更新日:2020/02/25
肺がんの新たな治療戦略へ期待 ~免疫療法の治療効果の改善へ~
名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学の西川博嘉教授(国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長、先端医療開発センター免疫TR分野分野長併任)らのグループは、肺腺がんの約半数に認められるepidermal growth factor receptor (EGFR)遺伝子変異が、がん細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞や免疫応答を抑える働きをする制御性T細胞の移動をコントロールすることで、がん免疫療法に抵抗していることを明らかにした。
現在、肺がんに対する抗PD-1抗体等の免疫療法の有効性が示されているが、肺がんの中でも肺腺がんの約半数で認められるEGFR遺伝子変異陽性例では、がん免疫療法が効きにくいことが報告されている。その原因の一つとして、体細胞変異の数が少ないことが挙げられている。これは遺伝子変異により生じる異常たんぱく質(異物)が少なく、異物を除去するための免疫応答が起こりにくいがんのタイプであると推察されている。本研究ではさらなる詳細な解析により、EGFR遺伝子変異陽性例では、がん組織の中に細胞傷害性T細胞の入り込んでいく数が少なく、一方で、制御性T細胞が多いことを明らかにした。なぜ制御性T細胞が多いのかを検討をし、EGFR遺伝子変異陽性の肺がんが、制御性T細胞を呼び寄せる化学物質[ケモカイン(CCL22)]を多く産生する一方で、がん細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞を呼び寄せる化学物質[ケモカイン(CXCL10やCCL5)]の産生が少ないことを解明した。そこで、がんを移植したマウスを用いて、EGFRシグナルを阻害した状態で抗PD-1抗体を用いると、肺がんの治療効果が改善することが明らかになった。
本研究により特徴的な免疫抑制性の腫瘍環境が構築されていることが明らかになった。EGFR陽性肺がんではEGFRシグナルは、従来考えられてきたようにがん細胞の増殖に関わるのみならず、ケモカイン分泌を介して免疫抑制性の環境を作り上げていることが示された。これは、従来の発がんを誘発する遺伝子変異であるドライバー遺伝子が細胞増殖に関わるという概念を超えた新しい概念と考えられる。このような免疫抑制性の腫瘍環境を打破するには、EGFRシグナル活性を阻害した上で、がん免疫療法を行うと有効である可能性が示唆され、今後の肺がんの新たな治療戦略につながる可能性が示唆される。
(Medister 2020年2月25日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 肺がんの新たな治療戦略へ期待 ~免疫療法の治療効果の改善へ~