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更新日:2020/12/30

腫瘍組織における血管内皮細胞からの因子により、がんが進展するしくみを解明 ―がん微小環境ネットワークシグナルを標的とした新規治療法の開発に期待―

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野の渡部徹郎教授と吉松康裕講師(現新潟大学)の研究グループは、東京大学大学院医学系研究科分子病理学分野の宮園 浩平教授と赤津裕一氏(現日本化薬株式会社)、北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野の樋田京子教授との共同研究で、TGF-βとTNF-αにより血管内皮細胞から形成されるがん関連線維芽細胞(CAF)が、がん細胞の悪性化を促進するメカニズムをつきとめた。

腫瘍組織には、がん細胞のみならず腫瘍血管やがん関連線維芽細胞(CAF)など様々な種類の細胞が存在し、がん微小環境が構成されている。こうした構成細胞は様々な液性因子(サイトカイン)を介して相互作用をし、がんの進展を誘導している。つまり、がん微小環境ネットワークをより良く理解することは新規がん治療法を開発するために重要である。多くの種類のがんにおいて高いレベルで発現しているトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は、上皮がん細胞から転移能の高い間葉系細胞(線維芽細胞など)への分化転換(上皮間葉移行:EMT)のみならず、血管内皮細胞からCAFへの分化転換(内皮間葉移行:EndMT)を誘導する。研究グループは以前EndMT由来のCAFががんの悪性化を亢進することを報告したが、この現象のメカニズムについてはこれまで解明されていなかった。さらに、腫瘍組織に浸潤する炎症細胞は腫瘍壊死因子(TNF-α)を含む様々な炎症性サイトカインを分泌するが、これら2つの因子によるシグナルがどのように相互作用しているかについては未解明な部分が多く残されていた。

本研究グループは複数の種類のヒト血管内皮細胞を用いてTGF-βによりCAFへと分化転換する過程におけるTNF-αの役割について解析を行った。その結果、血管内皮細胞はTGF-β存在下で培養すると間葉系細胞の性質を獲得するが、TNF-αを添加するとTGF-βによるEndMTはさらに亢進することが分かった。

さらに血管内皮細胞をTGF-βとTNF-αで処理することで分化転換するCAFにおいて、TGF-βシグナルが長時間維持されることが明らかとなった。これについて、TGF-βシグナルを活性化するTGF-β自身をCAFが産生するのではないかという予測が立てられたため、TGF-βファミリーメンバーの発現に対するTGF-βとTNF-αの効果を検討したところ、TGF-β2の発現が上昇していることが示された。以上の結果から、TNF-αはTGF-βによるEndMT誘導をTGF-βシグナルの増強により亢進することが示唆された。

また、TGF-βとTNF-αによるEndMTにより形成したCAFにおいて、がん細胞の悪性度の指標であるEMTを誘導するTGF-β2が産生されているということが示されたことから、次に産生されたTGF-β2が実際にがん細胞のEMTを誘導できるか検討した。そこで、TGF-βとTNF-αの存在下で培養した血管内皮細胞(CAF)の培養上清に含まれる液性因子を加えて、口腔扁平上皮がん細胞を培養したところ、上皮細胞マーカーであるE-cadherinの発現が低下し、間葉系細胞マーカーであるVimentinの発現が上昇した。次に、この効果がCAFから分泌されたTGF-βによるものであるか検討するために、中和抗体を用いたTGF-βの阻害実験を行ったところ、CAF由来液性因子によるEMT誘導作用が抑制された。以上の結果から、TNF-αがTGF-βによるEndMT誘導を亢進することで、がんの悪性化に寄与することが示唆された。

本研究の成果により、TGF-βとTNF-αが協調することで、血管内皮細胞からのCAFの形成を制御していることが示された。また、血管内皮細胞由来のCAFがTGF-β2を分泌し、がん細胞のEMTを誘導することにより、がんの悪性化を亢進することが示された。今回、中和抗体を用いたTGF-βシグナル阻害によってがんの悪性化を抑制することができたことから、将来腫瘍組織におけるTGF-βシグナルを抑制することで、がん微小環境ネットワークを標的とした新たながん治療法の開発へ応用されることが期待される。
(Medister 2020年8月11日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 腫瘍組織における血管内皮細胞からの因子により、がんが進展するしくみを解明 ―がん微小環境ネットワークシグナルを標的とした新規治療法の開発に期待―

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