学習させた。このAIを用いることで大腸内視鏡検査時に映し出される画像全体をリアルタイムに解析し、大腸前がん病変及び早期大腸がんを検出した場合は、通知音と円マークでその部位を示し、内視鏡医へ伝える。内視鏡医はAIが示した場所をさらに注意深く観察することで、意識していなかった場所を意識できるようになり、大腸がんの見逃しを回避できる可能性がある。
また、本ソフトウェアは、特に発見の難しい表面型・陥凹型腫瘍を重点的に深層学習していることが大きな特徴である。これらの多くは、近隣や時に遠方の内視鏡専門クリニックや病院で発見され、中央病院内視鏡科に紹介された症例である。
また、主要内視鏡メーカー3社の内視鏡に接続が可能である。既存の内視鏡と本ソフトウェアを搭載した端末及びモニターを接続するだけで、すぐに利用を開始できる。さらに、移動もできるため、検査の実施場所で効率的に使用することができる。
本ソフトウェアの性能検証(DESIGN AI-01試験)では、大腸前がん病変または早期大腸がん病変を正しく検出できるか、また誤検出がないかについて、350種類の病変を動画で一定時間以上連続して正しく判定した場合を正解とする厳しい基準で検証を行った。
その結果、約83%が5フレーム以上連続で正しく検出され、病変が写っていない動画4000区間中の約89%が正しく大腸前がん病変または早期大腸がんではないと判定された。さらに、視認しやすい隆起型の93病変と視認しにくい表面型の257病変に分けて解析したところ、隆起型では約95%、表面型では約78%が正しく検出された。これらの結果を臨床医の読影試験と比較すると、隆起型の病変に対して経験豊富な内視鏡医と同程度の診断性能を有していること、また経験の浅い医師(4名)が本AIシステムを使用することにより表面型の病変の検出が6%高くなる結果が得られた。
以上のデータを踏まえ、「本品は、内視鏡検査機器から得られた信号を解析して、大腸前がん病変及び早期大腸癌の病変候補部位を示し、肉眼型が隆起型である病変の診断等の支援(補助)のために使用する医療機器プログラムである」との【使用目的又は効果】で医療機器として承認された。AIのサポートにより内視鏡医の経験等の影響を抑えて病変を発見でき、また誤検出も少ないため、検査時間を延長することなく診断精度の改善・向上が期待される。
(Medister 2021年3月8日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 国立がん研究センターと日本電気株式会社が共同開発した内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」医療機器承認