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更新日:2021/03/16

乳がんの悪性化に「温度」が寄与することを発見

東京医科大学医学総合研究所落谷孝広教授(前国立がん研究センター研究所分野長)と国立がん研究センター研究所細胞情報学分野山本雄介主任研究員、大塚蔵嵩外来研究員の研究チームは、がんの周辺環境因子の1つである温度が乳がんの悪性度に寄与することを発見し、転移を促進するなどがん微少環境に影響を与えるエクソソーム分泌が温度依存的に増加するメカニズムの一部を解明した。

乳がんは世界的に女性のがんの中で最も多く診断されているがんであり、本邦でも罹患数は女性の中で最多である。標準治療法が確立され、生存率が比較的高いがんではあるが、進行度が進むにつれて予後不良となることが知られており、悪性化や転移のメカニズム解明は新たな治療戦略を構築する上で重要となる。

本研究では、はじめにヒトの乳腺上皮細胞株MCF10A、一般的に悪性度が高くなく転移能が低いとされる乳がん細胞株MCF-7(ホルモンレセプター陽性、Her2陰性)、転移能が高く悪性度も高いとされる乳がん細胞株MDA-MB-231(ホルモンレセプター陰性、Her2陰性)の細胞増殖に温度が与える影響を調べた。その結果、MDA-MB-231のみ高温下で細胞増殖が促進されることが分かり、細胞の移動能(遊走能)や浸潤能も温度依存的に増えることも見出した。

また、がんの遠隔転移があると生存率が非常に低くなることから、がん細胞の転移能も重要となってきます。近年、細胞から分泌される50~150 nmの小胞(エクソソーム)が、細胞間のコミュニケーションツールの1つとして、転移先の微小環境(前転移ニッチ)形成などに関与することにより、がんの転移を促すことが報告されてきた。これまでの研究により、乳がんから分泌されるエクソソームが前転移ニッチの形成を促し、がん細胞から放出されるエクソソームの量や質ががんの転移に寄与することが知られていた。本研究では、温度がエクソソームに与える影響を調べるために、温度変化に応答する上記の転移能が高く悪性度も高いとされる乳がん細胞(MDA-MB-231)を温度別に培養し、エクソソーム量を調べたところ、その放出量が温度依存的に増えることが分かった 。また、エクソソームに存在するマーカータンパク質を調べたところ、その量も温度依存的に変化することが示唆され、温度がエクソソームの量と質に影響を与えることも分かった。さらに、温度帯ごとに乳がん細胞の遺伝子発現を網羅的に解析し、温度依存的に発現が変化する遺伝子の中から温度依存的なエクソソーム分泌に関与する遺伝子も見いだすこともできた。

がん細胞の周辺環境因子の1つである温度変化に着目し、原発巣の腫瘍発達、遊走・浸潤、転移など、今後乳がんの悪性化に関与する遺伝子など分子機構の解明を行っていくことで、新たな治療標的の探索が進展していく可能性がある 。また、エクソソームのバイオロジーに関する知見を蓄積していくことにより、転移の新しいメカニズムの解明につながることや、新規のバイオマーカーの同定、エクソソームを標的としたがん治療研究戦略にも貢献できることが期待される。
(Medister 2021年2月21日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 乳がんの悪性化に「温度」が寄与することを発見-がんの転移に関わるエクソソームを含めた新たな分子機構の解明にも期待-

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