更新日:2020/02/17
8Kスーパーハイビジョン技術を医療応用する国家プロジェクト第二弾
国立研究開発法人国立がん研究センターと一般財団法人NHKエンジニアリングシステム、オリンパス株式会社は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援により、8Kスーパーハイビジョン技術(以下、8K技術)を用いた新しい腹腔鏡手術システムの開発とそれを応用した遠隔手術支援システムに関する研究を開始する。
昨今のがんの外科手術では、映像で手術をサポートする外科手術用内視鏡システムが開発され、低侵襲性の観点から、内視鏡による手術のニーズが非常に高まってきている。しかし、同手術はモニターを見ながら行うシステムのため、手術の質が画面の解像度に影響されやすく、さらに2次元であり空間認識が困難、術中展開や術中操作の制限があるといった欠点を有することから、今後の技術革新が求められている。より高解像度、高色域などを実現可能な8K技術を内視鏡(硬性鏡)システムに採り入れることによって、さらなるメリットが医療現場にもたらされる可能性がある。
国立がん研究センター中央病院とNHKエンジニアリングシステム (NES)、オリンパスの3者は、平成28年度から平成30年度にかけて、8K等高精細映像データ利活用研究事業(AMED)で8K 内視鏡システムの開発を実施し、その試作機を開発し、手術等への活用に係る医療上の有用性について科学的に評価可能なデータを収集・検証するとともに、その検証結果を踏まえた医療機器としての実用化・普及に向けた取り組みを行ってきた。
これらの研究を発展させ、より操作性の向上した8K内視鏡手術システムが開発されれば、内視鏡手術の適応範囲の拡大や重症度対応の精緻化が期待される。また、硬性内視鏡によるがんの外科手術に関しては、その需要が増大する中、専門医師の不足や地域的な偏在が顕在化している。例えば、近年罹患数および死亡数がともに上昇傾向を示している大腸がんに対する内視鏡手術は高度な技術を要し、技術習得のための経験が必要となっているが、地方病院では、医師不足と共に、都市部への内視鏡技術認定医師偏在が図のように顕在化している。
プロジェクトチームは、8K技術を用いた新しい腹腔鏡手術システムの開発と、実用化・普及を目指し以下の課題に取り組むという。まず、8K内視鏡システムのさらなる小型軽量化・操作性の向上に向けた試作器の開発を行う。次に、8K 内視鏡システムにより得られた高精細な手術映像データ等を、手術を実施する医師と遠隔地にて指導する医師との間でスムーズに送受信し、得られた情報から術中の重要点の提示等を可能とする遠隔手術支援システムの開発を実施。そして、遠隔手術支援システムの医療上の有用性等について検証し、医療機器としての実用化・普及に向けた具体的計画を策定する。さらに、8K内視鏡手術映像データベースの構築を行い、診断等への利活用に向けた具体的方策の検討・検証を通じて、医療の質の向上等に向けた具体的計画を策定するという。
これらにより、日本発の医療機器等の振興を図り、あわせて、遠隔手術支援システムの開発並びにそれらの有用性を検証することで、全国どこでも質の高い内視鏡手術が受けられるプラットフォームを構築し、医療の質の向上やわが国の抱える外科医師の偏在等の課題解決に寄与することを目指す方針である。
(Medister 2020年2月17日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 8Kスーパーハイビジョン技術を医療応用する国家プロジェクト第二弾 新しい遠隔手術支援型腹腔鏡手術システムでの実用化を目指す