更新日:2020/02/01
子宮腺筋症のゲノム解析から発症と子宮内膜症併発に関連する遺伝子変異を発見
国立研究開発法人国立がん研究センターは、国立大学法人東京大学、学校法人順天堂、公益財団法人がん研究会などと共同で、世界に先駆けて子宮腺筋症のゲノム解析と患者の臨床情報との統合的解析を行った。
子宮腺筋症は、女性の20~30%が罹患し、高頻度に子宮内膜症を併発する。激しい月経痛や貧血のほか不妊の原因にもなる。治療は、ホルモン療法が行われるが、治療効果が低い場合などは子宮を摘出することもある。子宮腺筋症は子宮内膜様組織が子宮筋層で増殖するが、かつては子宮内膜様組織が卵巣や別の臓器で増殖する子宮内膜症と同一疾患として考えられていた。しかし、臨床上の特徴が異なる点も多く、現在は別の疾患として考えられている。
近年のゲノム解析により、子宮内膜症については、がん関連遺伝子であるKRAS遺伝子に変異が入った細胞が子宮の内膜に存在することが、その起源であることが分かってきた。一方、子宮腺筋症の解析は進んでおらず、発症機構やなぜ子宮腺筋症と子宮内膜症が高頻度に併発するのか分からないままであった。
研究チームはこれらを解明するため、子宮腺筋症と子宮内膜症を併発した患者のゲノム解析を行い、またこの結果と患者の臨床情報を照合した。その結果、子宮腺筋症がゲノム異常を伴う多クローン性増殖疾患であることを初めて明らかにすると共に、子宮内膜症を併発する患者の約4割で、子宮内膜症の要因でもあるがん関連遺伝子KRAS遺伝子の変異が存在することを確認した。
また、KRAS遺伝子の変異は、子宮腺筋症のない患者の見かけ正常な子宮内膜組織や、併発した子宮内膜症の病変部(例:卵巣など)においても、同一のKRAS遺伝子の変異を認めた。これらの結果から、子宮腺筋症も子宮内膜症と同様に、病気の起源となる細胞は、子宮内膜組織で発生したKRAS遺伝子変異細胞であることが明らかになった。
子宮内膜症のゲノム解析から、KRASやPIC3CA遺伝子変異が、病変部だけではなく、子宮内膜組織においても認められている。子宮腺筋症者でも、KRAS遺伝子変異が、子宮筋層中の病変部では70症例中26症例、子宮内膜組織では18症例中10症例において認められた。
子宮腺筋症のKRAS遺伝子の変異を有する患者群について臨床情報との相関性を調べたところ、子宮内膜症の併発率が高いことが示された。以上の結果から、子宮腺筋症と子宮内膜症は、発症機構が共有しているため、両疾患が高頻度に併発することも明らかになった。
本研究成果により、子宮腺筋症が、高頻度に子宮内膜症を併発する機構が明らかになったといえる。
(Medister 2020年2月1日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 子宮腺筋症のゲノム解析から発症と子宮内膜症併発に関連する遺伝子変異を発見 発症機構の解明に期待